紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
新型コロナによる実体経済の落ち込みとは反して、2020年3月中旬以降、株式市場は反発が続いています。
新型コロナ相場では、東証一部上場の主力銘柄も買われていますが、東証マザーズを始めとする新興市場にも資金が流入してきており、多くの銘柄が急騰しています。
具体的には、新型コロナウイルスのワクチン・治療薬開発に携わるバイオベンチャー株や、巣ごもり消費やオンライン教育などで注目される銘柄の上昇が目立っており、3ヶ月で5倍以上の急騰となっている新興銘柄も珍しくありません。
今回は、新型コロナ相場におけるマザーズ市場の動向について解説した上で、特に大きく上昇している代表的なマザーズ銘柄を10銘柄紹介していきます。
- マザーズ市場とは何かがわかる
- マザーズ市場上場と、東証1部、東証2部、JASDAQ上場の条件の違いがわかる
- 新型コロナ相場中で特に上昇したマザーズ市場10銘柄の値動きをチャートで解説
そもそもマザーズ市場とは?
東証マザーズ市場は、東京証券取引所(東証)の中で、新興市場に位置付けられている市場です。
2020年7月7日時点では、マザーズ市場には326銘柄が上場しており、これは東証全体の銘柄数(3,714銘柄)の8.77%に当たります。
マザーズ市場は、東証一部に比べて上場基準が緩くなっており、またマザーズ市場から東証一部に上場する際の昇格基準も緩くなっていることから、将来的に東証一部に昇格を目指すベンチャー企業が多くなっていることが特徴です。
具体的には、東証一部に直接上場する条件と、東証マザーズ市場に直接上場する条件は下表のような違いがあります。
※出典:日本取引所
|
東証マザーズ |
東証一部 |
株主数 |
200人以上 |
2,200人以上 |
流通株式数 |
2,000単位以上 |
2万単位以上 |
時価総額 |
10億円以上 |
250億円以上 |
純資産 |
- |
10億円以上 |
利益 |
- |
直近2年間の利益が5億円以上であること |
また、市場ごとの東証一部への昇格条件は次のようになっており、同じ新興市場のJASDAQに比べると、時価総額基準においてマザーズは東証一部への昇格条件が緩くなっていることが分かります。
※出典:日本取引所
|
東証マザーズ |
東証二部 |
東証JASDAQ |
株主数 |
2,200人以上 |
2,200人以上 |
2,200人以上 |
流通株式数 |
2万単位以上 |
2万単位以上 |
2万単位以上 |
時価総額 |
40億円以上 |
40億円以上 |
250億円以上 |
純資産額 |
10億円以上 |
10億円以上 |
10億円以上 |
利益額 |
直近2年間で5億円以上 |
直近2年間で5億円以上 |
直近2年間で5億円以上 |
このように、東証マザーズは上場条件が緩くなっており、赤字のベンチャー企業であっても上場できるため、期待感先行で株価が急騰しやすいハイリスク・ハイリターン銘柄が多くなっています。
マザーズ市場は新型コロナ相場で大きく買われている
マザーズ市場は新型コロナ相場で大きく買われています。
東証マザーズ指数の動向
東証一部市場のベンチマークとしては日経平均株価とTOPIXが広く使われていますが、東証マザーズ市場のベンチマークとしては「東証マザーズ指数」が使われています。
「東証マザーズ指数」は、東証マザーズ上場の全銘柄を対象に時価総額加重平均で算出される株価指数です。東証マザーズ市場のTOPIXに相当する株価指数と言えます。
2020年6月末時点の東証マザーズ指数の構成銘柄上位10銘柄は次のようになっています。
※出典:日本取引所
銘柄コード |
銘柄名 |
構成比率 |
4563 |
アンジェス |
9.6% |
4385 |
メルカリ |
8.6% |
4565 |
そーせいグループ |
4.0% |
4478 |
フリー |
3.9% |
3994 |
マネーフォワード |
2.9% |
6027 |
弁護士ドットコム |
2.5% |
4480 |
メドレー |
2.4% |
2160 |
ジーエヌアイグループ |
