紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
世界的な環境政策重視の流れから、クリーンエネルギーとして水素が大きな注目を集めています。
アメリカ大統領選で当選確実としているバイデン氏はクリーンエネルギー関連に2兆ドル投資することを公約に掲げており、菅政権も水素を重要エネルギーに位置付ける構えです。
2020年秋の株式市場は「EV相場」や「再生エネ相場」とも呼ばれ、環境株が大きく買われていますが、水素関連銘柄も大きな値上がりとなっています。
今回は、クリーンエネルギーとして水素が注目される背景について解説した上で、代表的な水素関連銘柄についてチャート付きで紹介していきます。
- 水素が注目される背景がわかる
- 水素関連銘柄の重要な2銘柄がわかる
- 代表的な水素関連銘柄の株価動向がチャート付きでわかる
水素は世界的な環境政策重視の流れで注目される
水素がクリーンエネルギーとして注目される背景について抑えておきましょう。
2020年秋は世界中で環境政策重視の流れが鮮明となった
2020年秋には、世界中で環境政策重視の流れが鮮明となりました。
アメリカ大統領選では、民主党のバイデン氏が、トランプ政権で離脱したパリ協定への復帰を含む環境政策を目玉に掲げました。
その中で、クリーンエネルギー分野に2兆ドルもの巨額投資を行うことを発表。
9月の世論調査の段階でバイデン氏がトランプ大統領に対して優勢な情勢となっていたことから、環境株が大きく買われる下地となりました。
さらに、2020年10月には世界各国がガソリン車の新規販売停止を相次いで発表。
イギリスでは2030年までに、フランスでは2040年までに、アメリカ・カリフォルニア州やカナダ・ケベック州では2035年までに、それぞれガソリン車の新車販売を規制する「EVシフト」を打ち出しています。
日本でも、東京都が2030年までに都内で販売される新車をEVやハイブリッド車などの電動車に切り替える方針を示しました。
そして、菅総理は2020年10月26日に行った所信表明演説の中で、2050年までに温室効果ガスの排出量を実質ゼロにすると宣言。
世界中で広がる環境政策重視の流れに日本も追随する形となっています。
マーケットでは2020年10月から11月に掛けて、EV(電気自動車)関連銘柄や太陽光発電などの再生可能エネルギー関連銘柄が大きく買われ、「EV相場」や「再生エネ相場」と呼ばれる相場展開となりました。
水素はクリーンエネルギーとして注目される
環境テーマとしてはEVや再生可能エネルギーが目立ちますが、水素もクリーンエネルギーとして大きな注目を集めています。
水素は、水の電気分解で精製することができるほか、石油や天然ガスなどの化石燃料やメタノール・エタノールなどさまざまな資源から作ることが可能です。
さらに、水素と酸素を化学反応させて発電しても、温室効果ガスを排出せず、水しか発生させません。
水素はいくらでも生産することができ、水しか排出しないクリーンなエネルギーであることから、日本にとっても重要なエネルギー源となることが期待されています。
菅総理は、2020年12月4日に行われた総理記者会見の中で、環境政策を重視する方針を示し、「無尽蔵にある水素を新たな電源と位置づけ、大規模で低コストの水素製造装置を実現します。水素飛行機や水素の運搬船も開発します」と発言しました。
この会見の中では、電気自動車や再生エネルギーより先に水素について言及しており、水素は日本の環境政策の主軸になっていくことが期待されます。
また、2020年12月8日、政府は国内での水素利用量を2030年時点で1,000万トン規模を目標とするよう調整に入ったと報じられています。
これは国内電力の1割に相当するもので、大きなインパクトのある数値目標です。
水素関連銘柄の特徴とは?
