紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
新型コロナをきっかけに、経済ニュースなどで「デジタルトランスフォーメーション(DX:Digital transformation)」という言葉を耳にする機会が増えてきているのではないでしょうか?
「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という長い横文字を聞くと難しく感じてしまいますが、簡単に要約すると、社会や企業のIT化を進めることです。
株式市場においても、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は重要なテーマとなっており、新型コロナ相場でも大きく買われるセクターとなっています。
今回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の概要や関連するテーマについて解説した上で、株式投資をするにあたって抑えておきたい代表的な10銘柄についてチャート付きでご紹介していきます。
- デジタルトランスフォーメーション(DX)とは何かがわかる
- デジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄の特徴がわかる
- デジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄10銘柄の値動きを実際のチャートで見ることができる
デジタルトランスフォーメーション(DX)とは?
新型コロナでも注目されるデジタルトランスフォーメーション(DX)について抑えておきましょう。
デジタルトランスフォーメーション(DX)の基本概要
デジタルトランスフォーメーション(Digital transformation,DX)とは、2004年にスウェーデン・ウメオ大学のエリック・ストルターマン教授が提唱した概念で、「ITを浸透させて人々の生活をより良い方向に変化させる」というものです。
ビジネス現場においては、「企業がデータやテクノロジーなどのIT技術を活用して、事業を変化・改善する」というニュアンスで使われることが一般的となっています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)を実現するための具体的なITテクノロジーとしては、AI(人工知能)やIoT、5G、クラウド、サイバーセキュリティといった近年話題になることが多いテクノロジーが並びます。
株式市場において代表的なデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄としては、アメリカの巨大IT企業GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)やMicrosoftが挙げられます。
GAFA+Mに代表される「デジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄」は、世界中の投資家が最も注目しているセクターとなっていることは、もはや説明するまでもありません。
これから株式投資をする上では、デジタルトランスフォーメーション(DX)は避けては通れないテーマになってくることは間違いないでしょう。
日本でデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されている2つの背景
新型コロナウィルスのパンデミックスを機に、「デジタルトランスフォーメーション(DX)」は、世界経済全体のテーマとなっていますが、特に日本では大きな注目が集まっています。
日本で「デジタルトランスフォーメーション(DX)」が注目されるキーワードとして挙げられるのが、「新型コロナ」と「2025年の崖」です。
「新型コロナ」によって、給付金の遅れやマイナンバーの遅れなど、日本は諸外国と比べて社会のIT化が遅れている現状を多くの人が認識することとなり、デジタルトランスフォーメーション(DX)を進めることが急務となっています。
ただ、日本の産業界では、「新型コロナ」以前から「2025年の崖」が懸念されており、国内IT投資を活発化する動きが出てきていました。
「2025年の崖」とは、2025年までに国内企業のITインフラ老朽化とIT技術者の退職が重なる問題のことです。多くの企業が「2025年の崖」をきっかけに、AIや5G、クラウドといった最先端ITテクノロジーへのIT投資を進めるきっかけにもなっています。
デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が急速に広まったのは新型コロナ後ですが、デジタルトランスフォーメーション(DX)の流れ自体は新型コロナ前から続いているトレンドであり、新型コロナをきっかけに急加速したというのが実際の所です。
今回は、日本株を代表するデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄10銘柄について、新型コロナ相場を含めた株価動向をチャート付きで解説していきます。
大手IT銘柄
日本のデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄の顔とも言える、日本を代表する大手IT企業の株価動向を見ていきましょう。
