円安メリット関連銘柄とは?輸出株やインバウンドを中心に押さえておこう

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

2023年には日本株が強く買われていますが、世界株上昇かつ円安となっていることもあり、円安メリット関連銘柄が日本株の上昇をけん引しています。

円安メリット関連銘柄は、海外売上高比率が高いグローバル企業が中心となっており、トヨタや半導体株など東証の主力銘柄が並びます。

ただ、米国利上げには停止観測がある一方で、日銀の植田新総裁は金融緩和修正に踏み切る見方も一部では出ているため、今後も円安が続くかどうかには注意が必要です。

この記事では、円安メリット関連銘柄の概要や円相場の状況、日米の金融緩和政策の違いについて解説した上で、代表的な円安メリット関連銘柄を紹介しています。

この記事を読んで得られること
  • 円安メリット関連銘柄の概要や円相場の状況がわかる
  • 日米の金融緩和政策の違いについてわかる
  • 代表的な円安メリット関連銘柄についてチャート付きで学べる

円安メリット関連銘柄とは

円安メリット関連銘柄とは、円相場が円安になると恩恵を受ける銘柄を総称したテーマ株です。

円安メリット関連銘柄として、どのような銘柄が注目されやすいのかを見ていきましょう。

円安は輸出系企業にとって有利になる

円安になると、輸出系企業にとって業績面でプラスとなります。

例えば、企業が1ドル120円で海外向けに商品を販売していた場合、1ドル132円まで円安ドル高が進めば、海外での販売価格が変わらなくとも、円換算した売り上げは10%増加します。

また、日経平均株価を構成するような東証の主力銘柄の多くは、海外売上高比率が高い輸出企業であるため、東証全体で見ても円安はメリットになると認識されがちです。

政府発表の「輸出統計(2021年)」によると、日本の輸出上位品目は、自動車(12.9%)、半導体等電子部品(5.9%)、鉄鋼(4.6%)、自動車部品(4.3%)、半導体等製造装置(4.0%)となっており、これらのセクターに注目です。

※出典:日本貿易会

また、外国人投資家から見ると、円安になれば、ドル建て日経平均株価やドル建てTOPIXが安くなるため、日本株が割安になって買い材料となる効果も期待されます。

米国株投資やインデックス投信、ETFなどで海外株投資をしている場合には、円安になると円ベースで見た資産が増える効果もあります。

このように、投資家視点で見ると、円安には多くのメリットがあり、民主党政権時代の悪夢のような円高の印象もあるため、円安を好む投資家は少なくありません。

ただ、最終的に重要なことは、円安であろうと円高であろうと、海外で売れる魅力的な製品を開発して成長することです。

円安は輸出企業にとっては価格競争力が上がる一方で、円安による価格競争力に甘えて技術革新やビジネスモデルの刷新が進まなくなるデメリットも一部では指摘されています。

円安はインバウンドにも追い風になる

円安になると、外国人観光客にとっては日本旅行が割安になるため、インバウンドにとっては追い風となります。

インバウンド関連銘柄は、新型コロナの水際対策が緩和された2022年以降、マーケットで最重要テーマ株として復活していますが、急激な円安もプラスとなっています。

少子高齢化による人口減少によって、今後の日本では内需の縮小が避けられないため、インバウンドの重要性はますます上がることは間違いありません。

ただ、円安になるとインバウンドには追い風となる一方で、日本人にとって海外旅行は割高となり、外国人労働者の誘致という点でも逆風となることは懸念されます。

昨今は、「給料が上がらない日本」や「安くなった日本」がニュースでも話題となっていますが、人手不足解決のための切り札として期待される外国人労働者にとっても、外貨建て給料が下がる円安はデメリットです。

外国人投資家から見て日本株が割安になる

円安になると、外国人投資家から見た日本株が割安となります。

これは、実際の株価チャートで見てみると、一目瞭然です。

次のチャートは、ニュースなどでもおなじみの円建ての日経平均株価のチャートです。

日経平均株価(円建て)のチャート

日経平均株価は、2023年7月に一時33,700円台まで回復し、バブル後の最高値を更新しました。

一方で、東証の7割を占める外国人投資家が見ている、ドル建ての日経平均株価は次のようになっています。

日経平均株価(ドル建て)のチャート

2022年に、日本円は対ドルで30%の円安となったため、日経平均株価をドル建てで見ると、2021年2月に付けた280ドル台の高値から見て割安となっています。

このように、円安になると、外国人投資家から見た日本株は割安になるため、日本株は買われやすくなる効果が期待されます。

直近の円相場の展開を解説!

