原子力関連銘柄は原発再稼働で要チェック!小型原子炉(SMR)も脱炭素で注目

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

原子力関連銘柄は原発再稼働で要チェック!小型原子炉(SMR)も脱炭素で注目される。

ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰や円安の急激な進行を受けて、日本でも原発再稼働の機運が高まりつつあります。

2011年の福島第一原発事故以降、世界的に原発は忌避されていましたが、近年は脱炭素によって原発が再評価される動きもあり、小型原子炉(SMR)も次世代エネルギーとして注目です。

岸田首相は原発再稼働について前向きな発言を繰り返しており、原子力関連銘柄が買われる動きも見られます。

今回は、原子力関連銘柄の概要や原発再稼働の必要性が高まっている背景について解説した上で、代表的な原子力関連銘柄についてご紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • 原子力関連銘柄の概要や原発再稼働の必要性が高まっている背景についてわかる
  • 代表的な原子力関連銘柄について学べる
  • なぜ原子力関連銘柄が注目しておきたいテーマ株なのかがわかる

原子力関連銘柄とは?

原子力関連銘柄の概要や注目される背景について押さえておきましょう。

原子力関連銘柄は原発再稼働を材料視して買われるテーマ株

原子力関連銘柄とは、原子力発電所(原発)に関する事業を手掛ける銘柄を総称したテーマ株です。

具体的には、原発を所有する電力会社と原子力プラント企業を中心に、その他の原発関連部材を手掛ける銘柄も入ってきます。

特に、福島第一原発事故の廃炉負担を抱え、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所が全機停止している【9501】東京電力ホールディングスは代表的な原子力関連銘柄です。

2011年以降、各電力会社の原発は停止しています。

原子力規制委員会のホームページによると、2022年5月16日時点で停止している原発は次のようになっています。

事業者

停止中の原発

北海道電力

泊発電所1~3号機

東北電力

東通原子力発電所1号機、女川原子力発電所2~3号機

東京電力ホールディングス

柏崎刈羽原子力発電所1~7号機

中部電力

浜岡原子力発電所3~5号機

北陸電力

志賀原子力発電所1~2号機

関西電力

美浜発電所3号機、大飯発電所4号機、高浜発電所1~3号機

中国電力

島根原子力発電所2号機

四国電力

九州電力

玄海原子力発電所3~4号機、川内原子力発電所2号機

日本原子力発電

東海第二発電所、敦賀発電所2号機

※出典:原子力規制委員会

原子力関連銘柄は2011年以降、原発再稼働が政治的なニュースに浮上すると思惑されて買われる展開が続いてきました。

ただ、原発再稼働が本格的な政治テーマにまで浮上することはなく、多くの原発が停止したまま今日に至っています。

原発再稼働はリスクもあるがメリットも大きい

福島第一原発事故を経験した日本国民としては、原発再稼働に心理的な抵抗があることも事実です。

原子力発電の最大のリスクは、福島第一原発事故やチェルノブイリ原発事故のような甚大な事故が発生してしまう可能性があることです。

原発事故の最大リスク(テールリスク)は、火力発電はもちろん、太陽光発電や風力発電、バイオマス発電といった再生可能エネルギーよりも大きいことは歴史的にも明らかと言えるでしょう。

ただ、原子力発電には原発事故というテールリスクはあるものの、メリットも大きいことも事実です。

原子力発電の燃料となるウランは、火力発電に使う石炭・石油・LNGに比べて政情の安定した国に埋蔵されているため資源を安定確保でき、エネルギー安全保障に強いエネルギーです。

また、使い終わったウランは再処理することによって再利用できるため、準国産エネルギーにできます。

そして、原子力発電は発電時にCO2(二酸化炭素)を排出しないため、脱炭素(カーボンニュートラル)に貢献するエネルギーでもあります。

太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーも脱炭素で期待されていますが、電力コストが高く、気候によって発電量が左右されることから、主力電源にするにはまだ心もとないということが現状です。

原子力発電には原発事故のリスクがあるものの、日本を取り巻くエネルギー事情からすると多くのメリットがあることもまた事実と言えます。

原発は世界的に再評価されており小型原子炉(SMR)も脱炭素で注目される

2020年からの脱炭素や、2022年ウクライナ侵攻によるロシアリスクなどを受けて、原発は世界的に再評価される動きが出てきています。

2021年11月には、第26回国連気候変動枠組み条約締約国会議(COP26)が開かれる中で、フランスのマクロン大統領が原子力発電所の建設再開を発表しました。

イギリスも8基の原発を新設することを発表しており、ベルギーは稼働中の2基の原発の10年延長を決めるなど、原発再評価の動きはヨーロッパを中心に広がりつつあります。

原発の中でも特に注目されているのが、次世代の小型原子炉(SMR)です。

2021年12月には、日立製作所と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の合弁会社であるGE日立ニュークリア・エナジーが、カナダの電力会社から次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」を受注したと発表しました。

