紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
新型コロナウイルスの影響で、2020年東京オリンピックは2021年夏へ延期となってしまいました。
株式市場でも東京オリンピック関連銘柄は注目テーマ株となっており、2013年9月の開催決定から一貫して人気テーマ株として上昇基調にあったことは間違いありません。
東京オリンピック関連銘柄としては、新国立競技場の建設など首都圏再開発に関係する建設株から、外国人観光客で期待されるインバウンドやホテルに関連する銘柄、スポーツやオリンピック広告など多岐に渡ります。
今回は、東京オリンピックの開催が決まった2013年9月から、新型コロナ相場となっている直近の2020年6月までの期間に、代表的な東京オリンピック関連銘柄がどのような値動きをしていたのかを振り返っていきます。
- オリンピック関連銘柄とは何かがわかる
- オリンピック関連銘柄の特徴がわかる
- オリンピック開催決定から新型コロナ相場までのオリンピック関連銘柄の値動きがわかる
東京オリンピック関連銘柄とは?
「東京オリンピック関連銘柄」とは言いますが、具体的にどのようなセクターやテーマを手掛けている銘柄が株式市場で注目されているのかは漠然としていないでしょうか?
東京オリンピックの概要や具体的な東京オリンピック関連銘柄について理解していきましょう。
東京オリンピックとは?
2020年東京オリンピックは、2020年夏に開催される予定だった第32回夏季オリンピックです。新型コロナウイルスの影響で、2021年夏に開催が延期されています。
2020年東京オリンピックは、2013年9月7日の第125次IOC総会で行われた開催地選定投票で、東京がイスタンブールとマドリードを上回ったことから開催が決定されました。
東京オリンピックはさまざまな問題が指摘されているものの、2013年9月に東京オリンピックの開催が決まったことは、日本経済に明るいムードをもたらし、株式市場にも長期的な買い材料を提供したことは間違いありません。
ここで、東京オリンピックの開催が決定して以降の日経平均株価の月足チャートを見てみましょう。
日経平均株価の月足チャート
日経平均株価は、東京オリンピックの開催決定直前の2013年9月(上図赤丸)には13,572.92円を付けていましたが、その後は上昇が続いていることが分かります。一貫した右肩上がりの上昇とは言えないものの、オリンピック開催決定後は、開催決定前の株価水準までは一度も下げていません。
2021年に東京オリンピックが開催できるかどうかは、新型コロナウイルスのワクチン・治療薬開発次第だと言われていますが、日本経済にとっても株式市場にとっても無事に開催されることを願うばかりです。
東京オリンピック関連銘柄の特徴について
東京オリンピックの開催決定は、日本株全体に恩恵があったとも言えますが、とりわけ大きな影響を受けた銘柄があります。このように東京オリンピックで業績拡大が期待されるテーマ株は総称して「東京オリンピック関連銘柄」と呼ばれます。
最も代表的な東京オリンピック関連銘柄としては、東京オリンピック開催決定による首都圏再開発の恩恵を受ける「建設株」が挙げられます。
ただし、2020年現在、気を付けなければいけないこととして、東京オリンピックによる建設需要は2019年にピークが来ており、株式市場でも建設株はピークアウトした値動きとなっています。
東京オリンピックの開催を控えた段階では、外国人観光客が急増することをにらんだ「インバウンド」や「ホテル」といったテーマ株が注目されていました。
また、東京オリンピックの開催によってスポーツや運動ブームが到来することが期待されたことから、「スポーツ用品」や「フィットネスジム」といったスポーツ関連銘柄にも期待が集まっていました。
そして、東京オリンピックが開催されれば、多くの国民がテレビ観戦することになるであろうことから「オリンピック広告」や「テレビ」といったテーマ株が買われていたことも期待されます。
しかし、東京オリンピックで期待されていた「インバウンド」や「ホテル」、「フィットネスジム」といったテーマ株は、新型コロナの影響で壊滅的な状態となってしまっているセクターです。
首都圏再開発・建設関連銘柄
