NISA拡充の変更点をわかりやすく解説!一般NISA・つみたてNISA一本化・恒久化

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

少額投資非課税制度NISAが拡充されて一本化・恒久化されることが、「令和5年度与党税制改正大綱」の中で取りまとめられました。

現行制度では、「一般NISA」は年120万円が最長5年間に渡って、「つみたてNISA」では年40万円が最長20年間に渡って非課税となっています。

NISA拡充によって、年間投資枠は投資信託120万円・株式など240万円の合計360万円となり、最大1,800万円(株式などは1,200万円まで)までが恒久的に非課税となります。

今回は、NISA拡充によって現行の「一般NISA」「つみたてNISA」からどのような点が変更になるのかについて解説した上で、NISA拡充でできる投資戦略についても紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • NISA拡充によって現行の「一般NISA」「つみたてNISA」からどのような点が変更になるのかについてわかる
  • NISA拡充でできる投資戦略についてわかる
  • NISA拡充によって投資戦略の幅を広げ方を学べる

NISA拡充で一般NISA・つみたてNISAが一本化・恒久化へ

2022年12月16日、自民・公明両党は、「令和5年度与党税制改正大綱」をとりまとめ、少額投資非課税制度NISAを拡充することを決定しました。

現行のNISAでは、株式などに投資できる「一般NISA」と、金融庁が指定した投資信託に限定して投資できる「つみたてNISA」の2つがありますが、国民1人につきどちらかの制度しか選べません。

今回のNISA拡充では、一つのNISA制度の中に、長期・積立投資を目的に投資信託だけを購入対象とする「つみたて投資枠」と、株式などを購入できる「成長投資枠」が設けられます。

つまり、NISA拡充によって、現行の「一般NISA」と「つみたてNISA」は一本化されることになります。

NISA拡充によって、NISAは恒久的なものとし、「一般NISA」は最長5年、「つみたてNISA」は最長20年だった非課税投資期間が無期限となることも決まりました。

さらに、投資枠の上限額についても、「一般NISA」は年120万円・合計600万円、「つみたてNISA」は年40万円・合計800万円だったものから拡大されます。

NISA拡充によって、「つみたて投資枠」が年120万円、「成長投資枠」は年240万円、合計で年360万円となります。

非課税で保有できる資産の限度額は、2つの枠の合計で最大1,800万円(株式などは1,200万円まで)になるということです。

NISA制度の観点から見ると、今回のNISA拡充は、明らかに投資家にとって有利な制度に変わることになることは間違いありません。

長期投資による資産形成をする上では、非常にインパクトのある制度改正です。

そもそもNISAとは?

そもそも現行NISAとは、どのような制度なのかについて改めて確認しておきましょう。

NISAは、2014年1月から始まった非課税投資制度で、当初は現在の「一般NISA」しかありませんでした。

NISAは、2014年から金融課税が10%→20%に増税となったことを受けて始まったという背景がありました。

株式や投資信託などの金融商品から発生した利益には、譲渡益(キャピタルゲイン)・配当金(インカムゲイン)のいずれにおいても20.315%(所得税15.315%、住民税5%)の税金が発生しますが、NISAの投資枠内から投資した金融商品は非課税となります。

NISAには、成人が利用できる「一般NISA」と「つみたてNISA」、未成年者を対象とした「ジュニアNISA」があります。

それぞれのNISAの違いについて押さえておきましょう。

一般NISA

一般NISAは、年120万円までの投資枠を、最長5年間に渡って、最大600万円分が非課税投資枠となる制度です。

5年間が経過した場合に、既にNISAで投資していた商品を繰り越して新しいNISA枠に移す「ロールオーバー」をすることも可能です。

一般NISAでは、株式や投資信託が対象となり、米国株などの外国株も対象となります。

一般NISAは、日本国内に住む20歳以上(2023年以降は18歳以上)の方なら誰でも利用できますが、「つみたてNISA」と同時に開設することはできません。

・一般NISAについてまとめ

利用条件

日本在住の18歳以上の方

非課税対象商品

株式・投資信託など

口座開設数

1人1口座(つみたてNISAとの同時開設不可)

非課税投資枠

年120万円(合計600万円)

