塩漬け株はなぜできる?塩漬け株を作ってしまう心理状況と対処法

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

投資した株が値下がりしてしまい、含み損を抱えたまま売りに売れずに長期保有している「塩漬け株」にお困りではないでしょうか?

残念ながら、塩漬け株への対処方法は、早めに処分する以外にないというのが実際の所です。

ただ、塩漬け株で含み損が発生している状況に耐え切れずに、塩漬け株を買い増す“ナンピン”をしてしまうなど、さらに大きな失敗に繋がってしまうことには注意が必要です。

今回は、塩漬け株への対処方法や塩漬け株を作ってしまう心理状況について解説した上で、塩漬け株を作ってしまう失敗パターンについても具体的に紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • 塩漬け株への対処方法や塩漬け株を作ってしまう心理状況についてかる
  • 塩漬け株を作ってしまう失敗パターンについて具体的にわかる
  • 塩漬け株を作ってしまった時の対処法として最善策がわかる

塩漬け株とは?

塩漬け株とは、投資した株が下落し、含み損を抱えた状態のまま長期保有し続けてしまうことです。

【6740】ジャパンディスプレイの月足チャート

塩漬け株は、長期的に大きな値上がりとなることが望めない銘柄を長期保有せざるを得ない状態となっているケースを指すことが一般的です。

「見切り千両、損切り万両」や「投資家は投機家のなれの果て」といった相場格言があるように、株式投資では含み損が出た銘柄の処分は最も難しいタスクの一つです。

このため、塩漬け株を作ってしまうことは、投資初心者が最も陥りやすい失敗の一つとされます。

塩漬け株を作ってしまう最大のデメリットは、上がる期待がない銘柄を塩漬けにして持ち続けてしまうことで投資資金が拘束され、他の上がる期待がある成長銘柄への投資機会を逸してしまうことです。

なぜ塩漬け株を作ってしまうのか?

塩漬け株を作ってはいけないと思ってはいても、塩漬け株を作ってしまう投資家は後を絶ちません。

塩漬け株を作ってしまう理由を見ていきましょう。

失敗した場合の計画がないままに投資してしまった

投資初心者が塩漬け株を作ってしまう理由の一つとして、失敗した場合の計画がないままに投資をしてしまったことが挙げられます。

2012年末から2013年5月に掛けてのアベノミクス相場や、2020年3月コロナショック以降の新型コロナ相場では、ほとんどの銘柄が上昇トレンドとなっていたため、この時期から投資を始めた投資家は下がる展開を想像することができません。

投資経験がない投資初心者は、株価が上がるシナリオしか考えられず、株価が下がるシナリオは考えられないケースが大半です。

買って保有しておくだけの「バイ・アンド・ホールド戦略」以外に投資戦略はなく、銘柄選びも直近で大きく上がっている銘柄を選びがちです。

日経平均構成銘柄などの主要銘柄や、株価指数に投資するインデックス投資なら、「バイ・アンド・ホールド戦略」をしても株価が戻ってくることが期待できます。

しかし、大きく急騰していた新興銘柄などに投資してしまうと、暴落後はもう二度と高値まで戻らないケースは少なくありません。

含み損に耐えられず損切りができなかった

ノーベル経済学賞も受賞したダニエル・カーネマンとエイモス・トベルスキーによって発表された「プロスペクト理論」という有名な心理学があります。

この理論の要旨は、「同じ金額でも利益と損失とでは感じ方が異なり、損失の痛みの方が、利益による喜びよりも大きい」ということです。

プロスペクト理論

※出典:Wikipedia

塩漬け株を作ってしまう最大の理由は、含み損が小さい内に損切りができなかったことに尽きます。

しかし、人間心理において、含み損の痛みは大きいため、含み損を損失として確定させる損切りは心理的抵抗がある行為です。

また、投資初心者の多くは株価の下落局面を経験した機会が少ないため、上昇銘柄に調整局面が訪れるとパニックに陥り、損切りすることができずにズルズルと保有し続けて、塩付け株を作ってしまいます。

「自分は塩漬け株を作ることにはならない。ちゃんと損切りできる」と思ってはいても、いざ損切りをする場面になったら、心理的抵抗が邪魔をして損切りできない投資家は少なくありません。

「いつか上がるだろう」という期待だけで持ち続けてしまった

塩漬け株への対処法は、一にも二にも早めに損切りして、処分する以外にありません。

上がらない銘柄を持ち続けるよりも、早めに損切りして、成長銘柄に投資する方が利益の期待値は大きくなります。

しかし、塩漬け株の含み損を損切りで確定しようとすると、「いつか上がるだろう」「せめて買い値まで……」といった心理的な抵抗が出てきます。

含み損が小さい段階では、「せめて買い値まで上がってから、トントンで決済したい」という軽い気持ちかもしれません。

しかし、含み損が拡大してくると心理的な負担も大きくなり、最悪の場合には、「ナンピンで買い増しして、平均取得単価を有利にすべきでは?」という、大きなリスクを伴う道に進んでしまう場合も少なくありません。

塩漬け株を作らないための方法

塩漬け株を作らないようにするための方法について押さえておきましょう。

損切りのルールをあらかじめ決めておく

塩漬け株を作ってしまう原因の大半が、含み損が浅い内に損切りできないことに尽きます。

このため、投資する前に、「いくらまで損失を出したら損切りする」というルールをあらかじめ決めておくことが重要です。

ただし、この損切りルールは現実的なものである必要があります。

現実的な損切りルールにしておかないと、いざ損切りをするときに守れなくなってしまうためです。

損切りできない理由の一つに、リスクを取り過ぎているケースが散見されます。

例えば、自己資金が300万円で、-30万円の含み損になったら損切りするというようなケースです。

このようなルールを作ったとして、自己資金の10分の1もの含み損となって、本当に損切りできるでしょうか?

