紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
「投資の教養」の紫垣英昭です。
今回は、売買タイミングを掴むための「株価移動平均線」の種類と使い方についてお伝えしていこうと思います。
2000年以前は、証券会社の営業マンを通じて、株の取引注文が主流でしたが、今では、多くの個人投資家がインターネットを使って、株式取引を行う時代となりました。
インターネット取引は、株価や板情報、そして「株価チャート」が、リアルタイムで変化する様子をパソコン上で見ることができる、いわば“革命”をもたらしました。そ
してなにより大きな変化は、個人投資家の売買判断の基準が、企業分析ではなく“チャート分析”に比重を移してきたことです。
株価のチャート分析で、もっとも身近で、もっとも使われているのが「移動平均線」です。
しかし、もっとも身近に使われているはずの「移動平均線」を理解している個人投資家は意外と少ないものです。
そこで、今回はテクニカル分析の基本中の基本である“移動平均線の種類と使い方”をマスターし、
- これから上がる銘柄
- これから下がる銘柄
をどのように理解していくのかを見ていきます。
移動平均線は株でもFXでも使われているので最初に抑えておくべきものですが、何も予備知識がない状態で移動平均線がびっしりかかれたグラフを見ると、
- 見るからにややこしそう
- 画面が複雑でパソコンに詳しい人しかできなさそう
- 数学などの専門的な知識が必要そう
といったイメージをもってしまうかもしれません。
しかし、仕組みがわかってしまえば、複雑でもなんでもないので安心してください。
この記事を読んで、移動平均線が何かを理解するのに5分。
それだけの時間があれば、あなたも移動平均線をスラスラ読めるようになるでしょう。
移動平均線は株式投資の入り口であり、株の動きが理解できて楽しくなってくる部分なのでぜひ最後まで読み進めてください。
- 「株価移動平均線」を理解できる
- 「株価移動平均線」の種類と使い方がわかる
- 「株価移動平均線」を使うときの注意点がわかる
移動平均線とは?
移動平均線とは、投資のチャートグラフで使う指標の一つです。
簡単に言えばグラフの線ですね。
もう少し詳しく言うと、チャートグラフ上で株価の終値(その日の最後の株価)を平均した数字を線で結んだものです。
説明するより図でみましょう。
一般的に株価チャートは、「ローソク足」と「株価移動平均線」を組み合わせて使われます。
上記のグラフでは、株価の動きを捉えた、縦の赤と青の棒線が「ローソク足」で、3本のラインが「株価移動平均線」です。
このようなグラフは、ソフトで見る他に、ヤフーファイナンスなどからでも見れます。
移動平均線の計算式は、日足であれば「株価の終値/日数」で求めます。
週足であれば、「株価の週末終値/週数」、月足なら「株価の月末終値/月数」といった、極めて簡単な計算式で求められます。
そして、求められた値を線でつなげば、移動平均線を描くことができます。
たとえば、5日移動平均線でいえば、今日を含めた過去5日の終値の平均値で、200日移動平均線ならば、今日を含めた過去200日の平均ですね。
線を見ること自体は上の画像を見てもおわかりの通り、非常に簡単なのですが、
「この線って結局なんのために見るの?」
と感じる方が最初は大半で、株を勉強しようと思い立った人の中でも、実際に移動平均線を活用する段階まで進めず挫折してしまう人も少なくありません。
あなたがそうならないためにも、ここから先のお話で移動平均線が持つ役割から紹介し、実際に株を取り引きしていく中でどんな風に使っていくのかも理解してもらいます。
学んだ知識はすぐ活用してどんどん実践に踏み込んでいきましょう。
移動平均線の“3つのパターン”とは
移動平均線が持つ3つの役割を知ることで、移動平均線を見る意味や、どのように見たら株の取り引きで有利に立てるかのヒントがわかります。
株価の大まかな流れを知る
移動平均線は左から右に進みます。
この線が右肩上がりになっているのか、水平なのか? あるいは下向きになってるのか?
