
紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
株式市場では、5月相場は「セルインメイ」で売られやすい傾向があるという相場格言があります。
ただ、NYダウや日経平均株価を見てみると、近年の5月相場はむしろ上昇している月の方が多い傾向となっています。
しかし、2013年や2019年の5月相場は暴落となり、一部の銘柄では転換点となりました。
ウクライナ情勢や米国利上げによる資源高・円安・インフレに揺れる2022年の5月相場も注意が必要かもしれません。
今回は、5月相場の相場格言「セルインメイ」について解説した上で、過去の5月相場について検証し、2022年の5月相場で売られるかもしれない銘柄についても解説していきます。
- 5月相場の相場格言「セルインメイ」についてわかる
- 過去の5月相場について検証することができる
- 2022年の5月相場で売られるかもしれない銘柄についてもわかる
目次
5月相場の相場格言「セルインメイ」とは?
5月相場の格言「セルインメイ(Sell in May)」について押さえておきましょう。
5月の相場格言「セルインメイ」
5月の相場格言として知られる「セルインメイ(Sell in May)」は、アメリカの株式市場で生まれた相場格言です。
アメリカを代表する株価指数であるNYダウは、5月を境に下落していく傾向があることから生まれた相場格言とされています。
また、この相場格言は「Sell in May」の部分が有名ですが、相場格言の全文は次のようになっています。
「Sell in May, and go away; don’t come back until St Leger day.」
これを翻訳すると、「5月に売りなさい。9月の第二土曜日までは市場に戻ってきてはいけない」となります。
つまり、5月の相場格言「セルインメイ」とは、5月に暴落が起こりやすいという意味ではなく、5月以降の夏場に掛けて市場が軟調となる傾向を意味するものです。
5月相場で売られやすい理由
5月相場は売られやすい理由としては、下記のようなさまざまな理由が挙げられています。
・ヘッジファンドの決算は5月に多く、ヘッジファンドが利益確定するための売りが出やすい。
・5月以降の夏場に入ると、原油の需要が下がるため、石油メジャー株を中心に売られやすくなる。
・個人投資家が年末に信用買いした売りが出る(信用買いの期限は半年のため、5月は年末から約半年後にあたる)。
・アメリカの税制度では、還付金が1月から5月まで続く。また、ボーナスが出るのもこの時期が多い。還付金・ボーナスによる買いが5月以降はなくなるため、5月以降の市場は弱くなる。
・相場格言「セルインメイ」のアノマリーを信じて、投資家が5月に売りやすくなる。
このように5月相場のアノマリーを裏付けるさまざまな説が言われていますが、どの説も決定的ではなく、特にこれといった裏付けがあるわけではありません。
過去の5月相場を徹底検証!
5月の相場格言「セルインメイ」は本当なのでしょうか?
NYダウと日経平均株価について過去の5月相場を検証してみましょう。
NYダウの5月相場
次のチャートは、NYダウに連動するETF【1546】NEXT FUNDS ダウ・ジョーンズ工業株30種平均株価連動型上場投信の株価チャートとなります(株価チャートとして見やすいため連動ETFのチャートを参照しています)。
【1546】NEXT FUNDS ダウ・ジョーンズ工業株30種平均株価連動型上場投信の月足チャート
2014年5月から2021年5月までの8年分の5月相場を見てみると、2019年5月には陰線となり大きく下げましたが、上昇している月の方が多いことが分かります。
NYダウの5月の値動きについて表にしてみると次の通りです。
※上記チャートは連動ETFですが、こちらの表はNYダウのものとなります。
年 |
5月始値 |
5月終値 |
値動き |
2014年 |
16,580.26 |
16,717.17 |
+136.91 |
2015年 |
17,859.27 |
18,010.68 |
+151.41 |
2016年 |
17,783.78 |
17,787.20 |
-3.42 |
2017年 |
20,962.73 |
21,008.65 |
+45.92 |
2018年 |
24,117.29 |
24,415.84 |
+298.52 |
2019年 |
26,639.06 |
24,815.04 |
-1,824.02 |
2020年 |
23,932.10 |
25,408.14 |
+1,476.02 |