SMRは、構造の小型化と簡素化を両立させてあり、建設費を従来の原発の5分の1程度に抑えられることが特徴です。

また、SMRで重大事故が発生した場合には、冷却水を自動的に循環させる仕組みで安全に停止させられるということです。

日本では原発再稼働の議論もまだ始まっていませんが、世界的には最新テクノロジーによる小型原子炉(SMR)の新規増設を巡る動きが出てきています。

日本で原発再稼働の動きが出てきたら、マーケットでは小型原子炉(SMR)の新設もテーマとなってくるかもしれません。

ウクライナ情勢や円安によるエネルギー価格の高騰で原発再稼働の必要性が高まる

ウクライナ情勢や円安によるエネルギー価格の高騰を受けて、日本でも原発再稼働の声が高まりつつあります。

2022年はエネルギー価格の高騰と円安で電気料金上昇が止まらない

2022年はウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰や、米国利上げによる日米金利差拡大などによる急激な円安の進行を受けて、日本でも電気料金値上げが止まりません。

2022年6月分の電気料金は、火力発電の燃料費上昇を受けて、電力5社が値上げとなり、残り5社は価格転嫁の上限に達したため据え置き価格となったことが発表されています。

次の図は、資源エネルギー庁の「日本の一次エネルギー供給構成の推移」です。

日本の一次エネルギー供給構成の推移

※出典:資源エネルギー庁

2018年における日本のエネルギー構成は、石油37.6%、石炭25.1%、LNG(液化天然ガス)22.9%となっており、化石燃料依存度は85.5%となっています。

原子力は、東日本大震災前の2010年には11.2%でしたが、2018年時点では2.8%となっており、原発が停止している影響から火力発電への比重は高止まりしています。

脱炭素でも期待される再生可能エネルギーも伸びてはきているものの、2018年時点で8.2%に留まっており、主力電源になるには程遠いということが現実です。

電気料金の値上げは、家庭向けはともかく、産業向けにも大きな影響があるため、経済界からも原発再稼働を求める声が強まっているのは必然であると言えます。

岸田首相は原発再稼働を進めていくと語る

2022年以前にも、経済界を中心に原発再稼働を求める声はありましたが、2022年に日本が置かれているエネルギー事情はより厳しいものになっています。

特に、脱炭素(カーボンニュートラル)やEVシフトにおいて原発のメリットは大きく、世界各国が原発を再稼働・新設する中で日本だけが原発を避けてしまうと、国際競争力の低下に繋がることも懸念されます。

また、2022年ウクライナ情勢を受けた世界的なロシアリスクの高まりを受けて、エネルギー安全保障の点においても原発再稼働のメリットが大きくなっている状況です。

岸田首相は、2022年4月26日に行われた記者会見にて、物価高対策を進める中で、原子力発電の活用促進に関して言及しました。

さらに、5月13日夜にテレビ番組に出演した際には、エネルギーの安定供給をめぐり原発の再稼働について問われ、「原発については安全性を前提とした再稼働。これはしっかり進めていかなければならない」と述べました。

今後、原発再稼働が本格的に進められていくことになれば、マーケットにおいても重要な国策テーマ・トレンドになっていくことが期待されます。

原子力関連銘柄10選!

原発再稼働でも注目される代表的な原子力関連銘柄を見ていきましょう。

【9501】東京電力ホールディングス

首都圏の電力会社【9501】東京電力ホールディングスは、原発再稼働で期待される代表的な原子力関連銘柄です。

同社は、2011年福島第一原発事故を受けて株価が大暴落し、現在も巨額の廃炉負担が重くなっています。

新潟県の柏崎刈羽原子力発電所1号機から7号機が停止しており、停止している原発の規模で見ると、全電力会社の中で最も大きな影響を受けていると言えます。

【9501】東京電力ホールディングスの月足チャート

東電の株価は、2022年に大きく上がっていることが分かります。

ウクライナ情勢や円安を受けて電力会社のコスト負担は大きくなっていますが、マーケットではそれ以上に原発再稼働への期待が高まっているということでしょう。

【9503】関西電力

近畿地方の電力会社【9503】関西電力は、原発再稼働で期待される原子力関連銘柄の一角です。

同社は、2022年5月16日時点では、美浜発電所3号機、大飯発電所4号機、高浜発電所1~3号機の5基の原発が停止しています(定期検査中含む)。

【9503】関西電力の月足チャート

関西電力の株価は、長期的には厳しい値動きとなっていますが、2022年にはやや買われている状況です。

【9506】東北電力

東北地方の電力会社【9506】東北電力も、東通原子力発電所1号機と女川原子力発電所2~3号機が停止しており、原発再稼働で期待される原子力関連銘柄の一つです。

【9506】東北電力の月足チャート

東北電力の株価は、長期的には下落が続いており、2022年にも原発再稼働期待の資金が入っているとは思われない値動きとなっています。

電力会社の中では、柏崎刈羽原子力発電所が全機停止している東京電力が、最も原発再稼働で期待される銘柄になっていると言えます。

今後の原発再稼働に向けては、原発が停止している【9509】北海道電力、【9502】中部電力、【9505】北陸電力、【9508】九州電力の各電力会社も押さえておきましょう。

