インバウンド関連銘柄は外国人観光客の受け入れ緩和で期待大!円安メリット株としても注目

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

日本のインバウンド(外国人観光客)は2010年代に約4倍もの成長を遂げ、日本経済の成長エンジンの一つとなっていましたが、新型コロナの影響で壊滅状態となってしまいました。

日本政府は、2022年6月に外国人観光客の入国を再開する方針と報じられており、大きく売られている状況が続くインバウンド関連銘柄が大反発となる展開も期待されます。

さらに、2022年には米国利上げなどによって急激な円安となっていることも、インバウンド再開に追い風です。

今回は、インバウンド関連銘柄の概要や訪日外国人観光客の推移、政府の水際対策緩和のニュースについて解説した上で、代表的なインバウンド関連銘柄についてご紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • インバウンド関連銘柄の概要や訪日外国人観光客の推移がわかる
  • 政府の水際対策緩和のニュースについて学べる
  • 代表的なインバウンド関連銘柄がわかる

インバウンド関連銘柄とは?

インバウンド(inbound)とは、訪日外国人観光客を指す観光用語です。

訪日外国人観光客の推移やインバウンド関連銘柄の概要について押さえておきましょう。

訪日外国人観光客は2010年代に4倍弱となった

日本のインバウンド(訪日外国人観光客)は、2010年代に急成長しました。

次のグラフは、日本政府観光局(JNTO)が発表している訪日外国人観光客の直近15年分の推移チャートとなります。

訪日外国人観光客の推移

※出典:日本政府観光局(JNTO)「国籍/月別 訪日外客数(2003年~2022年)」

訪日外国人観光客は、2000年代後半から2010年に掛けては800万人前後で推移しており、2010年には861万人でした。

アベノミクスで円安が進み、格安航空会社(LCC)が就航拡大したことなどもあり2013年以降に急激に増加していき、2019年には3,188万人となりました。

日本のインバウンドは2010年から2019年の10年で4倍弱となり、日本経済をけん引する成長産業の一つとなっていたことは間違いありません。

特に、2010年代においてインバウンドをけん引したのは中国人観光客で、2015年には「爆買い」が流行語大賞にも選ばれています。

インバウンド消費のトレンドは、2014年からの家電や化粧品などの「爆買い」から、2016年にはレジャーやイベントなどの「コト・体験消費」に変化していったとされます。

政府は、東京オリンピックが開催される2020年には外国人観光客4,000万人を目標に掲げ、マーケットでも注目トレンドの一つとなっていましたが、新型コロナで壊滅状態となってしまいました。

インバウンド関連銘柄は新型コロナで大きな打撃を受けた

インバウンド関連銘柄とは、インバウンド消費で恩恵を受ける銘柄を総称したテーマ株です。

具体的には、航空会社やホテル、外国人観光客に人気の百貨店や化粧品、翻訳事業、免税店などを手掛ける銘柄が挙げられます。

ただ、インバウンド関連銘柄は新型コロナの影響を最も大きく受けたセクターの一つとなっており、2022年5月時点においても、ほとんどの銘柄がコロナショック前の株価水準を取り戻せていません。

新型コロナ相場では株式市場全体が大きく買われましたが、インバウンド関連銘柄は一人負けが続いている状態とも言えます。

旅行株などは、「Go Toキャンペーン」による思惑から一時大きく反発しましたが、インバウンドや海外旅行が解禁されていない影響は残ったままです。

2021年には、新型コロナで消費が抑えられた反動で買われる「アフターコロナ関連株」として旅行や観光を手掛ける銘柄は注目されましたが、やはり国内需要の回復だけではコロナ前の水準を取り戻すのが難しいのが実態です。

インバウンド関連銘柄の中には一方的に売られ過ぎている銘柄もあると考えられるため、訪日外国人観光客の受け入れが本格的に再開されれば、急反発することも期待されます。

外国人観光客の受け入れ緩和でインバウンド関連銘柄は大反発期待!