今回注目する水素関連銘柄とは、水素事業を手掛けている銘柄全般を指すテーマ株です。
具体的な水素テーマとしては、水素生産や水素ステーション、燃料電池車(FCV)、水素発電などが挙げられます。
水素関連技術を保有する企業は多く、水素関連銘柄として物色される銘柄はさまざまです。
特に、名前があまり知られていないような中小株が水素技術を持っている場合には、水素関連銘柄として物色されるケースがあります。
多くの大企業も水素技術を保有していますが、事業全体として見ると水素事業の比率は小さいため、水素関連銘柄として物色されることはほとんどありません。
水素関連銘柄は、水素技術を保有している中小株を中心に抑えておくようにしましょう。
特に、【8088】岩谷産業と【6331】三菱化工機の2銘柄は、日本株を代表する水素関連銘柄となっています。
水素関連銘柄
東証で注目されている水素関連銘柄を抑えておきましょう。
【8088】岩谷産業
産業・家庭用ガス商社の【8088】岩谷産業は、東証を代表する水素関連銘柄です。
同社は、1941年から水素販売を始めており、日本初の商用水素ステーションも開設しています。
圧縮水素・液化水素では国内トップシェア、特に液化水素では100%のシェアを有していることで知られています。
【8088】岩谷産業の月足チャート
岩谷産業の株価は、世界的な環境政策重視の流れとなった2020年秋に上場来高値を更新し続けています。
日本が環境政策として水素を重視することになれば、今後も断続的な上昇が期待できる銘柄になる可能性が大きいと見られます。
【6331】三菱化工機
石油・化学装置メーカーの【6331】三菱化工機は、岩谷産業と並んで注目される水素関連銘柄です。
同社は、小型オンサイト型水素製造装置「HyGeia(ハイジェイア)シリーズ」や燃料電池車に欠かせない水素ステーションを手掛けています。
【6331】三菱化工機の月足チャート
三菱化工機の株価は、2014年以降は下落が続いていましたが、環境相場となった直近の2020年秋には大きく反発しています。
【8088】岩谷産業と【6331】三菱化工機の2銘柄は、特に水素関連銘柄として物色されやすい銘柄です。この2銘柄は代表的な水素関連銘柄として必ず抑えておきましょう。
【3441】山王
金属表面処理加工を手掛ける【3441】山王は、近年は水素関連銘柄として注目されつつある銘柄です。
同社は、2018年1月に、水素のみを通す「水素透過膜」の特許を取得したと発表したことが話題となりました。
【3441】山王の月足チャート
山王の株価は、たびたび大きく買われていますが、環境株が大きく買われた直近の2020年秋にも上昇していることが分かります。水素関連銘柄として買われたと見てよいでしょう。
【4088】エア・ウォーター
医療用酸素などの工業用ガスを手掛ける【4088】エア・ウォーターは、水素関連銘柄にも位置付けられる銘柄です。
同社は、独自開発した熱中和型高効率改質触媒を搭載した水素ガス発生装置「VH」を手掛けています。
【4088】エア・ウォーターの月足チャート
エア・ウォーターの株価は、2018年に高値を付けてからは下落していますが、直近の2020年秋には大きく反発しました。
水素関連銘柄の一角として物色されたと見てよいでしょう。
【4406】新日本理化
オレオケミカルの総合メーカー【4406】新日本理化は、水素添加技術に定評がある水素関連銘柄です。
同社は、高圧水素化やシス・トランス異性体を制御した水素化など、独自技術を駆使した受託水素化事業を展開しています。
【4406】新日本理化の月足チャート
新日本理化は、2020年12月に大きく買われました(上図赤丸)。菅総理が会見の中で水素について触れた直後の12月7日にはストップ高となっています。
100円台の低位株で買われやすかったことも、水素関連として大きく物色された理由になったと思われます。
【5659】日本精線
バネやネジ向けのステンレス鋼線最大手【5659】日本精線も、水素関連銘柄として注目される銘柄です。
同社は、燃料電池や高純度水素ガスの製造などに適用可能なパラジウム合金圧延箔を使った水素分離膜モジュールの開発に成功しています。
