新NISAで注目のオルカンとは?S&P500指数とどっちがおすすめかも解説!

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

2024年から始まった新NISAでは、「オルカン」こと世界株投信・世界株ETFが個人投資家を中心に人気銘柄となっています。

世界株投信「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」はオルカンの代名詞的な銘柄となっており、新NISAの成長投資枠・つみたて投資枠のいずれでも投資可能です(つみたて投資枠がおすすめです)。

新NISAを使ったインデックス投資では、「S&P500指数」に連動する米国株投信もオルカンとともに注目を集めていますが、オルカンとの違いは米国株・ドル比率にあります。

この記事では、新NISAで投資できるオルカン(世界株投信)について解説した上で、S&P500指数との違いについても解説していきます。

新NISAで注目されるオルカンとは?

2024年から始まった新NISAは、従来の一般NISAとつみたてNISAが合体し、非課税投資枠が最大1,800万円となり、非課税期間が恒久化するなど非常にお得な制度となっています。

新NISAに関しては「オルカン」という言葉を耳にすることが増えているのではないでしょうか?

新NISAのおすすめ銘柄としても注目されるオルカンについて解説していきます。

オルカンとは「世界株投信」「世界株ETF」のこと

オルカンとは「オールカントリー」の略称で、「世界株投信」「世界株ETF」を指します。

世界株投信とは、世界中の株式で構成される投資信託のことです(世界株ETFも同様です)。

特に、代表的な世界株指数である「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)」に連動するインデックス型の世界株投信が一般的となっています。

「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス(MSCI ACWI)」は、世界中の大型株・中型株約2,900銘柄について、時価総額加重平均型で算出される世界株指数です。

世界株指数としては「FTSEグローバル・オールキャップ・インデックス(FTSE GACI)」もありますが、こちらは小型株を含む約9,500銘柄で構成されるもので、時価総額上位銘柄の比重はほとんど変わらないため、ほぼ違いはありません。

オルカンとは、世界中の株式に分散投資された金融商品だということさえ押さえておけば問題ありません。

なお、オルカンについて長期チャートで見ると次のようになっています。

オルカンの長期チャート(iシェアーズ MSCI ワールド UCITS ETF)

新NISAで投資できるオルカンは?

新NISAには、個別株やETFにも投資できる「成長投資枠」(最大1,200万円)、金融庁が指定した投資信託に投資できる「つみたて投資枠」(最大1,800万円)の2つがあります。

東証には、世界株ETF【2559】MAXIS全世界株式(オール・カントリー)上場投信が上場しており、こちらは「成長投資枠」から投資可能です。

「つみたて投資枠」で投資できる世界株投信では、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」があります。

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」は、投資信託の手数料である信託報酬が0.05775%という驚異的な安さとなっていることが特徴の人気投信です。

新NISAで投資できるオルカンについて簡単にまとめると、次のようになります。

 

世界株投信

世界株ETF

代表銘柄

eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)

【2559】MAXIS全世界株式(オール・カントリー)上場投信

成長投資枠

つみたて投資枠

×

新NISAで投資できるオルカンには世界株投信と世界株ETFがありますが、基本的には、「つみたて投資枠」で世界株投信「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」に投資することがおすすめです。

世界株ETFの場合は、株式と同じように注文する必要があり、注文する際に流動性リスクが出る場合があるため、やや投資初心者には敷居が高くなっているためです。

新NISAでオルカンに投資したい場合には、つみたて投資枠で「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」を積み立てていくことが基本だと押さえておきましょう。

オルカンはどのような金融商品?

オルカンは、金融商品としてはどのような投資信託なのかについて詳しく見ていきましょう。

今回は、「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」について解説していきます。

※出典:日本経済新聞「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」

構成銘柄比率

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の構成銘柄比率トップ10銘柄は次の通りです。

順位

銘柄名

資産

構成比率

1

APPLE INC

米国株

4.5%

2

MICROSOFT CORP

米国株

4.0%

3

AMAZON.COM INC

米国株

2.1%

4

NVIDIA CORP

米国株

1.7%

5

ALPHABET INC-CL A

米国株

1.5%

6

META PLATFORMS INC-CLASS A

米国株

1.1%

7

TESLA INC

米国株

0.9%

8

UNITEDHEALTH GROUP INC

米国株

0.8%

9

ALPHABET INC-CL C

米国株

0.8%

10

ELI LILLY & CO

米国株

0.08%

GAFAM(Google(Alphabet)、Apple、Facebook(Meta)、Amazon、Microsoft)に加えて、NVIDA、TESLAと、トップ10銘柄はいずれも米国株の時価総額が大きい銘柄が占めていることが分かります。

