紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
今年(2018年)はアメリカで中間選挙が行われます。
11月6日の米国議会選では435の下院全議席と上院33議席(総議席は100)が改選され、トランプ政権の今までの二年間が国民の審判を受けることになります。
米国大統領の任期は4年ですが、下院議員の任期は2年、上院議員の任期は6年です。上院議員は2年ごとに3分の1が改選されるため、大統領任期のちょうど真ん中にあたる時期に選挙が行われことから、中間選挙と呼ばれ、事実上の大統領への信任投票と受け止められます。
ご存知のとおりトランプ大統領はその強い個性で、積極的な政策を推し進めてきました。
- 移民の制限
- 対中貿易関税措置
- 北朝鮮の核放棄への圧力
トランプ大統領の政策には一長一短があり、評価も二分しています。大統領選挙当時から、人によって好き嫌いが分かれるキャラクターの持ち主で、熱狂的に支持する人もいれば、人間性を否定する人もいます。
トランプ大統領はたしかに品性の無いジョークを飛ばしたりしますが、反面、思い切った決断力を見せることもあり、近年になく、自分の路線をはっきりと打ち出してきた大統領であることは間違いありません。
このような状況の中、中間選挙の予想も真っ二つに分かれて来ました。今回は米中間選挙と、それが世界の株価に与える影響についてお伝えします。
- トランプ大統領の政策の評価について
- 株価急落が買いのタイミングなる!?
- 株価のネガティブな材料も念頭に入れておく
支持率が上昇してきたトランプ大統領
最近の世論調査ではトランプ大統領の支持率が回復しています。
6月時点でギャラップの世論調査によると、トランプ大統領の支持率は45%まで上昇しています。
CNBCによる経済関するアンケートでは、51%が大統領の経済政策を支持するという結果が出ました。44%のアメリカ人が経済の状態を良いと答えていて、これは過去10年間の調査で最も高い水準になっています。
基本的に現在の株高と好景気が、大統領の人気の回復を支えているといっていいでしょう。
どの国でも選挙で一番重要なファクターは、まずは国内景気の状態なので、失業率が低水準で経済が好調なことはトランプ政権にとって大きなプラスです。
特に株式市場については、ナスダックが新高値で上昇していて、このまま行けば歴代で最も株価指数を押し上げた大統領として名を残すでしょう。
当初からマスコミに不人気のトランプ大統領
反面、就任時から絶えずマスコミの大きな批判にさらされてきました。
一番批判を受けているのは、マナーを欠いた言動もさることながら、その排他的な移民政策です。
不法移民の強制送還など、一部には止む負えないものもありますが、あまりにも過激な手法で推し進めるところが、アメリカの建国の理念に反する態度と取られているようです。
いずれにせよトランプ大統領が行っている政策の長所・短所は今になって出てきたものではなく、就任当時から問題にされてきたものです。
中間選挙の争点になりそうなポイント
ここで中間選挙を前に、選挙に影響を与えるような、プラスとマイナスの要素を並べてみようと思います。
- 好景気・株高
- 北朝鮮問題などの外交政策
- 通商政策
- 移民政策
- 政府高官・閣僚への扱い
- 失言・個人的スキャンダル
最近、トランプ大統領の政策実行について日本の専門家の間では、「なんだかんだ言って、当初の公約を実行しているのではないか」といった意見があります。
選挙目当てのパフォーマンスとも思えるようですが、投資家の立場からするとこれだけ株価が上昇すれば多少のスキャンダルは目をつぶっても良いのかもしれませんね。
プラスに評価されるポイント
ではこれから、トランプ大統領の政策で、評価されるポイントについてみていきたいと思います。
●好景気・株高
まず、一番評価されるのがアメリカの好景気と株高でしょう。アメリカの経済成長率が、3年9カ月ぶりの高い伸びを示しました。
アメリカ商務省は7/27、4~6月期のGDP(国内総生産)が、前の期に比べ、4.1%増加したと発表しました。企業業績も好調で、失業率は3.9%と史上最低水準です。リーマンショック直後が10%近かったのに比べると様変わりで、オバマ政権時の5%台と比べてもさらに低下しています。
トランプ大統領はこのような経済の好調は、自らの経済政策の結果だと豪語しています。
国内景気と並んで記録的なレベルなのが株式市場で、NYダウは2万5千ドル台、ナスダックも7千ドル台後半と青天井相場が続いています。株価指数の上昇率からいっても、トランプ大統領は、歴代政権で最も株式市場を上昇させた大統領であることは間違いありません。
●北朝鮮問題などの外交政策
外交政策でもポイントを稼いでいます。今まではトランプ大統領の外交に関しては評価が低かったのですが、北朝鮮との歴史的な会談を実現させるなど、ポイントを回復しています。
ただ北朝鮮の核の廃棄は遠いプロセスで、具体的な日程も決まっているわけではありません。中間選挙が終われば再び合意が決裂するような事態になる可能性もあります。
それでもしばらくの間はミサイルを打ち上げて挑発するような状況は起きないでしょう。この点、2017年に何度も衝突寸前にまで、緊張が高まった状況とは違ってきています。
●通商政策
日本では円高圧力を含めたトランプ政権の通商政策はネガティブに受け止められがちですが、アメリカ国内では少し違うようです。
