紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
岸田政権は、原発再稼働を積極的に進める方針を示しており、2022年には10基の原発再稼働を決定し、2023年夏以降はさらに7基の原発を再稼働するとのことです。
原子力発電は、二酸化炭素を排出しないクリーンエネルギーのため脱炭素に適しており、ロシアのウクライナ侵攻による影響も受けにくいにもエネルギーであるため、日本を含めた世界中で再評価の流れとなっています。
原子力関連株は、2011年3月の福島第一原発事故以降は投機的な動きが続いていましたが、日本も原発再稼働に舵を切った2022年には注目テーマ株となりました。
今回は、原発再稼働の必要性が高まっている背景について解説した上で、原発再稼働や小型原子炉(SMR)でも注目される原子力関連株について紹介していきます。
- 原発再稼働の必要性が高まっている背景についてわかる
- 原発再稼働や小型原子炉(SMR)でも注目される原子力関連株についてわかる
- 原発関連の注目すべき視点を学べる
原子力関連株とは?
原発株こと原子力関連株について、簡単に押さえておきましょう。
原子力発電のメリットとリスク
原子力発電とは、原子炉内でウランやプルトニウムの核分裂を利用した発電方法のことです。
原子力発電の燃料として使われるウランは世界中に埋蔵されているため、火力発電の燃料となるLNG(液化天然ガス)や石炭・石油に懸念される中東・ロシアリスクがなく、エネルギー安全保障に強いエネルギーです。
また、使い終わったウランは再処理によって再利用できるようになるため、資源小国である日本にとっては準国産エネルギーにすることができます。
原子力発電は、エネルギーを発生させても温室効果ガスを排出しないため、脱炭素(カーボンニュートラル)に貢献するエネルギーでもあります。
脱炭素においては、太陽光発電や洋上風力発電といった再生可能エネルギーに期待する声が大きいですが、再エネの電力コストはまだ高く、気候や天候によって発電量が左右されるため主力電源にするには心もとないということが現状です。
このように原子力発電にはメリットが多い一方、最大のリスクとなっているのが、福島第一原発事故やチェルノブイリ原発事故のような甚大な事故が発生してしまうテールリスクがあることです。
原子力関連株は原発再稼働で思惑視されやすいテーマ株
原子力関連株は「原発株」とも呼ばれ、原子力発電に関する事業を手掛けている銘柄を総称したテーマ株です。
原発を所有する電力会社や原子力プラント企業を中心に、原発関連部材を手掛ける銘柄なども該当します。
特に、福島第一原発事故の廃炉負担を抱えながらも、新潟県の柏崎刈羽原発が全機停止している【9501】東京電力ホールディングスは代表的な原子力関連株です。
原子力関連株は、2011年の福島第一原発事故以降は、東電株の暴落に象徴されるように、投機的な値動きをしやすいテーマ株となっていました。
特に、政府要人などが原発再稼働に関する発言をすると、材料として思惑視されて乱高下する展開が、福島第一原発事故から10年以上続いてきました。
ただ、原発再稼働が本格的な政治テーマにまで浮上することはなく、多くの原発が停止したまま10年以上が経過することに。
しかし、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた2022年には、エネルギー安全保障の高まりやエネルギー価格の高騰を受けて、日本でも原発再稼働が本格化しつつあることから注目テーマ株となっています。
岸田政権は原発再稼働を積極的に進めている
2022年はウクライナ情勢を受けて、岸田政権は原発再稼働を積極的に進める方針を示しています。
ウクライナ情勢や脱炭素などで原子力発電の重要性が高まっている
原発は、福島第一原発事故以降は先進国では避けられていましたが、2020年秋の脱炭素や2022年のロシアによるウクライナ侵攻を受けて、世界的に再評価される流れとなっています。
脱炭素においては、2050年までに二酸化炭素の排出を実質ゼロにするカーボンニュートラルの取り組みが進められており、企業のCSRにもおいても重要な取り組みとなっています。
脱炭素で注目される、太陽光発電や洋上風力発電などの再生可能エネルギーで全ての電力を賄うには、非常に高いコストが掛かるということが現実です。
さらに、再エネには、気候や天候によって発電量が左右されるという、エネルギー安全保障において致命的な側面があります。
二酸化炭素を排出せず、発電コストが低く、安定的に発電できるという原子力発電の強みは、脱炭素社会の実現において最も有力な主力電源になると期待されています。