【6702】富士通
ITベンダー最大手の【6702】富士通は、日本を代表するデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄です。
富士通はIT全般の事業を手掛けていることはもちろん、量子コンピューターでは国内企業で最も先行しており、世界一を獲得したスーパーコンピューター「富岳」でも注目を集めています。
【6702】富士通の月足チャート
富士通の株価は、長期的に見ると上昇トレンドとなっています。特に、「2025年の崖」が懸念されるようになってきた、ここ数年間は高値を更新する上昇トレンドとなっており、2020年7月現在は高値圏で推移しています。
なお、現在の株価はITバブルとなっていた2000~2001年以来の水準となっており、この直近20年間では最高値水準です。
【6701】NEC
【6701】NECも、富士通と並んで日本を代表するデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄です。
NECは通信設備では国内トップとなっており、IoTで期待される顔認証技術では世界一の技術を持つことでも知られています。
【6701】NECの月足チャート
NECの株価は、2020年には高値圏で推移していることが。特に、直近の新型コロナ相場では強く、高値を更新しています。
同社が2020年5月に発表した2020年3月期決算では、純利益が史上初となる1,000億円を超え、23年ぶりに最高益を更新したと発表されました。
NECの好調の背景にあるのは、多くの企業が国内IT投資を活発化させているためで、日本でデジタルトランスフォーメーション(DX)が加速していることを象徴していると言えるでしょう。
経済ニュースなどを読んでいると、富士通やNECはGAFAと比べてスケールが小さい衰退企業のようなイメージを持ってしまいがちですが、両社とも業績・株価ともに絶好調であることは間違いありません。
富士通とNECは、東証全体を代表するデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄として抑えておきましょう。
AI関連銘柄
デジタルトランスフォーメーション(DX)としては、AI(人工知能)の活用も重要です。
日本市場では、AI関連銘柄は新興銘柄を中心に人気となっています。
【4488】AI inside
東証マザーズ上場の【4488】AI insideは、AIによる光学式文字読み取り装置(OCR)サービス「DX Suite」やAI運用を実現するためのエッジコンピュータ「AI inside Cube」などを手掛けているAIベンチャーです。
【4488】AI insideの月足チャート
AI insideは、2019年12月にIPOしたばかりの銘柄です。IPOでは公募価格3,600円に対して初値は12,600円を付けて大成功となりました。上場後も株高は止まらず上昇し続けていることが分かります。
一時4万円を超えており、公募価格から見ると10倍以上の上昇となっていました。
【4476】AI CROSS
法人向けSMS送受信サービスやビジネスチャットサービスなどを手掛けるAIベンチャーの【4476】AI CROSSも、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄として注目されるAI株です。
【4476】AI CROSSの月足チャート
AI CROSSの株価は、2019年10月のIPO以降は乱高下が続いています。新型コロナ相場ではコロナショックがあった3月に大きな下ヒゲを付けて以降は反発していますが、高値を超えられるほどの上昇にはなっていません。
日本株のAI関連銘柄は東証マザーズのAIベンチャーが多く、期待感先行で急騰・暴落しやすいハイリスク・ハイリターン銘柄が多くなっていることには注意が必要です。
アメリカのGAFAやNVIDIAのような、長期投資に適するAI株は日本市場にはほとんどないということは、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄を手掛ける上で留意しておきましょう。
クラウド関連銘柄
クラウドコンピューティングは、デジタルトランスフォーメーション(DX)の中でも特に注目されています。
【3788】GMOクラウド
IT大手のGMOグループ系でクラウド事業を手掛ける【3788】GMOクラウドは、クラウド領域で注目のデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄です。
【3788】GMOクラウドの月足チャート
GMOクラウドの株価は、新型コロナ相場で特に大きく上昇しています(上図青丸)。2020年3月には一時1,381円まで下げていましたが、6月29日には一時11,990円まで上昇。
東証一部銘柄にも関わらず、新型コロナ相場の3ヶ月で8.6倍もの急騰となっており、クラウド関係の銘柄では新型コロナ相場で最も大きく上昇した銘柄の一つとなっています。
東証一部銘柄では、新型コロナ相場で最も大きく上昇している銘柄です。
【4776】サイボウズ
テレワークにも欠かせないグループウェアソフトの開発を手掛ける【4776】サイボウズは、ビジネスアプリ作成クラウド「kintone」などクラウド向けに力を入れているデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄です。
