過去の解散総選挙と株価の関係を徹底検証!衆議院選挙に向けて株価は上がりやすい?

執筆者
プロフィール写真

紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

岸田総理は内閣改造を行い、2023年9月13日には第2次岸田第2次改造内閣が発足しましたが、解散総選挙の可能性もささやかれています。

解散から総選挙までの期間中には、日経平均株価は高確率で上昇しているデータがあるなど、選挙は株式市場にとっても重要なイベントです。

岸田政権は、物価高対策や防衛・少子化・エネルギー政策などに直面しており、日銀の金融政策の出口戦略についても注目されてきそうです。

この記事では、解散総選挙(衆議院選挙)と株価の関係について検証した上で、岸田政権が解散総選挙に踏み切った場合の注目ポイントや注目テーマ株について解説していきます。

この記事を読んで得られること
  • 解散総選挙(衆議院選挙)と株価の関係について検証できる
  • 岸田政権が解散総選挙に踏み切った場合の注目ポイントがわかる
  • 岸田政権が解散総選挙に踏み切った場合の注目テーマ株がチャート付きで学べる

岸田政権は解散総選挙の可能性もささやかれている

岸田政権と解散総選挙の可能性について見ていきましょう。

2023年9月13日 第2次岸田第2次改造内閣が発足した

岸田総理は2023年9月13日、内閣改造と自民党役員人事を行い、第2次岸田第2次改造内閣が発足しました。

今回の内閣改造では、初入閣が11名、女性閣僚が過去最多の5名となり、安定感ある陣容を意識したものと指摘されています。

派閥別に見ると、安倍派4人、麻生派4人、茂木派3人、岸田派2人、二階派2人、谷垣グループ1人、無派閥2人、公明党1人と、派閥のバランスや安定感に配慮したことがうかがえます。

一方、茂木敏充幹事長や萩生田光一政調会長、松野博一官房長官、鈴木俊一財務大臣、西村康稔経産大臣といった政権の主要人事は留任となっており、政権の安定感も重視した格好です。

今後、10月中旬に臨時国会を召集する方針となっており、物価高対策などを盛り込んだ経済対策を実施するものと見られますが、補正予算案成立後に解散する「秋解散」の可能性もゼロではありません。

2024年以降の政治日程

2024年以降の政治日程を見てみると、今回の内閣改造の狙いも見えてきそうです。

2024年9月には自民党総裁選が控えており、衆議院の任期は2025年10月となっています。

岸田政権が長期政権となるためには、総裁選の前に衆議院を解散し、解散総選挙で勝ってから自民党総裁選で再選されるというシナリオが考えられます。

2023年秋の解散はなくとも、1年後に控える自民党総裁選までの間に解散総選挙となる可能性は小さくなさそうです。

岸田政権の支持率低迷から早期解散の可能性も

各メディアの世論調査によると、岸田政権の支持率はやや低迷が続いていると言えます。

NHK世論調査による、直近の2023年9月の内閣支持率は36%、不支持は43%となっています。

内閣支持率

※出典:NHK「内閣支持率」

岸田政権の支持率は、2022年8月以降に急落し、以降は不支持率と拮抗する形となっています。

2023年には、岸田総理の地元で行われた「G7広島サミット」の影響で一時盛り返したものの、マイナンバートラブルや増税などで再び支持率は不支持率を下回る状況となっています。

ただ、見方によっては、岸田政権への支持率は下げ止まったとも見られており、今後盛り返しの動きがあるかどうかです。

岸田政権の支持率は低迷している一方で、政党支持率で見てみると自民党は安定しています。

政党支持率

※出典:NHK「内閣支持率」

2023年9月時点で、自民党の政党支持率は34.1%となっており、立憲民主党の4.0%、日本維新の会の5.8%と比較しても高い水準です。

自民党の支持率は、岸田内閣発足後では最も低い水準となっているものの、少なくとも野党に第一党を奪還される状況ではありません。

自民党の安定した政権支持率を基盤に、早期解散の可能性も考えられます。

過去の解散総選挙(衆議院選挙)で株価はどうなっていたかを検証!