東京オリンピック開催決定による首都圏再開発で大きく買われた「建設株」の動向を見ていきましょう。
【1801】大成建設
総合建設大手の【1801】大成建設は、東京オリンピック関連銘柄を代表する建設株です。
大成建設は、東京オリンピックのメインスタジアムである新国立競技場を施工したことでも知られており、東京オリンピックの開催決定で最も恩恵を受けた企業の一つと言ってよいでしょう。
【1801】大成建設の月足チャート
大成建設の株価は、東京オリンピック開催決定前の2013年9月には2,040円を付けていました(上図赤丸)。その後は約4年間一貫して上昇し続け、2017年11月には6,620円まで上昇(上図青丸)。しかし、2017年11月にピークアウトしており、以降は一貫して下げています。
このように、建設株は、東京オリンピックの開催決定後は長い間、買われ続けていましたが、2018年頃から首都圏再開発の建設需要ピークアウトが懸念されるようになったことで売られています。
東京オリンピックが無事に2021年に開催されることになったとしても、既に東京オリンピック関連の建設は完了しているため、建設株に資金が流れてくることはないかと思われます。
【1802】大林組
同じく総合建設大手の【1802】大林組の株価動向を見ていきましょう。
【1802】大林組の月足チャート
大林組の株価は、大成建設と同じく、2013年9月(上図赤丸)から一貫して上昇していましたが、2017年末をピークに株価は下落傾向にあることが分かります。
インバウンド関連銘柄
建設株に代わって東京オリンピック関連銘柄として注目されるのが、外国人観光客増加の恩恵を受けるインバウンド関連銘柄です。
【4344】ソースネクスト
自動翻訳機「ポケトーク」で知られる【4344】ソースネクストは、インバウンド関連銘柄として注目されていた銘柄です。
東京オリンピックが開催されていれば、同社が開発した「ポケトーク」を片手に、多くのボランティアが外国人観光客を相手に観光案内をしていた光景が東京の至る所で見られていたことでしょう。
【4344】ソースネクストの月足チャート
ソースネクストの株価は、建設株がピークアウトし始めた2017年10月頃から急激に上がっていることが分かります(上図赤丸)。
2017年10月から2018年10月までには139.3円→773.5円(※株価は株式分割後の価格で算出)と、1年で5.5倍もの上昇となっていました。
しかし、2019年には急騰の反動で下落し、2020年のコロナショックでも暴落。インバウンドが壊滅的状況となったことから、直近の新型コロナ相場の反発局面でも戻っていないことが分かります。
【9603】エイチ・アイ・エス
格安旅行会社大手の【9603】エイチ・アイ・エスも、インバウントに力を入れていた銘柄です。
【9603】エイチ・アイ・エスの月足チャート
2013年以降は上昇~横ばいとなっていましたが、2020年のコロナショックによって底を抜けた暴落となっています。
インバウンド関連銘柄は、東京オリンピックへの期待から一転、コロナショックで最も売られているテーマ株となってしまっています。
ホテル関連銘柄
東京オリンピックやインバウンドへの期待から、ホテル業界は特需となっていました。
【9708】帝国ホテル
外国人観光客に人気の高級ホテル「帝国ホテル」を東京・大阪で展開する【9708】帝国ホテルの株価動向を見ていきましょう。
【9708】帝国ホテルの月足チャート
帝国ホテルの株価は、東京オリンピックの開催が決定した2013年9月にだけ急騰しています(上図赤丸)。直近のコロナショックでは大きな下ヒゲ陰線を付けましたが、その後は戻しています。
帝国ホテルは、2019年7月のG20でアメリカのトランプ大統領が宿泊するなど名前は広く知られているものの、東証二部銘柄ということもあり、投資に適する銘柄とは言えません。
【9024】西武ホールディングス
日本最大の売上を誇る「プリンスホテル」を展開する【9024】西武ホールディングスの株価動向を見ていきましょう。
【9024】西武ホールディングスの月足チャート
西武ホールディングスの株価は、コロナショック前から停滞しており、コロナショックで底が抜けてしまった形となっています。
ホテルは実体経済においてはインバウンド急増や東京オリンピックをにらんで特需となっていましたが、株式市場においてはそこまで注目されて買われていたテーマとは言えません。
