バイオジェット燃料国策株の注目銘柄とは?航空業界でも進む脱炭素テーマ株!

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

航空業界の脱炭素・国策テーマ株として、バイオジェット燃料国策株が注目されつつあります。

政府は2050年の脱炭素社会の実現に向けて、国土交通省主導のもとでバイオジェット燃料を積極推進する意向を示しています。

バイオジェット燃料国策株は、国策の脱炭素テーマであることに加え、アフターコロナの航空特需が重なることからも期待できるテーマ株です。

今回は、バイオジェット燃料国策株が国策テーマ株として注目される背景について解説した上で、代表的なバイオジェット燃料国策株についてチャート付きで紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • バイオジェット燃料国策株が国策テーマ株として注目される背景についてわかる
  • 代表的なバイオジェット燃料国策株についてチャート付きでわかる
  • 長期的に買われる脱炭素テーマ株になるかどうかは何次第かを学べる

バイオジェット燃料は航空業界の脱炭素政策として注目が集まっている

航空業界の脱炭素の切り札としても期待されるバイオジェット燃料について簡単に押さえておきましょう。

バイオジェット燃料とは?

バイオジェット燃料とは、トウモロコシや大豆、藻類、ミドリムシなどのバイオマス原料から生成される環境にやさしい航空燃料のことです。

日本政府は2020年10月、2050年までに温室効果ガスの排出を全体としてゼロにする「カーボンニュートラル」を目指すことを発表しました。

特に、航空業界は温室効果ガスの排出量が多く、国内航空は日本の温室効果ガス排出量全体の実に5.0%を占めます。

出典:国土交通省(https://www.mlit.go.jp/common/001395880.pdf)

脱炭素社会の実現に向けて、ICAO(国際民間航空機関)は、燃料効率を毎年2%ずつ改善し、2020年以降は総排出量を増やさない目標を掲げており、2016年には国際航空のカーボンオフセット及び削減スキーム「CORSIA」が導入されました。

具体的には、(1)次世代航空機など新技術の導入、(2)運航方式の改善、(3)バイオジェット燃料を始めとする持続可能航空燃料(SAF)の活用、(4)市場メカニズムの活用の4本柱で進めていくとのことです。

特に、航空機の燃料をバイオジェット燃料に置き換えていく取り組みは、航空業界で脱炭素が進むかどうかのカギとなりそうです。

国土交通省はバイオジェット燃料を積極推進

日本の航空業界の脱炭素は国土交通省を中心に進められています。

国土交通省は2021年3月22日、脱炭素社会の実現に向けて運航分野における温室効果ガス排出削減の取り組みを加速させる必要性から、「航空機運航分野におけるCO2削減に関する検討会」を初めて開きました。

出典:国土交通省(https://www.mlit.go.jp/common/001395880.pdf)

この会合においては、(1)機材・装備品等への新技術導入、(2)管制の高度化による運航方式の改善、(3)持続可能な航空燃料(SAF)の導入促進という3つの方針が示されました。

CO2削減率50~80%のバイオジェット燃料を導入することによって、約2~3割程度のCO2が削減されると試算されます。

ただ、現時点では、国産バイオジェット燃料の製造コストはまだ高く、十分な製造量が確保できない、CORSIA適格燃料としての規格や認証問題など、問題は山積しています。

国土交通省は今後、バイオジェット燃料の課題について幅広い関係者とともに課題解決に向けた議論を継続していき、年内にも脱炭素に向けた工程表を策定するとのことです。

また、世界環境デーの前日となった2021年6月4日には、国土交通省航空局の飛行検査機サイテーションCJ4が、ユーグレナがミドリムシから製造したバイオジェット燃料を使用した飛行検査フライトを実施したというニュースが入ってきました。

バイオジェット燃料はまだ発展途上の技術ではありますが、今後、航空業界の脱炭素国策テーマとして注目される余地は大きいものと期待されます。

バイオジェット燃料国策株が注目される理由

バイオジェット燃料国策株が、マーケットで注目されそうな背景を押さえておきましょう。

国策の脱炭素テーマ株である

バイオジェット燃料は、政府が主導する脱炭素の国策テーマであるということが、多くの投資家が注目しつつある最たる理由の一つです。

EVシフトが進み、バイデン新政権が環境政策を目玉に掲げるなど世界中で脱炭素の動きが加速した2020年秋以降、日本政府も「グリーン成長戦略」として数多くの脱炭素政策を掲げてきました。

特に、世界的なEVシフトを背景とした「EV(電気自動車)関連銘柄」、太陽光発電やバイオマス発電などの「再生可能エネルギー関連銘柄」、日本政府が脱炭素の主要エネルギーに掲げる「水素関連銘柄」は、2020年秋から2021年初めに掛けて大相場が到来。

EV・再エネ・水素の3大脱炭素テーマほどではありませんが、洋上風力発電やアンモニアといった他に環境テーマ株にも買いが波及する展開となりました。

バイオジェット燃料も、脱炭素の流れをくむ国策テーマ株であることが、多くの投資家から注目されている背景にあります。

新型コロナワクチン普及で航空特需が期待される

新型コロナの影響で、旅行需要が消滅してしまったことから、航空会社や空港関連の銘柄は新型コロナ相場では全滅状態となっています。

しかし、新型コロナワクチンの接種が進むことによって、2021年後半以降には需要が急回復に向かうことが期待されます。

株式市場においても、旅行や観光といった、新型コロナ収束後に爆発的な特需が期待される銘柄は「アフターコロナ関連銘柄」と呼ばれており、反発傾向にある銘柄が少なくありません。

新型コロナ相場では多くの銘柄が株高になっており、既に業績の先食いをしてしまった銘柄やセクターは少なくありません。

しかし、航空セクターはまだコロナ前の株価水準を取り戻せていないため、コロナ収束後を見据えて市場全体をけん引するセクターになる可能性が期待できます。

アフターコロナに旅行需要が爆発し、株式市場でも注目されることになれば、航空業界の注目テーマであるバイオジェット燃料も話題になる可能性は大きいと思われます。

バイオジェット燃料国策株7選!

