LNG(液化天然ガス)関連銘柄は脱炭素による天然ガス高騰で注目のエネルギー株!

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

脱炭素を背景とした天然ガス価格の上昇を受けて、LNG(液化天然ガス)価格が高騰しています。

LNGは化石燃料の中でもクリーンなエネルギーであり、日本ではLNG火力発電は全エネルギーの35%を賄っているなど最重要エネルギーです。

LNG価格の高騰は日本経済にとっては逆風ですが、LNGを取り扱っているエネルギー企業や商社にとってはプラス材料となります。

今回は、LNGの概要やLNG価格高騰の背景について解説した上で、LNG関連銘柄として注目される銘柄についても紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • LNGの概要やLNG価格高騰の背景についてわかる
  • LNG関連銘柄として注目される銘柄についてわかる
  • LNGの今後について考えることができるようになる

LNG(液化天然ガス)とは?

日本にとって最重要エネルギーともされるLNG(液化天然ガス)について押さえておきましょう。

LNGの概要

LNGとは「Liquefied Natural Gas」の略称で、日本語訳すると「液化天然ガス」と呼ばれるエネルギー資源です。

LNGは「液化天然ガス」という名称の通り、メタンを主成分とする天然ガスを-162℃まで冷却し液化させたものです。

天然ガスを液化することによって、体積が約600分の1となるため、タンクローリーや鉄道による輸送やタンクでの大量貯蔵が可能になるという利点があります。

海外からLNGタンカーで運ばれてきたLNGは、液体のままLNGタンクに保存され、常温の海水で温めることによって液体のLNGから気体の天然ガスに戻し、燃料として利用されます。

LNGは、石炭や石油に比べて燃焼時の二酸化炭素(CO2)排出量が少なく、石炭と比較すると排出量は約6割とされます。

窒素酸化物(NOx)の排出量も少なく、硫黄酸化物(SOx)は排出せず、ばいじんもほぼ発生しないなど、LNGは化石燃料の中でも環境に優しいエネルギーです。

また、天然ガスは埋蔵量が豊富で、世界各地で産出可能なことから、安定的に調達できることもエネルギー安全保障上の大きなメリットです。

 LNGは日本にとって重要なエネルギー資源

島国である日本は、天然ガスの産出地からパイプラインを引くことが困難であることから、LNGは重要な資源となっています。

原発が止まっている日本では、火力発電が全エネルギーの70%以上を占めている状況です。

火力発電の中でも、特にLNG火力発電が占める割合は大きく、2020年のLNG火力発電のエネルギーシェアは35.4%と全エネルギー源の中でもトップです。

日本全体の電源構成(2020年)

※出典:環境エネルギー政策研究所

日本は2050年までに脱炭素(カーボンニュートラル)を進める方針ですが、火力発電をいきなりゼロにするということは現実的ではなく、火力発電の中でも比較的クリーンなLNG火力発電に頼る状況はしばらく続きそうです。

日本は、LNGの海外依存度は97.7%(2019年)と、LNGのほぼ全量を輸入に頼っている状況です。

日本のLNG輸入先(2019年)

※出典:資源エネルギー庁

原油は中東への依存度がほぼ9割となっていますが、LNGはアジアを中心に分散化が進んでいます。

日本政府は、LNGの市場調達量を増やすために、LNG調達先の多角化や、さらなる権益獲得に向けた取り組みも積極的に進めています。

LNG価格は脱炭素を背景に高騰を続けている

脱炭素による天然ガス価格の高騰を背景に、LNG価格も大きく上昇しています。

LNG価格の動向について

LNG価格は、天然ガス価格に、タンカーによる輸送価格などを加えた価格となります。

つまり、LNG価格の動向を見る上では、天然ガスの価格をチェックしておくことが重要です。

次のチャートは、ニューヨーク商業取引所(NYMEX)の天然ガス先物価格です。

天然ガス先物価格の月足チャート

天然ガス価格は、アメリカなどでシェール革命が進んだ2010年代には安定していましたが、世界的に脱炭素が進んだ2020年秋以降には反発しています。

2000年代中盤から後半に付けていた高値水準にはまだほど遠いものの、脱炭素の流れによって今後さらなる高騰となる可能性も考えられる状況です。

LNG価格が上昇している背景とは?

天然ガス価格しいてはLNG価格が2020年秋以降に上昇している背景として、短期的な要因としては新型コロナから経済が急回復したことが挙げられますが、長期的な要因としては脱炭素の影響があります。

脱炭素によって、将来的な化石燃料利用が減る見通しとなったことから、世界各国の企業は石炭や石油、天然ガスへの投資を減らす動きが相次ぎました。

一方で、中国をはじめとするアジア各国は、石炭火力発電から、よりクリーンなLNG火力発電に転換する動きを強めたことから、LNGの需要が増大。

天然ガスへの新規投資が減って将来的な供給不足が懸念される一方で、LNG需要が増大したことから、LNG価格の高騰に繋がりました。

脱炭素を進めていく以上は、今後も天然ガス価格の高止まりが懸念される状況にあり、日本にとってはLNGの調達リスクの分散も重要課題となってきそうです。

天然ガスの多くをロシアからの輸入に頼る欧州では、ウクライナ情勢を受けて天然ガス価格が急騰しており、日本は欧州にLNGを融通する方針を決定しています。

LNG関連銘柄10選!

