紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
2022年7月には、参議院の任期満了を受けて、第26回参議院選挙が実施されます。
今回の参院選では、自民党・岸田政権が安定基盤を築けるかどうかが焦点となり、円安やウクライナ情勢による物価高対策や新型コロナ対応に注目が集まってきそうです。
過去の参院選について見てみると、与党が勝利した場合には株価上昇となっているケースが目立ちますが、岸田政権は金融増税や自社株買い規制を掲げていることが懸念されます。
今回は、参議院選挙と株価の関係について過去の参院選を検証した上で、2022年参院選の注目ポイントや注目テーマ株について解説していきます。
- 参議院選挙と株価の関係について過去の参院選を検証することができる
- 2022年参院選の注目ポイントや注目テーマ株についてわかる
- 岸田政権について今後注意すべき点がわかる
2022年7月には第26回参議院議員選挙が行われる
日本の政治は衆議院と参議院の二院制となっており、衆議院は4年に1度、参議院は3年に1度、選挙が実施されます。
参議院議員の任期は6年となっており、3年ごとにその半数が改選されます。
また、衆議院には解散がありますが、参議院には解散がないため、参議院議員選挙は3年ごとに必ず行われる国政選挙です。
2022年には、参議院が7月25日に任期満了となることを受けて、7月に第26回参議院議員選挙が行われます。
2022年通常国会は6月15日閉幕となっており、政府与党は本選挙の公示日を6月22日、投開票を7月10日に行う方向で調整しているとのことです。
2022年参院選の改選数は124議席となっており、小選挙区が74議席、比例区が50議席となっています。
今回の参議院選では、ロシアによるウクライナ侵略への対応や、ウクライナ情勢や円安による物価高対策、新型コロナ対応などに対する政権への審判が問われることになりそうです。
2022年5月下旬に実施された各社の世論調査では、岸田政権の支持率は過去最高となっており、自民党が勝利する可能性が強まっていると見られます。
ただ、急激な円安やウクライナ情勢によるエネルギー・食料高による物価高を受けて、悪性インフレ(スタグフレーション)進行の懸念も強まっており、選挙直前になってアキレス腱となる可能性もあります。
過去の参議院選挙で株価はどうなっていたかを検証!
過去5回の参議院選挙の結果は次のようになっています。
年 |
当時の政権 |
与党の議席数 |
2007年 |
自民党・安倍政権 |
-30議席 |
2010年 |
民主党・菅政権 |
-10議席 |
2013年 |
自民党・安倍政権 |
+32議席 |
2016年 |
自民党・安倍政権 |
+11議席 |
2019年 |
自民党・安倍政権 |
-6議席 |
過去5回の参議院選挙で、日経平均株価はどのようになっていたのかを見ていきましょう。
2007年 第21回参議院選挙
2007年7月29日に行われた第21回参議院議員選挙では、野党第1党だった民主党が+28議席、与党・自民党が-27議席(公明党が-3議席)となり、発足してから1年となった第1次安倍政権が大敗することとなりました。
この選挙後、自民党内では「安倍おろし」の動きが起こり、安倍政権は9月12日に退陣を表明。
2年後の政権交代に繋がる重要な選挙となりました。
日経平均株価の週足チャート(2007年7月~)
日経平均株価は、与党惨敗の動きを受けて売られました。
サププライムショックの影響で世界的に株安となっていたこともあり、2008年秋のリーマンショックまで下落トレンドが継続する相場展開となりました。
2010年 第22回参議院選挙
民主党政権への政権交代から1年後の2010年7月11日に行われた第22回参議院議員選挙では、民主党が10議席減らした一方、野党となった自民党が13議席を増やしました。
民主党政権への国民の期待が失望に変わりつつあったことを象徴する選挙になったと言えます。
日経平均株価の週足チャート(2010年7月~)
日経平均株価は選挙前から売られており、選挙後には一時的に下げてから上昇しました。
その後、東日本大震災から2012年12月の安倍政権誕生までは、日本株にとっては苦しい状況が続きました。
2013年 第23回参議院選挙
