紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
2020年新型コロナ相場では、さまざまなテーマ株が注目されて急騰していますが、その中でも最も注目されているのが新型コロナのワクチン開発を手掛けるワクチン開発関連銘柄です。
新型コロナのワクチン開発関連銘柄には、23倍以上の暴騰となった【2191】テラや、大阪府と提携してワクチン開発を手掛けている【4563】アンジェスなど、新型コロナ相場を象徴する銘柄が並びます。
ただ、バイオベンチャーを中心とするワクチン開発関連銘柄はハイリスク・ハイリターンのテーマ株となっており、2020年下半期の新型コロナ相場では異変が生じてきていることには注意が必要です。
今回は、ワクチン開発関連銘柄の概要や特徴について解説した上で、代表的な10銘柄の新型コロナ相場での値動きについてチャート付きで紹介していきます。
- 新型コロナで注目されているワクチン開発銘柄の特徴がわかる
- ワクチン開発銘柄の大手製薬会社、ベンチャー企業、その他企業がわかる
- ワクチン開発銘柄の週足チャートで値動きがわかる
ワクチン開発関連銘柄とは?
新型コロナ相場を象徴するテーマ株と言っても過言ではない、ワクチン開発関連銘柄の特徴について抑えておきましょう。
ワクチン開発関連銘柄の基本概要
ワクチン開発関連銘柄とは、感染症予防のためのワクチンや、感染症治療のための治療薬を手掛けるテーマ株の総称です。「ワクチン療法関連銘柄」と呼ばれることもあります。
そもそもワクチンとは、伝染性疾患の病原菌から作成した抗原で、抗原を体内に入れることで免疫力を高めて治療を促進するものです。
一方、治療薬とは、既に病気に罹った患者に使って、病気を治すもしくは症状を緩和する薬のことです。
ワクチンは病気の予防を目的とし、治療薬は病気の治療を目的とするものとなります。
ただ、株式市場においてはそこまで重要な違いではなく、治療薬を手掛けている銘柄もワクチン開発関連銘柄に分類されることが一般的です。
世界中の研究機関で新型コロナのワクチン・治療薬の開発競争が繰り広げられており、ワクチン開発は2020年の株式市場では最も注目されるテーマの一つとなっています。
ただ、ワクチン開発関連銘柄は2020年上半期には最強のテーマ株となっていましたが、下半期には一転して暴落が続いていることには注意が必要です。
ワクチン開発が遅れていることや、日本を含む東アジアではワクチンがなくとも重症化が抑えられていること、新型コロナには抗体が効かずワクチンの効果が疑問視されていることなどが要因と思われます。
ワクチン開発関連銘柄の特徴
ワクチン開発関連銘柄と一口に言っても、その銘柄の種類や特徴はさまざまです。
ワクチン開発関連銘柄に位置付けられる銘柄を大きく分けると、①大手製薬会社、②バイオベンチャー、③その他のバイオ事業を手掛けている銘柄の3種類に分類されます。
大手製薬会社とバイオベンチャーでは、銘柄の特徴が大きく異なるため注意が必要です。
武田薬品工業やアステラス製薬といった大手製薬会社株は、値動きリスクが小さいローリスク・ローリターンのディフェンシブ銘柄に位置付けられます。配当利回りが高い銘柄も多く、長期投資に適する銘柄です。
一方、テラやアンジェスといった新興市場に上場しているバイオベンチャー株は、値動きリスクが非常に高く、ハイリスク・ハイリターンを象徴するような銘柄です。
バイオベンチャー株は、1ヶ月で数倍の急騰となることもありますが、逆に数分の1まで大暴落することもザラです。バイオベンチャー株は期待感が先行して急騰し、業績の裏付けがないため、暴落が始まってしまえば買い支えられる材料は何もありません。
バイオベンチャーには新興の赤字企業も少なくなく、基本的に配当利回りはないため、デイトレーダーに人気の銘柄となっています。
このようにワクチン開発関連銘柄は、ローリスク・ローリターンで長期投資に適する大手製薬会社と、ハイリスク・ハイリターンのバイオベンチャー株が混在しているため、投資目的に応じた銘柄選びをすることが必要です。
大手製薬会社
ワクチン開発を手掛ける大手製薬会社の新型コロナ相場での値動きを見ていきましょう。