線の動きを大まかに見ていきましょう。
ちなみに、株価移動平均線は、概ね以下の「3つのパターン」に分類されます。
- 上向き
- 下向き
- 横ばい
一般的に「上向き」を、“上昇トレンド”、「下向き」を“下落トレンド”、また「横ばい」を“レンジ”と呼ばれます。
以下は、ソニー(6758)の株価チャートです。
先ほどお伝えしたように「3つのパターン」を形成しているのがお分かりいただけると思います。
まずは、こういった株価と株価移動平均線の流れを知ることが重要です。
「株価」と「株価移動平均線」との関係性を見る
では次に、「株価」と「株価移動平均線」の関係性について見てみたいと思います。
以下のチャートは、ソニー(6758)の日足のチャートです。
この図では「株価移動平均線」は、一般的に良く使われる「25日移動平均線」を使って解説します。
お分かりのように、株価が、移動平均線を下に抜ければ、株価はしばらく下落を続け、株価が移動平均線を上に越えると株価はしばらく上昇しているのがお分かりいただけるでしょう。
このように「株価」と「株価移動平均線」の関係性だけに着目することによって、将来の株価の動きがなんとなく予測することが可能になります。
ただし、注意していただきたいのが“絶対の法則ではない”ということです。
いろんな銘柄の株価チャートを見ていただければわかるように、株価が移動平均線を越えたとしても、その直後に下落することは、かなり頻繁に起こります。
したがって「チャート分析」は、あくまで確率論で考えることが、とても大切になります。
では次に、一般的に個人投資家がよく使っている「株価移動平均線」について触れていきたいと思います。
実際の売買でよく使う「5つの移動平均線」とは
チャート分析で「株価移動平均線」が良く使われる理由は、「株価」と「移動平均線」の関係性でも見てとれるように“極めて単純”ということだと思います。
株価の動きには、ある一定のトレンドがあるために、瞬間的に2社の関係性をみて、「今は上昇している」とか「下がっている」ということが瞬間的に理解できます。
これが「株価移動平均線」が良く使われる大きな理由ではないでしょうか?
しかしここで、ひとつ“疑問”が残ります。
それは「ではいったいどの移動平均線を使うべきか?」ということです。
結論は後ほど述べるとして、まずは一般的に良く使われている「株価移動平均線」の種類についてお話します。
「5日移動平均線」
5日移動平均線は、短期売買で良く使われる、代表的な株価移動平均線です。
計算式は、「過去5日間の株価の終値/5」で算出され、算出された値を線でつなげば、「5日移動平均線」になります。
計算式からもわかるように、過去5日間の平均値を取っているので、実際の株価により沿った動きになりやすいのが特徴です。
200日、75日などの移動平均線と比べると、動きが速く株の値動きを素早くつかむことができるのが特徴ですね。
だからといって、先ほどもお伝えしたようにチャート分析は“絶対の法則”ではないので、信用し過ぎるのは禁物です。
「20日移動平均線」
意外と思われると思いますが、比較的短期、中期の売買をする投資家に人気があるのがこの「20日移動平均線」です。
実は今から25年ほど前は、土曜日の午前中まで、株式取引が行われていました。
しかしそれ以降、週休二日制が導入されることによって現在のように土曜日の取引は廃止されました。
したがって、月間の取引日は22日程度になったことで、「20日移動平均線」が、より機能するとの考えから使われるようになったというのがその経緯です。
以下の画像は、ソフトバンク(9984)の日足で「20日移動平均線」を表示させたものです。
たしかに、パッとみたところ、大きなトレンドを上手く捉えられているという感じがしますね。
「25日移動平均線」
先ほど、「実は今から25年ほど前は、土曜日の午前中まで、株式取引が行われていました。
しかしそれ以降、週休二日制が導入されることによって現在のように土曜日の取引は廃止されました。」とお伝えしましたが、今のように週休二日以前は、1ヶ月の取引日は、概ね25日間でした。
そのときの名残もあり、「25日移動平均線」は今でも根強い人気があります。
では先ほどの「20日移動平均線」と、どの程度の違いがあるかといえば、さほど違いはありません。
以下の画像は、「20日移動平均線」と「25日移動平均線」との比較です。
見ていただければお分かりのように、この違いにさしたる意味はないというのが僕の考えです。
「じゃあ、どちらを使えば良いのか??」と思う方も多いかと思いますが、正直、“好みの問題”だと、僕は考えています。
「75日移動平均線」
中長期投資に人気があるのがこの「75日移動平均線」です。
実は僕がもっとも信頼している移動平均線のひとつが「75日移動平均線」です。
その理由は「大きなトレンドで機能しやすい」というのが理由です。
下の画像は、日立(6501)の日足チャートと「75日移動平均線」の動きです。
