紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
2022年は米国利上げやウクライナ情勢を背景に、円安が止まりません。
円安・円高の為替相場は経済や株価にも大きな影響を及ぼすため、今後の為替相場の展開からは目が離せない状況が続きそうです。
一般的には、円安になると輸出企業の株が買われやすくなり、円高になると内需企業が強くなるとされますが、行き過ぎた円安・円高はデメリットの方が大きくなる場合もあります。
今回は、円安・円高が経済や株価に及ぼす影響について解説した上で、円安・円高で特に買われやすい円安メリット関連銘柄・円高メリット関連銘柄についてもご紹介していきます。
- 円安・円高が経済や株価に及ぼす影響についてわかる
- 円安・円高で特に買われやすい円安メリット関連銘柄・円高メリット関連銘柄がわかる
- 日本経済と円安ついて注意すべきことがわかる
円安・円高について解説!
円やドルなどの通貨の価値は、他の国際通貨と相対的に決められています。
つまり、円が他の通貨よりも安くなると「円安」、円が他の通貨よりも高くなると「円高」ということになります。
円安・円高の違いについて押さえておきましょう。
円安とは?
円安とは、円が他の通貨よりも相対的価値で安くなっていることです。
例として、アメリカ旅行に行って買い物をするときに、手元にある1万円をドルに両替するとします。
1ドル=100円であれば1万円は100ドルに両替できますが、1ドル=125円であれば1万円は80ドルにしか交換できません。
このように、円1単位で交換できる他通貨の単位数が相対的に少ない状態が円安と呼ばれます。
一般的には、対ドルで見たときに円が安くなっている場合に「円安(ドル高)」が進んでいると言われることが多くなっています。
1ドル=○○○円とするとき、円の単位が大きくなれば大きくなるほど円安です。
ドル円為替チャートで見てみると、アベノミクスが始まった2012年12月から2015年6月に掛けては円安ドル高が大きく進みました。
2020年3月のコロナショック以降も円安が進んでおり、2022年には米国利上げやウクライナ情勢による資源高(日本の貿易赤字拡大)を受けて、急激な円安が進んでいることが分かります。
円高とは?
円高とは、円が他の通貨よりも相対的価値で高くなっていることです。
例えば、1ドル=100円であれば1万円は100ドルに両替できますが、1ドル=80円であれば1万円は125ドルに交換できます。
1ドル=○○○円とすると、円の単位が小さくなればなるほど円高が進んでいると言えます。
リーマンショックが起こった2008年以降は、急激な円高が進んでいた時期でした。
特に、民主党政権末期の2012年には1ドル=70円台にまで円高が進展し、製造業を中心とする輸出企業にとっては厳しい時代となっていました。
円安・円高が経済に及ぼす影響
円安・円高はどちらが良いとは断言できるものではなく、円安・円高のいずれにもメリット・デメリットがあります。
円安・円高が経済に及ぼす影響について押さえておきましょう。
円安のメリット・デメリット
円安のメリットは、輸出企業にとって有利になることです。
海外売上高比率が高い輸出企業にとっては、円安が進むことによって、円ベースでの売上高が拡大することになるため業績拡大に繋がりやすくなります。
また、円安になると外国人観光客が日本に旅行しやすくなるため、インバウンドに貢献することもメリットです。
一方、円安のデメリットは、輸入価格の高騰に繋がるため、資源や食料、外国製品を輸入している内需企業にとっては業績の悪化に繋がりかねないことが挙げられます。
また、円安になると外国人観光客は日本に旅行に来やすくなる半面、日本人にとっては海外旅行のコストが上がることになってしまいます。
円高のメリット・デメリット
円高のメリットは、輸入価格が安くなることです。
円が強くなれば、資源や食料、外国製品など日本が輸入に頼っているモノを安く仕入れることができるようになるため、内需企業にとってはコストダウン効果が期待できます。
また、相対的に外国のモノ・サービスが安くなるため、日本人が海外旅行に行きやすくなる点もメリットです。
一方、円高のデメリットは、輸出企業にとっては業績悪化に繋がりやすい点が挙げられます。
また、日本人が海外旅行に行きやすくなる半面、外国人観光客のインバウンドにも逆風が吹くとも言えます。
円安・円高のメリット・デメリットまとめ
円安・円高のメリットとデメリットについてまとめると次のようになります。
|
円安 |
円高 |
メリット |
・輸出企業の業績が拡大する。 ・インバウンド拡大に繋がる。 |
・資源や食料などの輸入コストが下がる。 ・海外旅行コストが下がる。 |
デメリット |
・資源や食料などの輸入価格が高騰する。 ・海外旅行コストが上がる。 |
・輸出企業の業績悪化に繋がる。 ・インバウンドにも逆風になる。 |
円安・円高と株価の関係について
円安・円高と株価(日本株)の関係については、一言で言いきれるものではありません。
一般論な傾向として、円安・円高と株価の関係について押さえておきましょう。
円安では輸出企業が買われ、円高では内需企業が強い
一般的には、円安になると、業績拡大が期待される輸出企業の株が買われるようになります。
逆に、円高になると輸入コストが下がる内需企業の株が買われるようになり、円高で業績悪化が懸念される輸出企業の株は売られやすくなります。