【4502】武田薬品工業
国内製薬最大手の【4502】武田薬品工業は、日本株を代表する製薬会社であり、ワクチン開発関連銘柄でもあります。
同社は、世界の製薬会社13社と共同で、新型コロナ感染症から回復した患者の血液成分を使った治療薬開発を進めています。2020年10月9日には、同治療薬について最終段階の臨床試験に入ったと報じられました。
【4502】武田薬品工業の週足チャート
武田薬品工業の株価は、新型コロナ相場で苦戦しています。2020年1月初めに付けていた株価(上図赤丸)も回復できていません。
なお、武田薬品工業は、値動きリスクが小さいディフェンシブ銘柄でありながら、配当利回りは5.14%(2020年10月16日終値時点)の高配当株となっています。新型コロナ相場では苦戦しているものの、配当目的の長期投資におすすめの銘柄です。
【4503】アステラス製薬
武田薬品に次ぐ医薬品国内2位の【4503】アステラス製薬も、ワクチン開発関連銘柄に位置付けられます。
【4503】アステラス製薬の週足チャート
アステラス製薬の株価は、武田薬品工業とほぼ同じ値動きとなっており、新型コロナ相場で苦戦しています。一時、2020年の年初に付けていた株価(上図赤丸)を取り戻す場面もありましたが、2020年下半期は下落トレンドです。
【4568】第一三共
国内3位の大手製薬会社【4568】第一三共も、代表的なワクチン開発関連銘柄です。
同社は、2020年6月に新型コロナのワクチン開発をすることを発表しており、2021年3月頃から臨床試験を始めるとのことです。
【4568】第一三共の週足チャート
第一三共の株価は、武田・アステラスとは異なり、2020年年初(上図赤丸)に付けていた株価を回復しています。大手のワクチン開発関連銘柄の中では好調です。
ただ、新型コロナ相場で積極的に大きく買われているとまでは言えません。
【4507】塩野義製薬
日経平均株価にも採用されている大手製薬会社の【4507】塩野義製薬も、代表的なワクチン開発関連銘柄の一つです。
同社は、新型コロナウイルスの迅速診断技術「SATIC法」の実用化を目指しており、新型コロナワクチン開発も進めています。
【4507】塩野義製薬の週足チャート
塩野義製薬の株価は、武田・アステラスとほぼ同じ値動きとなっており、新型コロナ相場では苦戦していることが分かります。
バイオベンチャー
新型コロナのワクチン開発を手掛けているバイオベンチャー株は、新型コロナ相場で異次元の値動きとなっています。
【2191】テラ
【2191】テラは、がん免疫療法に強みを持つことで知られるバイオベンチャーです。
従来はワクチン開発関連銘柄には位置付けられていませんでしたが、2020年4月27日に、先端医療支援を手掛けるセネジェニックス・ジャパン社と新型コロナの間葉系幹細胞を用いた治療法開発で共同研究契約を結んだというニュースを発表したことで、ワクチン開発関連銘柄として急騰することになりました。
【2191】テラの週足チャート
テラの株価は、3月13日に付けていた92円(上図赤丸)から、6月9日には一時2,175円まで急騰しました(上図青丸)。この期間の上昇率は23.64倍、パーセンテージに換算すると+2,264%となります。この上昇率は、新型コロナ相場での全銘柄中最も大きな上昇率です。
新型コロナ相場を象徴する銘柄となったテラですが、6月に高値を付けて以降は下落しており、10月16日終値には665円と、6月の高値からは-70%減の大暴落となっています。
【4563】アンジェス
【4563】アンジェスは、遺伝子治療薬「コラテジェン」で有名なバイオベンチャーです。
大阪大学と共同で新型コロナのワクチン開発を手掛けていることがニュースでもたびたび報道されており、新型コロナ相場を代表する銘柄の一つです。
【4563】アンジェスの週足チャート
アンジェスは、新型コロナのワクチン開発で最も先行している日本企業と言われるだけに、新型コロナ相場では大きく買われました。2020年2月28日に付けた安値375円(上図赤丸)から、6月26日には2,492円(上図青丸)まで上昇し、最大+564%の上昇率となっています。