株価の大きな上昇トレンド、下落トレンドが発生しているとき、不思議と「75日移動平均線」を境に株価が動いているのがお分かりかと思います。
あくまでも以下の図に限ったことですが、「75日移動平均線」まで株価が下落した後、この線を境に再び上昇に転じるなら、株価は上昇トレンド継続の可能性が高まります。
また逆に、「75日移動平均線」まで株価が上昇したとしても、この線を境に株価が再び下落に転じるなら、株価は下落トレンド継続の可能性が高まります。
何度も申し上げますが、「チャート分析は確率論」で考えなければなりません。算数のように、“1+1=2”というようにハッキリした答えを導くことは出来ません。
しかし、ある一定の傾向があるのは事実であり、これを上手く使いこなすことが大切なのです。
「200日移動平均線」
かなり長期にわたって株を保有する人が使われるのがこの「200日移動平均線」です。
どちらかというと「売買のタイミング」で使うというよりは、株価のトレンドを確認するために使われることが多い移動平均線です。
長期で投資をする投資家はジックリ腰を据えて売買しているため、ちょっとやそっと株価が上下に動いただけで、慌てて売買することはありません。
それより重用しているのが「株価のトレンド」です。
つまり「200日移動平均線」が上に向いているなら、買いポジションを継続させ、「200日移動平均線」が下を向いてきたときに、買っているポジションを解消したり、「空売り」を実行したりさせます。
下の画像は、伊藤忠商事(8001)の長期の株価の動きです。
赤い線が「200日移動平均線」ですが、長期の動きでしっかりトレンドが判断できると思います。
しかし短期的な株価変動を反映させませんので、短期売買投資家向きではありません。
株価と移動平均線を使って売買タイミングを掴む
ではこれから、あなたがもっとも知りたいであろう「株価移動平均線」を使って、売買タイミングを掴む方法について解説していきたいと思います。
その前に、大事なことをお伝えしていきます。
それは・・・「株価移動平均線を信じ過ぎないこと」です。
「株価移動平均線」はあくまで、過去の値動きを表したもので、“未来を約束する”ものではありません。この原則を忘れないようにしてください。
なぜならこの「マインドセット」ができて初めて「移動平均線」を使いこなせることができるからなのです。
投資のスタイルと株価移動平均線を一致させること
「株価移動平均線」を使いこなすにあたり、もっとも重要なのが、「投資スタイルと株価移動平均線を一致させること」です。
どういうことかといえば・・・
・中期売買(2週間~6ヶ月程度):25日、75日移動平均線
・長期投資(6ヶ月以上)75日、200日移動平均線
を使用するということです。
投資スタイルと株価移動平均線のバランスが取れていなければ的確なタイミングを掴むことは難しくなります。
したがってこの2者の関係のバランスをしっかり取るようにしてみてください。
以下の例は、株価と25日移動平均の関係を使って解説しています。
短期、長期のスタイルの場合は、上記を参考に各自株価チャートで確認してみてください。
株価が移動平均線を越える=「買いシグナル」
「株価移動平均線」を使った売買シグナルは、いくつか存在しますが、初心者がもっとも使いやすい手法が「移動平均の突破」でしょう。
移動平均線より下にあった株価が、移動平均線に追いついて、上に突き抜けたタイミングが、買いのシグナルです。
以下の図は、株価と「25日移動平均線」での「買いシグナル」のパターンです。
かなり上手く機能していますね。
逆に、まだ移動平均線を突き抜けていないのであれば、株価が移動平均線に跳ね返されてまた下がってしまう可能性があるのです。
なので、かならず突き抜けてから買いましょう。
ここで注意していただきたいのが、株価が移動平均線を突き抜けて、かなり離れたところで「買ってはいけない」ということです。
以下はその具体例ですが、本来「A]のポイントで買いエントリーすべきなのですが、かなり遅れた「B」のポイントでは、その後、株価が下落することがたびたび起こります。
したがって「突き抜けた瞬間」を見逃さないことが重要になります。
株価が移動平均線を割り込む=「売りシグナル」
買った株を売る場合や、「空売り」をする場合などは同様に、移動平均線より上にあった株価が、移動平均線に追いついて、下に突き抜けたタイミングが、売りのシグナルです。
下の画像では、株価のピークから一気に25日移動平均線を下方に突破した後、株価は大きく下落している様子がお分かりいただけます。
しかし、「株価移動平均線」は、100%の成功を保証するものでは、決してありません。
これが「株価移動平均線を信じ過ぎないこと」、「確率論で考えろ」ということの所以です。
以下の図をご覧ください。これは株価上昇の局面なのですが、ところどころ「25日移動平均線」を割り込んでいることがわかります。
