紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
こんにちは。「投資の教養」の紫垣英昭です。
今回の記事は、1990年代後半から現在までずっと使っているテクニックをお伝えしたいと思います。
それは『裁定取引の「裁定取引残高」を使って、売買タイミングを知る方法』です。
中長期で投資をする人は、このテクニックを使うことで、かなりの確率で、日経平均株価の「天井」と「大底」を見極めることができるほど、極めて強力なテクニックです。
このテクニックを使って、あなたの株式投資を成功させていただければ本当に嬉しく思います。
※この記事で紹介している「ゴールデンチャート社」の「指標コード一覧」ですが、以前は無料で公開されていたのですが、現在は有料になっているようです。
- 裁定取引とは何かを理解することができる
- 裁定取引残高から「売買タイミング」を知ることができる
- 『株価のピークとボトムの見極め方』がわかる
裁定取引とは
あなたも「裁定取引」という言葉を耳にしたことがあると思います。
しかし、裁定取引を理解している個人投資家は少ないのではないでしょうか。
そこで、まずは「裁定取引」とは、どんな取引なのか?というところからお話していきますね。
裁定取引は、“鞘取り”です。
「裁定取引」とは、株式、FX(通貨)、債券、商品(原油、金、穀物等)市況で、金利や価格が生じている金融商品について、その“金利差、価格差”を利用して、その「利ざや」を稼ぐ売買手法です。
この「裁定取引」はあらゆる分野で成立します。
たとえば最近良く行われているのが、「せどり」という、中古本市場を活用し、利ざやを稼ぐ商売で、インターネットを最大限に活用した手法です。
「せどり」はまさに「裁定取引」
「せどり」もちろん株式取引ではありませんが、原理は同じなのでわかりやすい具体例として紹介します。
「せどり」は中古本(本だけでなく、あらゆる現物商品が対象)を対象にした「裁定取引」です。
僕は「せどり」をしたことがないので詳しくはありませんが、どのような取引が行われているのかというと、
1.対象となる中古本や、中古CD、DVDなどが、ヤフーオークション市場などでどのくらいの価格で落札されるかを事前にリサーチする。つまり、通常の流通価格を事前に掴んでおきます。
2.そして対象となる中古本や、中古CD、DVDなどが、リサーチを行った流通価格より安い値段で入手可能なものを、ブックオフなど、リサイクル店などで入手をします。
たとえばある中古本が、ヤフーオークション市場などで、1000円前後で流通していたとします。
そしてブックオフなど、リサイクル店などでこの中古本が、600円で手に入るなら、この両者に裁定が生じます。
3.600円で手に入れた中古本を、ヤフーオークション市場などで1000円で落札されれば、1000円-600円=400円が利益になるということです。
「金利差」を利用した「裁定取引」
当然「裁定取引」は、単に価格ではなく「金利差」を利用することも可能です。
一般的に良く行われるのが「不動産市場」です。
通常、不動産を購入する場合は、銀行から融資を受けて購入します。
銀行が行う不動産融資は、銀行や融資を受ける本人、不動産の信用状況によって変わると思いますが、一般的には、2%前後かと思います。
たとえば、以下の条件で、マンションを1棟買いをしようと考えます。
・物件価格:10億円
・家賃収入:1億円(満室)
だった場合、満室であれば、10%の利回りが得られることになります。(修繕費や税金など考慮せず)
では、銀行からフルローンで、10億円を、金利2%で融資を受けたとすれば、この両者の金利差に「裁定」が生じます。
この場合、借り入れの年数や返済条件などがあるので、単純に10%-2%=8%の利益にはなりませんが、条件次第では「金利差」が、そのまま利益になるということになります。
このように、株式取引だけではなく、あらゆるところで「裁定取引」が行われているのです。
裁定取引は、どの取引を指しているのか?
では今回の記事のタイトルにある『裁定取引の「裁定取引残高」を使って、売買タイミングを知る方法』での「裁定取引」とは、いったいどの取引を指しているのでしょうか?