損切りができない理由は、そもそものリスク管理や資金管理の段階から、リスクを取り過ぎているケースが少なくありません。

その根底にあるのは、「投資した銘柄が上がる展開しか考えられない」ためです。

投資をする上では、失敗した場合も考えた上で、現実的なリスク管理を行う必要があります。

その結果、期待できるリターンが小さくなったとしても、トータルで考えれば得になるケースが多々あります。

逆指値注文を入れておくようにする

損切りルールを決めたとしても、いざ投資した銘柄が値下がりして、損切りしなければいけないラインまで下がってきてしまったら、ルール通りに損切り注文を出せない投資家は少なくありません。

このような事態を避けるためには、損切りを強制執行する仕組みや習慣を作っておくという方法があります。

損切りラインまで株価が下がってきたら、自分の手で成り行きの売り注文を出すのではなく、最初から逆指値注文やOCO注文を入れておき、損切りラインまで下がってきたら証券会社のシステムに強制的に損切りを執行してもらうようにしましょう。

ただ、逆指値注文を入れたとして、いざ損切り価格の近くまで下がってきてしまうと、逆指値注文を取り消したくなる衝動に駆られることだと思います。

そうなったとしても、そこは我慢するしかありません。

投資において、含み損が小さい内の損切りは断じて負けではなく、次の投資チャンスに繋がる勝利です。

自分のルールを守った上で損切りとなったら、結果は損失だったとしても、投資としては成功なのです。

個別株投資ではなくインデックス投資をする

塩漬け株を作ってしまうケースの大半が、新興銘柄やグロース株といった個別銘柄への投資で失敗するケースで起こります。

日経平均構成銘柄などの主要銘柄や、株価指数に投資するインデックス投資では、新興株やグロース株ほどの大きなリターンが期待できない反面、大きな損失となることもありません。

どうしても損切りができないなら、個別株投資はやめて、日経平均株価やTOPIXに連動するETFなどのインデックス投資に切り替えるというのも有効な手段です。

インデックス投資なら、単純な「バイ・アンド・ホールド戦略」でも株価が戻ってくることが期待できます。

【1306】NEXT FUNDS TOPIX連動型上場投信の月足チャート

塩漬け株を作ってしまった場合の対処方法

塩漬け株を作ってしまった場合の対処方法について押さえておきましょう。

早めに損切りをして塩漬け株を処分するのが基本

塩漬け株への対処方法は、一にも二にも、含み損が小さい内に早めの損切りをする以外にありません。

含み損が出ると、損失に対する心理的抵抗から「いつか株価が戻るだろう」と思いたくなります。

しかし、急騰銘柄に手を出してしまっていたら、まず株価は戻らないと考えるべきです。

2020年3月以降の新型コロナ相場でも、少なくない投資家が急騰銘柄を掴んでしまい、塩漬け株にしてしまったことを忘れてはいけません。

【2191】テラの月足チャート

「いつか株価が戻るだろう」ではなく、「早めに暴落から逃げよう」と考えておけば、最悪の事態にも対処でき、次のチャンスに投資することもできます。

少しずつ損切りしていく

塩漬け株を損切りすることがどうしても難しければ、保有銘柄を少しずつ損切りしていってはどうでしょうか?

「いつか上がるだろう」という期待は捨てきれない一方で、さらなる下落による損失の拡大を避けたい場合には有効な場合があります。

1,000株保有していたとしたら、まず300株だけ損切りで処分すれば、残り700株で反発の期待を持つことができます。

それでも上がらなければ、残りの300株を損切りしてみる……といった具合に、段階を踏んで塩漬け株を処分してみてはどうでしょうか?