2021年 |
33,904.89 |
34,529.45 |
+624.56 |
直近8年間の5月のNYダウの値動きを見てみると、上昇が6回、下落が2回となっており、上昇の方が多くなっています。
ただ、「セルインメイ」の相場格言が真に意味する5月~9月第二週という観点で見てみると、多くの年で5月から9月まで停滞しており、9月以降に上昇トレンドが始まっていることが見てとれます。
日経平均株価の5月相場
続いて、日経平均株価の5月相場を見ていきましょう。
日経平均株価の月足チャート
NYダウ同様に、5月は陽線が多く、上昇が目立っています。
ただ、NYダウが大きな下落となった2019年は大きな下落となりました。
また、チャートには表示されていませんが、アベノミクス相場の調整となった2013年5月は大きな上ヒゲとなりました。
日経平均株価の5月の値動きについて表にしてみると次の通りです。
年 |
5月始値 |
5月終値 |
値動き |
2014年 |
14,485.13 |
14,632.38 |
+147.25 |
2015年 |
19,531.63 |
20,563.15 |
+1,031.52 |
2016年 |
16,147.38 |
17,234.98 |
+1,087.6 |
2017年 |
19,310.52 |
19,650.57 |
+340.05 |
2018年 |
22,508.03 |
22,201.82 |
-306.21 |
2019年 |
21,923.72 |
20,601.19 |
-1,322.53 |
2020年 |
19,619.35 |
21,877.89 |
+2,258.54 |
2021年 |
29,331.37 |
28,860.08 |
-471.29 |
直近8年間の5月の日経平均株価の値動きを見てみると、上昇が5回、下落が3回となっています。
2015年、2016年、2020年には大きな上昇となり、2019年は大きな下落となりました。
過去に大きく売られた5月相場ではどうなっていた?
日経平均株価が特に大きく売られた2013年5月、2018年5月、2019年5月、2021年5月について見ていきましょう。
※2013年、2018年、2019年の画像は元記事と同じものです。
2013年の5月相場
2013年の5月相場は、2012年12月から始まったアベノミクス相場が調整入りとなり、大荒れの相場展開となりました。
日経平均株価の週足チャート(2013年)
2013年5月23日には、日経平均は-1,123円の大暴落に。
アベノミクス相場の初期で大きな上昇となっていた銘柄を中心に暴落銘柄が続出することになりました。
特に、アベノミクス相場で100倍近い暴騰となった【3765】ガンホーの暴落が始まった月となりました。
【3765】ガンホーの週足チャート(2013年)
ガンホーが代表的ですが、新興銘柄の中には、2013年5月に上場来高値を付けてから、2022年時点でも停滞が続いている銘柄は少なくありません。
【3765】ガンホーの月足チャート
2018年の5月相場
2018年の5月相場は、月間ではマイナスとなりました。
日経平均株価の週足チャート(2018年)
2018年5月は中旬までは上昇しており、下旬以降から下げに転じました。
週足チャートで見てみると、そこまで大きな暴落となったわけではありません。
2019年の5月相場
平成から令和に変わった直後の2019年の5月相場は、一方的な下落相場となりました。
日経平均株価の週足チャート(2019年)
改元へのご祝儀相場とはならず、日経平均は大きく落とすことになりました。
ただ、週足チャートで見てみると、2019年に入ってから4ヵ月続いた上昇の調整になっていたことが分かります。
2019年5月には、代表的な景気敏感株である半導体関連銘柄などが売られる展開となりました。
【7735】スクリーンホールディングスの週足チャート(2019年)
2021年の5月相場
2021年の5月相場は、月間ではマイナスとなりました。
日経平均株価は、2020年5月始値の19,619.35円から、2021年5月始値は29,331.37円と、1年で1万円近くの上昇となっていたことから、「セルインメイ」をきっかけとした利益確定売りが出ることも懸念されましたが、大きく売られることはありませんでした。
日経平均株価の週足チャート(2021年)
なお、当時の社会的なトレンドとしては、新型コロナの感染状況が読めない中で、東京オリンピックの開催ができるかどうかが不透明な時期でした。
2022年の5月相場で売られるかもしれない銘柄は?
