紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
脱炭素が株式市場で注目テーマとなる中、アンモニアが脱炭素の切り札として大きな脚光を浴びつつあります。
政府は、2019年時点で年間108万トンのアンモニア利用量を、2030年までに年間300万トン、2050年までに年間3,000万トンにするというインパクトのある目標を発表しました。
脱炭素テーマ株が大きく買われる中で、アンモニア関連銘柄はまだそこまで大きな上昇となっていないことから、出遅れ株として大きく上げることが期待できるかもしれません。
今回は、アンモニアが脱炭素の切り札として注目を集める背景について解説した上で、代表的なアンモニア関連銘柄をチャート付きでご紹介していきます。
- アンモニアが脱炭素の切り札として注目を集める背景についてわかる
- 代表的なアンモニア関連銘柄をチャート付きでわかる
- 他のテーマ株と比べて、アンモニア関連銘柄の上昇率の状況がわかる
脱炭素の切り札としてアンモニアが注目を集めている
世界的な脱炭素の流れを受けて、日本でも2050年までに温室効果ガスの排出ゼロを目指すことを発表していますが、アンモニアが脱炭素の切り札になるかもしれません。
アンモニアは、刺激臭が特徴の無色の気体です。
工業的には肥料原料として活用されており、アンモニアから肥料を生成できるようになった「ハーバー・ボッシュ法」は、20世紀最大の発明の一つとされ、食料生産に革命的な進歩を及ぼしたことで知られています。
今回アンモニアが注目されるのは肥料としてではなく、エネルギーとしての活用です。
アンモニアをエネルギーとして使う利点は、燃焼しても温室効果ガス(二酸化炭素)を発生させないことが挙げられます。
また、アンモニアは水素を含む化合物であるため、水素輸送に使えることもメリットです。
一方、アンモニアのデメリットとしては、液化天然ガス(LNG)などに比べるとコストが高いことが挙げられます。
また、アンモニアを燃焼しても二酸化炭素は排出しない代わりに、有害な窒素化合物(NOx)を排出することはネックです。
経済産業省は2021年2月8日、「燃料アンモニア導入官民協議会」を開き、この中でアンモニアを燃料活用するためのロードマップを発表しました。
このロードマップでは、石炭火力発電や船舶での利用を中心にアンモニアを導入し、2030年までに年間300万トン、2050年までに年間3,000万トンのアンモニア利用を進める方針が示されました。
2019年の国内アンモニア利用量は約108万トンであることから、いかにインパクトのある数値目標であるかが分かります。
アンモニア関連銘柄は脱炭素テーマ株として急騰する?
アンモニア関連銘柄は、2020年秋から大きく買われている脱炭素テーマ株の一角として注目されることが期待されます。
脱炭素テーマ株は2020年秋から急騰している
2020年秋には、アメリカのバイデン氏がパリ協定への復帰やクリーンエネルギー投資などの環境政策を目玉に掲げて大統領選を勝ち抜き、世界中でガソリン車から電気自動車(EV)への転換を進めるEVシフトが加速するなど、世界的な脱炭素の動きが強まりました。
株式市場においても脱炭素は最注目テーマの一つとなり、EV関連銘柄、太陽光発電や洋上風力発電などの再生可能エネルギー関連銘柄、水素関連銘柄などが大きく買われることになりました。
EVシフトでモーター特需が期待される【6594】日本電産、再生可能エネルギー企業の【9519】レノバ、国内で水素トップシェアを誇る【8088】岩谷産業などはマーケットをけん引する主力銘柄となり、「EV相場」や「再生エネ相場」、「水素相場」などと言われる相場展開に。
太陽光発電を手掛ける【3856】Abalance、自動車用点火コイル大手でEV関連銘柄としても注目される【6699】ダイヤモンドエレクトリックホールディングスの2銘柄は年間10倍のテンバガーを達成するに至りました。
【3856】Abalanceの月足チャート
【6699】ダイヤモンドエレクトリックホールディングスの月足チャート
脱炭素は2020年秋以降、マーケット全体をけん引する注目テーマとなっていますが、これは世界的トレンドであるため、今後も引き続き注目テーマ株であることが期待されます。
アンモニア関連銘柄はまだ大きく上げていない
脱炭素テーマ株として注目を集めるEV関連銘柄、再生可能エネルギー関連銘柄、水素関連銘柄は、ほぼ全ての銘柄が急騰してしまったため、2021年には調整局面に入りつつあります。
一方、アンモニア関連銘柄が大きく注目されるようになったのは、2021年2月8日に経済産業省が開いた「燃料アンモニア導入官民協議会」がきっかけです。
このニュースを機に、経済新聞や経済ニュースがさかんにアンモニアを取り上げるようになりました。
ただ、アンモニア関連銘柄自体は、2021年3月3日時点では、まだそこまで大きく上げていません。
マーケットはEV・再生可能エネルギー・水素に比べるとアンモニアには期待していないのか、もしくはこれから上げていくのかは未知数です。
アンモニア関連銘柄10選!