世界的にコロナ緩和が進む中で、日本でも外国人観光客の受け入れ緩和の方針が伝えられています。

政府は外国人観光客を2022年6月にも入国再開の方針

2022年には世界的に新型コロナ緩和が進んでおり、海外旅行を解禁する国も続々と出てきています。

オミクロン株など新たな変異株の出現は懸念されますが、海外が続々とコロナ緩和に動く中で日本だけ“鎖国”を続けることは、外国人観光客の需要を逃してしまう経済リスクが懸念されます。

岸田首相は2022年5月5日、イギリスで行った講演の中で、主要7カ国(G7)並みに円滑な入国が可能となるよう水際対策を緩和すると話しました。

さらに、日経新聞が5月6日に報じた「外国人観光客、6月にも入国再開 まず団体客で政府検討」によると、政府は6月にも外国人観光客の新規受け入れを再開する調整に入ったとのことです。

ゴールデンウィーク明けから2週間ほどのコロナ感染状況を見極めた上で、まずは旅行会社などが管理しやすい団体旅行から認める案が検討されており、月内にも方針を決めるようです。

また、入国者数の上限も、現在の1日1万人から2万人に枠を広げる方針とされています

入国者数の上限は残り、まだ新型コロナへの警戒感は強く、日本の訪日外国人観光客をけん引した中国ではロックダウンが行われているなど、外国人観光客の水準はすぐにはコロナ前の水準には戻らないと思われます。

ただ、インバウンド解禁の道筋が付くことはマーケットでは大きな材料として受け止められ、インデックス関連銘柄に買い戻しの動きが出てくることが期待できます。

急激に進む円安もインバウンド復活に追い風となる

2022年に入ってから急激に進む円安も、インバウンド復活に向けて追い風となります。

2022年には、米国利上げや資源高による貿易赤字拡大などの影響から、円安が急激に進行しています。

ドル円チャートの月足チャート

ドル円相場は、2015年に付けた1ドル125円を突破し、ついに1ドル131円台に突入しつつあります。

米国が利上げに向かう一方で、国債を大量発行している日銀は利上げできないことから、日米の金利差が拡大し続けていることが要因の一つです。

今回の円安は、悪性インフレ(スタグフレーション)に繋がることも懸念されており、日本株は売られる傾向が目立つなど、株式市場で好感されている円安とは言い難い状況です。

ただ、円安が進めば、外国人観光客にとっては日本の物価がより安くなることから日本が観光先として選ばれやすくなるため、インバウンド解禁の流れにおいては追い風になると考えられます。

インバウンド関連銘柄10選!

インバウンド解禁や円安進行の流れを受けての反発が期待される、代表的なインバウンド関連銘柄を押さえておきましょう。

【9202】ANAホールディングス

航空会社最大手の【9202】ANAホールディングスは、東証を代表するインバウンド関連銘柄ですが、大型株の中では新型コロナで最も大きな打撃を受けた銘柄の一つとなっています。

【9202】ANAホールディングスの月足チャート

ANAホールディングスの株価は、2020年3月のコロナショック以降は安値圏での停滞が続いています。

なお、ANAと並ぶ航空大手【9201】JALも同様の値動きとなっています。

【9706】日本空港ビルデング

羽田空港を運営する【9706】日本空港ビルデングは、外国人観光客の受け入れ再開で反発が期待されるインバウンド関連銘柄です。

羽田空港には、2019年には428万人の訪日外国人が入国しており、これは全空港・港湾中3位となっています。

【9706】日本空港ビルデングの月足チャート

日本空港ビルデングの株価は、2016年以降は長らく横ばいが続いており、業績では新型コロナの影響を大きく受けたものの、株価への影響はほとんどなかったと言えます。

【9603】エイチ・アイ・エス

旅行会社大手の【9603】エイチ・アイ・エスは、代表的な旅行株であり、インバウンド関連銘柄にも位置付けられる銘柄です。

【9603】エイチ・アイ・エスの月足チャート

エイチ・アイ・エスの株価は、2020年3月のコロナショック時には大暴落となりましたが、2020年夏以降は「Go Toキャンペーン」で注目されたこともあり、やや反発しています。

