紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
人生100年時代の資産形成を見据えて、米国株投資を始める個人投資家が増加しています。
米国株には、GAFAMを始めとする世界経済をリードする銘柄や、連続増配年数が30年を超える高配当株など、日本株にはない魅力があり、過去最高値を記録している「S&P500指数」へのインデックス投資も人気です。
米国株投資にはメリットしか見当たらないように思えますが、投資である以上、米国株投資にも相応のリスクは内在しています。
今回は、米国株投資を始める前に知っておきたい、米国株投資や米国株インデックス投資のリスクについて解説していきます。
- 米国株投資を始める前に知っておきたいことがわかる
- 米国株投資や米国株インデックス投資のリスクについてわかる
- 米国株の日本株にはない魅力がわかる
米国株投資や米国株インデックス投資は人気だがリスクもある
米国株投資が、日本の個人投資家を中心に盛んになっています。
米国株には、GAFAMを始め世界経済をリードするNASDAQのハイテク成長株や、連続増配年数が30年以上の高配当株など、日本株にはない魅力的な銘柄が数多くあります。
過去最高値を記録している「S&P500指数」、世界で最も影響力がある米国株価指数「ダウ平均株価」、NASDAQ銘柄で構成される「NASDAQ100指数」など、米国株インデックス投資も人気です。
また、米国株投資は、単元株制度の日本株と違い、1株から購入できるため少額投資であってもポートフォリオを組みやすいという利点もあります。
将来性という点で考えてみても、移民政策に積極的で人口増加を遂げている米国と、2020年代以降に人口減少が本格化してくる日本とでは、どちらが投資に適しているのかは言うまでもありません。
さらに、日本では岸田政権が将来的な金融増税を検討しているほか、2021年12月14日には「自社株買いの制限発言」まで飛び出してしまいました。
米国株投資のリターンやメリットは大きく、米国株投資さえしていれば、資産は勝手に増えていくようなイメージを持ってしまいがちです。
しかし、米国株投資も投資である以上、値下がりリスクや流動性リスクといった投資特有のリスクが当然あり、日本株投資と比べてもリスクやデメリットがないわけではありません。
日本株と比較した米国株投資のリスクとは?
日本株と比較した場合の、米国株投資のリスクについて押さえておきましょう。
時差がありサマータイムには時間がズレる
日本で暮らしている場合、日本株と米国株の最大の違いの一つは、取引時間の差です。
日本市場と米国市場の取引時間は次のようになっています。
|
日本市場 |
米国市場 |
取引時間(サマータイム) |
9:00~11:30、12:30~15:00 |
22:30~5:00 |
取引時間(サマータイム以外) |
9:00~11:30、12:30~15:00 |
23:30~6:00 |
※いずれも日本時間
※サマータイムは、3月第2日曜日から11月第1日曜日まで
日本で生活している場合には、取引時間の差は避けて通ることはできません。
特に、デイトレードやスイングトレードといった場を見ながら行う短期投資を手掛ける場合には、日本株投資から米国株投資に移行するのは容易ではありません。
ただ、長期投資を手掛ける場合には、場を見る必要も特にないため、時差の影響はそこまで大きくないと言えるでしょう。
値幅制限(ストップ高・ストップ安)がない
日本株と米国株の大きな違いの一つとして、日本市場にはある値幅制限(ストップ高・ストップ安)が米国市場にはないことが挙げられます。
日本市場では値幅制限(ストップ高・ストップ安)があるため、1日で変動する値幅はせいぜい20%前後です。
米国市場では値幅制限がないため、朝起きてみたら、全身が凍り付いてしまうような体験をする投資家も少なくありません。
このため、米国株投資をする上では、逆指値注文によるロスカットの設定や、ポートフォリオによる銘柄分散など、よりリスク管理が求められることとなります。
税制が異なる
日本株と米国株の税制の違いについてまとめておきましょう。
値上がり益(キャピタルゲイン)については、「日米租税条約」により、米国株で値上がり益を出しても米国では課税されず、日本国内のみで課税されます。
値上がり益の税率についても、日本株と同じ「20.315%」です。
配当金(インカムゲイン)については、現地の租税条約に基づいた税率(10%)で源泉徴収された上で、日本国内でも20.315%で源泉徴収されます。
二重課税となるため、外国税額控除の対象です。
確定申告することで、米国で課税された10%分が還付される仕組みとなっています。
なお、NISAが米国株に対応している証券会社もありますが、配当金については現地で10%源泉徴収される分はそのままである点には注意しておきましょう。
NISAで非課税となるのは、あくまで国内で課税される20.315%分のみとなります。
日本株と米国株の税率の違いについてまとめると、次の表のようになります。
|
日本株 |
米国株 |
値上がり益 |
20.315% |
20.315% |
値上がり益(NISA) |
非課税 |
非課税 |
