紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
2022年は世界株安が止まらず、今後はさらなる世界株暴落のリスクもささやかれている状況です。
世界株暴落の背景には、世界的なインフレによって、世界各国の中央銀行が利上げに踏み切っていることが大きな要因の一つです。
暴落しているのは株式市場だけではなく、為替市場では急激な円安が進んでおり、仮想通貨は大きく売られ、その一方で原油などの資源・エネルギー価格はウクライナ情勢で急騰しています。
今回は、世界株暴落の背景について解説した上で、世界各国の株価の状況や為替、仮想通貨、商品価格について取り上げ、また世界株暴落の中で買われている銘柄についても紹介していきます。
- 世界株暴落の背景についてわかる
- 世界各国の株価の状況や為替、仮想通貨、商品価格についてわかる
- 世界株暴落の中で買われている銘柄がわかる
世界株暴落の原因とは?
2022年は世界的な株安となっており、今後さらなる世界株暴落の可能性もささやかれ始めています。
2022年世界株暴落の原因について押さえておきましょう。
インフレを抑制するために中央銀行が利上げを進めている
2022年は世界的なインフレ懸念が高まっており、世界中がインフレ退治に躍起となっています。
2022年6月15日には、米国FRB(連邦準備制度理事会)が0.75%(75bp)という通常の3倍となる大幅利上げを発表しました。
米国の政策金利(フェデラル・ファンド金利)は1.5~1.75%となりましたが、FRBは2022年に6~7回の利上げを予定しており、2022年末までに政策金利は3.40%程度まで引き上げられる見通しです。
一般論としては、利上げによって金利が上昇すれば、株価は下落しやすくなります。
長期金利が上昇すると、企業の借り入れコストが増加して景気を冷やすことに繋がり、投資家にとっては株式投資が不利になるためです。
投資家が株式投資を行う理由の一つに、配当金が得られることがあります。
米国を代表する株価指数「S&P500指数」の配当利回り平均は1.5%程度となっており、配当金に優れる高配当株の配当利回りは3%以上が目安です。
低金利の状況では、株式投資をして配当金をもらうインセンティブがありますが、高金利となれば値下がりリスクを負ってまで株式に投資するインセンティブが失われることになります。
米国だけではなくヨーロッパでも利上げの動きが広まっており、2022年6月16日にはスイス中銀が15年ぶりの利上げを発表するサプライズが起こりました。
世界中で利上げが進むということは、世界中の株式市場で、株に売り圧力が掛かるということです。
FRBが利上げしても米国CPIは止まらない悪循環に
米国FRBは、急激に進むインフレを背景に、2021年11月以降は利上げ方針に転換していますが、米国のインフレはいっこうに収まる気配がありません。
2021年から2022年に掛けての米国の消費者物価指数(CPI)[前年同月比]は次のようになっています。
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1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
21年 |
1.4 |
1.7 |
2.6 |
4.2 |
5 |
5.4 |
5.4 |
5.3 |
5.4 |
6.2 |
6.8 |
7.0 |
22年 |
7.5 |
7.9 |
8.5 |
8.3 |
8.6 |
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米国では2021年5月以降、5%を超えるインフレが続いており、この1年間はインフレが加速しています。
利上げは経済や株価に打撃を与えますが、急速なインフレを抑制するには仕方ない状況です。
今後、米国を始め世界各国のインフレが収まらなければ、さらなる利上げも懸念されます。
米国の労働省労働統計局(BLS)が毎月15日前後に発表している「米国消費者物価指数(CPI)」は、2022年時点では米国雇用統計以上に注視が必要な重要指標となっているため、必ずチェックしておくようにしましょう。
日銀は世界で唯一利上げをせず急激な円安が進む
世界各国の中央銀行がインフレ対策に利上げを進める中で、日本の中央銀行である日銀だけが、金融緩和を止めずに利上げをしない状況となっています。
米国利上げによってアメリカドルの金利が大きくなる一方で、日銀は利上げをせずに円がゼロ金利のままとなれば、金利が付かない円を売って金利が付くドルを買う動きが強まるため、円安ドル高が進むこととなります。