これは、「日経平均株価」と「日経225先物」の期近物の価格差を利用した取引を指します。
「日経225先物」の期近物とは、直近限月の取引を指します。
以下の画像であれば、「日経225先物 16-09大阪」がそれにあたります。
(出所:楽天証券マーケットスピード)
この記事を書いているのは、2016年7月24日なので、「日経225先物」の期近物は、2016年9月物が、一番近い限月取引になります。
ではその価格に注目をして欲しいのですが、一番上の「日経225(日経平均株価)」の価格を見てみると、16627円25銭と表示されています。
次にすぐ下の「日経225先物 16-09」を見ると、16620円と表示されています。
では、この2つの価格を比べて見ましょう。
・日経平均株価:16627円25銭
・日経225先物16-09:16620円
この2つの価格差は、7円25銭 ということになります。
この「7円25銭」が、裁定取引をしている業者の利益ということになるのです。
通常、日経平均株価より、先物価格の方が高いのが普通です。
これは「日経225先物」の理論価格が、配当金や金利を反映しているからです。
日経平均株価より、先物価格の方が高い場合を「順ザヤ」、今回のように、日経平均株価より、先物価格の方が安い場合を「逆ザヤ」といいます。
日経225先物の基本については、以下の記事でも解説しています。リアルタイムでの動画もありますので、ぜひ一度読んでいただきたいと思います。
日経平均株価指数の裁定取引では、どのようなことが行われているのか?
この株価指数の裁定取引を行っているプレーヤーは「機関投資家」と呼ばれる大口の投資家です。
銀行、証券会社、保険会社、ヘッジファンド等がそれにあたります。
大まかに、彼らがどのような売買をするかというと、「現物買い」と「先物売り」、または「現物売り」、「先物買い」という形でポジションを組みます。
よく新聞やテレビ報道で、「先物主導で日経平均株価が上昇した」とか「裁定取引における、現物の解消売りで日経平均株価が下落した」というコメントを見聞きしたことがあると思います。
これらは「裁定取引」によるポジションのリバランスから起こります。
先々、株価上昇すると思うなら、当然「日経平均株価」を構成する、225銘柄の日経平均採用銘柄を買えば良いわけですが、ただ現物株を買うだけでは、リスクが高くなります。
よってこのリスクを“ヘッジ”するために、同量の「先物売」というポジションを同時に組むのです。
先々、株価が下落すると思うなら、この逆のポジションになるわけです。
このように、「日経平均株価」という現物価格と、「日経225先物」という先物価格の微妙な価格差を利用してこの利ザヤを得ることが、裁定取引を行う理由です。
実際には、この2つの価格だけではなく、通貨や、株価指数オプションなど、他の金融市場を使いながらかなり複雑な裁定取引が行われているのが現状です。
これが「裁定取引」の大まかな仕組みです。
この「裁定取引」の「裁定取引残高」のグラフを使って、売買タイミングを知る
ではここから「裁定取引残高」を使って、売買タイミングを知る方法をお伝えしていきましょう。
先ほどもお伝えしましたが、この記事を執筆している2016年7月時点、ゴールデンチャート社では「裁定取引残高」等が見れる「指標コード一覧」というサイトを無料公開していましたが、現在ではすべて有料プランでないと見れないようになっているようです。
ゴールデンチャート社の有料プランに加入している場合、以下のようにグラフを確認していただきたいと思います。また、エクセルデータを無料で入手する場合は、「日本取引所グループ」がデーターを公開していますので入手してみてください。
勘違いしないでいただきたいのですが、「裁定取引を利用して稼ぐ方法」をお伝えしているわけではなく、裁定取引をやっている機関投資家の動向を見て『株価のピークとボトムの見極め方』をお伝えしています。
では、これからその具体的なテクニックをお伝えしていきますね。
ゴールデンチャートの「裁定買金額合計」をクリックします。
ゴールデンチャート社の「裁定買金額合計」をクリックしてください。
(出所:ゴールデンチャート社)
グラフが表示される
「裁定買金額合計」をクリックすると以下のようなグラフが表示されます。
おそらく「裁定買金額合計」をクリックして表示されるグラフは、期間の短い状態になっています。
ただ、『株価のピークとボトムの見極め方』を分析をするときは、必ず長い期間で行う必要がありますので、以下に従って設定をしてください。
表示期間を伸ばす場合、このグラフの下の部分(グレー色)にある「月足」、「1」のボタンをそれぞれ押すことで、表示期間を伸ばすことができます。
表示期間が伸びれば、以下のようなグラフになります。
これで『裁定取引の「裁定買い残」を使って、売買タイミングを知る方法』の分析をする準備は終了です。
この「裁定買金額」から、どのように相場を読みとれば良いのか?
