親子上場解消は企業統治や東証再編で加速!TOB候補となる親子上場関連銘柄をチェック!

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

親会社と子会社が上場している「親子上場」は日本市場独自の慣習ですが、企業統治(コーポレートガバナンス)強化や東証再編を背景に、親子上場解消の動きが加速しています。

親子上場が解消される際には、TOB(株式公開買い付け)という形で親会社が子会社の株を取得することになりますが、このとき子会社の株価はTOB価格まで大きく上昇することになります。

親子上場解消の動きは加速しているとはいえ、2021年時点でもまだ260社余りの上場子会社があることから、今後も親子上場解消TOBは続くことでしょう。

今回は、東証における親子上場の状況について解説した上で、親子上場解消によるTOBが行われた際の株価動向について、親子上場の解消が期待される親子上場関連銘柄についても紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • 東証における親子上場の状況についてわかる
  • 親子上場解消によるTOBが行われた際の株価動向についてわかる
  • 親子上場の解消が期待される親子上場関連銘柄についてわかる

日本市場では親子上場の解消が進んでいる

「親子上場」は日本市場独自のガラパゴス慣習となっていますが、企業統治(コーポレートガバナンス)強化や東証再編を背景に、親子上場解消の動きが加速しています。

そもそも「親子上場」とは?

「親子上場」とは、親会社と子会社がいずれも株式上場していることです。

親子上場している上場企業には有名企業も多く、【9984】ソフトバンクグループはその筆頭です。

持ち株会社の【9984】ソフトバンクグループを頂点に、携帯キャリアの【9434】ソフトバンク(孫会社)、「Yahoo!」や「PayPay」で知られる【4689】Zホールディングス(曾孫会社)、アパレル通販大手「ZOZOTOWN」の【3092】ZOZO(玄孫会社)など、12社が上場しています。

2020年1月に経済産業省が発表した資料「上場子会社に関するガバナンスの在り方」によると、日本の親子上場企業の割合は6.1%となっており、諸外国と比べて非常に高くなっています。

※出典:経済産業省

日本の親子上場割合

なお、上記の経済産業省のデータと東証が発表しているデータとでは、親子上場の割合が異なりますが、いずれにしても日本企業で親子上場が多い傾向は間違いありません。

親子上場のデメリットとして、親会社と子会社の利益相反リスクがあることが指摘されています。

親会社が自社利益を優先するような場合には、同じく上場している子会社の利益が損なわれてしまい、子会社の少数株主の利益が損なわれてしまう可能性があるということです。

一方、親子上場する企業にとっては、親会社が子会社を株式公開することで、親会社の保有株を市場に放出することによって資金調達が容易にできるというメリットがあります。

また、経済産業省が、親子上場する企業に対し上場子会社を保有する理由についてアンケートを取った結果では、「子会社社員のモチベーション維持・向上」や「上場企業としてのステータス維持」、「優秀な人材の採用」などを理由に挙げる企業が多くなっています。

東証では親子上場が5年で2割以上減った

東証が世界に開かれたマーケットを目指す上では、投資家保護やコーポレートガバナンスの面で、親子上場が解消に向かう流れが世界標準であることは確かです。

2021年12月10日付けの日本経済新聞「親子上場、5年で2割超減 統治指針と東証再編後押し」によると、上場子会社は2021年に入ってから14社減って265社となり、5年前に比べて2割超減ったとのことです。

親子上場が減っている背景には、支配株主を持つ企業は少数株主を保護する厳格な統治体制を求められるようになるなど、企業統治(コーポレートガバナンス)が重視されるようになってきたことが挙げられます。

さらに、東証は2022年4月4日から、現在の「東証一部」「東証二部」「東証マザーズ」「JASDAQ(スタンダード・グロース)」4市場から、「プライム市場」「スタンダード市場」「グロース市場」の3市場に再編されます。

市場再編に伴うガバナンス重視の方針により、流通株式比率が35%以上(プライム)、25%以上(スタンダード、グロース)になることが決まっており、親子上場解消に向かうインセンティブとなっているようです。

ただ、親子上場は5年間で2割以上減ったとはいえ、まだ上場子会社数は260社以上あり、依然として諸外国と比べて高い水準であることは確かです。

親子上場が解消されると株価はどうなる?

