紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
米国利上げによる円安、ウクライナ情勢による資源高、新型コロナによる物不足のトリプルパンチを受けて、2022年は日本でもインフレが進むことになりそうです。
株はインフレに強い資産とされていますが、急激なインフレとなれば短期的には売られる懸念もあるため注意も必要です。
インフレ下で強い銘柄としては、生活防衛関連株や価格支配力がある企業、円安で恩恵を受ける輸出企業、資源高の恩恵を受ける資源株などが挙げられます。
今回は、2022年にインフレが起こる背景やインフレと株価の関係性について解説した上で、インフレに強いテーマ株や銘柄について紹介していきます。
- 2022年にインフレが起こる背景やインフレと株価の関係性についてわかる
- インフレに強いテーマ株や銘柄についてわかる
- インフレに強い銘柄を抑えておくポイントがわかる
2022年に日本でインフレが進行する可能性が高まっている3つの背景
日本では長らく、物価が下落するデフレ経済が続いており、2013年から日銀が「物価上昇率2%」を目標に異次元金融緩和を行ってきましたが、いっこうにデフレからは抜け出せませんでした。
しかし、2022年には日本でもインフレが進行する可能性が高まっています。
日本のインフレ指標としては、総務省が毎月発表している「消費者物価指数(CPI)」を見ることが一般的です。
「消費者物価指数(CPI)」は、消費者が実際に購入する段階で、商品の小売価格の変動を表す指標です。
日本の2021年から2022年に掛けての消費者物価指数(CPI)[前年同月比]は次のようになっています。
※出典:Yahoo!ファイナンス(https://info.finance.yahoo.co.jp/fx/marketcalendar/detail/7031)
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0.5 |
0.9 |
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-0.2 |
-0.4 |
-0.1 |
0.2 |
-0.3 |
-0.4 |
0.2 |
0.1 |
0.6 |
0.8 |
日本の物価は2021年後半からプラスに転じてはいるものの、まだそれほど大きく上がってはいません。
ただ、2021年4月以降は携帯電話料金引き下げの影響があり、この影響がなくなる2022年4月以降には2%を超えるインフレになる公算が強まっています。
日本でインフレが進行している3つの背景(円安・資源高・物不足)について押さえておきましょう。
米国利上げによる円安の進行
2022年3月以降、円安の進行が止まりません。
円安が進むと、輸入物価が高騰するため物価高を推し進める要因となります。
ドル円の為替チャートは次のようになっています。
ドル円チャートの月足チャート(https://jp.tradingview.com/symbols/USDJPY/)
ドル円は、民主党政権が終わりアベノミクスが始まった2012年12月から円安となり、2015年6月には1ドル125円85銭まで円安が進行しました。
その後は1ドル100円~120円台で推移していましたが、2020年3月のコロナショック時に1ドル101円まで円高になって以降は円安トレンドが継続しています。
特に、2022年3月以降は急激な円安ドル高となっていますが、これはロシアのウクライナ侵攻に加えて、米国FRBが利上げを実施する方針を受けてのものです。
現在、米国では7%を超える急激なインフレが止まらず、米国の消費者物価指数(CPI)[前年同月比]は次のようになっています。
※出典:Yahoo!ファイナンス(https://info.finance.yahoo.co.jp/fx/marketcalendar/detail/9052)
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7.9 |
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21年 |
1.4 |
1.7 |
2.6 |
4.2 |
5 |
5.4 |
5.4 |
5.3 |
5.4 |
6.2 |
6.8 |
7.0 |
米国FRB(連邦準備理事会)は、急激なインフレを冷やすため、ドルのゼロ金利を解除して利上げを進めています。
しかし、ドルが利上げすることになれば、ゼロ金利の円を売り、金利が付くドルを買う動きが強まることになるため、円安ドル高が進行することになります。