衆議院選挙は、1979年の第35回衆議院選挙以降は、その全てが解散総選挙からの実施となっています。

直近30年間の、解散総選挙と日経平均株価の関係を見てみると、解散から総選挙までの間に株価が上がりやすいことが分かります。

解散~総選挙日

解散前の日経平均株価

総選挙前の日経平均株価

騰落率

1993年6月18日~7月18日

19,926円

20,332円

+2.0%

1996年9月27日~10月20日

21,461円

21,612円

+0.7%

2000年6月2日~6月25日

16,694円

16,963円

+1.6%

2003年10月10日~11月9日

10,531円

10,629円

+0.9%

2005年8月8日~9月11日

11,766円

12,692円

+7.9%

2009年7月21日~8月30日

9,395円

10,534円

+12.1%

2012年11月16日~12月16日

8,830円

9,738円

+10.3%

2014年11月21日~12月14日

17,301円

17,372円

+0.4%

2017年9月28日~10月22日

20,267円

21,458円

+5.9%

2021年10月14日~10月31日

28,550円

28,903円

+1.2%

直近30年間では、10回の衆議院選挙全てで、日経平均株価は、解散から総選挙前に向けて上がっていたことが分かります。

特に、郵政解散となった2005年、民主党が政権交代を果たした2009年、自民党への政権交代となりアベノミクス前夜となった2012年には大きな上昇となりました。

直近5回の解散総選挙(衆議院選挙)で、日経平均株価はどのようになっていたのかを詳しく見ていきましょう。

2009年 第45回衆議院選挙

2009年7月21日解散、2009年8月30日に行われた第45回衆議院選挙では、民主党が第1党となり政権交代を果たした、日本の政治においても歴史的な選挙となりました。

日経平均株価の週足チャート(2009年7月~)

日経平均株価は、政権交代への期待もあり、解散総選挙期間中は大きく上昇となりました。

ただ、政権交代はしたものの、日本経済は民主党政権下で超円高に悩まされることになり、日経平均株価は低迷していくことになります。

2012年 第46回衆議院選挙

2012年11月16日解散、2012年12月16日に行われた第46回衆議院選挙は、自民党が第1党に返り咲き、第二次安倍政権の長期政権およびアベノミクスが始まることになりました。

株式市場にとっても、民主党政権下で低迷していた株価が長期的な上昇トレンドの始まりとなったことから、株価のターニングポイントとなった非常に重要な選挙です。

日経平均株価の週足チャート(2012年11月~)

8,000円台で低迷していた日経平均株価は、2012年11月16日の解散直後から買われていき、アベノミクス相場の始まりとなりました。

日経平均株価は、ここから10年で約4倍以上となっています。

2014年 第47回衆議院選挙

2014年11月21日解散、2014年12月14日に行われた第47回衆議院選挙は、「アベノミクス解散」とも呼ばれます。

2014年4月に8%に引き上げられた消費税の、10%への再引き上げを2015年10月から2017年4月に先送りする判断について、国民の信を問うための解散となりました。

日経平均株価の週足チャート(2014年12月~)

選挙期間が短かったこともあり、解散総選挙期間中には日経平均はほぼ横ばいとなりました。

また、2014年10月末に日銀が追加の金融緩和(「ハロウィン緩和」とも呼ばれることもあります)を実施したことで、日経平均が上がっていたため、その調整期間になっていたとも言えます。

2014年はアベノミクス相場の調整局面の横ばいとなっていましたが、自民党が再び大勝したこともあり、2015年以降の上昇のきっかけの一つになったと言えるでしょう。

2017年 第48回衆議院選挙

2017年9月28日解散、2017年10月22日に行われた第48回衆議院選挙は、平成最後の国政選挙や18歳選挙権導入後初の衆議院選挙ということでも話題になりました。

国難突破解散とされ、第3次安倍第3次改造内閣の自民党が再び大勝しました。

日経平均株価の週足チャート(2017年9月~)

日経平均株価は、解散総選挙期間中に約5%の上昇となり、2018年初めまで続いた上昇トレンドの初動の動きとなりました。

2021年 第49回衆議院選挙

2021年10月14日解散、2021年10月31日に行われた第49回衆議院選挙は、令和への改元後では初の総選挙となり、自民党総裁選も同時に注目されることになりました。

菅前総理が総裁選への不出馬を表明し、岸田文雄氏が9月29日の自民党総裁選で勝利、10月14日に衆議院が解散され、即座に岸田氏への信を問う選挙となりました。

日経平均株価の週足チャート(2021年10月~)

自民党は15議席減らしたものの、261議席を獲得して大勝。

ただ、岸田氏は「新しい資本主義」のもとで金融増税や自社株買い規制を主張するなど、株式市場にとってはネガティブなイメージが漂っており、株価の反応もややネガティブなものになっていたと言えます。

岸田氏の金融増税や自社株買い規制は凍結されており、むしろ新NISA拡充という投資家にとってメリットがある政策を実施していますが、この当時の株式市場ではもろ手を挙げて歓迎されていたとは言えませんでした。