非課税期間

最長5年間

投資可能期間

2014年~2023年

つみたてNISA

つみたてNISAは、2018年1月から始まった、長期・積立・分散投資をするための非課税投資制度です。

つみたてNISAでは、年40万円までの投資枠が、最長20年間に渡って、最大800万円分が非課税投資枠となります。

つみたてNISAの投資商品は、金融庁が指定した長期・積立・分散投資に適した投資信託に限定されています。

つみたてNISAの対象商品の多くは、TOPIXや日経平均株価、S&P500指数といった指数に連動するインデックス投信です。

一部のアクティブ投信やETF(株式上場投信)も対象ではありますが、取り扱っていない証券会社も少なくありません。

つみたてNISAは、日本国内に住む20歳以上(2023年以降は18歳以上)の方なら誰でも利用できますが、「一般NISA」と同時に開設することはできません。

・つみたてNISAについてまとめ

利用条件

日本在住の18歳以上の方

非課税対象商品

金融庁指定の投資信託

口座開設数

1人1口座(一般NISAとの同時開設不可)

非課税投資枠

年40万円(合計800万円)

非課税期間

最長20年間

投資可能期間

2018年~2042年

ジュニアNISA

ジュニアNISAは、2016年1月から始まった、子どもの資産形成のために活用できる非課税投資制度です。

一般NISA・つみたてNISAが利用できない未成年向けのNISAとなっています。

なお、2022年までは20歳未満の方が対象でしたが、成年年齢の引き下げにより2023年には0~17歳の方が対象となっています。

ジュニアNISAは、年間投資枠が80万円となっており、最長5年間に渡って最大400万円の投資枠を活用できる制度です。

口座開設者は、未成年者本人の二親等以内の親族(両親・祖父母など)となっており、18歳まで払い出し制限があります。

ただ、ジュニアNISAは2023年に制度が終了することになっています。

・ジュニアNISAについてまとめ

利用条件

日本在住の18歳未満の方

※運用管理者は未成年者本人の二親等以内の親族(両親・祖父母など)

非課税対象商品

株式・投資信託など

口座開設数

1人1口座

非課税投資枠

年80万円(合計400万円)

非課税期間

最長5年間

投資可能期間

2016年~2023年

備考

18歳まで払い出し制限あり

2024年開始予定だった「新NISA」

2022年12月16日にはNISA拡充が決定しましたが、一般NISAの投資可能期間は2023年に終了することから、2024年には「新NISA」が始まる予定となっていました。

今回のNISA拡充によって、これまで予定されていた「新NISA」案は立ち消えとなってしまったことに注意しておきましょう。

なお、従来予定されていた「新NISA」は、1階部分と2階部分からなり、1階部分はつみたてNISA、2階部分は一般NISAを組み合わせた制度となる予定でした。

1階部分で、つみたてNISA採用の投資信託に年20万円投資することによって、2階部分の一般NISA部分で年102万円投資できる制度となり、最長5年間非課税期間となる予定となっていました。

現在は、NISA拡充によって新NISAは立ち消えとなったため、金融庁の新NISAに関する記述は削除されています。

2024年から始まる予定だった「新NISA」に備えて投資計画を立てていた方もおられるかと思いますが、今回のNISA拡充では予定されていた新NISAよりも投資枠が大きく増えるため、問題ないでしょう。

NISA拡充で変わることについて解説!

現行の一般NISA・つみたてNISAと、NISA拡充の違いについて、変更点を見ていきましょう。

 

一般NISA

つみたてNISA

NISA拡充

投資可能期間

2023年まで

2042年まで

恒久化

非課税保有期間

5年間

20年間

無期限化

年間投資枠

120万円

40万円

最大360万円(投資信託120万円、株式など240万円)

合計投資枠

600万円

800万円

1,800万円(株式などは1,200万円以内)

NISA拡充では、投資可能期間および非課税保有期間が恒久化されるため、従来の一般NISAでは5年以上保有していた場合に行っていた「ロールオーバー」をする必要がなくなります。

年間投資枠は、投資信託120万円、株式などが240万円までに拡大されます。

これは単純に言うと、つみたてNISAが120万円に、一般NISAが240万円にまで拡大されたことと等しいと言えます。

今回のNISA拡充は、明らかにお得な制度になったと言えるでしょう。

1,800万円の投資枠を5年間で使い切る必要もないため、たとえば年60万円を30年間に渡って長期・積立・分散投資することも可能です。

NISA拡充でできる投資戦略について紹介!