配当金 |
20.315% |
20.315% ※外国税額控除 |
配当金(NISA) |
非課税 |
10% |
為替変動リスクがある
米国株投資では、米ドルで米国株を買うことになるため、日本株にはなかった為替変動リスクもあります。
例えば、米国株に投資して10%の利益が出ていたとしても、ドル円相場が10%のドル安になっていた場合には、トータルの利益はほぼゼロになってしまいます。
もちろん、逆にドル円相場がドル高になった場合には、為替変動による利益もプラスされることになるため、為替変動によって利益が上乗せされることもあり得るということです。
いずれにしても、米国株投資をする上では、為替変動の影響についても考える必要が出てくることは確かです。
日本株に比べるとチャートや情報が不足している
米国株投資デビューをするには、SBI証券やマネックス証券、楽天証券といった大手ネット証券で始める投資家が大半です。
ただ、日本の証券会社のメインは日本株取引であるため、日本株に比べると、米国株のチャートや情報は不足している状況にあります。
米国株投資を始める個人投資家が増えてきているとはいっても、投資をする人が全体に少ない日本においては、まだ日本株が主流であり、米国株投資をする人は少数派です。
今後、米国株投資をする日本人投資家がさらに増えてくれば、大手証券会社でもチャートや情報といった米国株コンテンツが充実してくることが期待されますが、現状ではまだ物足りない水準であるということは認識しておくようにしましょう。
米国株インデックス投資のリスクとは?
iDeCoやつみたてNISAを使って、「S&P500指数」などの米国株インデックス投信や米国株ETFで資産形成する投資家も増えています。
米国株インデックス投資による長期・積立・分散投資は、最も合理的な資産形成方法とも言われています。
米国株インデックス投資としては、米国株3大インデックス指数である「S&P500指数」「ダウ平均株価」「NASDAQ100指数」のいずれかに連動する米国株投資・米国株ETFに投資することが一般的です。
米国株インデックス投資のリスクについて押さえておきましょう。
S&P500指数はGAFAMの寄与度が高い
米国市場を代表する500銘柄について時価総額加重平均で算出される「S&P500指数」は、米国株インデックス投資で最も代表的なインデックス指数です。
東証に上場している、「S&P500指数」の円換算値に連動する米国株ETF【1547】上場インデックスファンド米国株式(S&P500)の月足チャートは次のようになっています。
【1547】上場インデックスファンド米国株式(S&P500)の月足チャート
新型コロナ相場では、「S&P500指数」が連日高値を更新していると報じられている通り、「S&P500指数」に連動する投信・ETFも高いパフォーマンスとなっています。
ただ、「S&P500指数」が新型コロナ相場で大きなパフォーマンスを発揮している要因については理解しておいた方がよいでしょう。
「S&P500指数」が新型コロナ相場で好調な背景には、IT大手GAFAM(Google、Amazon、Facebook(Meta)、Apple、Microsoft)の株価が好調であるという要因があります。
「S&P500指数」は時価総額加重平均型のインデックス指数であるため、時価総額が大きいGAFAMの影響を大きく受けてしまうのです。
米国株スクリーニングで有名なサイト「finviz」(https://finviz.com/)では、S&P500指数の構成比率を視覚的に見ることができます。
「finviz」のS&P500指数
今後、GAFAMの株価が調整局面入りとなった場合には、「S&P500指数」にも暗い影を落とすリスクがあることは認識しておくべきでしょう。
ダウ平均株価は銘柄分散が小さい
米国市場を代表する30銘柄で構成される「ダウ平均株価」は、日本市場の動向にも影響を及ぼす世界で最も重要な株価指数です。
東証に上場している、「ダウ平均株価」の円換算値に連動する米国株ETF【1546】NEXT FUNDS ダウ・ジョーンズ工業株30種平均株価連動型上場投信の月足チャートは次のようになっています。
【1546】NEXT FUNDS ダウ・ジョーンズ工業株30種平均株価連動型上場投信の月足チャート
新型コロナ相場では、「S&P500指数」の裏に隠れているものの、「ダウ平均株価」も好調です。
ただ、「ダウ平均株価」は構成銘柄30銘柄となっており、銘柄分散の点でリスクがあることには注意が必要となります。
NASDAQ100指数はバブルが懸念されている
米国のハイテク市場NASDAQに上場する時価総額が大きい100銘柄から構成される「NASDAQ100指数」は、インデックス投資においては異次元のパフォーマンスを発揮しています。
東証に上場している、「NASDAQ100指数」の円換算値に連動する米国株ETF【1545】NEXT FUNDS NASDAQ-100®連動型上場投信の月足チャートは次の通りです。
【1545】NEXT FUNDS NASDAQ-100®連動型上場投信の月足チャート
「NASDAQ100指数」に連動する投信やETFにレバレッジを掛けて投資する行為は「レバナス」とも呼ばれていますが、大きなリターンが期待できる反面、リスクが大きい投資です。