【4776】サイボウズの月足チャート
サイボウズの株価は、一目瞭然の上昇トレンドとなっています。新型コロナ前から成長株となっていましたが、テレワークやクラウドに注目が集まった新型コロナをきっかけに株高が加速する形となりました。
新興銘柄のような株高となっていますが、列記とした東証一部の成長株です。
【4716】日本オラクル
データベース管理ソフトウェアを中心に世界的ソフトウェア企業として知られるアメリカのオラクル社の日本法人である【4716】日本オラクルも、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄として抑えておきましょう。
同社は、近年はクラウド向けアプリケーションに力を入れており、クラウドやSaaS関連銘柄にも位置付けられるようになっています。
【4716】日本オラクルの月足チャート
日本オラクルの株価も、綺麗な右肩当たりのチャートになっています。新型コロナ相場でも上昇していますが、他の銘柄に比べると上昇率は控えめです。
同社は、デジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄やクラウド関連銘柄としては、リスク控え目の安全な成長株として抑えておきましょう。
その他DX関連銘柄
デジタルトランスフォーメーション(DX)と一口に言っても、その領域は広範囲に及びます。
AIやクラウド以外のさまざまなデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄について抑えておきましょう。
【3694】オプティム
遠隔医療やオンライン授業、スマート農業といった遠隔操作ソフトを手掛ける【3694】オプティムは、新型コロナでより大きな注目が集まっているデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄です。
【3694】オプティムの月足チャート
オプティムは、遠隔医療やオンライン教育で注目される銘柄であることもあり、新型コロナ相場では一段高となっています。ただ、新型コロナ以前から上昇傾向にあったことには注目です。
【3962】チェンジ
スマホやビッグデータ、クラウドを使った業務効率化支援や、遠隔研修サービスなどを提供する【3962】チェンジも、新型コロナで注目が集まっているデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄です。
【3962】チェンジの月足チャート
チェンジの株価は、2016年9月のIPO以来、一貫した右肩上がりの上昇トレンドとなっています。やはり、新型コロナをきっかけに上昇が加速した値動きが確認できます。
【4397】チームスピリット
勤怠・業務管理向けクラウド型サービス「TeamSpirit」を手掛ける【4397】チームスピリットは、働き方改革に関するデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄として注目の銘柄です。
【4397】チームスピリットの月足チャート
チームスピリットの株価は、高値圏で推移しています。
働き方改革に関する銘柄は2017年に多くの銘柄が上がっていましたが、近年はマーケットで注目されることもやや少なくなりつつあります。
ただ、人手不足・労働力減少は日本経済の長期的な課題であるため、働き方改革をデジタルトランスフォーメーション(DX)で行おうという社会的な流れが出てくることは今後確実な情勢です。
まとめ
今回は、デジタルトランスフォーメーション(DX)の概要や関連するテーマについて解説した上で、代表的なデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄10銘柄についてチャート付きでご紹介してきました。
日本株で最も代表的なデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄は、【6702】富士通と【6701】NECです。GAFA+Mに比べるとスケールは小さくなってしまいますが、国内IT投資が活発であることから業績・株価ともに好調となっています。
富士通の株価は、20年前のITバブル水準にまで上がっており、デジタルトランスフォーメーション(DX)が、社会・経済・マーケットでいかに注目されているかを象徴していると言えます。
新型コロナ相場においては、【3788】GMOクラウドを始め多くのデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄が上昇していますが、このトレンド自体は新型コロナ前からあったものです。
新型コロナをきっかけに「デジタルトランスフォーメーション(DX)」という言葉が広く共有されるようになりましたが、この動きは新型コロナ前からのトレンドであり、新型コロナはあくまでこのトレンドを加速したに過ぎません。
社会のIT化がより進むことが確実な2020年代には、デジタルトランスフォーメーション(DX)への注目度が上がることはあっても下がることはまず考えられません。今後も欠かさずチェックしておきましょう。
紫垣 英昭
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