インフレに強い株とは?価格支配力がある銘柄でアフターコロナのインフレに備えよ!

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

新型コロナワクチンによる経済正常化が進むアメリカでは、インフレが懸念される状況となりつつあります。

長らくデフレが続いている日本では、日銀がインフレ率2%を目標に異次元緩和をしても一向にインフレが起こっていませんが、コロナ明けという特殊な状況においては日本でもインフレが起こるかもしれません。

一般的に、株はインフレに強い資産ですが、価格支配力がある企業や、株や不動産を保有している企業は、特にインフレに強い銘柄となります。

今回は、アフターコロナのインフレ懸念について解説した上で、価格支配力がある銘柄を中心にインフレに強い株についてご紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • アフターコロナのインフレ懸念についてわかる
  • 価格支配力がある銘柄を中心にインフレに強い株についてわかる
  • インフレに強い株の特徴を学べる

アフターコロナにはインフレが懸念される

ワクチン接種が進むアメリカではインフレが進んでおり、日本でもアフターコロナにはインフレが進行するかもしれません。

ワクチンで経済正常化が進むアメリカではインフレが進んでいる

アメリカでは、2回のワクチン接種が完了した人の割合が46.94%に上りました(2021年7月5日時点)。

出典:NHK 世界のワクチン接種状況

アメリカではワクチン接種の進展とともに新規感染者数が大幅に減少したことを受けて、本格的な経済正常化が進んでいます。

ただ、急速な経済正常化が進む一方、インフレが長引くことが懸念されています。

アメリカ労働省労働統計局が毎月発表している消費者物価指数(Consumer Price Index, CPI)を月次比較で見てみると、次のようになっています。

 

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2021

1.4

1.7

2.6

4.2

5.0

 

 

 

 

 

 

 

2020

2.5

2.3

1.5

0.3

0.1

0.6

1

1.3

1.4

1.2

1.2

1.4

2019

1.6

1.5

1.9

2.0

1.8

1.6

1.8

1.7

1.7

1.8

2.1

2.3

2018

2.1

2.2

2.4

2.5

2.8

2.9

2.9

2.7

2.3

2.5

2.2

1.9

出典:Yahoo!ファイナンス

特に、2021年4月は+4.2%、2021年5月は+5.0%という、高いインフレ率になったことが分かります。

とはいえ、需要が急増する経済正常化の過程でインフレが起こるのは当然のことです。

問題は、今後インフレ率の高止まりが続く可能性があることです。

米連邦準備制度理事会(FRB)は、インフレは一過性のものになる見通しとしていますが、バイデン政権は巨額の財政出動をしていることもあり、高インフレが長期化することも懸念されます。

今後、アメリカのインフレが長期化するのか、経済正常化による一時的なものになるのかはマーケットのみぞ知ることですが、世界経済の注目ポイントの一つであることは間違いありません。

日本でもコロナ後にはインフレが起こる?

日本でもワクチン接種が進んでいます。

2021年7月時点では1日100万人超の接種も日常的となり、ワクチン在庫の枯渇が心配されるまで進展してきました。

2021年7月23日から始まる東京オリンピックが成功に終われば、その勢いのまま本格的な経済正常化に進むことも期待されます。

ただ、経済正常化の過程で、日本でもインフレが起こる可能性があります。

総務省が毎月発表している日本の消費者物価指数(CPI)の月次比較を見てみましょう。

 

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2021

-0.6

-0.4

-0.2

-0.4

-0.1

 

 

 

 

 

 

 