トランプ政権は貿易不均衡の解消を目的に、中国に対して関税の引き上げという切り札を突きつけました。もちろん関税率の大幅な引き上げは、保護貿易につながりかねない懸念があります。
特に株式市場にとっては大きなリスク要因なのは違いありません。対中関税措置と株価の動きについては後述します。
マイナスに評価されているポイント
次に、トランプ大統領の政策について、ネガティブに捉えられている政策についてみていきましょう。
●移民政策
トランプ大統領がマスメディアに最も批判されているのが移民政策です。メキシコとの国境に「壁」を作るという宣言や、イスラム系の移民を制限するといったり、過激な行動が目立ちます。
閉鎖的な移民政策はアメリカの建国の理念に反する可能性があるだけに、マスメディアが一番批判しているのがこの部分です。
トランプ政権の不法移民に対する強行姿勢は変わっておらず、最近も民主党が反対するなら政府機関の閉鎖も厭わないとツイッターで発言しています。
トランプ政権の移民政策は最後まで中間選挙の論点になるでしょう。
●政府高官・閣僚への扱い
国民の評価が一番低いのがこの分野です。
世論調査では経済政策などは40~50%の支持を得ていますが、閣僚の扱いについては30%が賛成というという低い評価にとどまっています。
簡単に側近をやめさせる姿勢には批判が集まっています。
●失言・個人的スキャンダル
トランプ大統領の失言や個人的なスキャンダルは何度も問題にされてきて、これまでも支持率が大きく下がった経緯があります。
しかし、元からクリーンなイメージで売っている大統領ではないので、よほど大きなスキャンダルが新しく出てこない限りは、致命的なものになる可能性は低いでしょう。
ロシア絡みの疑惑が更に出てくるのか注目です。
対中関税措置と株価の動き~急落したタイミングが買い場に
以下のチャートは、アメリカの対中関税措置と日経平均の動きを表したチャートです。
- 3/23 対中関税措置に大統領署名 5.3兆円規模
- 6/15 301条に基づく対中関税品目を公表
- 7/6 米政府 対中制裁関税を7月6日発動 1100品目に
- 7/11 米政府 22兆円相当対象の対中関税リストを発表
一番大きな売りを招いたのが3/23に対中関税に大統領が署名した時で、円高や当時の不安定な相場も相まって、日経平均は千円近い下げを記録しました。
【日経平均 日足】
しかし、日経平均は直後に大底を打って急回復。2万3千円付近まで上昇します。
こうして見ると、中国に対する制裁的な関税引き上げの発表の直後は大きく下げていますが、それが底値となって後では大きく上昇しているケースがほとんどです。
6/15だけは下げていますが、他は発表で株価が下がったところが、絶好の「買い」のタイミングだったことがわかります。
米国の代表的株価指数である、S&P500日足ですが、2016年の大統領選挙の年から大きな上昇トレンドが続いています。
このようなトレンドが下支えになって世界の株価を上昇させているといっていいでしょう。
S&P日足
今後、米中貿易摩擦、対中関税引き上げなどの悪材料が出てきても、米国経済が好調である限り、株価の上昇トレンドは継続する可能性が高いのかもしれません。
ネガティブなシナリオも念頭に入れておく
とはいいつつも、NYダウ平均は最高値を更新しながら、かなり株価もピークアウトしてきたように思えます。
以下、1980年代前半からのNY株のチャートですが、株価も上昇の最終局面の5波動を形成したようにも思えます。
【出所:弊社作成】
もし今後、トランプ大統領の「保護主義貿易」がさらに高まり、米中間の報復関税合戦となれば、世界経済の成長率は下方修正になることも否定できません。
トランプ大統領の減税政策によって、押し上げられた米国企業の好決算とは裏腹に、米国の財政赤字はハイペースで積み上がっています。
この財政赤字はいずれ、米国民にツケを払わせることになることは、日本の例を見れば明らかです。
米国は戦後最長となる景気拡大気の過程ですが、永遠に続くことはなく、その先には必ず「景気後退期(リセッション)」を迎えることになります。
以下の図は、NYダウ平均と、米国債長短金利のスプレッド、そして景気後退期に入ったときのNYダウ平均の動きを表しています。
【出所:弊社作成】
青い銭はNYダウ平均、黄色の線は米国債長短金利スプレッドです。そして米国債長短金利スプレッドが逆ザヤになった後に、米国の景気後退入り(網掛け)になっているのが見て取れます。
現在、米国債長短金利スプレッドは、0.25%とプラスではありますが、このスプレッドは確実に縮小してきており、近い将来には「逆ザヤ」になる可能性が高いと見ています。
そうなれば米国の景気後退期に入る可能性が高まり、トランプ大統領はこれまでのような派手なパフォーマンスはできなくなるでしょう。
選挙目当てのキャンペーンは、いずれ大きな代償として米国の富裕層に襲いかかってくるかもしれません。
僕たち個人投資家は、このような感覚も持っておくべきではないでしょうか。
まとめ
トランプ氏は大統領は、株価上昇によって支えられているといって過言ではありません。したがってトランプ大統領が窮地に追い込まれるとしたら、それは株価の暴落です。
3ヵ月後に迫った米国中間選挙をめぐって、さまざまな駆け引きが行われることが想定され、民主党が議席を奪還するとの予想もあるようです。
いずれにせよ、現状の株価は綱渡り状態であるという認識は持っておいた方が良さそうです。
紫垣 英昭
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