一方、日銀は大量の国債を発行しているため利上げに動くことは難しく、今後FRBが利上げを実施するたびに円安ドル高が進行する可能性が強まっている状況です。
さらに、2022年3月には、FRBの利上げに加えて、ロシアのウクライナ侵攻による資源高で日本の貿易赤字が拡大したことも急激な円安に繋がった一因になったとされます。
ウクライナ情勢や脱炭素による資源高
ウクライナ情勢や脱炭素による資源高も、インフレに繋がる要因となっています。
原油・天然ガス(LNG)・石炭といった化石燃料価格は、2020年秋からの世界的な脱炭素(カーボンニュートラル)を受けて、価格上昇傾向にありました。
そこに2022年ウクライナ情勢が追い打ちを掛ける形となり、資源価格は急騰しています。
世界中が経済制裁を加えているロシアは、石油輸出量世界2位、天然ガス輸出量世界1位であるため、資源価格への影響は甚大です。
代表的な原油先物価格である「WTI原油先物価格」は次のようになっています。
WTI原油先物価格の月足チャート(https://jp.tradingview.com/symbols/USOIL/)
日本の化石燃料依存度は2018年時点で88.5%と高く、化石燃料価格が上がれば、企業物価などにも大きな影響を与えることになるため、インフレ圧力となることは避けられません。
また、ウクライナは世界的な穀倉地帯であり、食料価格に大きな影響を及ぼす小麦先物価格も高騰しています。
小麦先物価格の月足チャート(https://jp.tradingview.com/symbols/CBOT_MINI-XW1!/)
ウクライナ情勢は長期化懸念が強まっており、仮に早期停戦となったとしてもロシアへの経済制裁が長期化することになれば、多くの資源価格が高止まりすることが懸念される状況です。
新型コロナによる世界的な物不足
世界経済は新型コロナからの急激な経済回復を遂げていますが、半導体や海運、木材などは供給が追い付いておらず、世界的な物不足となっていることもインフレ要因です。
日本では、半導体不足から自動車の生産が需要に対して追い付いてないことから、中古車価格が過去最高値となっています。
サプライチェーンの混乱はしばらく収まりそうになく、物不足による価格高騰が沈静化するにはしばらく時間が掛かりそうです。
インフレと株価の関係性
インフレと株価の関係性について押さえておきましょう。
株は長期的にはインフレに強いが短期的には売られる懸念も
株は、不動産や金(ゴールド)などと並んでインフレに強い資産とされます。
株がインフレに強い背景としては、企業業績という観点で見ると、モノの値段が上がるインフレでは企業の利益が大きくなりやすく、株価上昇要因となるためです。
ただ、「株がインフレに強い」ということはあくまで一般論であり、長期的な視点に立って考えた場合です。
短期的に急激なインフレとなった場合には、株は売られることも懸念されてきます。
2021年以降の米国で起こっているような急激なインフレとなってしまうと、インフレが実体経済に及ぼす影響を小さくするため、中央銀行が利上げなどの金融引き締めを行うことになります。
利上げは、短期的に株式市場にとっては悪材料となるため、マーケットには売り圧力が強まることになります。
現に、米国経済は好調にも関わらず、FRBがインフレ対策として利上げ方針を示した2021年11月以降、米国株は大きく売られました。
「S&P500指数」の月足チャート(https://jp.tradingview.com/symbols/SPX/)
「株は長期的にはインフレに強いが、短期的には売られる場合もある」と、臨機応変に考えておくようにしましょう。
インフレが企業業績にプラスになるかどうかがポイント
株式投資を行う上では、「インフレが企業業績にプラスになるかどうか」がポイントとなります。
インフレとなって業績を大きく伸ばす企業もあれば、原材料費高騰などのデメリットが響いて業績を落とす企業もあります。
逆に、100円ショップやドラッグストアなど、デフレ下の日本でも業績を伸ばして株価上昇となってきた企業もあります。
「インフレだから株価上昇」「デフレだから株価下落」という単純な図式ではなく、インフレによって企業業績がプラスとなる業種や企業を見極めて株式投資を行っていくようにしましょう。
特に、2022年に日本で懸念されているインフレは、円安・資源高・物不足を背景にした悪性インフレ(スタグフレーション)となることが指摘されており、業績を伸ばす企業と業績を落とす企業が二極化しそうなことには注意が必要です。
インフレに強いテーマ株や銘柄を紹介!