2023年7月時点の円相場の状況を見ていきましょう。

ドル円(USD/JPY)相場

まず、最も基本となるドル円(USD/JPY)相場は次のようになっています。

ドル円チャート

ドル円チャートは、2021年以前は長らく100~120円台で推移していましたが、2022年から急激な円安ドル高となり、2022年10月には一時150円台まで円安が進みました。

2021年1月~2022年10月に掛けて、103円から150円台まで、30%以上の円安ドル高が進んだことになります。

この背景には、2021年11月に米国FRBが物価高対策で利上げをしたことによる日米金利差の拡大や、資源高による日本の貿易赤字拡大などが指摘されています。

2022年は急激な円安が進みましたが、同時にNASDAQ市場のハイテク株が大きく売られるなど世界株安になったため、円安メリット関連銘柄は下落銘柄の方が多くなりました。

2022年10月以降は円安も一服して、2023年1月には一時128円台まで戻ってきましたが、以降も再び円安トレンドとなっており、2023年6月末に掛けては145円台まで円安となりました。

ただ、直近では、米国利上げの鈍化や、日銀の金融緩和修正への思惑から円安一服となっています。

円インデックス

ドルを含め、ユーロや人民元といった総合的な日本円の強さを示す「円インデックス」の動きも見ていきましょう。

円インデックスのチャート

円インデックスで見てみると、昨今の円安は、米国ドルに対してだけではなく、円通貨全体が安くなっていることが分かります。

2022年以降は急激な円安が続いているが、日銀の動向に注目しておこう

2022年以降は急激な円安が進みましたが、2023年7月時点では、今後の円相場の見通しについてはさまざまな見方があります。

米国利上げは一服しつつあり、日銀新体制で利上げの可能性も

2022年以降、円安が進んできた最大の理由として挙げられるのが、日米の金融政策の違いによる日米金利差の拡大です。

米国FRBが利上げを進めてきた背景には、新型コロナからの経済回復などを背景とした急激なインフレがありましたが、米国の消費者物価指数(CPI)[前年同月比]は落ち着きつつあります。

※出典:みんかぶFX

 

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23年

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5.0

4.9

4.0

3.0

 

 

 

 

 

 

22年

7.5

7.9

8.5

8.3

8.6

9.1

8.5

8.3

8.2

7.7

7.1

6.5

21年

1.4

1.7

2.6

4.2

5

5.4

5.4

5.3

5.4

6.2

6.8

7.0

2023年6月の米国CPIは3.0%と12ヶ月連続で減速となっており、利上げ長期化への警戒感が和らぎつつあります。

一方で、日銀は植田新総裁のもとで新体制が始まりました。

植田新総裁は、2023年4月の就任会見で、金融緩和策について「継続することが適当だ」と述べ、この方針が2023年に再び円安方向に進んだ要因となったと見られています。

ただ、2023年7月に入ってから、米国が利上げを停止する観測がある一方で、日銀が7月27~28日に開く金融政策決定会合で金融緩和策を見直すとの思惑がマーケットに広がっています。

2023年7月には、145円台まで進んだ円安が、一時138円台まで円高方向に振れており、7月27~28日に行われる日銀の金融政策決定会合の結果に注目が集まります。

今後、日銀がYCC(イールドカーブコントロール)の撤廃など金融緩和修正に踏み切った場合には、円安トレンドの終息となることも考えられるため、円安メリット関連銘柄にとっては逆風となることも懸念されます。

2023年は外国人投資家の日本株買いが続いている

2023年は、外国人投資家による日本株買いが続いています。

ウォーレン・バフェット氏が、日本の5大商社株(【8001】伊藤忠商事、【8002】丸紅、【8058】三菱商事、【8031】三井物産、【8053】住友商事)の買い増しを発表したことも、外国人投資家の買いに火をつけた要因とも見られていますが、円安で日本株が割安となっている効果も大きいのではないかと見られています。

2023年に日本株でも強いセクターを見てみると、半導体株や商社株、自動車株など、円安メリット関連銘柄が並んでいる状況です。

円安メリット関連銘柄にとっては、2023年は世界株高かつ円安となっているため、買いが集まりやすい状況になっていると言えます。

円安メリット関連銘柄の注目銘柄10選!

円安の恩恵を受けやすい代表的な円高メリット関連銘柄を見ていきましょう。

【7203】トヨタ自動車

世界的自動車メーカーの【7203】トヨタ自動車は、代表的な輸出企業であり、円安メリット関連銘柄にも位置付けられる銘柄です。

トヨタは2030年までにEV販売台数350万台を目標に掲げており、EV(電気自動車)の切り札とされる全固体電池の開発でも注目されています。

【7203】トヨタ自動車の月足チャート

トヨタ自動車の株価は、2022年には世界株安が嫌気されて売られましたが、2023年からは持ち直しており、特に日本株が大きく買われた6月には外国人投資家を中心に物色されました。

【8035】東京エレクトロン

世界4位の半導体製造装置メーカー【8035】東京エレクトロンは、代表的な半導体株であり、円安メリット関連銘柄でもあります。

半導体関連は自動車に次ぐ輸出品目となっており、半導体株は代表的な円安メリットセクターです。

【8035】東京エレクトロンの月足チャート

東京エレクトロンの株価は、ハイテク株中心に世界株安となった2022年には大きく下げましたが、ChatGPTなどの生成系AIで半導体株が湧いている2023年には持ち直してきています。