2.3% |
3923 |
ラクス |
1.9% |
4443 |
Sansan |
1.8% |
アンジェスとメルカリの構成比率がやや高くなっていますが、それでも銘柄の極端な偏りがあるとは言えません。
それでは、東証マザーズ指数の月足チャートを見てみましょう。
東証マザーズ指数の月足チャート
長期チャートで見てみると、東証マザーズ指数はこの数年は苦戦していたことが分かります。
2018年2月には1,343.08ポイントを付けていましたが(上図青丸)、その後2年間は下落が続いており、コロナショックによって2020年3月には557.86ポイントまで暴落していました(上図赤丸)。
しかし、2020年3月に安値を付けてからは急反発していることが分かります。直近の2020年3月以降の東証マザーズ指数の動向について、より細かい日足チャートで見てみましょう。
東証マザーズ指数の日足チャート
東証マザーズ指数は、2020年3月19日には527.30ポイントを付けていましたが(上図赤丸)、その後の新型コロナ相場では一貫した上昇トレンドとなっており、6月24日には1,065.68ポイントまで回復しています(上図青丸)。
つまり、新型コロナ相場の3ヶ月で東証マザース指数は約2倍になったということです。全体相場の状態を示す株価指数が2倍になったということは、構成銘柄が平均して2倍になったということを意味します。
マザーズ銘柄の中でも特に大きく買われている銘柄は?
新型コロナ相場においては、平均的な東証マザーズ銘柄は2倍になったということが東証マザーズ指数から明らかですが、マザーズ銘柄の中には下げた銘柄もあれば大きく上げた銘柄もあります。
新型コロナ相場で特に大きく買われた銘柄としては、新型コロナウイルスのワクチン・治療薬の開発で期待されるバイオベンチャー株が挙げられます。
バイオベンチャー株は、新型コロナ相場で最も大きく買われている銘柄であり、新型コロナ相場をけん引しているテーマ株・セクターです。
バイオベンチャー株以外では、新型コロナの影響による社会変革が期待される銘柄も強く買われています。具体的には、ネット通販などの巣ごもり消費や、オンライン教育やテレワークなどです。
また、新型コロナによって社会のIT化(デジタルトランスフォーメーション化)が進むことは間違いないこともあり、サイバーセキュリティやAI、クラウドといったIT銘柄も強く買われています。
それでは、新型コロナ相場で特に大きく買われている具体的なマザーズ銘柄を見ていきましょう。
バイオベンチャー(ワクチン・治療薬関連銘柄)
新型コロナウイルスのワクチン・治療薬開発で期待されるバイオベンチャー株は、新型コロナ相場の中でも異次元の値動きとなっています。
【4563】アンジェス
遺伝子治療薬「コラテジェン」で知られる【4563】アンジェスは、大阪大学と共同で新型コロナウイルスのワクチン開発を手掛けているバイオベンチャーです。
【4563】アンジェスの日足チャート
アンジェスの株価は、2020年2月28日には375円を付けていましたが(上図赤丸)、ワクチン開発で期待された3月以降は一貫した上昇トレンドとなっており、6月26日には2,492円まで上昇しています(上図青丸)。
新型コロナ相場の3ヶ月で最大6.64倍の上昇となっており、新型コロナ相場の代名詞とも言える銘柄です。
特に、3月以降は出来高も急増しており、売買代金が1日100億円を超える日も多く、バイオベンチャー株がソフトバンクグループや任天堂と並ぶ人気銘柄となる事態となっています。
【4588】オンコリスバイオファーマ
東証マザーズ銘柄で、アンジェスに続く人気バイオベンチャー株となっているのが【4588】オンコリスバイオファーマです。
同社は、鹿児島大学と共同で新型コロナウイルスのワクチン開発を手掛けることを発表したことが好感されています。
【4588】オンコリスバイオファーマの日足チャート
オンコリスバイオファーマの株価は、3月10日の安値1,051円(上図赤丸)から、6月23日には3,820円(上図青丸)まで上昇しており、新型コロナ相場で3.63倍の上昇率となっています。
