紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
新型コロナ禍では、さまざまな分野で日本のデジタル化の遅れが目立ちましたが、教育分野も例外ではありません。
日本のICT教育やプログラミング教育などでの遅れは、新型コロナ前から課題となっており、政府は生徒1人につきICT端末1台を与える「GIGAスクール構想」を打ち出しています。
「GIGAスクール構想」が成功するかどうかは未知数ですが、株式市場ではデジタル教材やプログラミング教育を手掛ける教育ICT関連銘柄は大きな注目を集める教育テーマ株となっています。
今回は、政府が進めるGIGAスクール構想について解説した上で、GIGAスクール構想で注目される教育テーマ株についてチャート付きで紹介していきます。
- 政府が進めるGIGAスクール構想についてわかる
- GIGAスクール構想で注目される教育テーマ株がチャート付きでわかる
- ”教育相場”について学べる
GIGAスクール構想とは?
GIGAスクール構想とは、Global and Innovation Gateway for Allの頭文字からきており、文部科学省が打ち出している、プログラミングやICTに関する教育方針のことです。
日本政府は2019年12月13日に閣議決定された令和元年度補正予算案において、生徒1人に1台のパソコン(ICT端末)を与え、各学校に高速大容量の通信ネットワークを整備するための予算を計上しました。
政府がIT教育を強化する背景には、産業界がデジタル人材の育成に迫られていることや、生徒1人1人の個性を伸ばす教育が求められていることなどが挙げられています。
ただ、これまでにも政府が教育現場でICT化を進める取り組みは何度も行われてきましたが、日本の学校現場でICT化が進むことは一向になかったというのが現実です。
電子黒板やタブレットといったデジタル教材が教育現場で採用されたという話はほとんど聞かれず、自宅にいながら授業が受けられるオンライン学習(eラーニング)は一部の通信教育に限定されていました。
しかし、2020年、新型コロナによって多くの学校は否応にもICT化を進めなければいけない状況に追い込まれることになりました。
政府が、GIGAスクール構想のための大規模予算を計上した2019年12月は、「デジタルトランスフォーメーション」という言葉が広まる前であり、「オンライン学習」が実現するなど誰も想像していなかった時期です。
政府のGIGAスクール構想は、文部科学省主導のもとではほとんど進まなかったにも関わらず、未曽有のパンデミックによって大きく前進するという皮肉な状況となっています。
教育ICTやプログラミング教育など、教育テーマ株は大きな注目を集めている
2020年には新型コロナがきっかけとなり、教育現場ではオンライン学習を始めとするGIGAスクール構想の一部が進展することになり、オンライン学習関連銘柄を始めとする教育テーマ株も大きく買われることになりました。
ただ、株式市場においては、教育ICT関連銘柄やオンライン学習関連銘柄といった教育テーマ株は新型コロナ以前から大きな注目が集まっていたテーマ株です。
2020年にはデジタル教科書の利用が認められ、小学校ではプログラミング教育が必修化されることから、教育改革には2019年頃から注目が集まっていたという背景があります。
さらに、政府が掲げた「GIGAスクール構想」に期待するかどうかはともかく、2019年12月に閣議決定された教育予算は市場にとってインパクトのあるものでした。
2019年11月に、西村経済再生相が同予算を組むことを明らかにしたことで、教育テーマ株は急騰。2019年11月から12月に掛けては”教育相場”と言ってもよい相場展開となりました。
教育テーマ株というと、少子高齢化・人口減少によって逆風のイメージがありますが、政府がデジタル化予算を注いでおり、また中学受験が過熱するなど国民の教育熱が高くなっていることもあり、株式市場では注目テーマ株の一つとなっています。
その注目度の高さを象徴するものとして、2019年には【6096】レアジョブ、2020年には【3998】すららネットと、教育テーマ株からは2年連続でテンバガーが誕生しています。
教育ICT関連銘柄
教育にICT(情報通信技術)を取り入れる取り組みは「教育ICT」や「エドテック」と呼ばれており、これらに関連する事業を手掛けている銘柄は教育ICT関連銘柄と呼ばれています。
GIGAスクール構想では、生徒1人につきICT端末1台を与えることを目玉にしていることからも注目のテーマ株です。
【8057】内田洋行
学校備品などのオフィス家具用品大手【8057】内田洋行は、代表的な教育ICT関連銘柄です。
同社は、教育ICT環境構築を主力事業としており、「ウチダの1人1台タブレットPC導入支援サービス」などの学校現場向けサービスを手掛けています。
【8057】内田洋行の月足チャート
内田洋行の株価は、政府がGIGAスクール構想の予算を計上した2019年12月に一段高となっていることが分かります(上図赤字)。
ただ、2019年には年間3倍以上の値上がりとなりましたが、2020年は苦しい値動きとなっています。
【3933】チエル
学校や塾、企業向けにICT教育システムを開発・販売する【3933】チエルは、代表的な教育ICT関連銘柄です。
同社は、小学校から大学向けに至るまで、デジタル教材やアクティブラーニングなどさまざまなICT教育システムを手掛けています。
【3933】チエルの月足チャート
チエルの株価は、GIGAスクール構想で注目された2019年に大きく上昇し、新型コロナでオンライン学習が注目された2020年にも大きく上昇しました。株価は2年間で一時10倍以上となっています。
マーケットで教育テーマ株が注目されていることを象徴するような銘柄です。
【6727】ワコム