そして、2022年のロシアによるウクライナ侵攻では、エネルギー価格が急騰し、LNG(液化天然ガス)などをロシアに依存するロシアリスクも表面化しました。
原発は、2023年時点で世界を取り巻く2つの課題である「脱炭素社会の実現」と「エネルギー安全保障」という2つの課題を解決するエネルギーであることは事実です。
岸田政権は原発再稼働を積極的に進める方針。次世代原発の開発も
日本は福島第一原発事故以降、原発再稼働という課題を先送りしてきましたが、ロシアによるウクライナ侵攻を受けた2022年には原発再稼働は国家的にも重要テーマとなりました。
岸田政権は、自民党が参院選大勝後の2022年7月14日、10基の原発再稼働を進めることを発表。
8月24日には、脱炭素化に向けた戦略を決める「GX(グリーン・トランスフォーメーション)実行会議」の中で、これまでに再稼働した10基に加え、東京電力の柏崎刈羽原発6~7号機を含む7基の原発について来夏以降に再稼働を進める方針を示しました。
さらに政府は2022年12月22日、原発再稼働を進めた上で次世代型の原子炉の開発と建設を進め、最長60年と定められている原発の運転期間を実質的に延長するなど、原子力発電を最大限活用することを盛り込んだ基本方針をまとめました。
岸田政権が原発再稼働を積極的に進める背景には、2023年春以降に電気代の大幅値上げが迫っているというものがあります。
電力会社の経営状況は、エネルギー価格の高騰と急激な円安のダブルパンチを受けて非情に厳しくなっており、2022年12月には、東北電力や中国電力など電力大手5社が電気料金の値上げを国に申請しました。
その値上げ幅は、東北電力は32.94%、北陸電力は45.84%、中国電力は31.33%、四国電力は28.08%、沖縄電力は43.81%となっています。
一方、九州電力は原発再稼働することによって、家庭用電気代値上げを回避する方針と伝わっており、原発再稼働への世論が一気に変わるきっかけになるかもしれません。
原子力関連株10選!
代表的な原子力関連株10銘柄について、チャート付きで見ていきましょう。
【9501】東京電力ホールディングス
首都圏の電力会社である【9501】東京電力ホールディングスは、代表的な原子力関連株です。
同社は、2011年福島第一原発事故を受けて株価が大暴落し、現在も巨額の廃炉コストが重しとなっています。
新潟県の柏崎刈羽原発1号機から7号機が停止していることから、原発再稼働で最も大きな恩恵を受ける銘柄として期待されています。
【9501】東京電力ホールディングスの月足チャート
東電の株価は、2022年には、年始から一時2倍以上の値上がりとなりました。
岸田政権は、柏崎刈羽原発6~7号機の再稼働を決めていることから、今後も注目が集まってきそうです。
【9503】関西電力
近畿地方の電力会社である【9503】関西電力も、原子力関連株の一角として注目される銘柄です。
2022年の原発再稼働により、2023年1月6日時点では、美浜原発3号機、大飯原発3~4号機、高浜原発3~4号機が運転中となっており、高浜原発1~2号機は2023年夏以降に再稼働を進める方針となっています
【9503】関西電力の月足チャート
関西電力の業績は赤字決算となっていますが、2022年は株価上昇となりました。
ウクライナ情勢や円安を受けて電力会社の業績は厳しくなっていますが、マーケットではそれ以上に原発再稼働への期待が高まっていると言えるでしょう。
【9508】九州電力
九州地方の電力会社である【9508】九州電力は、原子力関連株に位置付けられる銘柄です。
玄海原発3号機、川内原発1~2号機が運転中となっており、玄海原発4号機も2023年2月以降に稼働予定です。
同社は原発の稼働率が高く、家庭用電力料金の値上げを回避できるという見通しを示しています。
【9508】九州電力の月足チャート
ただ、九州電力の株価は非常に厳しい状況となっています。
電力株の値動きを見てみると、3大都市圏の東電・関電・中電は2022年に買われていますが、その他の地方電力は軒並み暴落状態となっており、直近5年間では半減となっている銘柄が目立ちます。
九州電力は原発稼働率が高いものの、地方電力株の株価は非常に厳しい状況にあるということが現状です。
【7711】助川電気工業
温度測定・加熱製品メーカーの【7711】助川電気工業は、原発向け熱制御装置に定評がある原子力関連株です。
次世代原発向けの熱制御技術を手掛けていることから、小型原子炉(SMR)などの次世代原発関連でも注目される銘柄です。
2022年には、東電と並んで最も注目された原子力関連株となりました。
【7711】助川電気工業の月足チャート