スポーツ用品・フィットネス関連銘柄
2020年は、東京オリンピックを背景に、スポーツやフィットネスがブームになることも期待されていました。
【7936】アシックス
スポーツ用品メーカー大手の【7936】アシックスは、東京オリンピックのゴールドパートナー企業であり、スポーツ用品メーカーとしてはオリンピックで最も注目される銘柄です。
【7936】アシックスの月足チャート
アシックスの株価は、東京オリンピック開催決定から2015年8月(上図赤丸)までは上げていましたが、その後5年間は下落トレンドとなっています。
2019年の中盤に反発しており、オリンピックに向けて上昇するかという所で、コロナショックによって再び底が抜けてしまった形です。
【8281】ゼビオホールディングス
スポーツ用品店「ゼビオ」「ヴィクトリア」を展開する【8281】ゼビオホールディングスの株価動向を見ていきましょう。
【8281】ゼビオホールディングスの月足チャート
ゼビオホールディングスの株価は、オリンピック開催決定後にも良い所がありません。オリンピックへの期待よりも、少子化による国内スポーツ市場の縮小が嫌気されているという所でしょうか。
オリンピックがあればスポーツ特需で株価も回復したかもしれませんが、コロナショックで底を抜けた形になっています。
【2378】ルネサンス
スポーツクラブ「ルネサンス」を全国展開する【2378】ルネサンスの株価動向を見ていきましょう。
【2378】ルネサンスの月足チャート
ルネサンスの株価は、東京オリンピック開催決定となった2013年9月の720円(上図赤丸)から、2018年10月には2,638円(上図青丸)まで上昇していました。
オリンピック効果というよりは、健康・フィットネスブームを背景に成長したと見る方が正しいでしょう。
オリンピックによって2020年にはフィットネスブームが加速することが期待されましたが、スポーツジムは「3密」の典型的な場所であることから、コロナショックでは大きく下落しており、戻りも限定されています。
オリンピック広告関連銘柄
東京オリンピックが開催されていたら、多くの人がテレビにくぎ付けになっていたことが予測されます。オリンピック広告関連銘柄の動向を見ていきましょう。
【4324】電通グループ
広告代理店大手の【4324】電通グループは、東京オリンピック関連銘柄の代表的な銘柄の一つです。
【4324】電通グループの月足チャート
電通グループの株価は、東京オリンピックの開催が決まった2013年9月の3,295円(上図赤丸)から、2015年8月には7,290円(上図青丸)まで上昇していました。
東京オリンピック関連銘柄としては初期に上昇していた銘柄となります。2015年8月以降は横ばい~下落となっていましたが、東京オリンピックが延期となったことで一段安となってしまっています。
東京オリンピックが中止になってしまった場合には、大打撃を受けることが懸念される銘柄であるため、積極的に買うことは難しい状況です。
まとめ
今回は、東京オリンピックで注目される東京オリンピック関連銘柄について、テーマごとに代表的な銘柄の株価動向を見てきました。
東京オリンピック関連銘柄としては、東京オリンピックの開催が決まった2013年9月から4年間ほどは、首都圏再開発特需で期待された建設株が大きく買われていました。
ただ、東京オリンピックによる建設需要は2019年にピークを迎えることが懸念されたことから、建設株は2017年末をピークに株価は下落しています。
建設株に代わって東京オリンピック関連銘柄として注目を集めることが期待されたのが、インバウンド関連でした。
東京オリンピックが開催される2020年には、インバウンドはもちろん、ホテルやスポーツ、オリンピック広告などが特需になることが期待されましたが、新型コロナウイルスによって一部の業種は壊滅的な打撃を受けています。
2021年に東京オリンピックが無事に開催されることが望まれますが、中止になる可能性が残っている以上は、安易に東京オリンピック関連銘柄に手を出すのはリスクがあることは間違いないでしょう。
紫垣 英昭
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