NISA拡充で非課税投資枠が大きく増えることによって、NISAでできる投資戦略も大きく広がります。

NISA拡充でできる投資戦略について、いくつか見てきましょう。

投資信託やETFでインデックス投資

人生100年時代において、最もポピュラーなNISAの使い方としては、インデックス投信やETFを長期・積立・分散投資することによって資産形成するというものです。

NISA拡充では、「つみたて投資枠」が年120万円、「成長投資枠」は年240万円となります。

これまで「つみたてNISA」で投信を積み立てていた場合には、「つみたて投資枠」をそのまま使って投資すれば問題ありません。

また、ETFの知識がある場合には、「成長投資枠」を使ってETFで積み立てれば、「つみたてNISA」では投資できないNASDAQ100指数連動型ETFの【1545】NEXT FUNDS NASDAQ-100®連動型上場投信などで資産形成することも可能です。

配当利回りが高い銘柄で高配当株投資

【9434】ソフトバンクや【2914】JT、【8058】三菱商事などの商社株、【8306】三菱UFJフィナンシャル・グループなどの銀行株といった、配当利回りが3%以上の高配当株に分散投資して、配当金を再投資する方法は長期投資において有効です。

高配当株に投資して、配当金を再びその銘柄に再投資すれば、雪だるま式に資産が増えていきます。

これまでも「一般NISA」を使って配当金再投資をしていた個人投資家は少なくありませんが、NISA拡充では、「成長投資枠」が年240万円と一般NISAの倍になるため、より効果的に行うことが可能です。

なお、国内上場株式の配当金やETF・REITの分配金を、証券会社を通じて受け取る場合には、「株式数比例配分方式」を選択しておく必要があることには注意しておきましょう。

低位株やグロース銘柄で一獲千金狙い

リスクは高いものの、500円未満の低位株や、バイオベンチャーやAIベンチャーといった新興市場のグロース銘柄に分散投資しておき、急騰による一獲千金を狙うという方法もあります。

現行NISAであっても年120万円の投資枠だったため、「インデックス投資や配当金投資で年率5%を狙うよりは、低位株やグロース株で数倍以上の値上がりを狙いたい!」という投資戦略を取るのも悪くありません。

NISA拡充では、「成長投資枠」が年240万円と一般NISAの倍になるため、急騰狙いをするにしても、よりチャンスが広がります。

もちろん老後資金を安定期に形成するというNISAの理念からは外れますが、低位株やグロース銘柄からは1年で数倍以上の値上がりとなる銘柄が毎年輩出されていることは確かであるため、NISAを使った投資戦略の一つとして否定できるものではありません。

円安のリスクヘッジにもなる米国株投資

2022年は円安が急激に進み、普通預金や日本株といった日本人の資産は、ドル建てベースで大きく棄損してしまいました。

2022年は米国株も不調でしたが、円安ドル高が進んだため、円建てベースで見た米国株は横ばいとなっています。

一般NISAでは、証券会社によっては米国株に投資することもできるため、NISA拡充の「成長投資枠」でも米国株に投資することができます。

つみたてNISAでも、米国株インデックス(「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」など)や世界株インデックス(「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」など)に投資できるため、NISA拡充の「つみたて投資枠」を使っても円安のリスクヘッジをした資産運用をすることが可能です。

まとめ

今回は、NISA拡充によって現行の「一般NISA」「つみたてNISA」からどのような点が変更になるのかについて解説した上で、NISA拡充でできる投資戦略についても紹介してきました。

2022年12月16日に取りまとめられた「令和5年度与党税制改正大綱」の中で、NISAが拡充され、一般NISA・つみたてNISAが一本化・恒久化されることが決まりました。

NISA拡充によって、年間投資枠は投資信託120万円・株式など240万円の合計360万円となり、最大1,800万円(株式などは1,200万円まで)までが恒久的に非課税となります。

これまで一般NISA・つみたてNISAを使ってきた投資家にとっても、これからNISAを始める投資家にとっても、非課税投資枠が2~3倍になるため、制度上はNISAが非常にお得になったことは間違いありません。

今回の「令和5年度与党税制改正大綱」では、防衛費倍増に伴う増税が大きく取り上げられており、政府としても国民に“アメ”を与える目的でのNISA拡充だとも思われます。

仮に増税のガス抜きだったとしても、今回のNISA拡充は明らかにお得な制度改正となっており、インデックス投資や配当金投資、成長株投資など、どのような投資をするにしても投資戦略の幅が広がるため、使わない理由はありません。

紫垣 英昭