脚光浴びるVPP(仮想発電所) 事業、市場規模1兆6000億円に

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

このところにわかに、VPPと言う聞き慣れない言葉がマスコミを賑わせています。

VPPとは(Virtual Power Plant)の略で、仮想発電所と訳されます。

安倍首相が2018年6月の「未来投資戦略 2018」の中で打ち出した政策で、いわばエネルギー革命とも言える戦略です。

従来のエネルギー供給構造をまったく変える構想で、富士経済の調べでは、VPPの関連需要は、現在の7600億円から、2030年度には一気に2倍強の1兆6000億円に達すると予測されています。

電力、通信、インターネット関連のほか、石油、IoT、電気、建設、コンビニなど幅広い企業に関連需要の恩恵が広がるとみられています。

この記事を読んで得られること
  • VPP(仮想発電所) 事業が理解できる
  • VPP実証プロジェクトと参入企業について

日本でVPPが登場したきっかけとは?

日本でVPPと言う言葉が登場したのは、直接的には東日本大震災による原子力発電所事故によって、大規模発電所による従来の供給システムの脆弱性が浮き彫りされたためです。

2016年の電力自由化を契機に、太陽光発電などの再生可能エネルギー電力が大幅に普及したことも、VPP論議に拍車をかけました。

電力自由化によって、新電力と呼ばれる発電事業者が電力事業に数多く参入し、太陽光発電や風力発電、バイオマス発電などの再生可能エネルギー電力を立ち上げました。

一方、工場や病院、公共施設などでは、コージェネレーションシステム(熱と電気を供給するシステム)を導入したり、一般家庭でも、太陽光発電システムを設置するケースが急増しました。

小型分散電源をつなげるIoT技術の進展でVPPが可能に

太陽光発電、コージェネレーションシステム、バイオマス発電などの電源は、小型分散電源と呼ばれます。

原子力発電所や火力発電所のような一ヵ所に集中して立地する大規模集中型発電方式とは異なる電源システムです。

あちこちに分散するそうした小型電源を、あたかも一つの発電所のように機能させる技術が、近年急速に普及し始めているIoT技術によって可能になりました。

IoT技術は、あらゆるモノがインターネットにつながる技術で、IoTの進展がVPPを可能にしたのです。VPPは、従来の電力供給構造を根底から変えるエネルギー革命ともいえます。

人々に豊かさをもたらす新しい社会「Society(ソサエティ)5.0」

安倍首相の打ち上げた「未来投資戦略 2018」は「Society(ソサエティ)5.0」「データ駆動型社会」への変革―と言う副題がつけられています。

Society(ソサエティ)5.0というのは、「狩猟社会」「農耕社会」「工業社会」「情報社会」に続く、人類史上5番目の新しい社会という意味です。

第4次産業革命によって、新しい価値やサービスが次々と創出され、人々に豊かさをもたらすということを示しています。

そうした基本的なコンセプトに即して、生活、産業、経済などさまざま分野で変革が起きるとし、エネルギー・環境分野に関しても、先行的な取組として、VPPをあげています。

VPPはいわばIoTを活用したデータ駆動型社会を支える基盤ともいえる取組です。

VPPの需要分野は?

VPPが包括する需要分野は極めて幅広く、エネルギー分野にとどまらず、エネルギー・マネジメント、通信、インターネット、さらには、流通、コンビニ、住宅など広範囲な分野を取り込むと見られます。

シンクタンクの調査では、VPPの関連需要と目される電力、石油などのエネルギー分野、インターネットやIoTを利用するエネルギーマネジメントシステムの分野、エネルギーマネジメントを構成する機器、設備、さらには、エネルギーを高度利用する住宅、コンビニ等の需要分野などを含みます。

調査によると、2018年度の市場規模は全体で7600億円と見込まれています。

VPP実証プロジェクトと参入企業は?

VPPは、2018年度ではまだ実証段階にあり、本格的に動き出すのは「未来投資戦略」で示されている2021年度の事業化以降になります。その頃から市場規模は急拡大し、2030年度には1兆6000億円に達すると予測されています。

VPPと言う新たな成長分野をめざして企業の参入も活発化すると予想されます。

経済産業省は、国の支援するプロジェクトとして、いくつかの実証プロジェクトを立ち上げています。

関西VPPプロジェクト

関西VPPプロジェクトでは、関西電力が中心となり、富士電機(6504)、三社電機製作所(6882)、ジーエス・ユアサ コーポレーション(6674)、ダイヘン(6622)、NTTスマイルエナジーなど14社が共同プロジェクトを実施しています。このプロジェクトは、家庭用から産業用まで、さまざまなエネルギー機器を統合管理できるシステムの構築を目指しています。

東京電力、東芝、横浜市3社共同プロジェクト

東京電力ホールディングス(9501)は、傘下の東京電力エナジーパートナー、東芝(6502)および横浜市の3者で共同プロジェクトを実証しています。このプロジェクトは地域防災拠点に指定されている横浜市内の小中学校に蓄電池を設置し、東芝の開発した蓄電池群制御システムにより、平常時には電力需要の調整のために東電エナジーパートナーが活用し、非常時には横浜市が防災用電力として使用することが想定されています。

VPP事業の変りダネ「積水化学工業の住宅用電力の一括制御」

VPP事業の変りダネとしては、積水化学工業の住宅用電力の一括制御があります。グループ会社が販売した分譲地「スマートハイムシティ研究学園」(茨城県つくば市)で太陽光発電と蓄電池を連係させたシステムを運用し、効率的な電力供給の実現をめざすねらいです。

ローソン店舗設備の遠隔制御システム

また、コンビニのローソン(2651)は、三菱商事と共同で店舗設備の遠隔制御システムの実用化を目指します。全国に展開するコンビニ店舗のエアコン、冷凍・冷蔵設備、照明等の電力を効率的かつ最適に利用するシステムで、これにより、エネルギーコストの大幅削減が期待されています。

まとめ

今回は、今後ますます発展していくIoTを活用したデータ駆動型社会を支えるためのVPP(仮想発電所)と、その関連需要について解説しました。

こうした実証プロジェクトは今後、相次いで立ち上がると見られ、2021年度以降のプロジェクトの事業化によって、一段と弾みがつく見通しです。

この記事が、VPP関連企業の銘柄選びの参考になれば幸いです。

紫垣 英昭