「板読み」株のデイトレード・スキャルピングで使える基礎知識

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

 

板読みは、デイトレードやスキャルピングといった短期投資を手掛ける際に使われるテクニックです。

短期投資ではチャート分析(テクニカル分析)を使うことが一般的ですが、チャート分析に加えて板読みも活用することによって、より利益を出しやすくする効果が期待できます。

近年は人工知能やアルゴリズムトレードの発展によって、短期投資では個人投資家は勝ちにくくなっているものの、板読みのポイントをしっかりと抑えておけば利益を出すことも不可能ではありません。

今回は、板読みの基本について解説した上で、板読みで利益を出すための基本テクニックや注意点についてご紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • 板読みの基本がわかる
  • 板情報を使った投資テクニックがわかる
  • デイトレードやスキャルピングをする時の注意点がわかる

板読みとは?

板読みの基本について抑えておきましょう。

そもそも「板」とは?

板(板情報)とは、ある銘柄の売り注文と買い注文の状況を示したものです。

板を見れば、現時点で出されている売り・買いの売買注文について、どの価格でどの程度の注文が出ているのかを一目で見ることが可能となります。

実際の板を見てみましょう。

【9984】ソフトバンクグループの板情報

上図は、2020年9月24日大引け時の【9984】ソフトバンクグループの板情報です。

大引け価格は6,087円となっており、6,080円に23,200株の買い注文が、6,088円に1,900株の売り注文が出ています。

株式市場で取引が成立する際には、買い注文は価格が高い順に、売り注文は価格が安い順に約定されていきます。

板の真ん中(=現在価格)に近い順番に約定されていくということです。

また、板情報に出ているのは指値注文の情報であり、成行注文が入った場合には指値注文よりも優先されて約定されます。

板情報は銘柄に注文が入るたびにリアルタイムで更新されていくため、流動性が大きい人気銘柄では常に目まぐるしく変化していきます。

板読みはデイトレードなどの短期投資で使われる

今回注目していく「板読み」とは、その文字通り、板情報を読みながら売買をして利益を出していく投資テクニックです。

板読みは、デイトレードやスキャルピングといった短期投資において使われます。

長期投資をする場合には、ほとんど必要がないスキルと認識して問題ありません。

具体的には、朝9時の寄り付きや15時の大引けにエントリーして、数日以上の期間に渡って保有するような場合には、板読みをする必要はありません。

板読みが有効なのは短期的な見通しに限られるため、中長期的な見通しまでは板読みで予測することはできないためです。

板読みは、デイトレードやスキャルピングといった短期投資に特化した投資テクニックであると認識しておきましょう。

板読みを活用するための基本テクニック

板読みを活用して利益を出すための基本テクニックについて抑えておきましょう。

見せ玉に注意する

板読みを活用する上で最大の注意点と言えるのが、大口による見せ玉や見せ板です。

見せ玉とは、実際に売買をするつもりはないにも関わらず、大きな指値注文を入れておく行為のことを指します。

例えば、現在の株価が1,000円だとして、大口プレイヤーが1,010円に極端に大きな売り注文を入れておき、実際に株価が1,010円に近付いてきたら注文を取り消すといった行為が見せ玉に当たります。

逆に、現在の株価が1,000円だとして、大口プレイヤーが990円に極端に大きな買い注文を入れておき、実際に株価が990円に近付いてきたら注文を取り消すといった行為も見せ玉です。

大きな注文が出ていると、その注文が壁となって下がらない(上がらない)と思ってしまいがちですが、実際には見せ玉で直前になって注文を取り消されてしまえば、逆方向に価格が動くことが多々あります。

見せ玉は違法行為ではありますが、実際に見せ玉かどうかを確認することは難しいため、頻繁に行われているというのが実態です。

見せ玉は頻繁に行われているため、板情報だけでデイトレードやスキャルピングを手掛けるのはリスクがあると言われる最大の理由の一つとなっています。

チャートも同時に活用する

板読みとチャート分析はセットで活用することがおすすめです。

特に、チャート上の高値(抵抗線)や安値(支持線)といった節目付近の板は厚くなりやすく、このラインが突破されれば一気に上昇(下落)することが多くなります。

実際の銘柄で見てみましょう。

【9437】NTTドコモの板情報

こちらの板情報は、2020年9月24日引け時点での板情報となります。売り板の方が明らかに厚くなっていることが分かりますが、この板情報と同時に当日の5分足チャートも見てみましょう。

【9437】NTTドコモの5分足チャート

売り板が厚くなっている2,723円以上の価格帯は、5分足チャートで見てみると高値付近の抵抗ラインとなっていることが分かります。

このように板が厚く、チャート上でも抵抗ラインとなっている場合、突破した際には、ブレイクアウトとなり大きな値動きとなることが多々あります(厚い板を突破したとしても上昇トレンドとはならず、騙しとなって下げることもあり得ます)。