パソコンやタブレット端末のペン入力に使われる「ペンタブレット」で世界トップシェアを持つ【6727】ワコムは、教育ICTに欠かせない銘柄です。
GIGAスクール構想で生徒1人にパソコン1台が与えられることになれば、特需が期待されます。
【6727】ワコムの月足チャート
ワコムの株価は、GIGAスクール構想の予算が計上された2019年には下半期にわずかな上昇に留まりましたが、2020年には大反発となっています。
ペンタブレットで世界トップシェアの同社は、新型コロナを受けて日本だけでなく世界中でオンライン学習が進むことによる特需が期待されて大きく買われることになりました。
【6629】テクノホライゾン・ホールディングス
情報通信機器・光学機器メーカーの【6629】テクノホライゾン・ホールディングスは、子会社のエルモ社が教育ICT製品を手掛けていることから教育ICT関連銘柄に位置付けられています。
同社は、「分かる授業」や「効果の高いプレゼンテーション・会議」を実現する書画カメラ分野で世界をリードしていることで知られています。
【6629】テクノホライゾン・ホールディングスの月足チャート
テクノホライゾン・ホールディングスの株価は、GIGAスクール構想の予算計上による教育相場となった2019年末に大きく上昇したことが分かります(上図赤丸)。
2020年は高値圏で横ばいとなりました。
【3839】ODKソリューションズ
教育関連に強みを持つシステム開発会社の【3839】ODKソリューションズは、入試関連サービスの開発を手掛けていることから教育ICT関連銘柄に数えられます。
【3839】ODKソリューションズの月足チャート
ODKソリューションズの株価は、特に大きく急騰しているわけではありませんが、直近2年間では安定した値上がりとなっています。
【3627】JNSホールディングス(旧・ネオス)
IoTデバイスソリューションを手掛ける【3627】JNSホールディングス(旧・ネオス)は、電子教材のコンテンツプロデュース事業を手掛けていることから教育ICT関連銘柄に位置付けられます。
【3627】JNSホールディングスの月足チャート
JNSホールディングスの株価は、GIGAスクール構想の予算計上された2019年にも、オンライン学習が注目された2020年にも下落しています。
eラーニング関連銘柄
新型コロナがきっかけとなり、自宅にいながらインターネットで学習するeラーニング(オンライン学習)は急速に進みました。
GIGAスクール構想では、各学校に高速大容量の通信ネットワークを整備することを目玉に掲げており、eラーニングは今後さらに加速することが期待されます。
【6096】レアジョブ
オンライン英会話「レアジョブ英会話」を手掛ける【6096】レアジョブは、2019年に最も大きく買われた教育株です。
【6096】レアジョブの月足チャート
レアジョブの株価は、2019年には好決算や株式分割などの好材料を次々と発表し、上昇に次ぐ上昇となりました。
2019年11月に、GIGAスクール構想の予算計上によって一段高に。
2019年1月初めの220.3円から12月高値は3,145円となり、年間14倍を超えるテンバガーとなりました。
2020年は横ばいとなっていますが、テンバガー達成銘柄にしては暴落せずに耐えている珍しいケースと言えます。
【3998】すららネット
ネット学習教材「すらら」を小学校から高校向けに提供している【3998】すららネットは、2020年に最も大きく上昇した教育関連銘柄です。
【3998】すららネットの月足チャート
すららネットの株価は、GIGAスクール構想の予算が好感された2019年11月から反発が始まっており、2020年は一貫して上昇。
3月に付けた682円の安値から10月には9,350円まで上昇し、最大13.70倍のテンバガー達成となりました。
【9470】学研ホールディングス
学習参考書や図鑑など教育出版大手の【9470】学研ホールディングスは、代表的な教育株であり、近年はオンライン英会話などのeラーニングにも力を入れています。
【9470】学研ホールディングスの月足チャート
東証を代表する教育株だけあって、GIGAスクール構想の予算計上がきっかけとなった2019年11月の教育相場で大きく上昇したことが分かります。
ただ、2020年は高値圏で停滞しています。
【9783】ベネッセホールディングス
「進研ゼミ」で知られる通信教育最大手【9783】ベネッセホールディングスは、代表的な教育株であり、eラーニング関連銘柄にも位置付けられる銘柄です。
【9783】ベネッセホールディングスの月足チャート
ベネッセの株価は、厳しい展開となっています。
通信教育「進研ゼミ」では知られていますが、その他のeラーニング事業はパッとしないことから、投資家からは厳しい目で見られている状況と言わざるを得ません。
まとめ
今回は、政府が進めるGIGAスクール構想について解説した上で、GIGAスクール構想で注目される教育テーマ株についてチャート付きで紹介してきました。
2019年11月から12月に掛けては、生徒1人につき1台のICT端末を支給するGIGAスクール構想の予算計上に沸き、教育ICT関連銘柄を中心とする教育株が軒並み高騰する”教育相場”となりました。
2020年には、新型コロナによる一斉休校要請やオンライン学習(eラーニング)の広がりによって、一部の教育テーマ株はさらなる一段高となっています。
政府のGIGAスクール構想が成功するかどうかは未知数ですが、教育テーマ株がマーケットで注目されていることは間違いありません。
教育テーマ株からは、2019年には【6096】レアジョブ、2020年には【3998】すららネットと、2年連続でテンバガーが誕生していることから、2021年も引き続き注目していきましょう。
紫垣 英昭
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