2020

0.7

0.6

0.4

0.1

0.1

0.1

0.3

0.2

0

-0.4

-0.9

-1.2

2019

0.2

0.2

0.5

0.9

0.7

0.7

0.5

0.3

0.2

0.2

0.5

0.8

2018

1.4

1.5

1.1

0.6

0.7

0.7

0.9

1.3

1.2

1.4

0.8

0.3

出典:Yahoo!ファイナンス

日本のインフレ率は、アメリカとは真逆の状況となっていることが分かります。

日本では、2020年10月から2021年5月まで8ヶ月連続で物価はマイナスとなっている状況です。

日本も、定額給付金や持続化給付金、外食店への休業給付金など、財政出動をしっかりとしてきましたが、それでもデフレが続いたままです。

とはいえ、日本で今後もインフレが起こらないのかと言えば、そうとは必ずしも言えません。

自動車やスマホなどあらゆる製品に使われている半導体価格は急激に上昇しており、また木材価格が上昇する「ウッドショック」によって住宅価格も上昇する可能性があります。

さらに、円安が続いていることから、輸入価格を中心に物価が上がる可能性も考えられます。

近年は、諸外国の中で日本だけ物価が上がらず、日本が安くなったことが指摘されていますが、今後も日本だけインフレが起こらないとは限りません。

日銀が2%のインフレ目標を掲げて異次元緩和を始めた2013年4月から7年が経過しましたが、新型コロナからの経済正常化がきっかけとなって、2%以上のインフレ率になる可能性もあり得るかもしれません。

インフレに強い株とは?

新型コロナ明けのインフレリスクに備えて、インフレに強い株について押さえておきましょう。

価格支配力のある銘柄

インフレに強い企業とは、インフレになったとしても価格を上げられる「価格支配力」のある企業です。

価格支配力とは、企業が自己の製品の販売価格に対して有する影響力のことです。

価格支配力がある企業は、インフレになったとしても、インフレ分を容易に価格に転嫁できるため、業績への悪影響がありません。

例えば、Appleのスマホ「iPhone」やNetflixの動画配信サービスなどは、日本でも値上げを発表していますが、これは商品・サービスに競争力があり、価格支配力があるからこそ可能なことです。

一方、安値でしか勝負できない競争力のない商品やサービスは、インフレになったとしても値上げをしてしまえば、他の安い商品・サービスに消費者が流れることになってしまいます。

また、独占企業も価格支配力を持ちます。

例えば、JTのたばこ、任天堂とソニーが独占しているゲーム機、携帯キャリア3社などは、数社が価格支配力を持つ独占市場です。

携帯電話料金は、菅政権の鶴の一声で値下げとなりましたが、値下げ後の価格も市場競争によって決まったわけではなく、携帯キャリア主導で決まりました。

資源や不動産など実物資産に強い銘柄

資産運用における一般論として、株や不動産はインフレに強い資産とされます。

そもそもインフレとは、「モノの価格が上がること」と定義されますが、これは逆に言えば「お金の価値が下がること」とも言い換えられます。

新型コロナ禍では、株や不動産、金(ゴールド)などの商品、さらには仮想通貨などが値上がりしています。

これは世界中が財政出動したことでじゃぶじゃぶになったマネーが各市場に流れ込んだためという説が最有力ですが、それだけマネーの価値が下がったとも言えるのです。

株や不動産、資源、仮想通貨などインフレに強い実物資産を持つ銘柄も、インフレに強い銘柄として押さえておきましょう。

インフレに強い株10選!

