紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
2023年7月4日、IAEA(国際原子力機関)が福島第一原発の処理水について「安全基準に合致している」と結論づける報告書を公表し、日本政府は今夏中にも処理水を海洋放出する方針と報じられています。
福島第一原発から出た汚染水は、多核種除去設備(ALPS)で浄化処理されますが、トリチウムだけは取り除けないため、海水で薄めて流すことになります。
株式市場では、トリチウム除去技術を持った銘柄や、海洋放出で特需が期待される放射線除去事業を手掛けている銘柄が原発処理水関連銘柄として急騰しました。
この記事では、原発処理水に関するIAEAと日本政府の動向について解説した上で、処理水の海洋放出で注目される原発処理水関連銘柄について紹介していきます。
- 原発処理水に関するIAEAと日本政府の動向についてわかる
- 処理水の海洋放出で注目される原発処理水関連銘柄についてわかる
- 原発処理水関連銘柄についてチャート付きで学べる
政府は福島第一原発の処理水を今夏中にも海洋放出する方針
2023年7月4日、IAEA(国際原子力機関)が福島第一原発の処理水について「安全基準に合致している」と結論づける報告書を公表し、日本政府は2023年8月にも処理水を海洋放出する方針に入ったとのことです。
株式市場でも注目される、福島第一原発の処理水海洋放出について押さえておきましょう。
IAEAが「国際的な安全基準に合致している」報告書を発表
2023年7月4日、IAEA(国際原子力機関)は、福島第一原発の処理水の海洋放出について、「国際的な安全基準に合致している」として、妥当性を認める報告書を発表しました。
報告書では、人や環境に与える影響について「無視できるレベル」と評価しており、福島第一原発の処理水の海洋放出が、IAEAによって正式に安全であると認められた形となっています。
岸田総理は、首相官邸で、IAEAのグロッシ事務局長から包括報告書を直接受け取りました。
福島第一原発の処理水は、原発から出た汚染水を、多核種除去設備(ALPS,アルプス)で浄化処理し、トリチウム(三重水素)以外の放射性物質の大部分を取り除いたものです。
処理水は、福島第一原発の敷地内にある貯蔵タンクに保管されていますが、2024年前半にはタンクが満杯となる見通しで、廃炉作業に支障をきたすことが懸念されていました。
政府は2021年4月に処理水を海洋放出する方針を決定し、IAEAに海洋放出計画の安全性に関する調査を申請、IAEAはこれまで現地調査などを進めていました。
放出設備の工事は2023年6月26日に完了しており、海洋放出に向けた設備上の準備は全て整っているため、海洋放出は今夏からすぐに始められる見通しです。
IAEAから安全報告を受けたことで、処理水の海洋放出に向けた最後のピースが揃ったと言えます。
日本政府は2023年8月にも海洋放出の方針
IAEAからの報告書を受け取った日本政府は、さっそく動き始めています。
報告書を受けた翌日の2023年7月5日には、各メディアがいっせいに、日本政府は2023年8月にも海洋放出する方針と報じました。
今後、課題となっていくのは、処理水の海洋放出について、地元や周辺国から理解を得ることです。
特に、中国は反発を強めており、呉江浩駐日大使は7月4日、「海洋放出は最善策ではない」と述べ、「科学的かつ透明性のある方法で処理されるべきだ」と従来の主張を繰り返しました。
また、処理水が海洋放出される福島県沖周辺においては風評被害も懸念されます。
福島県を始めとする全国の漁業団体などは、海洋放出に反対の姿勢を崩していません。
IAEAのグロッシ事務局長は報告書を提出した翌日、福島県いわき市で開かれた地元関係者との会議に参加し、IAEAが責任を持って、最後まで現地で監視し続けると説明しました。
なお、海洋放出は今夏から始めたとしても30年程度は継続する見通しとなっており、風評被害や賠償を巡って数十年は続く課題となっていく可能性があります。
ニュースを受けて原発処理水関連銘柄が急騰
IAEAが原発処理水の海洋放出について「安全基準に合致している」と結論づける報告書を提出したことを受けて、株式市場では原発処理水関連銘柄が急騰しました。
環境コンサルタント事業を手掛ける【4657】環境管理センターは、7月5日にストップ高となり、翌日も特別買い気配の連日ストップ高に。
【4657】環境管理センターの日足チャート
同社は、放射線量の調査・測定事業を手掛けており、特需への期待から思惑買いが広がった形となりました。
トリチウム処理で物色されやすい【2667】イメージワンは、環境管理センターと並んで原発処理水関連銘柄として注目されやすい銘柄ですが、6月に大きく上昇していたからか物色されませんでした。
この他、放射線防護工事を手掛ける【1443】技研ホールディングスも7月5日には+2.64%の上昇となりましたが、翌日は下落となっています。
原発処理水関連銘柄とは?
