紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
2020年秋から続く世界的な環境政策重視の流れの中で、日本政府は洋上風力発電を積極推進する方針を発表しています。
日本政府の「グリーン成長戦略」では、洋上風力を2040年までに最大4,500万キロワットとする方針で、これは原発45基分に相当するインパクトの大きい目標です。
2020年秋は、「再生エネ相場」と呼ばれる相場展開となっており、太陽光発電やバイオマス発電などの再生可能エネルギー関連銘柄が買われていますが、今後は洋上風力が再生可能エネルギーの中心になるかもしれません。
今回は、洋上風力発電の概要や2020年秋から続いている「再生エネ相場」について解説した上で、代表的な洋上風力関連銘柄についてチャート付きで紹介していきます。
- 洋上風力発電の概要や2020年秋から続いている「再生エネ相場」がわかる
- 代表的な洋上風力関連銘柄についてチャート付きでわかる
- 洋上風力関連銘柄が長期的な成長テーマ株となるかどうかは、何に注意を払うべきかがわかる
洋上風力発電とは?
日本政府が積極推進する方針を示した「洋上風力発電」について抑えておきましょう。
洋上風力発電の概要
洋上風力発電とは、海上で行う風力発電のことです。
洋上を意味する「offshore」から、「オフショア風力発電」と呼ばれることもあります。
風力発電は、日中にしか発電できない太陽光発電と違い、夜であっても1日中発電できることが大きなメリットです。
ただ、陸上に風車を設置する陸上風力発電では、風車を回せる風が確保できる場所が限られており、騒音問題が発生することも問題の一つとなっています。
海洋上に風車を設置する洋上風力発電なら、日本のような島国にとっては場所の確保が容易であり、騒音問題を気にする必要もありません。
また、洋上では陸上に比べて大きな風力を持続的に得られるため、洋上風力発電は陸上風力発電よりも安定的な電力の供給が可能となります。
2020年現在、洋上風力発電で世界をリードしているのはイギリスです。
島国であるイギリスは、洋上風力発電の設備容量の約半分の世界シェアを誇っており、2030年までに洋上風力発電の割合を全電力の30%以上にする目標を掲げています。
日本政府は洋上風力を脱炭素社会の核に据えると発表
日本における風力発電の電力シェアは、2019年時点で0.8%に留まっている状況です。
地熱発電(同シェア0.2%)よりは多いものの、太陽光発電(7.6%)、バイオマス発電(2.8%)に比べると低く、日本では風力発電が普及しているとは言えません。
出典:環境エネルギー政策研究所(https://www.isep.or.jp/archives/library/12745)
日本の風力発電のほとんどは陸上風力発電ですが、近年、日本でも洋上風力発電を推進する流れができつつあります。
2019年4月には「洋上風力発電普及法」が施行され、2019年7月には秋田県男鹿市沖、秋田県由利本荘市沖、千葉県銚子市沖、長崎県五島市沖の4区域を、洋上風力発電の整備を優先的に進める区域に指定することが決まりました。
そして、2020年12月25日、日本政府は2050年までに温室効果ガスの排出量をゼロにする目標を達成するための「グリーン成長戦略」の中で、2040年までに洋上風力発電を最大4,500万キロワットとする導入目標を発表。
最大4,500万キロワットとは、原発45基分に相当するインパクトの大きい数値目標です。
洋上風力発電は、ガソリン車の新規販売を停止する「EVシフト」や、クリーンエネルギーとして注目される「水素エネルギー」と並ぶ環境政策の柱となっており、今後は再生可能エネルギーの中でも特に注目が集まりそうです。
再生可能エネルギー関連銘柄は2020年秋から大きく買われている
2020年秋は、「EVシフト」を始めとする世界的な環境政策重視の流れを受けて、株式市場では再生可能エネルギー関連銘柄が大きく買われる「再生エネ相場」となりました。