ドル円為替チャートを見てみましょう。
ドル円チャートの月足チャート
日々のニュースでも報じられているように、ドル円相場は急激な円安が止まらず、一時135円台にまで円安が進みました。
スイス中銀のサプライズ利上げを受けて、6月14日には一時131円台にまで円高に振れましたが、6月17日の日銀会合で金融緩和継続を決めたことで再び134~135円台にまで戻ってきています。
また、円はアメリカドルに対してだけではなく、ほぼ全通貨に対して安くなっています。
次のチャートは、米ドルやユーロ、英ポンド、スイスフランなど複数の主要通貨に対する日本円の総合的な価値を示す「円インデックス(円指数)」です。
円インデックスは大きく売られていることが分かります。
日本でも物価高が問題になってきているとはいえ、世界各国に比べるとインフレ率は緩やかな状況です。
ただ、ここまで急激な円安が進むとなると、悪性インフレ(スタグフレーション)となることも懸念されます。
日銀は、10年国債利回りを指値オペで買って0.25%に抑えるYCC(イールドカーブコントロール)を実施していますが、円安による物価高がこれ以上進むと世論の変化が起こってくる可能性もあります。
今後の日銀の金融政策については要注視していくようにしましょう。
世界各国の株価の状況について整理しておこう
2022年の世界各国の株価の状況についてまとめておきましょう。
米国株
米国株は、代表的な500銘柄で構成される「S&P500指数」、ニュースでもおなじみの「ダウ平均株価」、GAFAMに代表されるハイテク株で構成される「NASDAQ100指数」が米国株3指数と呼ばれています。
「S&P500指数」は次のようになっています。
「S&P500指数」は2021年12月以降に下げており、高値から見ると-20%を超える下落率となっています。
続いて、ハイテク株で構成される「NASDAQ100指数」を見ていきましょう。
「NASDAQ100指数」は、FRBが利上げ方針に舵を切った2021年11月以降から大きく下げており、直近半年間で高値から-30%を超える下落率となっています。
なお、「NASDAQ100指数」に連動する投資信託やETFにレバレッジを掛けて投資する行為は「レバナス」と呼ばれていますが、多くのレバナス投資家は大きな損失を抱える状況となっています。
日本株
日本株の株価指数は、代表的な日本株225銘柄で構成される「日経平均株価」、東証プライム市場の全銘柄から構成される「東証株価指数TOPIX」の2つが代表的です。
日経平均株価を見ていきましょう。
日経平均株価の月足チャート
日経平均株価は、2021年には一時3万円台を回復しましたが、2021年後半から世界株安の影響を受けて下げています。
なお、円安が急激に進んだにも関わらず下げているため、ドルベースの日経平均株価はさらに価値が棄損されている状況です。
欧州株
欧州株の株価指数としては、ユーロ圏12か国の代表的な50銘柄で構成される「ユーロ・ストックス50インデックス」を見ていきましょう。
欧州株は、ウクライナ情勢も影響して、直近では米国株・日本株同様に大きく売られています。
中国株
中国株の株価指数としては、上海証券取引所の株価指数「上海総合指数」を見ていきましょう。
中国は、2022年には新型コロナによるロックダウンがあったこともあり、上海総合指数は大きく下げている状況です。
世界株暴落の中で仮想通貨や商品価格も大きく動いている
世界株暴落の一方で、仮想通貨や原油価格も大きく動いています。
仮想通貨(暗号資産)
2022年は、世界株暴落以上に、仮想通貨(暗号資産)の暴落が止まりません。
代表的な仮想通貨であるビットコイン(BTC)価格は次のようになっています。
ビットコイン価格は、2021年11月に付けていた高値の3分の1以下にまで暴落しています。
原油価格
株や仮想通貨が暴落する一方で、脱炭素やウクライナ情勢を背景に原油価格は上昇の一途を辿っています。
次のチャートは、代表的な原油価格として知られる「WTI原油先物価格」の長期チャートです。
ウクライナ情勢を背景に原油価格は上昇し続けており、世界各国のインフレを後押しする要因ともなっています。
金(ゴールド)価格
世界経済リスクが表面化すると、金(ゴールド)が買われる傾向があります。
金(ゴールド)価格を見ていきましょう。
金(ゴールド)価格は、2020年に急伸して以降は高値圏で横ばいが続いています。
世界株暴落の中でも買われている日本株とは?