原発処理水の海洋放出で注目される原発処理水関連銘柄について、その特徴を押さえておきましょう。
原発処理水関連銘柄はトリチウム除去技術で注目される
原発処理水関連銘柄とは、福島第一原発の原発処理水から連想されるテーマ株のことです。
「原発処理水関連銘柄」は、「放射能対策関連銘柄」や「原子炉浄化系水処理プラント関連銘柄」、「トリチウム関連銘柄」などと呼ばれることもあり、その呼び名は定まっていません。
いずれにしても共通するのは、トリチウム除去技術で注目される点です。
福島第一原発の汚染水は、多核種除去設備(ALPS)で浄化処理されますが、トリチウムだけは取り除けません。
東電の計画では、処理水を大量の海水で100倍以上に薄め、トリチウム濃度を国の排出基準の40分の1未満にし、沖合1kmの海底トンネルから放出するとしています。
IAEAはこれで安全であるとしたものの、今後はトリチウムによる風評被害が多少発生してくる懸念があります。
トリチウム除去技術を持った企業が、今後長らく続く原発処理水関連銘柄として注目される可能性があると押さえておきましょう。
原発再稼働など原発テーマ株は注目テーマ株となっている
今回注目していく原発処理水関連銘柄は、広義においては原発(原子力発電)に関するテーマ株の一角です。
原発に関するテーマ株は、2020年秋から続く脱炭素(カーボンニュートラル)や、2022年以降のウクライナ情勢による資源高などを受けて注目テーマ株となっています。
2022年には、岸田政権が原発再稼働を進めたことを受けて、【9501】東京電力ホールディングスや【7711】助川電気工業といった原発株が大きく上がりました。
また、次世代原発としては、小型モジュール炉(SMR)なども注目されており、脱炭素やウクライナ情勢を受けて、原発は世界中で再評価の流れにあります。
政治家は表では言いませんが、原発再稼働や次世代原発の開発といった原発政策推進は、岸田政権の隠れ政策の一つとなっており、株式市場でも注目されています。
今回の原発処理水の海洋放出についても、原発推進の一環と言えなくもありません。
原発処理水関連銘柄のおすすめ銘柄10選!
原発処理水の海洋放出で注目される、原発処理水関連銘柄を押さえておきましょう。
【2667】イメージ ワン
衛星画像販売や医療画像システムを手掛ける【2667】イメージ ワンは、トリチウム処理事業を手掛ける原発処理水関連銘柄として注目の銘柄です。
同社は、創イノベーション社と共同で「ALPS処理水に含まれるトリチウムの分離技術」の共同実証試験を手掛けていることで知られています。
また、2023年6月22日には、新生福島先端技術振興機構と、トリチウムなどの連続計測器の独占販売代理店契約の締結を決議したと発表しました。
【2667】イメージ ワンの月足チャート
イメージ ワンの株価は、福島第一原発の処理水海洋放出のニュースでたびたび急騰しています。
2021年4月には、出来高を伴って大きな上ヒゲを付けましたが、これは当時、政府が処理水を海洋放出する方針を決定したことが背景にあります。
また、2023年7月4日のIAEAの安全報告では買われませんでしたが、その直前の6月22日には上述した新生福島先端技術振興機構との契約締結のニュースで、出来高を伴って買われていました。
【4657】環境管理センター
環境コンサルタント事業を手掛ける【4657】環境管理センターは、イメージ ワンと並んで注目される原発処理水関連銘柄です。
同社は、超微量分析に強みを持っており、放射線量の調査・測定事業を手掛けていることで知られています。
福島第一原発近くの福島浜通りイノベーションセンターで放射性物質の核種分析を行っており、処理水の海洋放出が始まれば特需も期待されます。
【4657】環境管理センターの月足チャート
環境管理センターの株価は、政府が処理水を海洋放出する方針を決めた2021年4月、IAEAが安全報告を出した2023年7月のいずれにも急騰しています。
2023年7月6日時点では2日連続ストップ高となっており、さらなる上昇となる可能性が十分にあります。
【1443】技研ホールディングス
消波根固ブロックの製造・販売を柱とする【1443】技研ホールディングスは、放射線対策を手掛けていることから原発処理水関連銘柄として連想されます。
同社は、放射線遮蔽内装工事を手掛けていることから、処理水の海洋放出が始まれば業績に影響があるかもしれません。
【1443】技研ホールディングスの月足チャート
技研ホールディングスの株価は、上場以来、横ばいが続いています。
処理水の海洋放出のニュースで特別大きく買われているとは言えませんが、2023年7月には出来高が上昇しています。
【5703】日本軽金属ホールディングス