親子上場が解消される場合、親会社と子会社の株価がどうなるのかを押さえておきましょう。

子会社は親会社によるTOBでTOB価格まで株価上昇する

親子上場を解消する際には、親会社が子会社の株式をTOB(株式公開買い付け)によって買い取る方法を取ることが一般的です。

TOB価格は、現在の子会社の株価よりも高く設定されるため、TOBが発表されると、子会社の株価はTOB価格まで一気に上昇します。

例えば、子会社の株価が現在1,000円だったとして、親会社が1,500円でTOBすると発表した場合には、TOB価格まではストップ高で上昇していきます。

TOBが成立して子会社の上場廃止が決まると、その銘柄は「監理銘柄」に指定されます。

その後、子会社が上場廃止となるまでは、株価はTOB価格の前後で推移する動きとなることが一般的です。

この動きを実際の例で見てみましょう。

2021年11月30日、海運大手の【9104】商船三井は、子会社の【8806】ダイビル、【9358】宇徳を完全子会社化するため、【8806】ダイビルは1株2,200円、【9358】宇徳は1株725円でTOBすると発表。

TOB発表前の時点で、【8806】ダイビルの株価は1,464円を付けていましたが、TOB価格の2,200円前後までストップ高で上昇しています。

【8806】ダイビルの日足チャート

同様に、【9358】宇徳の株価は516円を付けていましたが、TOB価格の725円前後までストップ高で上昇しています。

【9358】宇徳の日足チャート

ダイビル・宇徳ともに、株価はTOB価格まで跳ね上がっており、以降はTOB価格前後で推移していることが分かります。

親会社は子会社TOBのマーケットの反応次第

親子上場解消においては、子会社の株価はほぼ間違いなくTOB価格まで上昇することになります。

一方で、親子上場解消で親会社の株価がどうなるのかは、マーケットの反応次第です。

そのTOBによって親会社の業績にプラスとなると好感されれば株価上昇となりますが、ネガティブに捉えられた場合には株価下落することにもなりかねません。

2021年11月30日に、【8806】ダイビル・【9358】宇徳との親子上場解消を発表した【9104】商船三井の株価は次のようになっています。

【9104】商船三井の日足チャート

商船三井の株価は、親子上場解消で好感されて買われました。

ただ、親子上場解消で最大の恩恵を受けられるのは、子会社の株主です。

子会社の株価はTOB価格まで確実に上昇するため、多くの場合において利益を享受することができます。

2021年に親子上場が解消された企業

2021年に親子上場が解消された企業を一覧で見ていきましょう。

なお、上場廃止企業については、JPXの「上場廃止銘柄一覧」から確認することができます。

上場廃止日

親会社

子会社(いずれも上場廃止)

2021年1月28日

【4043】トクヤマ

【6722】エイアンドティー

2021年3月30日

【7697】REXT

【3344】ワンダーコーポレーション

【7448】ジーンズメイト

【7577】HAPiNS

2021年3月30日

【8308】りそなホールディングス

【7321】関西みらいフィナンシャルグループ

2021年5月28日

【9005】東急

【9829】ながの東急百貨店

2021年7月20日

【3109】シキボウ

【3125】新内外綿

2021年7月28日

【4581】大正製薬ホールディングス

【4517】ビオフェルミン製薬

2021年7月29日

【5019】出光興産

【4952】エス・ディー・エス バイオテック

2021年7月29日

【7013】IHI

【6709】明星電気

2021年7月29日

【7012】川崎重工業

【6414】川重冷熱工業

2021年8月30日

【9831】ヤマダホールディングス

【8186】大塚家具

2021年9月29日

【5076】インフロニア・ホールディングス

【1883】前田道路

【6281】前田製作所

2021年10月28日

【5406】神戸製鋼所

【6299】神鋼環境ソリューション

2021年10月28日

【9735】セコム

【4342】セコム上信越

親子上場の解消が期待される親子上場関連銘柄候補!