2022年は世界株暴落の余波を受けて、日本株もほとんどのセクターや銘柄が下げていますが、中には買われているセクターや銘柄も存在しています。
原油やチタンなどの「資源株」
ウクライナ情勢による資源・エネルギー価格の上昇を受けて、資源を手掛ける資源株は好調な値動きとなっています。
原油開発大手の【1605】INPEX、LNG関連株の【1963】日揮ホールディングス、【8058】三菱商事を始めとする商社株、チタンを手掛ける【5726】大阪チタニウムテクノロジーズなどは2022年に強い銘柄です。
【8058】三菱商事の月足チャート
また、エネルギー高を受けて原発再稼働期待が高まる【9501】東京電力ホールディングスなども物色され始めており、ウクライナ情勢の長期化により資源・エネルギーセクターへの注目は当分続くものと思われます。
輸出企業を中心とする「円安メリット関連株」
円安が進んだことから、輸出企業を中心に円安で恩恵を受ける「円安メリット関連株」が買われる動きも見られています。
例えば、トヨタ自動車の2022年3月期決算では、為替変動の影響で6,100億円の増益となりました。
円安メリット関連株としては、【7203】トヨタ自動車などの自動車メーカー、【6981】村田製作所や【6762】TDKなどの部品メーカー、ドル決済で円安の恩恵を受けやすい【9101】日本郵船や【9104】商船三井といった海運株などが挙げられます。
【7203】トヨタ自動車の月足チャート
ただ、日本企業は現地進出が進んでいるため、輸出企業もかつてほど円安のメリットは受けられなくなってきています。
2022年には急激に円安が進んだにも関わらず、日経平均株価・TOPIXは大きく下げており、アベノミクス相場のときのように必ずしも「円安=株高」になるとは言えなくなってきている点には注意が必要です。
一部の「IPO銘柄」
2022年は、IPOが好調となっています。
クラウドシステム開発の【5029】サークレイスや、Vチューバーグループ「にじさんじ」を運営する【5032】ANYCOLOR、AIプラットフォーム開発を手掛ける【5026】トリプルアイズなどは公開価格を大きく上回る初値を付けています。
【5032】ANYCOLORの日足チャート
ただ、IPO銘柄は上場から数日間の間に高値を付けて、以降は暴落する“IPOゴール”が多い点は変わらないことには注意が必要です。
まとめ
今回は、世界株暴落の背景について解説した上で、世界各国の株価の状況や為替、仮想通貨、商品価格について取り上げ、また世界株暴落の中で買われている銘柄についても紹介してきました。
2022年は、世界中でインフレが進んでいることから、米国FRBを始め世界各国の中央銀行が利上げに踏み切っていることが、世界株暴落の背景にあります。
日銀だけが世界で唯一利上げせずに金融緩和を継続していますが、長期金利差拡大で円安が進んでさらなる物価高となれば、日銀が今後も金融緩和を継続できるかどうかは不透明です。
米国株・日本株・欧州株・中国株のいずれも下げている世界株暴落の中でも、資源株や円安メリット関連株などは2022年に数少ない上昇セクターとなっています。
今後も焦点になってくるのは世界中で進むインフレと中央銀行の利上げであり、消費者物価指数の動向や中央銀行の金融政策には、より注意が必要な相場展開になってきそうです。
紫垣 英昭
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