【6561】HANATOUR JAPAN

インバウンド向け旅行業を手掛ける【6561】HANATOUR JAPANは、旅行株の中でもインバウンドに特化した銘柄として知られています。

なお、同社は、韓国の大手旅行会社「ハナツアー」の日本法人です。

【6561】HANATOUR JAPANの月足チャート

HANATOUR JAPANの株価は、長期で見ると低迷していますが、岸田総理がインバウンド解禁をイギリスで表明したことなどを受けて2022年5月には反発しています。

【9722】藤田観光

ワシントンホテルや椿山荘、小涌園などを運営する【9722】藤田観光は、代表的なホテル株であり、インバウンド関連銘柄にも位置付けられる銘柄です。

【9722】藤田観光の月足チャート

藤田観光の株価は、長期的に低迷しており、コロナ前の水準はまだ取り戻せていないものの、アフターコロナ株の一角として2021年には買い戻されたことが分かります。

【9713】ロイヤルホテル

高級ホテル「リーガロイヤル」を展開する【9713】ロイヤルホテルは、外国人観光客に人気のホテルとして知られており、インバウンド関連銘柄の一角です。

【9713】ロイヤルホテルの月足チャート

ロイヤルホテルの株価は、長期的に厳しい値動きとなっており、コロナショック以降も安値圏で推移しています。

【4344】ソースネクスト

自動翻訳機「ポケトーク」を手掛けていることで知られるシステム開発会社の【4344】ソースネクストは、新型コロナ相場で最も大きく売られた銘柄の一つとなっており、インバウンド解禁による反発が期待されます。

自動翻訳機「ポケトーク」は、AI通訳機の代名詞的な製品となっており、外国人観光客が増えることで需要増が期待される製品です。

【4344】ソースネクストの月足チャート

ソースネクストの株価は下落が止まらず、ついに100円台の低位株水準になってしまいました。

【8233】高島屋

百貨店大手の【8233】高島屋は、外国人観光客に人気のインバウンド関連銘柄です。

同社は、インバウンド消費が消失してしまったことで2021年には赤字決算となりましたが、業績は回復してきています。

【8233】高島屋の月足チャート

高島屋の株価は、衰退セクターの百貨店ということもあり長期的には低迷となっていますが、かろうじてコロナショック前の水準は取り戻せそうです。

【4911】資生堂

日本の化粧品は、外国人観光客に人気の商品となっており、インバウンド消費をけん引するセクターとなっています。

化粧品大手の【4911】資生堂や【4922】コーセー、【4927】ポーラ・オルビスホールディングスなどは、新型コロナによる化粧需要の減少やインバウンド消失を受けて業績・株価ともにすぐれません。

【4911】資生堂の月足チャート

化粧品各社の株価は、コロナ前までは好調だったことから長期チャートで見ると高値圏ではありますが、新型コロナ相場では横ばいからの下落基調となっています。

【7031】インバウンドテック

多言語・通訳総合ソリューションサービスを提供する【7031】インバウンドテックは、翻訳に強い新興のインバウンド関連銘柄です。

同社は、上場したのは2020年12月と、インバウンド関連銘柄の中では新しい銘柄となっています。

【7031】インバウンドテックの月足チャート

インバウンドテックの株価は、2022年5月時点では“IPOゴール”になってしまっていると言わざるを得ません。

まとめ

今回は、インバウンド関連銘柄の概要や訪日外国人観光客の推移、政府の水際対策緩和のニュースについて解説した上で、代表的なインバウンド関連銘柄についてご紹介してきました。

インバウンド関連銘柄は、東京オリンピックによる外国人観光客4,000万人効果が期待されていましたが、新型コロナの打撃を最も受けたテーマ株・セクターとなってしまいました。

日本はコロナ緩和で海外に比べて遅れが指摘され始めていますが、2022年6月に外国人観光客の入国を再開する方針であることが伝えられています。

また、2022年には円安が急激に進んでいることも、インバウンド解禁に向けて追い風です。

インバウンド関連銘柄は新型コロナで大きく売られて停滞しているだけに、インバウンド再開の動きは注目トレンドとして押さえておきましょう。

紫垣 英昭