インフレに強いテーマ株や具体的な銘柄について押さえておきましょう。
生活防衛関連株
2022年に日本で懸念されるインフレは、物価は上がる一方で給料は上がらない悪性インフレ(スタグフレーション)の可能性が強まっていると指摘されています。
悪性インフレを受けて消費者の生活防衛意識がさらに高まることになれば、格安品や中古品を手掛ける企業の業績が上がることが期待できそうです。
不景気や物価の上昇、増税といった局面において、消費者が生活を守るための行動をすることで恩恵を受けるテーマ株は「生活防衛関連株」と呼ばれます。
具体的には、100円ショップの【2782】セリアや【2698】キャンドゥ(100均最大手のダイソーは非上場企業)、フリマアプリの【4385】メルカリ、「業務スーパー」を展開する【3038】神戸物産、格安販売店「ドンキホーテ」の【7532】パン・パシフィック・インターナショナルホールディングスなどが挙げられます。
【3038】神戸物産の月足チャート
生活防衛関連株は、日常生活でもおなじみの身近な銘柄が多いことが特徴のため、投資初心者のインフレ対策にもおすすめの銘柄です。
価格支配力が強い銘柄
株がインフレに強い資産である理由は、「モノの値段が上がるインフレでは企業の利益が大きくなりやすい」ためです。
ただ、この条件を満たすには、インフレになっても価格を上げられる「価格支配力(価格競争力)」が強いことが条件です。
価格を上げたら、他の商品やサービスに消費者が移動してしまうような価格支配力が低い事業を展開している企業は、インフレでは業績を落としてしまいます。
価格支配力がある競争力が高い商品・サービスを提供している企業、独占市場で事業展開している企業などが、インフレに強い銘柄となります。
具体的には、海運3社の【9101】日本郵船、【9104】商船三井、【9107】川崎汽船、鉄鋼業の【5401】日本製鉄、【5411】JFEホールディングス、【5406】神戸製鋼所、たばこ独占企業の【2914】JT、ゲーム機大手の【7974】任天堂、【6758】ソニーなどが挙げられます。
【9101】日本郵船の月足チャート
海外売上高比率が高い輸出企業
円安は今回のインフレの一因となっていますが、円安が進めば、円ベースでの売上高が拡大することになるため、海外売上高比率が高い輸出企業の業績にとってはプラスです。
例えば、【7203】トヨタ自動車や【7267】ホンダ、【7201】日産自動車といった自動車メーカーは、海外売上高比率が8割前後にのぼっている代表的な輸出企業です。
また、【6981】村田製作所や【6762】TDK、【6594】日本電産といった技術大国日本を象徴する部品メーカーも海外売上高比率が高く、円安で恩恵を受けることが期待されます。
【7203】トヨタ自動車の月足チャート
ただ、海外売上高比率が高い輸出企業は海外工場進出を進めているため、かつてほどは円安のメリットが受けられないことも指摘されています。
アベノミクス相場から「円安=株高」のイメージは強いものの、必ずしもこの図式が成り立つとは限らないことには注意しておきましょう。
資源高の恩恵を受ける資源株
2022年は年初から株安となりましたが、資源高の恩恵を受ける資源株は一人勝ちの展開となりました。
資源株としては、資源開発大手の【1605】INPEX(旧・国際石油開発帝石)、鉱山株の【5713】住友金属鉱山、資源に強い総合商社の【8058】三菱商事や【8031】三井物産、【2768】双日などが代表的な銘柄として挙げられます。
個別資源で見ると、原油高の恩恵を受ける石油元売り大手の【5020】ENEOSホールディングスや【5019】出光興産、石炭商社の【1518】三井松島ホールディングス、アルミニウムの【5741】UACJや【5702】大紀アルミニウム工業所、ニッケルの【5480】日本冶金工業や【5541】大平洋金属なども押さえておきましょう。
【1605】INPEXの月足チャート
まとめ
今回は、2022年にインフレが起こる背景やインフレと株価の関係性について解説した上で、インフレに強いテーマ株や銘柄についてご紹介してきました。
米国利上げによる円安、ウクライナ情勢による資源高、新型コロナによる物不足のトリプルパンチを受けて、2022年は日本でもインフレが進む可能性が高まっています。
一般的に、株はインフレに強い資産とされていますが、重要なことは「インフレが企業業績にプラスになるかどうか」です。
インフレに強い銘柄としては、生活防衛関連株や価格支配力がある企業、円安で恩恵を受ける輸出企業、資源高の恩恵を受ける資源株などを押さえておくようにしましょう。
紫垣 英昭
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