バイオジェット燃料国策株として注目される代表的な銘柄を見ていきましょう。

【2931】ユーグレナ

健康食品や化粧品などミドリムシビジネスを手掛ける【2931】ユーグレナは、バイオジェット燃料国策株の代表銘柄です。

同社は、2021年3月、ミドリムシを原料としたバイオジェット燃料が国際規格に適合したと発表。

6月4日には、国土交通省航空局が、同社のバイオジェット燃料を使用した飛行検査フライトを実施したというニュースが伝わってきています。

【2931】ユーグレナの月足チャート

ユーグレナの株価は、バイオジェット燃料の国際規格適合を発表した2021年3月に大きく買われて上ヒゲを付けました。

ただ、2021年3月以降は売られている状態です。

バイオジェット燃料はニュースとして一時的に大きく買われる材料になりましたが、今後、中長期の上昇に繋がっていくかどうかはまだ分かりません。

【6330】東洋エンジニアリング

プラント大手の【6330】東洋エンジニアリングは、脱炭素銘柄として2020年秋から大きく買われており、バイオジェット燃料国策株としても注目の銘柄です。

同社は、三菱パワー、JERA、JAXAとの共同研究で、製紙スラッジやおが粉などの木質草本系バイオマスを蒸し焼きにしてガス化し、さらに液化してバイオジェット燃料を製造する技術を開発していることで知られています。

【6330】東洋エンジニアリングの月足チャート

東洋エンジニアリングの株価は、2020年秋以降に反発しています。

化学肥料などに強いことから環境テーマ株として買われていますが、バイオジェット燃料国策株としても押さえておくようにしましょう。

【7013】IHI

総合重機大手の【7013】IHIは、ボツリオコッカス(光合成によって炭化水素を生成する緑藻の1種)を使ったバイオジェット燃料を手掛けていることで知られるバイオジェット燃料国策株です。

【7013】IHIの月足チャート

IHIの株価は、脱炭素テーマ株が買われた2020年11月以降に反発しています。

バイオジェット燃料以外にも、洋上風力発電やアンモニアなどを手掛けていることから、環境株として強い銘柄です。

【9513】Jパワー

電力卸売り最大手の【9513】Jパワー(電源開発)は、海洋ケイ藻の光合成を使ったバイオジェット燃料を製造しており、バイオジェット燃料国策株に数えられます。

【9513】Jパワーの月足チャート

Jパワーの株価は下落したままの状態が続いています。

2021年初めにはやや反発したものの、安値圏から脱するには至っていません。

同社や大手電力会社は、再生可能エネルギーは手掛けているものの、火力発電の比率が高いこともあり、脱炭素相場では厳しい状況が続きます。

【9201】日本航空

大手航空会社の【9201】日本航空(JAL)は、バイオジェット燃料の動向を握る企業です。

JALとANAは2021年4月、2050年までに航空機の運航で発生するCO2排出量を実質ゼロにする方針を発表しています。

JALは、廃プラスチックや使用済み食用油を原料とするバイオジェット燃料を段階的に増やしていく方針とのことです。

【9201】日本航空の月足チャート

JALの株価はまだコロナ前の水準には遠いものの、2021年に入ってから反発してきています。

【9202】ANAホールディングス

国内線・国際線トップの【9202】ANAホールディングスも、JALと同様に日本のバイオジェット燃料を左右することになる企業です。

ANAは、脱炭素を達成するため、食品廃棄物や工場排気ガスを原料とするバイオジェット燃料の導入を進める計画を発表しています。

【9202】ANAホールディングスの月足チャート

ANAホールディングスの株価は、JALとほぼ同じ動きとなっています。

底を打って反発傾向にあるものと見られます。

【5017】富士石油

石油精製販売中堅の【5017】富士石油は、バイオジェット燃料も手掛けているバイオジェット燃料国策株です。

同社は2020年11月、環境エネルギー社・HiBD研究所と、バイオジェット燃料の製造で共同研究を締結したことを発表しました。

【5017】富士石油の月足チャート

富士石油の株価は、2021年に入ってから大きく反発しています。

ただ、バイオジェット燃料国策株として買われたとは一概には言えず、原油高かつ100円台の低位株で買われやすかったことが大きく寄与したものと見られます。

まとめ

今回は、バイオジェット燃料国策株が国策テーマ株として注目される背景について解説した上で、代表的なバイオジェット燃料国策株についてチャート付きで紹介してきました。

バイオジェット燃料は、航空業界が脱炭素を達成するため、国土交通省が主導で進めている国策として注目されています。

ただ、株式市場においてバイオジェット燃料国策株として明確に買われていると言えるのは、ミドリムシベンチャーの【2931】ユーグレナのみという状況です。

バイオジェット燃料国策株が、EVや再エネ、水素のように長期的に買われる脱炭素テーマ株になるかどうかは、政府と航空業界がどれだけバイオジェット燃料に力を入れるか次第と見てよいでしょう。

紫垣 英昭