なお、GAFAMにNVIDIAとTESLAを加えた7銘柄は、「マグニフィセント・セブン(Magnificent Seven)」と呼ばれるようになっています。

通貨比率

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の資産配分比率(2023年10月末時点)は次の通りです。

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の資産配分比率

先進国株式が83.42%、新興国株式が10.69%、日本株が5.49%となっています。

より詳しく、国別配分比率(2023年10月末時点)で見ると次の通りです。

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の国別配分比率

米国が61.70%となっており、オルカンの半分以上が米国株で占められていることが分かります。

次に、国別配分比率はやや分かりにくいため、通貨配分比率で見ていきましょう。

オルカンの特徴の一つとして、世界中の株式に分散投資した商品であるため、外貨建て資産であるということが挙げられます。

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の通貨配分比率(2023年10月末時点)は次の通りです。

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の通貨配分比率

上位の通貨から順番に見ると、米ドル61.7%、日本円5.60%、ユーロ4.80%、英ポンド3.70%、カナダ・ドル2.80%と並んでいます。

オルカンの通貨比率は、米国株・ドル比率が100%の「S&P500指数」との最大の違いです。

直近5年間の利回り

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」の利回り(2023年12月末時点)は次のようになっています。

期間

1年

3年

5年

リターン

30.42%

63.43%

125.84%

リターン(年率)

30.42%

17.79%

17.70%

オルカンは、2023年には30.42%の値上がりとなっており、直近5年間で見ると+125.84%です。

ただ、これは米国株の上昇に加えて、円安ドル高が進んだ影響が大きい点には注意が必要です。

少なくとも、2023年の成績が今後も続くというのは現実的ではありません。

オルカンについて今後の利回りを現実的に考えると、年率5~10%程度と考えておくことが無難ではないかと思われます。

新NISAでオルカンに投資するメリット

新NISAでオルカンに投資するメリットについて見ていきましょう。

低リスクで長期的な成長が期待できる

オルカンこと世界株投信のメリットは、低リスクで長期的な成長が期待できることにあります。

「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」が連動する「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」は、世界中の大型株・中型株約2,900銘柄に分散投資されています。

つまり、分散投資によってリスクが低くなっているということです。

また、オルカンは米国株比率6割の部分は「S&P500指数」と同じですが、残りを日本株や欧州株、新興国株などでリスクヘッジした商品と言えます。

米国株の下落や円高ドル安になることでのリスクが、S&P500指数などの米国株投信より小さいということです。

また、「MSCIオール・カントリー・ワールド・インデックス」は、時価総額加重平均型で算出されるため、成長株が構成銘柄上位に来やすいこともメリットです。

2023年には生成AIブームを受けて、米国の半導体GPU大手【NVDA】NVIDIAが大きな値上がりとなり、GAFAMと並ぶ時価総額1兆ドル企業となりました。

オルカンの構成銘柄比率を見てみると分かりますが、時価総額加重平均型のインデックス投信には、NVIDAのような成長企業はしっかりと反映されます。

逆に、衰退企業は時価総額が下がることで、構成銘柄比率が下がることによって調整されます。

外貨建て資産のため円安リスクをヘッジできる

オルカンは、ドル6割の外貨建て資産であるため、円安ドル高になれば為替差益が生じてプラスとなります。

日本円で給料を受け取っている場合には、オルカンに投資することで、円安リスクや日本リスクをヘッジできることはメリットです。

逆に円高になった場合には為替差損が発生しますが、これは円安リスクに対する保険のようなものと考えられないでしょうか。

なお、新NISAでは、オルカンや米国株投信を中心に月2,300億円の予約が入っていると報じられています。

※出典:日本経済新聞「新NISA好調、月2300億円予約」

新NISAによって、オルカンやS&P500指数でインデックス投資する個人投資家が増えれば増えるほど円安への負荷になる「キャピタルフライト」も懸念されており、さらなる円安になってもおかしくありません。