価格支配力を持つ銘柄や、実物資産に強い銘柄を中心に、インフレに強い株を見ていきましょう。

【9101】日本郵船

総合海運大手の【9101】日本郵船を始めとする海運株は、2021年に大きく買われています。

海運は、大手3社の日本郵船、【9104】商船三井、【9107】川崎汽船の3社による寡占市場であるため、価格支配力が強いセクターです。

【9101】日本郵船の月足チャート

日本郵政を始めとする海運株は、経済正常化を受けた運賃上昇や原油安、円安を背景に2021年に非常に強くなっています。

【5713】住友金属鉱山

非鉄金属大手の【5713】住友金属鉱山は、金(ゴールド)などの金属価格の上昇を受けて大きく買われているインフレに強い銘柄です。

【5713】住友金属鉱山の月足チャート

住友金属鉱山は、新型コロナ禍で金属価格が上昇していることを背景に大きな上昇となっています。

金(ゴールド)を保有するというのは典型的なインフレ対策ですが、金(ゴールド)価格に連動しやすい鉱山株を保有するのも悪くありません。

【5020】ENEOS

石油元売り販売最大手の【5020】ENEOSも、価格支配力が強く、インフレに強い銘柄です。

日本の石油元売り企業は、ENEOS、【5019】出光興産、コスモ石油(非上場)の寡占市場となっています。

【5020】ENEOSの月足チャート

ENEOSの株価は、近年は苦戦していますが、原油価格が戻してきたことから反発傾向にあります。

【5401】日本製鉄

鉄鋼大手の【5401】日本製鉄は、鉄鋼価格が上昇した際に好機となる、インフレに強い株です。

鉄鋼業も寡占市場であり、日本製鉄、【5411】JFEホールディングス、【5406】神戸製鋼所の3強となっています。

【5401】日本製鉄の月足チャート

日本製鉄は、2020年2月に4,400億円の巨額赤字を発表してコロナショックでは最弱セクターとなってしまいましたが、その後は回復傾向が続いています。

【2914】JT

たばこ最大手の【2914】JTは、典型的な独占企業であり、価格支配力が強い銘柄の代表格です。

JT株の最大の特徴は、配当利回りが非常に高いことです。

配当利回りは6.18%(2021年7月5日付)となっており、インフレに負けない高配当銘柄となっています。

【2914】JTの月足チャート

JTの株価は下がり続けています。

配当利回りは圧倒的であるものの、たばこ産業自体が下火になっていることが逆風です。

【2502】アサヒグループホールディングス

ビール大手の【2502】アサヒグループホールディングスも、価格支配力が強く、インフレに強い銘柄と考えられます。

ビールは大手4社(アサヒビール、【2503】キリン、サントリービール(非上場)、【2501】サッポロビール)の寡占市場です。

【2502】アサヒグループホールディングスの月足チャート

アサヒグループホールディングスの株価は、ローリスク・ローリターンのディフェンシブ銘柄の値動きとなっています。

【7974】任天堂

世界的ゲームメーカーの【7974】任天堂は、ゲーム機市場において価格支配力が強い銘柄です。

世界のゲーム機市場は、任天堂の「ニンテンドースイッチ」、【6758】ソニーの「プレイステーション」、Microsoftの「X box」の3社による寡占市場となっています。

【7974】任天堂の月足チャート

任天堂は、新型コロナ禍で一人勝ちとなっており、株価も絶好調です。

インフレ対策として任天堂株を保有しておくのも悪くありませんが、取得単位が最低600万円からと、個人投資家がポートフォリオの一部に組み込むには敷居が高い点がネックとなります。

【9984】ソフトバンクグループ

世界的投資会社の【9984】ソフトバンクグループは、10兆円ファンドで世界中の株式に投資していることから、インフレに強い株と考えられます。

【9984】ソフトバンクグループの月足チャート

ソフトバンクグループは、新型コロナ禍の世界株高によって、2021年3月期決算の最終利益は日本企業史上初となる4兆9,879億円となりました。

【8802】三菱地所

総合不動産の【8802】三菱地所は、日本企業で最も不動産保有額が大きい企業として知られており、インフレに強い銘柄です。

【8802】三菱地所の月足チャート

三菱地所の株価は、長期的には不調な状態が続いていますが、インフレ対策に保有しておくのも悪くないでしょう。

同社の他にも、【8830】住友不動産、【8801】三井不動産といった不動産大手株は、インフレに強い株としてチェックしておきましょう。

【7203】トヨタ自動車

世界的自動車メーカーの【7203】トヨタ自動車は、外国人投資家にとって需要があるため、仮に日本がインフレになったとしても、グローバル企業として買われることが期待されます。

また、自動車のリーディングカンパニーであるため、価格支配力が強いことも言うまでもありません。

【7203】トヨタ自動車の月足チャート

トヨタ株は、全固体電池などのEV化が期待されていることから好調となっており、2021年6月には史上初の1万円台に乗りました。

まとめ

今回は、アフターコロナのインフレ懸念について解説した上で、価格支配力がある銘柄を中心にインフレに強い株についてご紹介してきました。

ワクチン接種による経済正常化を受けてアメリカではインフレが進んでおり、このインフレは一過性になるのか、長期化するのかは世界中の投資家が注目しているトピックとなっています。

日本では、2021年に入ってからもデフレが続いていますが、今後ワクチン接種の広まりや、オリンピック後の本格的な経済正常化を受けてインフレ圧力が強まってくることも考えられます。

一般的に、株はインフレに強い資産ですが、価格支配力が強い銘柄や、株や不動産が高騰することで好影響を受ける銘柄などは、特にインフレに強い株として期待できます。

アメリカのインフレが長期化するかどうか、そして日本でもインフレが起こるかどうかは分かりませんが、インフレに強い株でポートフォリオの再構成を検討しておくことは悪くありません。

紫垣 英昭