アルミ総合企業の【5703】日本軽金属ホールディングスは、子会社がトリチウム除去技術を手掛けていることから原発処理水関連銘柄として名前が上がる銘柄です。
同社の完全子会社である東洋アルミニウムは、近畿大学と共同で、汚染水からトリチウム水を分離・回収する方法・装置を開発したと発表しています。
【5703】日本軽金属ホールディングスの月足チャート
日本軽金属ホールディングスの株価は、2018年以降は下落トレンドが続いています。
【9501】東京電力ホールディングス
福島第一原発の廃炉処理を手掛ける【9501】東京電力ホールディングスも、原発処理水関連銘柄として押さえておきましょう。
同社は、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所の再稼働が期待されており、東証を代表する原発株となっています。
【9501】東京電力ホールディングスの月足チャート
東電の株価は、2022年には原発再稼働が期待されたこともあり、2倍以上の反発となりました。
【7013】IHI
福島第一原発では、高濃度汚染水からセシウムやストロンチウムをセシウム吸着装置「キュリオン」や「サリー」で除去しています。
重工業大手の【7013】IHIは、放射線汚染水処理装置「サリー」を共同開発したことで知られている企業です。
【7013】IHIの月足チャート
IHIの株価は、2020年から反発しており、特に2022年には防衛費倍増議論を受けて防衛株として株価倍増となりました。
ただ、原発関連で物色されたというニュースはあまり見ません。
【6501】日立製作所
福島第一原発の汚染水は、「キュリオン」や「サリー」で除去してから、多核種除去設備「ALPS」によって処理されます。
重電最大手の【6501】日立製作所は、原子力プラント3強の一角であり、「ALPS」の開発に携わったことでも知られています。
【6501】日立製作所の月足チャート
日立製作所の株価は、2000年1月に付けていた8,545円を超えて、23年ぶりの高値更新となっています。
【6502】東芝
総合電機大手の【6502】東芝は、原発プラント3強で、「サリー」「ALPS」にも携わっており、次世代原発にも注力する原発株の一角です。
ただ、東芝は、日本産業パートナーズからの買収提案を受け入れたことにより上場廃止が決まっています。
【6502】東芝の月足チャート
東芝は上場廃止が決まっていますが、2020年以降はパワー半導体や原発関連で注目されたこともあり反発していました。
【7711】助川電気工業
温度センサーや熱機器を手掛ける【7711】助川電気工業は、2022年以降に最も買われている原発株の一つです。
同社は、次世代原発向けの熱制御技術を手掛けていることなどから注目されており、原発処理水とは直接的には関係ない銘柄ですが、原発株として連想買いされる可能性があるかもしれません。
【7711】助川電気工業の月足チャート
助川電気工業の株価は、2020年以降に買われ続けており、2023年は横ばいとなっています。
【4107】伊勢化学工業
AGC系の化学メーカー【4107】伊勢化学工業は、ヨウ素生産量で世界シェア15%を誇っており、東証を代表するヨウ素株として知られています。
ヨウ素は、放射性ヨウ素対策になることもあり、2022年にはロシアが核兵器使用を示唆したことにより、一時的に注目されることになりました。
ヨウ素株の代表銘柄である同社は、原発処理水の海洋放出から放射線対策として連想される可能性もあるかもしれません。
【4107】伊勢化学工業の月足チャート
伊勢化学工業は、ロシアのウクライナ侵攻があった2022年以降、一時2.5倍以上まで値上がっています。
まとめ
この記事では、原発処理水に関するIAEAと日本政府の動向について解説した上で、処理水の海洋放出で注目される原発処理水関連銘柄について紹介してきました。
2023年7月4日、IAEA(国際原子力機関)が福島第一原発の処理水について安全基準を満たしていると発表したことから、日本政府は今夏中にも処理水を海洋放出する方針です。
処理水の海洋放出で注目される原発処理水関連銘柄は、トリチウム除去技術で注目の【2667】イメージ ワン、放射線量の調査・測定事業を手掛けている【4657】環境管理センターの2銘柄が柱です。
【2667】イメージ ワンと【4657】環境管理センター以外は、原発処理水の海洋放出で大きく買われた形跡がある銘柄は見当たりません。
IAEAのお墨付きを得たことで、日本政府も本格的に原発処理水の海洋放出を進めていくものと見られますが、今後新たな展開があるかもしれないため注視しておくようにしましょう。
紫垣 英昭
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