洋上風力関連銘柄について見ていく前に、太陽光発電やバイオマス発電を手掛けている再生可能エネルギー関連銘柄がどのような値動きになっているのかを抑えておきましょう。
太陽光発電関連銘柄
太陽光発電は、日本での電力シェアは7.6%と、再生可能エネルギーの中では最も高くなっています。
2020年秋の「再生エネ相場」でも、太陽光発電関連銘柄は中心的なテーマ株として大きく買われました。
例えば、太陽光モジュールや太陽光モニタリングシステムを手掛けるIT企業【3856】Abalanceの株価は次のようになっています。
【3856】Abalanceの月足チャート
Abalance以外にも、メガソーラー事業で成長を続ける【1407】ウエストホールディングスや、太陽電池製造装置大手の【6255】エヌ・ピー・シーなど、多くの太陽光発電関連銘柄が2020年10月から11月に掛けて急騰しています。
バイオマス発電関連銘柄
バイオマス発電は、日本での電力シェアは2.8%となっており、再生可能エネルギーでは太陽光発電に次ぐシェアとなっています。
太陽光発電関連銘柄ほどではないものの、バイオマス発電関連銘柄も2020年秋の「再生エネ相場」で大きく買われました。
日本最大級のバイオマス発電所を稼働している【9517】イーレックスの株価は次のようになっています。
【9517】イーレックスの月足チャート
イーレックスの株価は、2020年11月に大きく上昇し、上場来高値を更新するに至りました。
同じく、国内でバイオマス発電所を3基稼働している【9514】エフオンも2020年秋に大きく買われています。
太陽光発電関連銘柄とバイオマス発電関連銘柄は、2020年秋の「再生エネ相場」で大きく買われたと言って間違いありません。
それでは、代表的な洋上風力関連銘柄とその株価動向を見ていきましょう。
洋上風力関連銘柄
洋上風力関連銘柄として注目される銘柄を抑えておきましょう。
【9519】レノバ
洋上風力発電はもちろん、太陽光発電やバイオマス発電、地熱発電といった再生可能エネルギー施設を開発・運営する【9519】レノバは、洋上風力関連銘柄の代表的な銘柄であり、再生可能エネルギー関連銘柄として必ず抑えておかなければいけない銘柄です。
同社は、秋田県由利本荘市沖で洋上風力プロジェクトを進めていることでも知られています。
【9519】レノバの月足チャート
レノバの株価は、2020年10月に上場来高値を更新してからも上昇が止まりません。
「再生エネ相場」の主役となっている銘柄です。
今後、日本政府が洋上風力発電を積極推進していくことになれば、さらなる成長が期待されます。
【1893】五洋建設
海上土木最大手の【1893】五洋建設は、洋上風力発電が広がることで商機拡大が期待されることから、洋上風力関連銘柄に位置付けられています。
同社は、2011年8月から2013年5月まで、北九州市沖で洋上風力発電施設の基礎構造設計・製作・据付と風車組立、洋上風況観測塔の基礎製作・据付、観測塔組立に取り組んだ実績があります。
【1893】五洋建設の月足チャート
五洋建設の株価は、直近の2020年11~12月に大きく上がったことが分かります。
他の建設株は横ばいとなる中で上昇しているため、洋上風力で注目されて買われたと見てよいでしょう。
【6269】三井海洋開発
洋上での石油・ガス生産設備のリーディングカンパニー【6269】三井海洋開発は、洋上風力発電に積極的に取り組んでいる企業としても知られます。
同社は、浮体式海洋石油・ガス生産設備で長年培ってきた浮体・係留技術を活かし、今後の成長が期待できる浮体式洋上風力発電市場への参入に向けた事業開発を進めています。
【6269】三井海洋開発の月足チャート
三井海洋開発の株価は、直近の2020年11~12月に上げていますが、積極的に買われたとまでは言えません。
【6004】日立造船
ゴミ焼却発電設備や船舶用機器などを手掛ける【6004】日立造船は、洋上風力に力を入れる企業です。
なお、同社は造船事業からは既に撤退しており、造船ではなくエネルギーセクターに分類されます。