鹿児島大学と共同でワクチン開発を発表した6月以降に、特に大きく上昇していることが分かります。
【7707】プレシジョン・システム・サイエンス
東証マザーズのバイオベンチャー株で注目されているのは、ワクチン・治療薬開発に関係する銘柄だけではありません。新型コロナの検査に関する銘柄も買われています。
全自動遺伝子診断システムに強い【7707】プレシジョン・システム・サイエンスは、新型コロナウイルス感染防疫のための検査システム「geneLEAD」を手掛けていることから注目の銘柄です。
【7707】プレシジョン・システム・サイエンスの日足チャート
プレシジョン・システム・サイエンスの株価は、3月13日の安値330円(上図赤丸)から、6月15日には3,150円まで上昇しています。
新型コロナ相場での上昇率は最大9.54倍と10倍近くなっており、上昇率で見るとアンジェス以上となっています。
巣ごもり消費関連銘柄
新型コロナによる外出自粛によって、ネット通販(Eコマース)を中心とした巣ごもり消費が拡大しており、マーケットでも注目材料となっています。
【4385】メルカリ
フリマアプリ「メルカリ」を手掛ける【4385】メルカリは、巣ごもり消費拡大の恩恵を大きく受ける銘柄です。
【4385】メルカリの日足チャート
メルカリの株価は、3月19日には1,557円まで下げていましたが(上図赤丸)、その後4ヶ月近くに渡って一貫した上昇トレンドとなっており、7月7日には3,800円まで上げています(上図青丸)。
メルカリは、東証マザーズ銘柄では時価総額が最も大きい銘柄となっており、東証マザーズ指数の上昇にも大きく寄与していることは言うまでもありません。
【4477】BASE
Eコマースプラットフォーム「BASE」を展開する【4477】BASEは、巣ごもり消費関連で最も買われている銘柄の一つです。
【4477】BASEの日足チャート
BASEの株価は、3月13日に774円まで下げていましたが(上図赤丸)、その後は一貫した上昇トレンドとなっており、7月7日には6,200円まで上昇しています(上図青丸)。
新型コロナ相場で8倍の上昇率となっており、東証マザーズ時価総額ランキングでトップ10入りが間近の水準となっています。
2020年6月から7月に掛けては、メルカリとBASEが年初来高値を更新しており、巣ごもり消費やネット通販(Eコマース)に関連する銘柄に資金が流入してきているようです。
テレワーク・オンライン教育・遠隔医療関連銘柄
新型コロナによる最大の社会変革はテレワークやオンライン教育、遠隔医療といったテーマなのは間違いありませんが、マーケットでも注目テーマ株となっています。
【6027】弁護士ドットコム
会員向けの法律相談や弁護士向け営業支援サイト運営を手掛ける【6027】弁護士ドットコムは、テレワーク関連銘柄として強く買われています。
同社がテレワーク関連銘柄として注目されているのは、Web完結型クラウド契約サービス「クラウドサイン」を展開しているためです。同サービスは新型コロナ以降、契約数が右肩上がりで増えており、株価も同様の推移を辿っています。
【6027】弁護士ドットコムの日足チャート
弁護士ドットコムの株価は、3月13日には3,035円を付けていましたが(上図赤丸)、6月25日には11,300円まで上昇しています(上図青丸)。上昇率は3.72倍です。
「弁護士ドットコム」という企業名からすると、テレワーク関連銘柄とは連想できませんが、テレワークや電子署名に関する銘柄の中ではトップクラスの上昇率となっています。
【3998】すららネット
小学生から高校生向けにネット学習教材「すらら」を提供している【3998】すららネットは、オンライン教育関連銘柄として大きく買われている銘柄です。
オンライン教育は、2020年2月末の政府による一斉休校要請以降、社会的にもマーケットでも注目されるテーマとなっています。
【3998】すららネットの日足チャート
すららネットの株価は、3月13日には682円まで下げていたものの(上図赤丸)、その後は4ヶ月近くに渡って上昇トレンドとなっており、6月30日には4,590円まで買われています(上図青丸)
この4ヶ月弱での上昇率は6.73倍となっており、マーケットにおけるオンライン教育への関心の高さが伺えます。
