紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
あなたは、『移動平均線』という言葉を聞いたことがありますか?
上図の、チャートに一緒に表示されている緑、紫、橙のカラフルなラインは3本とも『移動平均線』と言われるものです。
※チャートについてよくわからないという方は、『株価チャートとは?初心者が知るべき4つのチャートの意味』を読んでみてください。
『移動平均線』は、株式投資の勉強をはじめようとするとき、色々なサイトや本で、必ずと言っていいほど目にするチャート指標(インジケータ)です。
実はこの移動平均線、複雑な計算や分析などをしなくても、チャートと移動平均線の関係性を見るだけで、視覚的に「売買のタイミング」や「トレンド(相場が上昇傾向なのか下降傾向なのか)」が予測できる、とっても便利なテクニカル指標なんです。
今回はその、『移動平均線』の中でも最も基本的な『単純移動平均線』について、主にご説明します。
移動平均線は他のテクニカル指標の基になることも多い、基礎的な指標ですので、ぜひ理解しておいて下さいね。
それでは、初心者の方でもわかりやすいように、文章と図解で『移動平均線』を説明していきます。
- テクニカル指標とは何かがわかる
- 移動平均線、単純移動平均線とは何かがわかる
- 移動平均線で「株価の方向性、トレンド」や「売買タイミング」を判断する方法がわかる
まずはじめに、テクニカル指標とは?
移動平均線の説明に入る前に、テクニカル指標って何?という方もいると思いますので、テクニカル指標について簡単に説明したいと思います。
テクニカル分析をするために使うのがテクニカル指標
株式投資などで売買をする際に、過去の価格や出来高などの実績から今後の値動きを予想・分析する手法を「テクニカル分析」といいます。
テクニカル分析で使用する指標のことをテクニカル指標と言います。
テクニカル指標には、「トレンド系指標」と「オシレーター系指標」があります。
- トレンド系指標:値動きの方向性を判定する指標
- オシレーター系指標:買われ過ぎ、売られ過ぎを判定する指標
といった感じで、移動平均線はトレンド系指標になります。
トレンド系指標は主に「順張り」の売買で使用し、オシレーター系指標は「逆張り」の売買で使用します。
順張りと逆張りについては、『逆張りとは|株を安く買って高く売るための“究極的”手法』のページで説明していますので、興味がある方はこちらも読んでみてください。
テクニカル分析とファンダメンタルズ分析
また、テクニカル分析に対して「ファンダメンタルズ分析」というものがあり、こちらは企業の財務諸表や成長性などを分析する手法です。
テクニカル分析とファンダメンタル分析は、主に
- テクニカル分析:短中期投資
- ファンダメンタルズ分析:長期投資
という感じで使い分けます。
移動平均線とは?
それでは、本題の移動平均線の説明に入りたいと思います。
移動平均線は3種類ある
移動平均線には、
- 単純移動平均線
- 加重移動平均線
- 指数平滑移動平均線
の3つがあり、今回解説するのは「単純移動平均線」です。
移動平均線とは、当日から過去一定期間の株価(通常は終値)の平均を算出し、それを線でつないだものです。
単純移動平均線を実際のチャートで見てみよう
言葉で説明しただけでは分かりづらいと思いますので、冒頭でもお見せしたチャートでご説明します。
下図は、SBI証券のHPから日経平均のチャートを表示したものです。
ローソク足チャート上に3本の線が表示されていますが、これが移動平均線です。
3本の線は「短期線」「中期線」「長期線」と言われ、一般的に日足チャートでは
- 短期線:5日(1週間分)
- 中期線:25日(1ヶ月間分)
- 長期線:75日(3ヶ月間分)
の株価の平均を表しています。
単純移動平均線の計算式は、
(過去n日間の株価の合計)÷(n日)
となり、その名前のとおり過去一定期間の株価を単純平均しただけです。
移動平均線で「株価の方向性」や「売買タイミング」を判断する方法
冒頭でも少し話しましたが、移動平均線は見ただけですぐ「株価の方向性」や「売買タイミング」が分かるテクニカル指標です。
ここからは、実際のチャートを使って「株価の方向性」や「売買タイミング」をどうやって判断するのかについて説明していきます。
株価の方向性(トレンド)を判断する
「トレンド」とは、株価の値動きの方向性や傾向のことで、主に「上昇」「横ばい」「下降」の3つに分かれます。
トレンドの判断の仕方は非常に簡単で、「移動平均線の種類と傾き」から判断することができます。
例えば
- 中期線が右上向き:中期的には上昇トレンド
- 短期線が右下向き:短期的には下降トレンド