ではこれから、「裁定買金額」グラフで相場のピークとボトムを見極めるテクニックについてお伝えしていきたいと思います。
このグラフの意味すること
このグラフが意味することから始めていきます。
先ほど、『先々、株価上昇すると思うなら、当然「日経平均株価」を構成する、225銘柄の日経平均採用銘柄を買えば良いわけですが、ただ現物株を買うだけでは、リスクが高くなります。
よってこのリスクを“ヘッジ”するために、同量の「先物売」というポジションを同時に組むのです。
先々、株価が下落すると思うなら、この逆のポジションになるわけです。』
とお伝えしましたが、それがこの「裁定買金額」のグラフに反映されているのです。
以下のグラフをご覧ください。
2012年6月22日をボトムにその後、「裁定買金額」が増加し、グラフが上向きになっているのがお分かりいただけると思います。
日経平均株価が上昇し始めたのは、2012年11月半ば以降ですが、すでに「裁定取引」の市場では6月下旬から現物市場に買いが入っていたのです。
前年の「裁定買金額」のボトムは8572億円で、2012年のボトムはそれを上回っています。
つまり、6月下旬時点で、前年のボトムである8572億円を割り込まなかったということは、2012年6月のボトムである、1兆94億円が当面のボトムである可能性が高まります。
実際その後、裁定取引の現物買いは、2013年5月の、4兆3142億円まで積み上がることになります。
しかし2013年5月25日をピークに、日経平均株価はその後、急落することになります。
「裁定買金額」のグラフをみると同じように、5月17日をピークに急落しているのがお分かりいただけます。
しかし、2013年6月14日に「裁定買金額」は、2兆6500億円をボトムに再び上昇していきます。
日経平均株価は、6月15日に付けた安値1万2415円をボトムに再び上昇していくのです。
このように裁定取引市場で、現物買いが起これば、日経平均株価は上昇しやすくなり、逆に裁定取引市場で、解消売りが起これば、、日経平均株価は下落しやすくなるのが通常の動きです。
裁定取引のグラフと、日経平均株価は必ずしも一致しない
では、「裁定買金額」のグラフと、日経平均株価が一致するかといえばそうではありません。
日経平均株価は株価指数ですが、「裁定買金額」は合計金額をグラフにしたものであり、この二つの指標は、まったくの別物だからです。
「裁定買金額」は、2013年5月をピークに、上下させながら減少傾向にありますが、日経平均株価は、2015年6月が高値のピークになっています。
当然、違う性格の指標なので、一致するわけはありません。
しかしながら、先ほどお伝えしたように、「裁定買金額」が減少するということは、先々株価が上昇すると思っている人がだんだん少なくなっていることを意味し、現物買いが衰えてくれば、株価下落の可能性が高まってくるのです。
上手く例えられるかわかりませんが、これをダイエットにして考えてみると、「摂取カロリー」と「体重」は必ずしも一致しない。
ということでしょうか・・・。
そして、2016年1月から、「裁定買金額」は急減します。
同じように日経平均株価が暴落をしたことは、記憶に新しいことでしょう。
2016年7月現在、「裁定買金額」は、1兆円を大きく割り込み、6000億円近くまで落ち込みました。
今後、株価指数が上昇するためには、1兆円ラインを維持し、上昇に転じなくてはなりません。
よって当面は、株価下落を想定しておく必要があるというのが僕の見方です。
このように両者の関係は、必ずしも一致はしないものの、株価指数の先行きを占う先行指標として僕は20年以上活用しています。
まとめ
今回は「裁定取引」という少し難しいテーマでお話しました。
この「裁定買金額」は週一回データが更新されるのですが、僕は常にこの数字を見ています。
このグラフの形状が、上昇しているか?下落しているか?を見ながら、金利、為替、国内外の経済指標の数字を併せながら先行きの株価が上がるのか?下がるのか?を分析します。
そうやって分析していくと、中期的な株価はほぼピンポイントで的中します。
ぜひあなたも、この「裁定買金額」のグラフを使って株価分析をしていただければ、これまでと違った見方ができるようになるはずです。
それと、「個人投資家として生活するために」という視点で音声を公開しています。
これまでに公開した音声は以下になりますので、まだ聞いていない人には強くオススメします。
紫垣 英昭
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