東証マザーズ銘柄では、2019年にオンライン英会話「レアジョブ英会話」を手掛ける【6096】レアジョブがテンバガーを達成しているなど、教育関連銘柄は長期に渡る注目テーマ株です。
【4480】メドレー
医療ヘルスケア業界向け人材採用システムを手掛ける【4480】メドレーは、ネット診療システムに注力していることから、遠隔医療関連銘柄として注目されます。
日本の遠隔医療は、厚生労働省が一向に進めてきませんでしたが、新型コロナによってなし崩し的に進むことが期待されています。
【4480】メドレーの日足チャート
メドレーの株価は、3月13日には1,310円を付けていましたが(上図赤丸)、その後は右肩上がりの上昇となっており、6月25日には4,230円まで上がっています(上図青丸)。
新型コロナ相場では3.22倍の上昇率となっており、遠隔医療に対する投資家の期待感の高さが分かります。
その他IT銘柄
新型コロナの影響で、社会のIT化(デジタルトランスフォーメーション化)が進むことは間違いありません。マザーズ銘柄の中でも大きく上げているIT銘柄を見ていきましょう。
【4488】AI inside
AIによる光学式文字読み取り装置(OCR)サービス「DX Suite」を主力とする【4488】AI insideは、新型コロナ相場においてマザーズ市場で強く買われているAIベンチャーです。
【4488】AI insideの日足チャート
AI insideの株価は、3月27日には13,280円を付けていましたが(上図赤丸)、新型コロナ相場の上昇トレンドに乗り、6月23日には41,300円まで上昇しました(上図青丸)。
価格帯が大きい値嵩株にも関わらず、新型コロナ相場の3ヶ月で3.10倍にまで上昇しています。
ビッグデータを使ったAIを活用することは、新型コロナ対策において大きなカギを握ります。
春に行われた厚生労働省とLINEによる大規模調査や、6月にリリースされた新型コロナウイルス接触確認アプリ「COCOA」などは、いずれもビッグデータによるAIを使った新型コロナ対策の一環です。
このような背景があるたことから、AI関連銘柄は新型コロナ相場で大きく買われてます。
【4493】サイバーセキュリティクラウド
AIによるセキュリティサービスを提供する【4493】サイバーセキュリティクラウドは、東証マザーズにIPOした銘柄として異次元の上昇となっています。
【4493】サイバーセキュリティクラウド
サイバーセキュリティクラウドは、2020年3月26日に東証マザーズにIPO(新規上場)しました。
IPO公募価格4,500円に対して、IPO初値は9,210円を付けての上場となりましたが(上図赤丸)、IPO後も急騰相場が続き、4月21日には45,050円まで上昇(上図青丸)。公募価格から10倍のIPOテンバガーとなっています。
新型コロナ相場では東証マザーズ全体が好調ですが、IPO銘柄も全体的に好調な銘柄が多くなっています。
まとめ
今回は、新型コロナ相場におけるマザーズ市場の動向について解説した上で、特に大きく上昇している代表的なマザーズ銘柄を10銘柄紹介してきました。
新型コロナ相場では、全体的に株価が上昇していますが、新興市場である東証マザーズ市場は特に大きな値上がりとなっています。
東証マザーズ全銘柄で構成される株価指数「東証マザーズ指数」は、新型コロナ相場の3ヶ月で約2倍の上昇となっており、これはつまり新型コロナ相場の3~4ヶ月間で、平均的なマザーズ銘柄は2倍になったということを意味します。
東証マザーズのバイオベンチャー株や巣ごもり消費関連銘柄、テレワークやIT銘柄など、新型コロナで好影響を受ける個別銘柄の中には、5倍以上の上昇となっている銘柄も少なくありません。
ただ、新型コロナ相場では東証マザーズ銘柄が大きく買われていますが、さすがに過熱感が出てきていることも確かです。
これから東証マザーズ銘柄に投資する際には、リスク管理に気を付けた上で、細心の注意を払うようにしましょう。
紫垣 英昭
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