しかし、7月以降は下落が目立っており、株価は高値から半減しています。
【4974】タカラバイオ
【4974】タカラバイオは、iPS細胞による再生医療や遺伝子医療などさまざまなバイオ事業を手掛ける東証一部上場のバイオベンチャーです。
アンジェスが開発した新型コロナワクチンの生産を手掛けることが発表されたことから、ワクチン開発関連銘柄としても注目が集まりました。
【4974】タカラバイオの週足チャート
タカラバイオは、新型コロナ相場で大きく買われました。コロナショックで3月13日に付けた1,481円(上図赤丸)から、6月11日には3,535円(上図青丸)まで上昇し、この期間の上昇率は+138%です。
東証一部上場銘柄であるため、テラやアンジェスのような新興バイオベンチャーと比べると上昇率は控えめですが、2020年下半期の下落も抑えられています。
【4571】ナノキャリア
抗がん剤に強いバイオベンチャーの【4571】ナノキャリアも、新型コロナをきっかけにワクチン開発関連銘柄に位置付けられるようになった銘柄です。
同社は、2020年6月4日に、ミセル化ナノ粒子技術を用いた新型コロナウイルスワクチン開発のバックアップを行うと発表しました。
【4571】ナノキャリアの週足チャート
ナノキャリアの株価は、新型コロナワクチン開発のバックアップを行うと発表した2020年6月初めに急騰しました(上図赤丸)。しかし、同ニュース発表後は大きく値を下げてから停滞しています。
その他銘柄
大手製薬会社にもバイオベンチャーにも分類されない、その他のワクチン開発関連銘柄を見ていきましょう。
【4901】富士フイルム
多角経営で知られる【4901】富士フイルムは、インフルエンザ治療薬「アビガン」を手掛けていることから、ワクチン開発関連銘柄としても注目されます。
【4901】富士フイルムの週足チャート
富士フイルムは、2020年3月のコロナショックから真っ先に回復した銘柄となりました。しかし、2020年春先には「アビガン」が新型コロナに効果的だと報道されたものの、その後の研究によると効果はないとされたことから、新型コロナ相場では苦しい展開となっています。
2020年トータルで見てみると、ほぼ横ばいの値動きです。
【2372】アイロムグループ
医療機関の治験支援事業を柱とする【2372】アイロムグループは、ワクチン開発関連銘柄として新型コロナ相場で大きく買われている銘柄です。
同社の子会社であるIDファーマが、2020年2月に中国の上海公衆衛生臨床センターと新型コロナワクチンの共同開発で合意したことが好感されています。
【2372】アイロムグループの週足チャート
アイロムグループの株価は、新型コロナワクチン開発を手掛けるバイオベンチャー株とほぼ同じ動きとなっています。コロナショックで3月13日に付けた安値880円(上図赤丸)から、6月11日には3,870円まで上昇(上図青丸)し、最大上昇率は+339%です。
ただ、他のワクチン開発関連銘柄の例に漏れず、2020年下半期には暴落に近い下落が続いています。
まとめ
今回は、ワクチン開発関連銘柄の概要や特徴について解説した上で、代表的な10銘柄の新型コロナ相場での値動きについてチャート付きで紹介してきました。
ワクチン開発関連銘柄と一口に言っても、大手製薬会社とバイオベンチャーとでは、銘柄の特徴が大きく異なるため注意が必要です。
新型コロナ相場では、【2191】テラや【4563】アンジェスを中心に、新型コロナのワクチン開発を手掛けるバイオベンチャー株が大きく買われています。
ただ、2020年上半期にはバイオベンチャーを中心とするワクチン開発関連銘柄は最強のテーマ株となっていましたが、2020年下半期には状況が一変しており暴落が続いています。
世界各国でワクチン開発が遅れており、またワクチンの効果が疑問視されていることなどが要因と考えられますが、今後も注視が必要です。
少なくとも、考えなしにワクチン開発関連銘柄を物色してよい相場ではなくなっていることに注意しておきましょう。
紫垣 英昭
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