アンモニア関連銘柄として注目される銘柄を見ていきましょう。
【6378】木村化工機
化学プラントメーカーの【6378】木村化工機は、澤藤電機と共同で、低濃度アンモニア水から燃料電池発電に使える高純度水素の製造に成功したことを発表しているアンモニア関連銘柄です。
また同社は、産廃などのリサイクルの過程でアンモニアを回収する装置も手掛けています。
【6378】木村化工機の月足チャート
木村化工機は、アンモニアが注目された2021年2月に大きく買われました。
同社は火力発電用のアンモニアを手掛けていることもあり、2020年秋の環境相場の時点から反発していたことが分かります。
【6901】澤藤電機
日野自動車系のトラック電装品メーカー【6901】澤藤電機は、木村化工機と共同で、低濃度アンモニア水から燃料電池発電に使える高純度水素の製造に成功したことを発表。
注目のアンモニア関連銘柄です。
【6901】澤藤電機の月足チャート
澤藤電機の株価は、木村化工機ほどではありませんが、アンモニアが注目された直近の2021年2月に上げていることが分かります。
【1964】中外炉工業
工業炉最大手の【1964】中外炉工業は、2020年8月に化石燃料なしでアンモニアを燃焼させる技術を開発したと発表したことから、アンモニア関連銘柄に位置付けられています。
【1964】中外炉工業の月足チャート
中外炉工業の株価は、アンモニアが注目された直近の2021年2月から3月に掛けて大きく反発しています。
アンモニア関連銘柄として買われていると見てよいでしょう。
【4021】日産化学
工業薬品や半導体材料に強みを持つ化学メーカー【4021】日産化学は、富山工場でアンモニア生産を手掛けており、アンモニア関連銘柄に位置付けられます。
【4021】日産化学の月足チャート
日産化学の株価は、この1年で上昇しています。
これはコロナ禍でも強い半導体関連で物色されたと見てよいでしょう。
ただ、アンモニアが注目を集めた直近の2021年2月には一時上げたものの、上ヒゲ陰線となって下げています。
【4183】三井化学
総合化学王手の【4183】三井化学は、大阪工場でアンモニアを生産していることで知られるアンモニア関連銘柄です。
【4183】三井化学の月足チャート
三井化学の株価は、この1年で反発となっており、アンモニアが注目された直近の2021年2月~3月に掛けても買われていることが分かります。
【4004】昭和電工
アルミや黒鉛電極に強い総合化学企業の【4004】昭和電工は、川崎工場でアンモニア生産を行うアンモニア関連銘柄です。
【4004】昭和電工の月足チャート
昭和電工の株価は、長期的には苦しい展開となっていますが、アンモニアが注目された直近ではやや上げています。
【4208】宇部興産
ナイロン原料に強い総合化学メーカーの【4208】宇部興産は、傘下にアンモニア専業の宇部アンモニア工業を持つアンモニア関連銘柄です。
【4208】宇部興産の月足チャート
宇部興産の株価は長期的には厳しい展開ですが、アンモニアが注目された直近の2021年2月以降は反発しています。
【7013】IHI
総合重機大手の【7013】IHIは、東北大学と共同で、高温旋回空気流を用いて液体アンモニア噴霧を安定燃焼させることに成功するなど、アンモニアに積極的な企業として知られます。
また同社は、世界最大の原油企業サウジアラムコが進めているブルーアンモニアのサプライチェーン実証試験に協力したことも発表しています。
【7013】IHIの月足チャート
IHIの株価は長期的には厳しい展開となっていますが、直近ではやや反発となっています。
【8001】伊藤忠商事
総合商社大手の【8001】伊藤忠商事は、2020年12月に東シベリア-日本間のアンモニアバリューチェーンに関する共同事業化調査を実施することに合意したことを発表しています。
【8001】伊藤忠商事の月足チャート
伊藤忠商事の株価は強く、商社株の中では屈指の成長株です。アンモニアが注目された直近の2021年2月以降も上昇となっています。
【4005】住友化学
総合化学大手の【4005】住友化学は、2020年10月16日、上田博副社長が水素供給でアンモニアを積極利用する方針を示すなど、アンモニア関連銘柄に位置付けられます。
【4005】住友化学の月足チャート
住友化学の株価は、直近では反発気味の推移となっています。
まとめ
今回は、アンモニアが脱炭素の切り札として注目を集める背景について解説した上で、代表的なアンモニア関連銘柄をチャート付きでご紹介してきました。
日本政府は、2019年に年間108万トンのアンモニア利用量を、2030年までに年間300万トン、2050年までに年間3,000万トン導入するというインパクトのある目標を発表しています。
ただ、アンモニア関連銘柄は、EVや再生可能エネルギー、水素といった主要な脱炭素テーマ株に比べると大きく買われてはいません。
【6378】木村化工機や【1964】中外炉工業などはアンモニア関連銘柄として買われていますが、EV・再生可能エネルギー・水素の主力銘柄と比べると上昇率は一桁小さい状況です。
今後、アンモニア関連銘柄がマーケットで注目される脱炭素テーマ株になるかどうかは未知数ですが、少なくとも押さえておいて損はないでしょう。
紫垣 英昭
この記事が気に入ったら
いいねしよう!
最新記事をお届けします。