同社は、福岡県北九州沖で3000kWの洋上風力発電を2019年に納入しており、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で次世代浮体式洋上風力発電システム実証機「ひびき」を手掛けたことでも知られています。
【6004】日立造船の月足チャート
日立造船は、日本政府が洋上風力を重視する姿勢が市場に伝わったことで、直近の2020年12月に出来高の急増を伴う急騰となっています。
洋上風力関連銘柄として今後も要チェックしておきましょう。
【1860】戸田建設
病院や学校などに強い建設会社【1860】戸田建設は、浮体式洋上風力発電事業を手掛けていることで知られます。
2016年3月には、同社の100%子会社である五島フローティングウィンドパワー合同会社が、長崎県五島市崎山漁港の沖合において、国内初となる浮体式洋上風力発電設備を実用化し、商用運転を継続しています。
【1860】戸田建設の月足チャート
戸田建設の株価を見てみると、直近の環境相場で積極的に買われたとは言えません。
【9501】東京電力ホールディングス
電力会社も洋上風力発電に力を入れています。
電力大手の【9501】東京電力ホールディングスは、千葉県銚子沖で洋上風力の建設計画を表明しており、秋田県の2海域では東電と中部電力が折半出資するJERAが洋上風力に参入することを表明しています。
【9501】東京電力ホールディングスの月足チャート
東電の株価は、2020年には下落し続けています。
ほとんどの銘柄がコロナショック以降には反発したにも関わらず、株価下落が止まりません。
電力全体のシェアからすると、再生可能エネルギーは電力会社にとってはむしろ逆風となるものです。洋上風力発電事業を手掛けているとはいえ、電力会社は洋上風力を好材料として買われることはないものと見られます。
【8066】三谷商事
セメント・生コンクリートで日本トップシェアを誇る建設商社の【8066】三谷商事は、洋上風力発電事業にも参画しています。
【8066】三谷商事の月足チャート
三谷商事の株価は高値圏で推移していますが、2020年秋の環境相場で買われたとは言えません。
風力発電関連銘柄
風力発電関連銘柄に位置付けられている銘柄もチェックしておきましょう。
【5915】駒井ハルテック
超高層ビルなどの大型工事に強い鉄骨・橋梁大手の【5915】駒井ハルテックは、日本の地形や気象にあった「日本の風力発電」を提案しており、風力発電関連銘柄に位置付けられます。
【5915】駒井ハルテックの月足チャート
駒井ハルテックの株価は長期的には下落していますが、「再生エネ相場」となった2020年11月から12月に掛けて反発していることが分かります。
同社は、洋上風力発電は手掛けていませんが、再生エネルギーへの注目が集まった流れで風力発電関連銘柄として買われたということでしょう。
まとめ
今回は、洋上風力発電の概要や2020年秋から続いている「再生エネ相場」について解説した上で、代表的な洋上風力関連銘柄についてチャート付きで紹介してきました。
日本の風力発電の電力シェアは0.8%に留まっており、再生可能エネルギーの中でも太陽光発電(7.6%)、バイオマス発電(2.8%)に比べると低くなっています。
2020年12月25日、日本政府は「グリーン成長戦略」の中で、2040年までに洋上風力発電を最大4,500万キロワットとする数値目標を打ち出したことで、今後は再生可能エネルギーの中でも特に注目が集まりそうです。
2020年秋から続く「再生エネ相場」では、洋上風力発電も手掛ける再生可能エネルギー関連銘柄【9519】レノバが大きく買われており、日本政府の方針を受けて【1893】五洋建設や【6004】日立造船といった洋上風力関連銘柄も買われ出しています。
今後、洋上風力関連銘柄が長期的な成長テーマ株となるかどうかは、日本政府が洋上風力をどれだけ本気で積極推進していくかどうかに掛かっているものと見られます。
紫垣 英昭
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