親子上場の解消が期待される親子上場関連銘柄について、TOBによって株価上昇が期待される子会社銘柄をいくつか押さえておきましょう。

【6305】日立建機

【6501】日立製作所は、かつては多くの上場子会社を有していましたが、親子上場解消を積極的に進めている代表的な企業です。

2020年には日立ハイテクノロジーズを完全子会社化し、2021年には【5486】日立金属の売却が決定しているため、残るは【6305】日立建機のみとなっています。

【6305】日立建機の月足チャート

【2980】SREホールディングス、【6185】SMN

【6758】ソニーグループも親子上場解消に動いており、2020年にはソニー銀行などで知られるソニーフィナンシャルホールディングスをTOBによって完全子会社化しました。

ソニーの上場子会社で残っているのは、ソニー系の不動産会社【2980】SREホールディングスと、ソニー系のネット広告会社【6185】SMNの2社です。

【6185】SMNの月足チャート

【6588】東芝テック

【6502】東芝も、親子上場解消に積極的な動きを見せています。

東芝は2019年11月、東芝プラントシステム、西芝電機、ニューフレアテクノロジーの3社を完全子会社化して親子上場を解消しました。

東芝系で残る上場企業は、【6588】東芝テックのみとなっています。

【6588】東芝テックの月足チャート

【9179】川崎近海汽船

2021年11月末には海運大手の商船三井が親子上場解消に動いたことから、同じく海運大手の【9107】川崎汽船も親子上場解消に動く可能性があります。

川崎汽船は、【9179】川崎近海汽船を傘下に持っています。

【9179】川崎近海汽船の月足チャート

【7105】三菱ロジスネクスト

2021年には、IHIが明星電気を、川崎重工業が川重冷熱工業を完全子会社化し、重工業大手の親子上場解消の動きが続きました。

この流れからすると、重工業最大手の【7011】三菱重工業が、唯一の上場子会社である【7105】三菱ロジスネクストを完全子会社化してもおかしくありません。

【7105】三菱ロジスネクストの月足チャート

【3850】NTTデータ・イントラマート、【4762】エックスネット、【3622】ネットイヤーグループ

2020年には、【9432】NTTがNTTドコモを完全子会社化し、国内最大のTOB案件となりました。

NTT関連の上場子会社としては、NTTの子会社の【9613】NTTデータ、NTTデータの子会社である【3850】NTTデータ・イントラマート、【4762】エックスネット、【3622】ネットイヤーグループがあります。

NTTが、NTTドコモに続いてNTTデータを完全子会社化するとは考えづらいですが、NTTデータ傘下の3社については押さえておいてもよいでしょう。

【3850】NTTデータ・イントラマートの月足チャート

【1948】弘電社

日立グループや重工大手が親子上場解消を進めているという文脈からすると、重電大手の【6503】三菱電機の動きも気になります。

電気設備工事などを行う【1948】弘電社が、三菱電機の唯一の上場子会社となっているためチェックしておきましょう。

【1948】弘電社の月足チャート

まとめ

今回は、東証における親子上場の状況について解説した上で、親子上場解消TOBが行われた際の株価動向について、親子上場の解消が期待される親子上場関連銘柄についても紹介してきました。

親子上場は日本市場特有の慣習となっていますが、コーポレートガバナンス強化や市場再編を背景に、親子上場解消に向かう動きが加速しています。

近年は、NTTドコモやファミリーマート、ソニーフィナンシャルホールディングスといった大型TOBも相次いでいます。

親子上場解消のためのTOB(株式公開買い付け)が発表されると、子会社の株価はTOB価格まで一気に上昇する一方、親会社の株価がどうなるかはマーケットの受け止め方次第です。

今後も親子上場解消の流れは続くであろうことから、親子上場解消に積極的な日立製作所や東芝、ソニーグループ、重電大手などの動きに注目しておきましょう。

紫垣 英昭