などと判断します。
下図では、紫色の線が中期線、緑色の線が短期線となっています。
≪補足≫
移動平均線は、期間が短いほど株価の値動きに近い形状になり、期間が長いほど株価の値動きに遅れて動き滑らかな形状になります。
例えば、株価が100円から始まり1円ずつ上昇するとします。
100日後の株価は200円になりますが、移動平均線の値は
短期(5日):198円(200円・・・196円の平均)
中期(25日):188円(200円・・・176円の平均)
長期(75日):163円(200円・・・126円の平均)
となります。
理屈は理解できなくても大丈夫ですので、次のことを覚えておいてください。
- テクニカルのサインは、期間が短いほど早く出て、長いほど遅れる
- ただし、期間が短いほど「ダマシ」になりやすいので、それだけで判断しない。
※ダマシとは、「こうなる」というサインが出たのに「ならない」ことです(下図参照)。
売買のタイミングを判断する
移動平均線は、期間の異なる2本の線を使って売買のタイミングを判断することができます。
- 買いサイン:短期線が中期線を下から上に交差したポイント(ゴールデンクロス)
- 売りサイン:短期線が中期線を上から下に交差したポイント(デッドクロス)
これは、前項でも少し説明しましたが、「短期線の方が株価の値動きに早く反応し、中期線の方が遅れて動く」ことを利用した方法です。
つまり、下降トレンドでは、下から「株価(ローソク足)」「短期線」「中期線」の順に並んでいますが(下図水色部)、上昇トレンドに転換すると、まず株価が短期線を上抜けて(下図橙色部)、その後に短期線が中期線を上抜ける(下図赤色部)のです。
グランビルの法則とは?移動平均線を使った売買ポイント8つ
移動平均線を使った売買のポイントは他にもあり、先ほど説明したものを含めて全部で8つあります。
これを考案したのが、アメリカのJ.E.グランビルという人なので「グランビルの法則」と呼ばれています。
下図では、水色の縦の点線から左側が上昇トレンド、右側が下降トレンド、そして青色の番号と矢印が「買いサイン」、赤色の番号と矢印が「売りサイン」になります。
- ゴールデンクロスと同じで、短期線が中期線を上抜けるポイント
- 上昇トレンド中に短期線が中期線を下抜けた後、反発したポイント
- 上昇トレンド中に反落し、短期線が中期線に近づいてから反発したポイント
- 下降トレンド中に反発したポイント
- デッドクロスと同じで、短期線が中期線を下抜けるポイント
- 下降トレンド中に短期線が中期線を上抜けた後、反落したポイント
- 下降トレンド中に反発し、短期線が中期線に近づいてから反落したポイント
- 上昇トレンド中に反落したポイント
※「売りサイン」は、「買いサイン」を上下に反転させただけです。
ゴールデンクロスとデッドクロス以外は、初心者の方には判断が難しいので、慣れてきてからチャレンジするようにしましょう。
移動平均線をどう売買に使うの?
ここからは、実際に売買する時に、移動平均線をどのように使えば良いのかについての一例を挙げていきたいと思います。
あくまで一例ですので、これ以外の使い方もありますし、この通りにやったら必ず儲かるという訳ではないので、注意してくださいね。
エントリーポイント
エントリーポイントとは、新規で売買の注文を出すときの価格のことです。
下図は、「3-2」で説明した売買サインと同じチャートです。
水色の丸で囲んだ部分が「買いサイン」が出たポイントですが、そこを拡大しています。
まず、拡大した図の水色の縦の点線部分の日に短期線と中期線が交差しそうになっています。
短期線の向きから考えて、ほぼ交差することは間違いないのでエントリーの準備をします(初心者の方は、完全に交差するのを確認してから準備しても大丈夫です)。
「買い」でエントリーする場合は、「上昇が継続」することを確認してからエントリーしますので、水色の横線部分の「買いサインが出た日の高値」を超えたらエントリーです。
※終値を基準にする場合は、安くエントリーできますが上昇しない可能性も高くなりますので、注意が必要です。
そして、青色の丸で囲んだ部分で、高値を超えたことが確認できますのでエントリーとなります。
決済ポイント
決済ポイントとは、買った株を売るときの価格(あるいは空売りした株を買い戻すときの価格)です。
下図は、再び「3-2」で説明した売買サインと同じチャートです。
水色の丸で囲んだ部分が「売りサイン」が出たポイントですが、そこを拡大しています。
今度は、拡大した図の水色の縦の点線部分の日に短期線と中期線が交差していますので、「売りサインが出た」と判断します。
売りサインが出た場合は、翌日の寄付きから成行で注文を入れておきます。