塩漬け株が反発して元に戻ることもたまにありますが、非常に低い確率であるということが現実です。

【4563】アンジェスの月足チャート

ナンピンは絶対にしてはいけない

塩漬け株を作ってから最悪の失敗と言えるものが、ナンピンをして失敗してしまうケースです。

塩漬け株で含み損が発生していると、心理的には大きな負担となります。

含み損が大きくなるにつれて、「いつか買値まで戻るだろう」から、「せめて-10%まで」「せめて-20%まで」……と心理的な負担が増していきます。

そして、「ここから大きく戻ったとしても、含み損が完全に解消されることはない……」という状態になると、「ナンピンをして、平均取得単価を有利にすれば、トントンにできるかもしれない!」と思うようになってしまう場合があります。

例えば、1,000円で買った銘柄が500円になってしまって塩漬けしているケースでは、500円で同じ株数だけ買い増し(ナンピン)すれば、750円まで戻ればトントンになることになります。

「1,000円まで戻ることは絶望的だとしても、750円までなら戻るのではないか?そうすれば、トントンになるのではないか?」という淡い希望が芽生えてきます。

しかし、これは投資で破産してしまう人が陥る思考の最たるものです。

反発してトントンになるケースしか考えられず、さらに下落して含み損が拡大してしまうケースまでは考えられていません。

ナンピンしてから、さらに株価が下落することになれば、含み損は取り返しの付かない所まで拡大し、信用取引をしている場合には追証が発生して全資産を失ってしまうこともあり得ます。

【4477】BASEの月足チャート

塩漬け株を作ってしまう失敗パターン

塩漬け株を作って失敗してしまうケースについて、その具体的な流れを見ていきましょう。

買った株が値下がりして含み損が拡大していってしまう

塩漬け株で大きな損失となってしまう大半のケースは、急騰銘柄に手を出してしまうことから始まります。

次のチャートは、2020年にデジタルトランスフォーメーション(DX)やテレワーク(電子認証)、デジタル庁などで大きな注目を集めた【3788】GMOグローバルサイン・ホールディングスの、2020年10月時点の月足チャートとなります。

【3788】GMOグローバルサイン・ホールディングスの月足チャート

GMOグローバルサイン・ホールディングス(GMOGSHD)は、新型コロナで注目されたデジタルトランスフォーメーション株の筆頭となり大きく上昇し、2020年10月には直近高値を超えてきました。

「さすがに過熱しているのではないか?」と思いつつも、「GMOGSHDはテレワークにも欠かせない電子認証を手掛けているから、さらに数倍になってもおかしくない!」と思い、高値更新となった12,000円で買いました。

GMOGSHDの株価は、一時は14,210円まで上昇し、+15%の含み益に。

しかし、やや雲行きが怪しくなってきます。

【3788】GMOグローバルサイン・ホールディングスの月足チャート

GMOGSHDの株価は下落し続け、ついに10,000円を割り込む水準にまで下落。

本来なら、もう少し早く損切りをして逃げなければいけませんでしたが、「DX株なら必ず上がる!」と考えており、損切りなど頭になかったため、あっという間に-20%を超える含み損となってしまいました。

損切りできずに「いつか上がるだろう」と持ち続けてしまう

含み損を抱えた状態で精神的には辛い状況でしたが、「デジタルトランスフォーメーションは世界的な潮流だから、GMOGSHDはいつか必ず上がるだろう!」と、保有し続けてしまいます。

しかし、その後も株価の下落は止まらず……。

【3788】GMOグローバルサイン・ホールディングスの月足チャート

ついに、買い値の半値以下の水準にまで下落してしまいました。

「いつか上がるだろう」とは思いつつも、「さすがに、もう買い値まで戻るのは難しいだろう……」とも思うようになってしまいます。

すぐに損切りして処分する以外にありませんが、-50%を超える含み損を確定する勇気はなかったため、持ち続けるしかありませんでした。

塩漬け株の完成です。

なお、マーケットでは、DX株に代わって半導体株や海運株が大きな上昇となっていましたが、塩漬け株に資金を拘束されていたため、投資することはできませんでした。

含み損に耐え切れなくなってナンピンしてしまう

含み損で苦しいなか、あるアイデアを思い付きました。

「5,000円でナンピン買いすれば、8,500円まで戻ればトントンになるじゃないか!」ということです。

ナンピンは危険な行為だと認識はしていましたが、辛い含み損から逃れてトントンにできるという誘惑の前に理性は働かず、5,000円でナンピン買いしてしまいました。

【3788】GMOグローバルサイン・ホールディングスの月足チャート

しかし、株価は反発せず、無情にもさらなる下落となってしまいました。

【3788】GMOグローバルサイン・ホールディングスの月足チャート

「ナンピンしなければ良かった」「いや、それ以前にもっと早く損切りしておけば良かった」と後悔しても、全ては後の祭りです。

この塩漬け株からの失敗パターンはあくまで一例になりますが、マーケットではこのように塩漬け株を作ってしまってから、ナンピンによってさらに大きな失敗をしてしまう投資家が少なくありません。

まとめ

今回は、塩漬け株への対処方法や塩漬け株を作ってしまう心理状況について解説した上で、塩漬け株を作ってしまう失敗パターンについても具体的に紹介してきました。

塩漬け株を作ってしまう理由は多々ありますが、共通するのは、含み損が小さい内に早めに損切りができなかったことです。

損切りで含み損を確定することは辛い行為ですが、早めに損切りをしないと、さらに辛い状況になってしまいます。

また、塩漬け株を作るだけならまだしも、含み損をトントンにできるという誘惑から、ナンピン買いをしてしまうのは、全ての資産を失うリスクもある大変危険な行為です。

塩漬け株を作ってしまったら、残念ながら、早めに損切りして処分するのが最もベターな方法です。

紫垣 英昭