LNG価格の上昇で恩恵を受けると期待されるLNG関連銘柄を押さえておきましょう。

【1605】INPEX

世界各地で原油や天然ガスの開発・生産を行っている【1605】INPEXは、代表的なLNG関連銘柄です。

同社は、LNG(天然ガス)価格はもちろん、原油価格の高騰で注目される原油高メリット関連銘柄でもあります。

【1605】INPEXの月足チャート

INPEXの株価は、長期的には下落傾向にありましたが、脱炭素を背景に天然ガスや原油価格が高騰した2020年秋以降、大きく反発していることが分かります。

【1662】石油資源開発

資源開発大手の【1662】石油資源開発も、代表的なLNG関連銘柄の一角です。

同社は、国内外で石油・天然ガスの探鉱・開発・生産フェーズを手掛けており、北海道内油ガス田や秋田・山形県内油ガス田、アメリカのタイトオイルプロジェクトなどを手掛けています。

なお、同社の代表的な海外プロジェクトとして知られていたカナダ・オイルサンドプロジェクトは、2021年7月に事業終結となりました。

【1662】石油資源開発の月足チャート

石油資源開発の株価は、長期的には厳しい状況ですが、2020年秋以降の原油・天然ガス価格の高騰を受けて反発しています。

【8058】三菱商事

LNG関連銘柄としては、脱炭素で恩恵を受けるエネルギーに力を入れる総合商社が注目されています。

総合商社大手の【8058】三菱商事は、2030年度までに、脱炭素分野に2兆円を投資することを発表しているLNG関連銘柄です。

同社は、脱炭素までの移行期のエネルギーとして、LNGや天然ガスを強化する方針を示しています。

【8058】三菱商事の月足チャート

三菱商事の株価は、2018年から2020年に掛けては調整となっていましたが、2020年秋以降から再び上昇トレンドに入っています。

【8031】三井物産

エネルギーや資源に強い総合商社の【8031】三井物産も、LNGに強い商社として注目されるLNG関連銘柄です。

同社は、1970年代にアブダビLNGプロジェクトに参画して以来、豪州、カタール、オマーン、ロシア、インドネシア、米国など世界各地のLNG開発プロジェクトに参画していることで知られています。

【8031】三井物産の月足チャート

三井物産の株価は、2020年3月のコロナショック以降、上昇が続いています。

【2768】双日

総合商社一角の【2768】双日は、LNGに強い商社株として知られるLNG関連銘柄です。

同社は、商社の中でもLNG分野のパイオニアとして知られており、前身の日商岩井時代から続くインドネシアのLNGプロジェクトは現在でも続いています。

【2768】双日の月足チャート

双日の株価は、2020年にはコロナショック後も回復せずに停滞していましたが、2021年には大きく反発しました。

【6361】荏原製作所

ポンプ総合メーカー大手の【6361】荏原製作所は、LNGの製造設備向けカスタムポンプの世界シェアトップを誇るLNG関連銘柄です。

【6361】荏原製作所の月足チャート

荏原製作所の株価は、2020年3月のコロナショック以降、上昇トレンドが続いています。

【6376】日機装

特殊ポンプや航空機用部品、人工腎臓装置などを手掛ける【6376】日機装も、LNGポンプメーカーとして注目される銘柄です。

同社は、2015年にスウェーデンの産業機械大手アトラスコプコからLNGポンプ事業を買収しており、荏原製作所と並んでLNGポンプ2強メーカーとなっています。

【6376】日機装の月足チャート

日機装の株価は、横ばいが続いています。

荏原製作所の株価とは対照的となっており、こちらの銘柄には資金が流れてきていないようです。

【1963】日揮ホールディングス

エンジニアリング最大手の【1963】日揮ホールディングスは、世界各地でLNGプラントの建設を手掛けるLNG関連銘柄です。

同社は、LNGプラントで知られていますが、CCS(二酸化炭素貯留)や水素など脱炭素分野にも力を入れています。

【1963】日揮ホールディングスの月足チャート

日揮ホールディングスの株価は、脱炭素でも大きく買われておらず、コロナショック前の株価を取り戻せていない状況です。

【9074】日本石油輸送

LNG輸送で国内トップシェアを誇る【9074】日本石油輸送は、LNG関連銘柄の一角です。

【9074】日本石油輸送の月足チャート

日本石油輸送の株価は、脱炭素でもほぼ無反応となっています。

【6391】加地テック

LNGを始めとするプラント用特殊ガス圧縮機大手の【6391】加地テックは、脱炭素で大きく買われたLNG関連銘柄です。

同社は、燃料電池や水素ステーションに関する事業を手掛けていることから、水素株としても注目される銘柄です。

【6391】加地テックの月足チャート

加地テックの株価は、2020年秋の脱炭素による“水素相場”で急騰しましたが、2021年以降は大きく下げています。

まとめ

今回は、LNG(液化天然ガス)の基本やLNG価格高騰の背景について解説した上で、LNG関連銘柄として注目される銘柄について紹介してきました。

LNGは石炭・石油に比べてクリーンな燃料で、LNG火力発電は日本のエネルギーシェアの4割弱を占める重要エネルギーとなっています。

2020年秋以降、脱炭素を背景とした天然ガス価格の上昇を受けてLNG価格も高騰しています。

天然ガス開発大手の【1605】INPEXや、脱炭素に力を入れる【8058】三菱商事や【8031】三井物産といった総合商社、LNGポンプ最大手の【6361】荏原製作所などのLNG関連銘柄は大きく上昇しました。

LNGは、脱炭素移行期のエネルギーとして需要が増える可能性が高く、今後もLNG関連銘柄が注目される状況が続くことが期待されます。

紫垣 英昭