第2次安倍政権発足から8ヶ月後の2013年7月21日に行われた第23回参議院選挙は、自民党が31議席(公明党+1議席)を増やし、衆院選に続き与党の圧勝となりました。
日経平均株価の週足チャート(2013年7月~)
選挙前はアベノミクス相場の乱高下となっており、選挙後には一時的に下落したものの、2013年9月に2020東京オリンピックの開催が決まったこともあり、日本株は上昇トレンドに入っていくことになります。
2016年 第24回参議院選挙
2016年7月10日に行われた第24回参議院選挙では、自民党+6議席、公明党+5議席となり与党の勝利となりました。
日経平均株価の週足チャート(2016年7月~)
選挙前にはイギリスのEU脱退(ブリグジット)で売られていましたが、選挙後には株価は上昇し、トランプ政権の誕生などもある中で再び上昇トレンド入りとなりました。
2019年 第25回参議院選挙
2019年7月21日に行われた第25回参議院選挙では、自民党は9議席減らし(公明党は+3議席)、立憲民主党が+8議席獲得しました。
日経平均株価の週足チャート(2019年7月~)
与党が議席を減らしたことを受けて、株価は選挙後に一時売られましたが、その後は持ち直しました。
2022年7月の第26回参議院議員選挙の注目ポイント
2022年7月に投開票が行われる第26回参議院議員選挙の注目ポイントについてまとめておきましょう。
自民党が勝利して岸田政権が安定政権になるか?
過去の参議院選挙と株価の関係を見てみると、与党が勝利すると上昇しやすい傾向があります。
これは、与党が議席を増やして政権運営が盤石の体制になると、長期的な経済政策を実施しやすくなるためです。
今回の参院選で岸田政権が勝利すれば、衆議院を解散しない限り、2025年まで大型の国政選挙はないため、長期的な安定政権となる目算が立ちます。
そして、岸田政権の支持率は2022年5月時点においても高く、一方で野党は全く存在感を示すことができないでいることから、自民党が安定基盤を築く可能性は高いものと見られます。
選挙と株価の一般論からすると、自民党が勝利すれば株価は上昇する材料になると考えられます。
円安やウクライナ情勢による物価高対策や新型コロナ緩和はどうなる?
株式市場が選挙で期待するのは政策です。
2012年12月の衆院選では、第2次安倍政権のアベノミクスへの期待感から日本株が大きく買われたことはその象徴とも言えることです。
また、2020年9月の自民党総裁選では、デジタル庁を推進した菅政権が誕生したことを受けてデジタル庁関連銘柄が大きく買われました。
2022年参院選においては、円安やウクライナ情勢による物価高対策や新型コロナ緩和がマーケットにおいても注目される政策となってきそうです。
物価高対策としては、エネルギー価格や食料価格が上がり続けている以上は日本に選択肢はあまりありませんが、電気料金の上昇を少しでも抑えるための原発再稼働は注目されます。
岸田総理は原発再稼働に対して前向きな発言を繰り返しており、選挙後には大きなテーマになってくるかもしれません。
また、水際対策の緩和を中心とする新型コロナ緩和を進めていくことも注目されます。
特に、インバウンド(訪日外国人観光客)の解禁は、円安も追い風となるため期待できます。
さらに、「Go Toキャンペーン」の再開も株式市場に好感されそうな政策です。
岸田政権の勝利は金融増税や自社株買い規制が嫌気される可能性も
一般論としては、与党が勝利して安定政権の基盤が築ければ、長期政策への期待から株は買われる傾向があります。
ただ、岸田政権の場合には注意が必要かもしれません。
岸田政権は、「新しい資本主義」を掲げており、金融増税や自社株買いの規制など、マーケットに嫌気される政策を実施する可能性があるためです。
岸田政権が発足してからの日経平均株価は次のようになっています。
日経平均株価の週足チャート(2021年7月~)
岸田政権が発足した2021年10月(上図赤丸)以降、日経平均株価は売りが目立つ展開となっています。
この期間には、米国市場がFRBの利上げ懸念から大きく下げ、ウクライナ情勢による世界株安となったことも考慮に入れる必要はあります。
ただ、この期間には急激な円安が進展したことを考慮すると、ドルベースでの日経平均株価はチャートで見るよりも弱く、マーケットは岸田政権を嫌っていると言わざるを得ません。