そうすれば、翌日の始値で約定します(赤色の丸で囲んだ部分)。
決済の場合は、早めに確定させるのが原則です。
「まだ上がるかもしれない」と思って先延ばしにしていると、せっかくの利益が減ってしまうだけでなく、損失が大きくなる原因にもなってしまうからです。
もし、決済した後に上昇した場合は、もう一度、買いサインを確認してからエントリーすれば良いので、まずは、欲をかかずに確実に利益を出すことを心掛けましょう。
移動平均線を使う際の注意点
ここまで、移動平均線の見方や移動平均線を使った売買のやり方について説明してきましたが、説明したとおりに実践すれば良いという訳ではありません。
株価の値動きというのは、相場環境や銘柄によって色々な動き方をします。
したがって、テクニカル指標を使う場合にも、それぞれの指標の特徴を理解し、どのような状況で使用すれば良いのかをきちんと把握した上で使うようにしましょう。
売買サインが出るのが遅れる
「3-1」の補足のところでも説明しましたが、移動平均線は期間が長いほど株価の値動きに遅れて動きます。
一番期間の短い「短期線」でも遅れるのです。
値動きが比較的小さい銘柄であれば、それほど問題ではありませんが、値動きが大きい銘柄の場合は、1日の遅れが大きな差になります。
初心者の方は、売買に慣れるまでは値動きが大き過ぎる銘柄は控えた方が良いでしょう(急騰、急落するような場合も注意)。
≪補足≫
先ほど、「短期線でも遅れる」と説明しましたが、「短期線よりも早く反応する指標はないの?」と思われた方もいるでしょう。
単純に考えれば、期間を短くすれば早く反応するので、短期線で設定している「5日」を短くすれば良いのです。
一番短いのは「1日」なので1日移動平均線?
いえいえ、1日では移動平均線を描けないので、ローソク足をそのまま使います。
下図は、「4-1」「4-2」の売買ポイントを説明した際に使った図です。
中期線と短期線が交差するよりも前に、中期線とローソク足が交差しているのが分かります(水色の丸で囲んだ部分)。
このような使い方もできますが、期間が短いほど「ダマシ」になりやすいということは頭に入れておきましょう。
株価の値動きによっては機能しない
移動平均線は、期間の異なる線を組み合わせることで売買サインを判断します。
売買サインが適切に出るためには、ある程度の期間、株価の値動きに上昇や下降の傾向が続かなければなりません。
したがって、
- 横ばいで値動きがほとんどない
- 値動きはあるが上昇や下降の傾向が続かない
- 急騰、急落などで、極端に大きく値が動く
などの場合はほとんど機能しませんので、注意してください。
移動平均線のチャート設定方法
移動平均線を使用するためには設定が必要になりますが、設定項目は「期間」だけです。
これまでは、日足チャートで説明してきましたが、週足チャートや月足チャートでも使用できます。
一般的には、
- 日足:5日、25日、75日
- 週足:13週、26週、52週
- 月足:12ヶ月、24ヶ月、60ヶ月
で設定する場合が多いようです。
それでは、SBI証券の「HYPER SBI(NEWチャート)」を使って設定方法について説明します。
NEWチャートを立ち上げて「価格指標」を開いて「移動平均(3ライン)」をダブルクリックします。
ダブルクリックするとローソク足チャートに移動平均線が3本が表示されます。
※移動平均線をクリックしてパソコンの「Delete」ボタンを押すと1本ずつ削除できます(短期線を削除すると3本とも削除されます)。
次に、移動平均線上にカーソルを合わせてダブルクリックします。
ダブルクリックすると設定ウィンドウが立ち上がりますので「条件設定」のタブで設定内容を変更することができます。
設定項目は、「短期、中期、長期の期間」「移動平均計算方法」「価格」です。
「移動平均計算方法」:移動平均線の種類を選択します。
「価格」:移動平均線をローソク足のどの価格で計算するのかを選択します。
まとめ
いかがでしたでしょうか?
移動平均線は、他のテクニカル指標の基になっている場合もあるので、少し詳しく説明させていただきました。
一度読んだだけで全てを理解するのは難しいかもしれませんね。
そして、一度読んだだけで実践できるようになる訳でもありません。
何度も読み直し、そして、実際のチャートをたくさん見て、移動平均線がどうなったら株価はどう動いているのか、本記事と見比べながら確認してみてください。
他にもたくさんのテクニカル指標があるので、ぜひ、この機会に他のページも合わせて読んでみてください。
きっと、あなたの売買スタイルにあったテクニカル指標が見つかりますよ。
紫垣 英昭
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