ただ、これはあくまで一般論であり、円高になっても海外で業績を伸ばす企業もあれば、円安になっても業績を伸ばす内需企業もあるため、一概には言えません。
円安・円高はあくまで副次的な要因であり、魅力的なモノやサービスを提供し続けて成長している企業が株式市場で強いことには変わりありません。
株式市場においては、円安になると恩恵を受ける銘柄は「円安メリット関連銘柄(円高デメリット関連銘柄)」、円高になると恩恵を受ける銘柄は「円高メリット関連銘柄(円安デメリット関連銘柄)」というテーマ株で呼ばれています。
東証には、海外売上高比率が高い大企業が多く上場しているため、円安でメリットを受ける銘柄の方が多く、円高でメリットを受ける銘柄は少なくなっています。
円安になると外国人投資家から見て日本株は割安となる
円安・円高と日本株の影響で欠かせない視点として、「外国人投資家がどう思うか?」という点が重要です。
2022年現在、東証の取引金額で見ると、外国人投資家の割合は約7割となっており、その影響力の大きさが分かります。
日本取引所が毎週更新している「投資部門別売買状況」を見てみると、2022年4月第1週時点の東証プライム市場のデータでは、法人8.4%、個人19.0%、証券会社0.5%に対して、海外投資家は72.1%となっています。
※出典:日本取引所
海外投資家から見ると、円安になると円ベースで取引されている日本株は割安となるため、日本株を買う材料の一つになると言えます。
ただ、円安になっても買われるのは、海外投資家にとって魅力的な銘柄であり、単に海外投資家にとって割安になっただけの銘柄は買われないことは言うまでもありません。
「円安=株高」の図式は成り立たなくなっている?
アベノミクスによる円安で株高となったことから、「円安=株高」というイメージを持つ人は少なくありません。
ただ、この関係は必ずしも当てはまるものではないことに注意が必要です。
次のチャートは、2016年以降の日経平均株価とドル円相場のチャートとなります。青い線がドル円相場、茶色の線が日経平均株価となります。
2016年まではドル円相場と日経平均株価に強い相関が見られましたが、その後ドル円は横ばいとなっていたにも関わらず、この期間に日経平均株価は上昇していました。
特に、2020年3月コロナショック後から2021年前半に掛けての新型コロナ相場では、ドル円相場はほぼ横ばいとなっていたのに対して、日経平均株価は大きく上げています。
そして、2022年に入ってから急激な円安となりましたが、日経平均は逆に売られている状況です。
むしろ、「資源高と円安によって悪性インフレ(スタグフレーション)が起こるかもしれない」「実効実質為替レートで見ると、日本は1970年代並みに安い国になってしまった」など、円安のデメリットが指摘される声が聞かれ始めてきています。
重要なことは日本経済や日本企業が成長するかどうかであり、「円安=株高」の図式は成り立たなくなっている可能性があることに注意しておきましょう。
円安で買われやすい円安メリット関連銘柄5選!
輸出企業を中心とする、円安で買われやすい円安メリット関連銘柄について押さえておきましょう。
【7203】トヨタ自動車
海外売上高比率が高い輸出企業は、円安で買われやすい円安メリット関連銘柄の筆頭株です。
中でも、日本が世界的競争力を持つ自動車メーカーや材料メーカーといった、技術大国日本を代表するセクターは円安のメリットを受けやすくなります。
【7203】トヨタ自動車や【7267】ホンダ、【7201】日産自動車といった自動車メーカーは、海外売上高比率が8割前後にのぼっています。
【7203】トヨタ自動車の月足チャート
【6981】村田製作所
【6981】村田製作所や【6762】TDKなどの部品メーカーも、海外売上高比率が高く、円安のメリットを受けることが期待されます。
なお、【6981】村田製作所の海外売上高比率は92%、【6762】TDKの海外売上高比率は92%となっています。
※海外売上高比率の値は、四季報ONLINEの値を参照しています。
【6981】村田製作所の月足チャート
【7731】ニコン
カメラや半導体製造装置を手掛ける【7731】ニコンは、海外売上高比率84%と、円安の恩恵を受けやすい円安メリット関連銘柄の一つです。
【7731】ニコンの月足チャート
カメラメーカーの【7751】キヤノンや【7741】HOYA、半導体製造装置メーカーの【8035】東京エレクトロンや【6857】アドバンテストなども、円安メリット関連銘柄に位置付けられます。
【6141】DMG森精機
日本が強みを持つNC旋盤やマシニングセンタなどの工作機械メーカーも、【6141】DMG森精機を筆頭に海外売上高比率が高く、円安のメリットを受けやすい銘柄が多くなっています。
【6141】DMG森精機の月足チャート
工作機械やマザーマシンでは、【6954】ファナックや【6506】安川電機なども押さえておきましょう。
【9101】日本郵船
【9101】日本郵船、【9104】商船三井、【9107】川崎汽船の三大海運大手は、2021年から2022年に掛けて円安の恩恵を最も受けているセクターの一つとなっています。
海運はドル決済であるため、円安の恩恵を受けやすくなります。
また、海運は新型コロナ禍の需要急拡大で業績が拡大しており、【9101】日本郵船と【9104】商船三井は配当利回りが10%を超える高配当株となっていることも買い圧力です。
【9101】日本郵船の月足チャート
円高で買われやすい円高メリット関連銘柄5選!