岸田政権の支持率は高止まりしていますが、投資家からすると長期政権はネガティブ要因になる可能性があることを考慮しておく必要があります。
自民党が勝利した場合、長期政権への期待というポジティブ要素と、岸田政権というネガティブ要素がどのように反応するかです。
2022年の参議院議員選挙を受けて買われる可能性があるテーマや銘柄
2022年参議院選で買われる可能性があるテーマや銘柄について押さえておきましょう。
選挙関連銘柄
選挙前に物色されやすい「選挙関連銘柄」は、今回の参議院選挙でも注目です。
具体的な選挙関連銘柄としては、選挙用ハガキメーカーや投票機器メーカー、世論調査を実施する企業など、選挙の実施を受けて潤う中小株が挙げられます。
最も代表的な選挙関連銘柄としては、投票用機器で国内トップシェアを誇る【7521】ムサシが挙げられます。
【7521】ムサシの月足チャート
ムサシの株価は、衆議院選挙実施前の2014年11月や2017年9月などに大きな上ヒゲを出しており、2020年8月には安倍総理の辞任を受けて早期の解散総選挙が期待されたことから大きく買われました。
選挙関連銘柄としては、封筒最大手の【3955】イムラ封筒、投票用紙自動交付機を手掛けている【6457】グローリー、子会社が政治・選挙プラットフォーム「政治山」を運営する【3919】パイプドホールディングスなどが挙げられます。
原子力関連銘柄
岸田政権の物価高対策として注目されつつあるのが、原発再稼働です。
ウクライナ情勢や脱炭素を受けたエネルギー価格の上昇を受けて、原子力発電は世界的に再評価されており、次世代の小型原子炉(SMR)も注目を集めています。
福島第一原発事故を経験した日本国民としては、原発再稼働に心理的な抵抗があることも事実ですが、原発再稼働のメリットが非常に大きくなっている情勢になっていることは間違いありません。
岸田総理は原発再稼働について前向きな発言を繰り返しており、代表的な原子力関連銘柄である【9501】東京電力ホールディングスの株価は2022年に入ってから大きく反発となっています。
【9501】東京電力ホールディングスの月足チャート
東電は、新潟県の柏崎刈羽原子力発電所1~7号機が停止しており、原発再稼働の影響を最も大きく受ける期待から買われています。
新型コロナ緩和関連
物価高対策とともに国民の関心となっているのが、新型コロナ対策についてです。
株式市場では、新型コロナ緩和を加速することが期待されています。
特に期待されるのがインバウンドの解禁です。
岸田総理は、6月10日から新型コロナウイルスの水際対策として停止していた外国人観光客の入国を再開すると表明しました。
感染リスクが低い国・地域からの添乗員付きのパッケージツアー客に限定し、段階的に対象を拡大するとのことです。
ただ、1日の入国者数の上限は2万人に制限される方向となっており、世界各国が続々と海外旅行の完全緩和に踏み切っている中で、日本の観光競争力が出遅れてしまうことが懸念されます。
インバウンド解禁は、円安も追い風となることから、株式市場では旅行株を中心に物色され始めています。
次のチャートは、インバウンド向け旅行業に強い【6561】HANATOUR JAPANの株価チャートです。
【6561】HANATOUR JAPANの月足チャート
インバウンドの緩和に向けては、【9603】エイチ・アイ・エスなどの旅行株や、自動翻訳機「ポケトーク」を手掛ける【4344】ソースネクストなどもチェックしておきましょう。
まとめ
今回は、参議院選挙と株価の関係について過去の参院選を検証した上で、2022年参院選の注目ポイントや注目テーマ株について解説してきました。
過去の参議院選挙と株価の関係性を見てみると、与党が勝利すると株価が買われやすくなる動きがあると言えます。
2022年参院選は、岸田政権の支持率が高く推移していることから、自民党が有利な情勢となっています。
ただ、岸田政権は金融増税や自社株買いの規制など、アンチマーケットの姿勢があることには注意が必要です。
2022年参議院選の政策としては、物価高対策や新型コロナ対応に注目が集まり、原発再稼働やインバウンドの解禁などがマーケットで注目されるテーマとなっています。
紫垣 英昭
この記事が気に入ったら
いいねしよう!
最新記事をお届けします。