岸田政権が解散総選挙に踏み切った場合の注目ポイントや注目銘柄

過去の実績を見ると、解散から総選挙実施までの期間中には日経平均株価は高確率で上昇しており、直近30年間は全てで上昇となっています。

今後、岸田政権が解散総選挙に踏み切った場合の注目ポイントや注目銘柄について押さえておきましょう。

選挙関連銘柄は選挙のたびに買われやすい

選挙前に物色されやすい「選挙関連銘柄」は、解散総選挙でも注目のテーマ株です。

選挙関連銘柄としては、選挙用ハガキメーカーや投票機器メーカー、世論調査を実施する企業など、選挙の実施を受けて潤う中小株が挙げられます。

最も代表的な選挙関連銘柄として、投票用機器で国内トップシェアを誇る【7521】ムサシは必ず押さえておきましょう。

【7521】ムサシの月足チャート

ムサシは、衆議院選挙実施前の2017年9月に大きな上ヒゲを出しており、2020年8月には安倍総理の辞任を受けて早期の解散総選挙が期待されたことから大きく買われました。

そして、直近の2023年9月にも、岸田改造内閣を受けて解散総選挙の可能性が出てきたことから、出来高を伴って買われています。

この他の選挙関連銘柄としては、封筒最大手の【3955】イムラ封筒、投票用紙自動交付機を手掛けている【6457】グローリーなどが挙げられます。

日銀の金融政策の出口戦略も注目される

2023年4月から植田新総裁に代わった日銀の金融政策は、今後は政治の動きに合わせて注目されるテーマです。

特に、岸田政権は物価高対策を重要課題として掲げており、有権者が求める政策としても物価高対策はトップとなっています。

2023年7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比+3.1%となっており、日本でもインフレが定着しつつある状況です。

現在の物価高は、円安による影響が大きく、日銀はYCC(イールド・カーブ・コントロール)の上限を0.5%から1.0%に緩和しましたが、円安は止まらない状況です。

植田新総裁は、年末にもマイナス金利の解除という、本格的な利上げを意識した発言をしたことがマーケットでも注目されています。

利上げは株式市場にとって痛手となりますが、銀行や保険といった金利上昇メリット関連銘柄は利上げ期待から大きく上昇しています。

【8306】三菱UFJフィナンシャル・グループの月足チャート

日銀の金融政策は、株式市場にも非常に大きな影響があるため、岸田政権の物価高対策とあわせて注目しておきましょう。

防衛や少子化、エネルギー政策など重要テーマを押さえておこう

岸田政権は、防衛や少子化対策、エネルギー政策など多くの課題に直面していますが、これらのテーマは株式市場でも注目されるテーマです。

2022年ウクライナ情勢を受けて、防衛費倍増議論がさかんになっていますが、防衛省向けに多くの装備を提供している重工業大手3社(【7011】三菱重工業・【7012】川崎重工業・【7013】IHI)は、この1年で株価が倍増しました。

【7011】三菱重工業の月足チャート

エネルギー政策では、原発再稼働が注目されており、また2023年8月24日から始まった福島第一原発の処理水放出では、中国が大きく反発しており外交面でも注目のテーマです。

岸田政権は、原発再稼働などの原発政策に注力しており、稼働できる原発を全て稼働した【9503】関西電力は大きく買われています。

【9503】関西電力の月足チャート

異次元の少子化対策関連では、子育て支援関連銘柄が一時的に物色されるなどしていますが、特に目立った銘柄もなく、株式市場も大きく期待はしていないようです。

「政策に売りなし」という相場格言があるように、今後も政府が重点的に取り組む政策に関するニュースは要チェックしておきましょう。

まとめ

この記事では、解散総選挙(衆議院選挙)と株価の関係について検証した上で、岸田政権が解散総選挙に踏み切った場合の注目ポイントや注目テーマ株について解説してきました。

過去の解散総選挙と株価の関係を見てみると、解散から総選挙までの期間中には、日経平均株価は高確率で上がる傾向があることが分かります。

2023年秋の早期解散はなくとも、2024年9月には自民党総裁選が控えており、衆議院の任期は2025年10月となっていることから、自民党総裁選をにらんで解散があってもおかしくなさそうです。

解散総選挙となった場合には、選挙で注目されやすい選挙関連銘柄はもちろん、物価高対策や防衛・少子化・エネルギー政策といった岸田政権の重要テーマに注目です。

特に、物価高対策は国民が政治に最も要望するトピックとなっており、円安対策も含めて、日銀の金融政策の出口戦略についても重要なテーマになってきそうです。

紫垣 英昭