助川電気工業の株価は、2020年3月コロナショック以降は反発し続けており、原発再稼働が注目された2022年には一段高となりました。
【6501】日立製作所
原子力関連株としては、原発プラント大手にも注目が集まります。
日本の原発プラント大手は、【6501】日立製作所、【6502】東芝、【7011】三菱重工業の3強となっています。
重電最大手の【6501】日立製作所は、小型原子炉(SMR)でも注目の原子力関連株です。
同社は2021年12月、米ゼネラル・エレクトリック(GE)との合弁会社が、カナダの電力会社から次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」を受注したことを発表しています。
【6501】日立製作所の月足チャート
日立製作所の株価は、長期的に堅調な値動きとなっています。
ただ、2022年は横ばいとなっており、東電や助川電気工業のように原子力関連株として買われたようには見えません。
【6502】東芝
総合電機大手の【6502】東芝は、次世代原発でも注目の原子力関連株です。
同社の完全子会社である東芝エネルギーシステムズは原子力プラント3強の一角となっており、安全性に優れる小型ナトリウム冷却高速炉を開発していることから、次世代原発株としても注目されます。
【6502】東芝の月足チャート
東芝の株価は、コロナショック以降から好調を維持しています。
かつての不正会計問題のイメージは良くないものの、パワー半導体や原発などの注目テーマ株に強みを持ち、配当利回り6%超えの高配当株でもあります。
【7011】三菱重工業
重工業最大手の【7011】三菱重工業は、次世代原発にも強い原子力関連株です。
同社は、従来型の加圧水型原子力発電プラントに強みを持っており、今後は次世代軽水炉や小型原子炉の開発・実用化に注力していくとのことです。
【7011】三菱重工業の月足チャート
三菱重工業の株価は、2022年に入ってから大きく反発していますが、これは原発ではなくウクライナ情勢を受けた防衛費倍増によるものです。
三菱重工業は、防衛省の調達企業として長年に渡ってトップ企業となっており、防衛費が倍増となれば最も恩恵を受ける企業として物色されました。
2022年には原発株として買われた側面もあったかもしれませんが、防衛費倍増に比べたら同社へのインパクトは小さかったと言わざるを得ません。
【6378】木村化工機
化学プラントメーカーの【6378】木村化工機は、原発部材に強い原子力関連株に位置付けられています。
同社は、核燃料輸送容器などの原発関連容器や濃縮機器に強みを持ちます。
【6378】木村化工機の月足チャート
木村化工機の株価は、長期的には上げているものの、2022年には下落となりました。
2022年は、原発関連のニュースが流れると一時的に物色されたものの、長期的な上昇には繋がらなかったということになります。
【1945】東京エネシス
設備エンジニアリングの【1945】東京エネシスも、原子力関連株の一角です。
同社は、東電関連の発電所設備エンジニアリング事業を主としており、原発関連設備も手掛けています。
【1945】東京エネシスの月足チャート
東京エネシスの株価は、2022年には下落~横ばいとなっており、原発関連ニュースでは一時的な上昇に留まっています。
【1966】高田工業所
総合プラント企業の【1966】高田工業所は、2022年に強く買われた原子力関連株です。
同社は、原子力発電所のステンレスライニングや大型貯槽、配管などの建設を行っています。
【1966】高田工業所の月足チャート
高田工業所の株価は、2022年に大きく上昇しました。
株価上昇には好決算が背景にありますが、原発株の一角としても買われたと見てよいでしょう。
まとめ
今回は、原発再稼働の必要性が高まっている背景について解説した上で、原発再稼働や小型原子炉(SMR)でも注目される原子力関連株について紹介してきました。
原発再稼働は、福島第一原発事故以降はタブーとされてきましたが、脱炭素やウクライナ情勢を受けて、日本でも2022年から原発再稼働の方針に舵が切られています。
東電に代表される原発関連株は、2011年以降は政府要人の発言などで乱高下する投機的なテーマ株でしたが、2022年は国策テーマとしても買われるテーマ株となりました。
原発が強みを発揮する脱炭素とエネルギー安全保障は、今後も長期的に注目される政治テーマのため、さらなる原発再稼働への期待が高まってきてもおかしくありません。
また、原発関連では、次世代原発こと小型原子炉(SMR)についても注目が集まってきそうです。
紫垣 英昭
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