【6857】アドバンテスト

世界6位の半導体製造装置企業である【6857】アドバンテストは、東京エレクトロンと並ぶ半導体製造装置関連銘柄であり、海外売上比率が高い円安メリット関連銘柄です。

同社は、「会社四季報」の最新データでは、海外売上高比率が96%に達しています。

【6857】アドバンテストの月足チャート

アドバンテストの株価は、現在進行形で上場来高値を更新しており、2023年の日本株上昇の中心銘柄の一つとなっています。

【9104】商船三井

【9104】商船三井や【9101】日本郵船、【9107】川崎汽船の三大海運を中心とした海運株も、円安メリット関連銘柄の一角です。

海運業は、売上高に占めるドル比率が8割前後と、東証プライム市場では最もドル収入比率が高いセクターとなっています。

※出典:日本海事新聞

なお、2021年7月末から8月に掛けては商船三井・日本郵船の大幅増配が話題となり、一時は配当利回りが両社とも10%を超えていましたが、両社とも減配を発表し、配当利回りは5%弱まで落ちています。

【9104】商船三井の月足チャート

商船三井の株価は、減配発表でも暴落とはならず、高値圏で強さを維持しています。

【9107】川崎汽船

三大海運の一角【9107】川崎汽船も、円安メリット関連銘柄として押さえておきましょう。

【9107】川崎汽船の月足チャート

川崎汽船の株価は、2023年に一段高となっており、今後は2007年10月に付けた5,866円の上場来高値超えも視野に入ってくるかもしれません。

【6981】村田製作所

セラミックコンデンサで世界トップなど電子部品大手【6981】村田製作所は、海外売上高比率が高い円安メリット関連銘柄です。

電子部品企業は海外売上高比率が高い企業が多くなっており、村田製作所は91%となっています。

【6981】村田製作所の月足チャート

村田製作所の株価は、2021年1月以降は下落し続けていますが、直近ではわずかに反発傾向が見られます。

【6762】TDK

HDD用磁気ヘッドやコンデンサーなどを手掛ける電子部品大手の【6762】TDKも、海外売上高比率が高い円安メリット関連銘柄です。

同社の海外売上高比率は92%に達しており、代表的な輸出企業です。

【6762】TDKの月足チャート

TDKの株価は、2023年に入ってから持ち直してきています。

【6758】ソニーグループ

AV機器やエンタメの世界的企業【6758】ソニーグループは、世界のソニーだけあって円安メリット関連銘柄です。

ソニーも海外売上高比率が77%と高く、円安の恩恵を受ける銘柄です。

【6758】ソニーグループの月足チャート

ソニーグループの株価は、2022年には世界株安を背景に売られましたが、2023年には持ち直してきています。

【7974】任天堂

世界的ゲーム企業の【7974】任天堂も、海外売上高比率が高い円安メリット関連銘柄の一角です。

エンタメセクターの中でも、ゲーム会社は海外売上高比率が高い企業が多く、任天堂はその筆頭で、海外売上高比率は77%となっています。

【7974】任天堂の月足チャート

任天堂は、新型コロナ禍では巣ごもり需要を総取りして一人勝ち決算となりましたが、2021年以降は高値圏で横ばいが続いています。

なお、株式分割をしたことで、個人投資家にも投資しやすくなりました。

【8058】三菱商事

総合商社大手の【8058】三菱商事は、ウォーレン・バフェット氏が買い増しした「バフェット銘柄」としても有望な銘柄です。

三菱商事は、海外売上高比率48%に達しており、円安メリットを受ける銘柄と言ってよいでしょう。

【8058】三菱商事の月足チャート

三菱商事の株価は、2020年3月のコロナショック以降は買われ続けており、2022年には資源株の一角として買われ、2023年はバフェット銘柄として日本株高をけん引する銘柄となっています。

まとめ

この記事では、円安メリット関連銘柄の概要や円相場の状況、日米の金融緩和政策の違いについて解説した上で、代表的な円安メリット関連銘柄を紹介してきました。

円安メリット関連銘柄は、海外売上高比率が高い輸出企業が中心となっており、トヨタやソニー、半導体株、海運株など東証の主力銘柄が顔を揃えます。

2022年以降、円は対ドルだけではなく、ほぼ全通貨に対して弱くなっており、一方的な円安が続いている状況です。

2022年は急激な円安と同時に世界株安となったため円安メリット関連銘柄には売りが目立ちましたが、2023円は円安・株高となっているため、半導体株や商社株など強い銘柄が目立ちます。

ただ、米国利上げは一服しつつあり、日銀は植田新総裁のもとで金融緩和修正観測も出ているため、今後も円安が続くかどうかは不透明です。

円安メリット関連銘柄は東証の主力銘柄が多いため、最終的には円安・円高に関わらず成長する銘柄を選ぶことが重要になってくるでしょう。

紫垣 英昭