【5659】日本精線の月足チャート
日本精線の株価は2018年からは下落していますが、菅総理が水素について言及した2020年12月に買われていることが分かります(上図赤丸)
【5922】那須電機鉄工
電力鉄塔大手の【5922】那須電機鉄工も、水素技術を保有している水素関連銘柄です。
同社は、「空温式水素吸蔵合金システム (MH-QUONクーオン)」を手掛けており、2020年10月には鉄チタン合金を使った水素吸蔵タンクを開発したと報じられています。
【5922】那須電機鉄工の月足チャート
那須電機鉄工の株価は、菅総理が2020年12月4日に水素エネルギーに言及したことを受けて大反発となっています(上図赤丸)。
【6378】木村化工機
化学プラントを手掛ける【6378】木村化工機は、水素発電で注目の水素関連銘柄です。
同社は、2019年11月に、澤藤電機と岐阜大学と共同で、世界で初めて低濃度アンモニア水から高純度水素を製造し、燃料電池発電に成功したと発表しています。
【6378】木村化工機の月足チャート
木村化工機の株価は、直近の2020年11~12月に大きく反発しています。
なお、同社と共同で燃料電池発電に成功した【6901】澤藤電機も2020年12月には大きく反発しており、水素が材料視されたことは間違いありません。
【6391】加地テック
ガスコンプレッサ大手の【6391】加地テックは、燃料電池用高圧水素ガスコンプレッサを手掛けていることから水素関連銘柄に位置付けられています。
【6391】加地テックの月足チャート
加地テックの株価は、コロナショックで暴落以降は反発傾向にあり、特に直近の2020年10~12月には上げ足を強めていることが分かります。
菅総理の水素発言で買われたと見て良いでしょう。
燃料電池車(FCV)関連銘柄
水素を水素ステーションで補給して走行する燃料電池車(FCV)は、水しか排出しない環境車として注目されています。
【7203】トヨタ自動車
世界的自動車メーカー【7203】トヨタ自動車は、電気自動車(EV)では出遅れているものの、燃料電池車(FCV)では先行しています。
同社は、燃料電池車の代名詞とも言える「トヨタ MIRAI」を2014年に発表したことで知られています。
2020年12月9日には、新型MIRAIを発表。航続距離は850kmとEVを凌駕しており、価格は710万円からとなっています。
【7203】トヨタ自動車の月足チャート
トヨタ自動車の株価は、この5年間は横ばいとなっています。また、新型MIRAIの発表で、株価が大きく反応したとまでは言えません。
マーケットでは水素は注目されているものの、燃料電池車は水素ステーションの少なさという致命的な弱点を抱えていることもあり、EVに比べるとマーケットでの注目度は低いと言わざるを得ません。
また、燃料電池車(FCV)は、トヨタを始め多くの自動車メーカーが開発しているものの、未だに研究段階に留まっており、市販化されている車種が圧倒的に少ない点もデメリットです。
まとめ
今回は、クリーンエネルギーとして水素が注目される背景について解説した上で、代表的な水素関連銘柄についてチャート付きで紹介してきました。
水素関連銘柄は、【8088】岩谷産業と【6331】三菱化工機の2銘柄を中心に、水素技術を保有している中小株が注目される傾向があります。
2020円秋には世界中でクリーンエネルギーが注目されたことを背景に水素関連銘柄は大きな上昇となっています。
特に、菅総理が環境政策を重視すると述べた会見の中では真っ先に水素について言及しており、多くの水素関連銘柄が買われることになりました。
2020年10月から11月に掛けては“EV相場”や“再生エネ相場”とも呼ばれる相場展開となっていましたが、12月は“水素相場”と言っても過言ではない展開となっています。
今後は、水素関連銘柄が短期的なテーマに留まるか、長期的に注目される環境テーマ株になっていくかどうかに注目です。
柴垣 英昭
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