【6501】日立製作所

世界的に原発が再評価される流れで注目されるのが、原発プラント大手です。

日本の原発プラント大手は、【6501】日立製作所、【6502】東芝、【7011】三菱重工業の3強となっています。

重電最大手の【6501】日立製作所は、原発プラントの技術力が世界的に評価されている原子力関連銘柄です。

2021年12月には、同社と米ゼネラル・エレクトリック(GE)の合弁会社が、カナダの電力会社から次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」を受注したことを発表しており、小型原子炉(SMR)でも注目の原子力関連銘柄となります。

【6501】日立製作所の月足チャート

日立製作所の株価は、長期的に堅調な値動きとなっています。

原子力関連銘柄として買われた兆候は特に見当たりませんが、今後は次世代原子炉関連で注目が集まってきてもおかしくありません。

【6502】東芝

総合電機の【6502】東芝は、完全子会社の東芝エネルギーシステムズが原子力プラント3強の一角として知られる原子力関連銘柄です。

【6502】東芝の月足チャート

東芝の株価は、直近の2022年3月以降に買われています。

東電の株価ほど顕著ではないものの、ウクライナ情勢を受けた世界的な原発再評価の流れで買われた動きがあったと見てもよいでしょう。

【7011】三菱重工業

重工業最大手の【7011】三菱重工業は、原子力プラント3強の一角を占める原子力発電関連銘柄です。

同社は、従来型の加圧水型原子力発電プラントに強みを持っていることで知られていますが、今後は安全性を追求した次世代軽水炉や小型原子炉の開発・実用化に注力していく方針を発表しています。

【7011】三菱重工業の月足チャート

三菱重工業の株価は、2022年に入ってから大きく上昇しています。

ただ、東証を代表する軍事株であるため、原子力関連ではなく、ウクライナ情勢を受けた軍事株として買われたと見るのが妥当かと思われます。

【6378】木村化工機

電力会社・大手プラントメーカーに続いて、原発部材関連で物色される可能性がある原子力関連銘柄を見ていきましょう。

化学プラントメーカーの【6378】木村化工機は、原発関連容器を手掛けていることから原子力関連銘柄に位置付けられる銘柄です。

【6378】木村化工機の月足チャート

木村化工機の株価は長期的には成長していますが、直近では大きく下落しています。

【7711】助川電気工業

温度測定・加熱製品メーカーの【7711】助川電気工業は、原発向け熱制御装置に定評がある原子力関連銘柄です。

【7711】助川電気工業の月足チャート

助川電気工業の株価は、2020年3月コロナショック以降は順調に回復してきており、直近でも買われていることが分かります。

【1968】太平電業

プラント工事会社の【1968】太平電業は、原発の補修・解体に強みを持つ原子力関連銘柄として知られています。

【1968】太平電業の月足チャート

太平電業の株価は、横ばい気味の推移が続いています。

【1966】高田工業所

総合プラント企業の【1966】高田工業所は、原子力発電所のステンレスライニング、大型貯槽、配管などの建設を行っている原子力関連銘柄です。

【1966】高田工業所の月足チャート

高田工業所の株価は、2019年末に一時急騰しましたが、以降は横ばいが続いています。

まとめ

今回は、原子力関連銘柄の概要や原発再稼働の必要性が高まっている背景について解説した上で、代表的な原子力関連銘柄についてご紹介してきました。

原子力関連銘柄は、2011年福島第一原発事故以降は、原発再稼働が思惑されるニュースが流れると物色されるテーマ株となっていました。

特に、柏崎刈羽原子力発電所1~7号機が停止している【9501】東京電力ホールディングスは、原発再稼働のニュースで反応しやすい銘柄となっています。

2022年には、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の急騰を受けて電気料金値上げが続いていることから、原発再稼働を求める声が強まっており、岸田首相も前向きに検討すると述べています。

世界では、脱炭素やロシアリスクを背景に、原発が再評価される動きが広まっており、次世代の小型原子炉(SMR)も注目を集めています。

原発再稼働は、物価高対策としても2022年後半の注目トレンドになる可能性があるため、原子力関連銘柄は注目しておきたいテーマ株です。

紫垣 英昭