過去の日経平均株価を見てみると、5月相場で大きく売られる展開となった2013年と2019年は、それまでの上昇の反動から売られていたことが分かります。
2022年の5月相場は、ウクライナ情勢による資源高や米国利上げによる円安・インフレが懸念される中で迎えることになります。
2022年の5月相場が「セルインメイ」になった場合に備えて、どのような銘柄が売られるかもしれないかを押さえておきましょう。
円安やインフレの悪影響を受ける銘柄
2022年5月に懸念されているのが、資源高や円安の影響によって悪性インフレ(スタグフレーション)となることへのリスクです。
特に、米国では急激なインフレが止まらず、2022年3月の消費者物価指数(CPI)[前年同月比]は8.5%となっています。
米国FRBは、物価高を押さえるため2021年11月から利上げの方針を示しており、2022年5月にも0.5%の利上げが行われると予想されています。
一方、大量の国債を発行している日本では、日銀は利上げをすることが難しい状況です。
米国が利上げし、日銀は金融緩和を止められない状況では、ゼロ金利の円を売り、金利が付くドルを買う動きが強まることから、円安ドル高が進行しやすくなります。
ドル円相場は、2022年4月20日には1ドル129円台まで円安ドル高が進んでおり、日銀関係者からも、行き過ぎた円安に対するデメリット発言が出てくる事態となっています。
特に、原材料を海外からの輸入に頼る内需株は、円安による悪影響を受けやすくなっており、既に株安が進行している銘柄も少なくありません。
例としては、衣料・雑貨の「無印良品」ブランドで知られる【7453】良品計画は、円安による調達コスト増が懸念されて大きく売られています。
【7453】良品計画の月足チャート
円安やインフレによる悪影響を受ける内需株は、2022年の5月相場は苦しい展開になるかもしれません。
大きく上昇している資源株
2022年の株式市場は、ウクライナ情勢や米国利上げの影響による売りが目立つ展開となっていますが、資源高の恩恵を受けている資源株は好調です。
【1605】INPEXの月足チャート
ただ、ウクライナ情勢は長期化が懸念される状況となっていますが、資源高はいったん一服してもおかしくありません。
資源株はテーマ株としては2022年一人勝ちとなっている状況ですが、「セルインメイ」が意識された利益確定売りが入ることに警戒しておいても悪くありません。
具体的な銘柄としては、資源開発大手の【1605】INPEX(旧・国際石油開発帝石)、鉱山株の【5713】住友金属鉱山、資源に強い総合商社の【8058】三菱商事や【8031】三井物産、【2768】双日など、2022年に強く上昇している資源株には注意しておきましょう。
まとめ
今回は、5月相場の相場格言「セルインメイ」について解説した上で、過去の5月相場について検証し、2022年の5月相場で売られるかもしれない銘柄についても解説してきました。
5月相場の相場格言として知られる「セルインメイ(Sell in May)」は、正確には5月に暴落が起こりやすいという意味ではなく、5月以降の夏場に掛けて市場が軟調となる傾向があることを意味するものです。
NYダウを見てみると、5月に暴落している傾向はなく、相場格言が意味する通り、5月から9月初めに掛けて軟調になっている傾向を見て取ることができます。
過去の日本株の5月相場を振り返ってみても、近年は上昇している傾向が見てとれます。
ただ、2013年5月はアベノミクスが始まってから初の暴落相場となり、2019年にも大きな下落となりました。
2022年の5月相場は、ウクライナ情勢・米国利上げによる資源高・円安・インフレが懸念される中で迎えることになります。
円安やインフレの悪影響を受ける内需株や、2022年に大きく買われている資源株には、注意が必要な5月相場になるかもしれません。
紫垣 英昭

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