なお、上記ETFの2021年8月時点の構成銘柄上位は次のようになっています。
※出典:日本取引所ETF(https://www.jpx.co.jp/equities/products/etfs/issues/files/1545-j.pdf)
|
銘柄名 |
構成比率 |
1 |
APPLE INC |
11.33% |
2 |
MICROSOFT CORP |
10.14% |
3 |
AMAZON.COM INC |
7.66% |
4 |
ALPHABET INC-CL C |
4.18% |
5 |
FACEBOOK INC-CLASS A |
4.05% |
「NASDAQ100指数」は、「S&P500指数」以上にGAFAMの寄与度が高くなっています。
米国経済のリスク要因を認識しておこう
米国株投資をする上では、米国経済や米国市場のリスク要因を認識しておくことも重要です。
米国では利上げや物価高が経済リスクとなりつつある
米国経済は新型コロナから急回復を続けており、米国市場は好調です。
ただ、米国では金融緩和縮小による早期利上げが警戒されており、また急激な物価高が経済リスクとなりつつある点には注意が必要です。
米国ではサプライチェーンの停滞や資源高を背景に、急激な物価高が進んでいます。
2021年の米国の消費者物価指数(CPI)[前年同月比]は次のようになっています。
※出典:Yahoo!ファイナンス(https://info.finance.yahoo.co.jp/fx/marketcalendar/detail/9052)
|
1月 |
2月 |
3月 |
4月 |
5月 |
6月 |
7月 |
8月 |
9月 |
10月 |
11月 |
12月 |
21年 |
1.4 |
1.7 |
2.6 |
4.2 |
5 |
5.4 |
5.4 |
5.3 |
5.4 |
6.2 |
6.8 |
|
米国では2021年5月以降、5%を超えるインフレが続いており、足元ではさらに加速、今後インフレが長期化する懸念も出始めています。
マーケットでは、FRBがインフレ抑制のため利上げを前倒しすることも懸念されており、2022年の米国経済の先行きは不透明な状況です。
GAFAMの急成長は今後鈍化する可能性がある
新型コロナ相場で好調な「S&P500指数」や「NASDAQ100指数」の背景には、GAFAMの株高がありますが、GAFAMの急成長が鈍化する可能性は十分に考えられます。
特に気になるのは、Facebookの動向です。
FacebookはSNS「Facebook」「Instagram」の利用者数が鈍化していることから、メタバース(仮想空間)事業に注力するため、2021年10月、社名をMetaに変更しました。
これを受けて世界の株式市場はメタバース関連銘柄が買われる“メタバース相場”となりましたが、Facebookがメタバース企業としてさらなる成長を遂げられるかどうかは不透明ということが実際の所です。
現に、FacebookからMetaに社名変更した【FB】Metaの株価は、社名変更後に下落しています。
【FB】Meta Platformsの5年分チャート(https://jp.tradingview.com/symbols/NASDAQ-FB/)
Facebookだけでなく、今後GAFAMの成長が鈍化し、これまでのような株価上昇が続かなくなる可能性は十分に考えられることです。
台湾リスクなど米中摩擦も懸念材料の一つ
2018年後半には米中貿易摩擦の懸念から、世界の株式市場は大きく売られることになりました。
マーケットで米中貿易摩擦への懸念は後退したものの、バイデン政権に代わってからも、米中対立は続いたままです。
特に、台湾を巡っては米中に深い溝があることが懸念されており、世界経済リスクにもなりかねません。
米国は、2022年2月に開催される北京オリンピックを外交ボイコットする方針を示しており、米中対立が世界経済リスクとなる状況は続きそうです。
まとめ
今回は、米国株投資を始める前に知っておきたい、米国株投資や米国株インデックス投資のリスクについて解説してきました。
米国株には、GAFAMを始め世界経済をリードするNASDAQのハイテク株や、連続増配年数が30年を超える高配当株など、日本株にはない魅力があり、「S&P500指数」などのインデックス投資も人気です。
ただ、米国株投資にも当然リスクはあり、日本株投資と比べても、時差がある、為替変動リスクがある、チャートソフトが充実していないことなどは注意が必要です。
新型コロナ相場では「S&P500指数」や「NASDAQ100指数」の上昇が話題となっていますが、これはGAFAMの株高が大きく寄与しているからであり、GAFAMの成長が鈍化した場合には注意が必要です。
また、米国経済は5%を超えるインフレが続いており、インフレの長期化が懸念されることから早期利上げへの警戒もあります。
米国投資は大きなリターンを期待できる反面、このようなリスクも孕んでいることは留意しておくようにしましょう。
紫垣 英昭
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