一時的に割り込んでも、その後株価は「25日移動平均線」を上に越えていき、再び株価上昇につなげています。
正直申し上げて、このような誤ったシグナルを回避することは、移動平均線や、もっといえば「チャート分析」で排除することは不可能です。
僕が一番オススメしたい手法は、一時的に「株価移動平均線」を割り込めば、一旦は持っている株を売却し、その後も株価の動きの監視を続け、そして「株価移動平均線」を再び越えてきたら、その直後に「買い注文」を出すというやり方です。
このようにすることで、ロスを最小限にすることができるのではないでしょうか。
移動平均線を使うための注意事項
ではこれから「株価移動平均線」を使いこなすための注意事項をおつたえしていきます。
この「注意事項」をしっかり理解しておくことで、「移動平均線」を使った株の売買で成功確率を引き上げることが可能になるでしょう。
移動平均線には「遅効性」があることを理解しておく
遅効とは遅れて効き目があることを言いますが、移動平均線には遅効性があります。
過去の平均で計算しているわけですからどうしても現実の株価の動きに遅れてついてくる形になるのです。この遅効性を理解しておくことは移動平均線を理解する上でとても重要です。
例えば、株価を表す「ローソク足」は上昇しているのに、株価移動平均線がなかなかついて来ていないということは、当たり前に起こります。
遅効性はどの移動平均線にもありますが、短い移動平均線の方が先に反応します。
200日移動平均線のように長期間になればなるほど、動きが遅れてくるということを踏まえて分析する必要がある、ということがおわかりいただけるでしょう。
「ゴールデンクロスは、買い」は本当なのか?
株式取引や、FX取引を少しでも経験していれば「ゴールデン・クロス」という言葉だけは聞いたことがあるのではないでしょうか?
ゴールデンクロスとは、「短期移動平均線が、長期移動平均線を下から上にクロス(交差)した状況」を指します。
たとえば、5日線が下から上に、25日線を交差した場合などが良く紹介される事例です。
一般的にチャート分析の教科書では、「ゴールデンクロス」は、重要な「買いのサイン」といった形で紹介されています。
では「ゴールデンクロス」になれば、株を買って良いのか?といえば、決してそうではありません。少なくとも僕は「ゴールデンクロス」を信じて株を買うことはありません。
なぜそうなのかといえば、先ほど「遅行性」の話をさせていただきましたが、移動平均線はどうしても遅れがちになることは排除できませんので、「ゴールデンクロス」が起きたときには、すでに株価は高い位置にあることが多く、かなりリスクの高い投資になってしまうからです。
以下のチャート図は、5日の短期移動平均線を赤、25日の長期移動平均線を青で表示させました。
丸で囲んだ部分が、「短期移動平均線が、長期移動平均線を下から上にクロス(交差)した状況」です。
「ゴールデンクロス」を実現したときに株を買った直後、株価は下落しているのがお分かりいただけます。
このように必ずしも「ゴールデンクロス」という現象が利益をもたらしてくれるということはありません。
では「ゴールデンクロス」という手法はまったく使えないのかといえば、決してそんなことはありません。
先ほど「移動平均線は遅行性は排除できない」と申し上げました。
ということは、目先の短期的な売買では「ゴールデンクロス」は機能しないということです。
では、どうすればいいのか??
“逆転の発想”で、「遅行性」を緩和させる「長期投資」で使うということです。
下の図は、「週足チャート」で、「25週移動平均線」、「75週移動平均線」で表示させてみました。
ご覧の通り、「ゴールデンクロス」は大きな利益を生み出していることに成功しています。
「株価移動平均線」の弱点を克服するには、このように投資の期間を「長期間」にすることで緩和することが可能でしょう。
しかしこれでも、絶対の法則ではないということを、最期に付け加えて終わりたいと思います。
まとめ
今回は、初心者が一番多く接するであろう、チャート分析における「株価移動平均線の種類、使い方」についてお伝えしました。
実は株式、FXにおける「チャート分析」を、“絶対視”する人が、ものすごく多く存在しています。
「チャートを見れば、先行きの動きがわかる」とか「チャートはすべてを表している」など、まあそんなことは有り得ないのですが、このように「チャートだけ見ていれば、すべて上手くいく」といった誤解を広めている人がたくさんいるんですね。
投資の本質を知らない初心者は、それを信用し、株価チャートばかりに目を奪われ、結局大きな損失を出しているというのが現状です。
「株価移動平均線」は便利なツールではあるものの、理解の仕方、使い方を間違えると、ほとんど意味を持ちません。
今回の記事では、できるだけ噛み砕いて解説しましたので、ぜひ覚えておいてください。
紫垣 英昭
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