内需株を中心とする、円高で買われやすい円高メリット関連銘柄について押さえておきましょう。
【7453】良品計画
衣料・雑貨ブランド「無印良品」を展開する【7453】良品計画は、円高メリット関連銘柄に位置付けられる銘柄です。
【7453】良品計画の月足チャート
良品計画の株価は、2022年には円安による調達コスト増が嫌気されて売られています。
【9843】ニトリホールディングス
家具・インテリア販売チェーン「ニトリ」を展開する【9843】ニトリホールディングスは、為替相場の影響を受けやすい銘柄で、円高メリット関連銘柄に位置付けられています。
同社は、輸入家具店というビジネスモデルからして為替相場の影響を受けやすくなっており、同社の似鳥昭雄会長は為替相場を読む達人としても知られています。
【9843】ニトリホールディングスの月足チャート
ニトリホールディングスの株価は、直近の急激な円安を受けて売られている状況です。
【9603】エイチ・アイ・エス
円高になると海外旅行に行きやすくなるため、【9603】エイチ・アイ・エスや【9726】KNT-CTホールディングスなどの旅行株は、円高メリット関連銘柄に位置付けられます。
旅行株は新型コロナの打撃を最も受けたセクターとなっており、アフターコロナでの需要回復が期待されます。
【9603】エイチ・アイ・エスの月足チャート
旅行株はアフターコロナでの需要回復が期待されていますが、円安が重しとなっている状況です。
【2053】中部飼料
飼料や食糧などを輸入している内需企業にとっては、円高は大きなメリットとなる一方、円安はデメリットとなります。
新型コロナ以降の円安トレンドを受けて、飼料メーカーの【2053】中部飼料や【2060】フィード・ワンなどは大きく下げている状況です。
【2053】中部飼料の月足チャート
飼料メーカーの他、【2002】日清製粉グループ本社などに代表される製粉企業や、【3861】王子ホールディングスなどに代表される製紙・ダンボールメーカーも、円高メリット関連銘柄に位置付けられます。
【9533】東邦ガス、【9501】東京電力ホールディングス
電力・ガス会社は、燃料となる原油やLNG(液化天然ガス)、石炭を輸入に頼っているため、円高のメリットを受けます。
ただ、2021年以降はエネルギー高と円安が同時進行しており、ダブルパンチで逆風が吹いている状況です。
【9533】東邦ガスの月足チャート
東邦ガスを筆頭にガス会社の株価は厳しい状況となっています。
一方で、電力会社も業績的には厳しい状況となっていますが、ウクライナ情勢によるエネルギー価格の高騰を受けて、原発再稼働への期待が思惑された買いも入っています。
【9501】東京電力ホールディングスの月足チャート
まとめ
今回は、円安・円高が経済や株価に及ぼす影響について解説した上で、円安・円高で特に買われやすい円安メリット関連銘柄・円高メリット関連銘柄についてもご紹介してきました。
一般的には、円安になると海外売上高比率が高い輸出企業が買われ、円高になると原材料を輸入している内需企業が買われる傾向にあります。
円安で買われやすい円安メリット関連銘柄としては、【7201】トヨタ自動車や【6981】村田製作所など日本を代表する企業が並びます。
円高で買われやすい円高メリット関連銘柄としては、【9843】ニトリホールディングスなどの輸入企業や、電力・ガス会社など原料を輸入に頼る企業が挙げられます。
アベノミクスによる円安で株高となったこともあり「円安=株高」というイメージを持つ人は少なくありませんが、日本経済はかつてほど円安のメリットを受けられなくなっている傾向があることには注意しておきましょう。
紫垣 英昭
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