新NISAでオルカンに投資するデメリット

新NISAでオルカンに投資するデメリットについて見ていきましょう。

個別株のような爆発的な成長は期待できない

オルカンは、低リスクで、年平均5~10%程度の長期的な成長が期待される金融商品です。

例えば、日本株や米国株の個別半導体株のような、1年で2倍や3倍、さらには10倍のテンバガーになるといった爆発的なリターンは期待できません。

年率5%というと小さく感じるかもしれませんが、新NISAで毎月5万円の積み立てをして、年率5%で30年間運用すれば、4,161万円になります。

 新NISAで毎月5万円の積み立て・年率5%のシミュレーション

※出典:金融庁「資産運用シミュレーション」

オルカンでは個別株のような爆発的なリターンが得られないということは、逆に言えば、リスクも限定的になるということです。

オルカンとS&P500指数はどっちがおすすめ?

新NISAでたびたび議論されることが、「オルカンとS&P500指数のどちらにすべきか?」ということです。

インデックス投資では「S&P500指数」もおすすめ

「S&P500指数」に連動する米国株投信は、オルカンと並んで新NISAの長期投資におすすめの銘柄です。

「S&P500指数」とは、米国を代表する500銘柄について時価総額加重平均で算出される米国株指数です。

S&P500指数の長期チャート

新NISAの「つみたて投資枠」では、信託報酬が0.09372%と非常に小さい米国株投信「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」が人気銘柄となっています。

オルカンとS&P500指数の違いは米国株・ドル比率

オルカンとS&P500指数の違いは、米国株・ドル比率にあります。

種類

銘柄

米国株比率

ドル比率

オルカン

eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)

61.70%

61.70%

S&P500指数

eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)

100%

100%

オルカンとS&P500指数は、いずれも時価総額加重平均型のため、上位に時価総額が大きい米国株が並ぶ点は変わりません。

ただ、構成比率に違いがあります。

「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」の構成比率上位は次の通りです。

順位

銘柄名

資産

構成比率

(参考)オルカンの構成比率

1

MICROSOFT CORP

米国株

7.0%

4.0%

2

APPLE INC

米国株

7.0%

4.5%

3

AMAZON.COM INC

米国株

3.4%

2.1%

4

NVIDIA CORP

米国株

2.9%

1.7%

5

ALPHABET INC-CL A

米国株

2.4%

1.5%

6

META PLATFORMS INC-CLASS A

米国株

1.9%

1.1%

7

BERKSHIRE HATHAWAY INC-CL B

米国株

1.7%

0.9%

8

TESLA INC

米国株

1.5%

 

9

ALPHABET INC-CL C

米国株

1.5%

0.8%

10

UNITEDHEALTH GROUP INC

米国株

1.4%

0.8%

※出典:日本経済新聞「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」

※オルカンの構成比率は「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」

GAFAM・NVIDIA・TESLAが並ぶ上位銘柄の顔ぶれは、S&P500指数とオルカンで変わらないですが、構成比率が変わっている点に注目してください。

また、S&P500指数のドル比率は100%と、オルカンの約61%に比べて高いため、円安ドル高による為替差益でもオルカンより影響を受けやすくなっています。

オルカンとS&P500指数の成績比較

オルカン(eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー))とS&P500指数(eMAXIS Slim 米国株式(S&P500))の成績を比較してみましょう。

 

1年リターン

3年リターン

5年リターン

オルカン

30.42%

63.43%

125.84%

S&P500指数

34.63%

82.73%

163.04%

S&P500指数の方が、オルカンよりも直近のリターンが大きくなっています。

これは米国株の上昇と円安ドル高の影響が、S&P500指数の方がオルカンより受けやすいためと説明可能です。

ただ、オルカン・S&P500指数のいずれも、2023年の成績は出来過ぎの値であり、そこは差し引いて考える必要があります。

まとめ

この記事では、新NISAで投資できるオルカン(世界株投信)について解説した上で、S&P500指数との違いについても解説してきました。

新NISAでオルカンに投資するなら、「つみたて投資枠」で投資できる「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」がおすすめです。

S&P500指数に連動する米国株投信「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」もおすすめですが、違いは米国株・ドル比率にあります。

「オルカンとS&P500指数のどちらに投資すべきか?」を迷った場合には、50:50で両方に投資することも悪くなさそうです。

ただ、2023年にはオルカンもS&P500指数も出来過ぎの成績となっており、新NISAで投資をする場合には毎月5万円ずつのペースで投資するといった長期・積立・分散投資を継続することが重要になるかと思います。

紫垣 英昭