見せ玉なのか?本当の抵抗(支持)ラインなのか?を見抜きやすくするためにも、板情報とセットでチャートも確認しておくようにしましょう。

流動性が大きい銘柄を手掛ける

板読みによる短期投資を行うには、流動性(売買代金)が大きい銘柄を手掛けることが重要です。

流動性が大きい銘柄には資金が入ってきやすいため、エントリーを間違った場合にも損切りして逃げやすいことが最大のメリットとなります。

短期投資を行う上では勝率100%はあり得ませんが、損失が小さい内に早めに損切りすれば何ら問題ありません。

しかし、流動性が小さい銘柄で失敗してしまったら逃げられません。

実際に、流動性が大きい銘柄と、流動性が小さい銘柄の板について見ていきましょう。

まずは、1日の売買代金が100億円を超える流動性が大きい銘柄の例として、【9613】NTTデータの板(2020年9月24日大引け)は次のようになっています。

【9613】NTTデータの板情報

NTTデータのこの日の売買代金は117億円でした。

現在価格は1,402円となっていますが、どの価格帯にも注文が出ており、何円になっても損切りすることが可能です。

仮に板読みに失敗してしまったとしても、すぐに損切りできるため大損することはないでしょう。

続いて、1日の売買代金が1億円にも満たない流動性が小さい銘柄の板を見てみましょう。

ここでは、NTTデータと同じITセクターの銘柄として【3712】情報企画の板を見てみましょう。

【3712】情報企画の板情報

情報企画のこの日の売買代金は0.5億円でした。

現在価格は3,260円となっていますが、買い板としてあるのは3,210円からです。例えば3,250円で損切りしたかったとしても、3,210円でしか逃げることができません。

このように、流動性が小さく板が薄い銘柄は、板読みに失敗して損切りしたかったとしても簡単に売ることができません。

板読みをする場合に限らず、短期投資をする上では、失敗してもすぐに損切りできる流動性が大きい銘柄を手掛けることは必須です。

歩み値(Time&Scale)を活用する

板読みを行う上では板情報はもちろんですが、歩み値(Time&Scale)を活用することも重要です。

 歩み値とは、ある銘柄が、ある時刻に、何円で何株約定したのかを時系列で表したもので、「時刻」「約定価格」「出来高」の3要素で構成されています。

歩み値の例(【9984】ソフトバンクグループの歩み値)

上図は2020年9月24日の【9984】ソフトバンクグループの歩み値の一部となります。

歩み値では、価格が上がって約定したアップティック(上図赤字)、価格が下がって約定したダウンティック(上図青字)、価格が変わらずに約定した場合(上図黒字)の3パターンがあります。

なお、約定価格の色はチャートソフトによって異なるため、自身が使っているチャートソフトではどのようになっているのかを確認しておきましょう。

歩み値では、株価が上昇基調で買われている場合には、アップティックを示す色が目立つようになります。

強いときの歩み値

一方、株価が下落基調で売られている場合には、歩み値の約定価格にはダウンティックを示す色が目立つことになります。

弱いときの歩み値

また、歩み値では出来高も記録されているため、大口の注文が入った場合も抑えておくことが可能です。

板読みだけを使って短期投資を行う場合の欠点は、現時点の板情報を見るだけでは時系列が抜け落ちている点です。

板読みに時系列の要素を加えて分析を行う上でも、歩み値も同時活用することをおすすめします。

板読みを活用する場合の注意点

板読みを活用する場合の注意点について抑えておきましょう。

アルゴリズムトレードによって板読みが難しくなっている

近年は、人工知能を使ったアルゴリズムトレードの発達によって、板読みをして利益を出すことが難しくなっていることは否定できません。

短期投資の経験がない投資初心者が、いきなり板読みによる超短期のデイトレードやスキャルピングで利益を出すのは至難の業であり、大口ヘッジファンドの餌食となってしまう場合が大半です。

板読みは何となく利益を出せそうなイメージがしますが、非常に難易度が高い手法であるため投資初心者の投資デビューにはおすすめできません。

投資初心者が短期投資を始めるにしても、時間軸を長くしたデイトレードやスイングトレードの方が勝ちやすいことは間違いありません。

流動性が大きい「ゴールデンタイム」が狙い目!

日本市場が開く朝9時から朝10時までの時間帯は取引が活発化することから、デイトレードの「ゴールデンタイム」とも呼ばれています。

個人投資家が板読みによるデイトレードやスキャルピングで利益を出すには、チャンスが集中するこの時間帯しかありません。

個人投資家が人工知能を使ったアルゴリズムトレードを駆使できるヘッジファンドを出し抜いて板読みで利益を上げるには、板読みに加えてチャート分析や歩み値も活用し、流動性の大きな銘柄を流動性が大きくなる時間帯に手掛けるなど、あらゆる好条件を総動員することが必要です。

まとめ

今回は、板読みの基本について解説した上で、板読みで利益を出すための基本テクニックや注意点についてご紹介してきました。

近年は人工知能やアルゴリズムトレードが発達したことから、個人投資家がデイトレードやスキャルピングといった超短期投資で利益を出すのは難しくなっているというのが実態です。

ただ、板読みだけで利益を出すことは難しいものの、いくつものテクニックを同時活用していけば、アルゴリズムトレード全盛の現在でも板読みで利益を出すことは不可能ではありません。

まず板読みを活用して超短期投資をする際には、見せ玉や騙しには注意する必要があります。

さらに、板読みだけではなくチャートや歩み値も活用し、流動性の大きな銘柄を流動性が大きくなる朝9時から朝10時までのゴールデンタイムに手掛けるなど、板読みの勝率を少しでも上げる工夫をしていくことが重要です。

板読みの基本テクニックを実践して、短期投資で利益を出していきましょう。

紫垣 英昭