戦争や紛争と株価の関係とは?イスラエル・パレスチナ情勢まで徹底解説!

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

2023年10月7日、パレスチナのガザ地区を支配するハマスによるイスラエルへの攻撃を受けて、イスラエル・パレスチナ戦争が勃発し、株式市場にも大きな影響を及ぼしています。

イスラエル・パレスチナ情勢は、予断を許さない状況となっており、国際社会もイスラエルを支持する欧米諸国と、パレスチナを支持するイスラム社会など二分されている状況です。

1990年の湾岸戦争や、2001年の911同時多発テロから2003年イラク戦争、2022年ロシアによるウクライナ侵攻など、戦争や紛争は株価にも大きな影響を及ぼします。

この記事では、イスラエル・パレスチナ戦争の株価への影響や、過去の戦争・紛争と日経平均株価の関係、戦争・紛争で注目される可能性がある防衛関連銘柄について解説しています。

この記事を読んで得られること
  • イスラエル・パレスチナ戦争の株価への影響についてわかる
  • 過去の戦争・紛争と日経平均株価の関係、戦争・紛争で注目される可能性がある防衛関連銘柄ついてについてわかる
  • 防衛関連銘柄がチャートで学べる

2023年10月イスラエルとパレスチナは戦争状態に

2023年10月7日、パレスチナのガザ地区を支配するハマスが、イスラエル領内に数千発のロケット弾を撃ち込むなどの攻撃をしました。

この攻撃を受けてイスラエルは反撃し、「2023年パレスチナ・イスラエル戦争」が勃発。

2023年11月2日時点でも、イスラエルによるガザ空爆は続いており、死者数は7,000人を超える事態となっています。

イスラエル・パレスチナ問題は「世界で最も解決が難しい紛争」とも言われており、その背景には宗教・領土・政治問題などが複雑に絡み合っています。

国際社会の勢力図としては、アメリカを始めとする欧米諸国はイスラエル寄りで、イスラム社会などはパレスチナ寄りです。

ただ、今回のイスラエルによる一方的な反撃は一線を超えており、欧米諸国の中でもイスラエルを非難する声が出てきつつあります。

イスラエル・パレスチナ情勢を受けて、米国株を中心に、2023年10月の株式市場は売りが優勢となりました。

S&P500指数の週足チャート

日経平均株価も、米国株につられる形となり、2023年10月は売られました。

日経平均株価の週足チャート

2023年10月は、米国株・日本株ともに暴落とまでは言えないものの、長期金利の上昇とイスラエル・パレスチナ情勢がリスク材料となり売られた展開となっています。

過去の戦争・紛争と日経平均株価について検証

戦争や紛争は、株価にも大きな影響を与えることが避けられません。

過去の戦争・紛争と日経平均株価の関係について見ていきましょう。

1973年 第四次中東戦争

1973年10月6日から10月23日に掛けて、イスラエルとエジプト・シリアをはじめとするアラブ諸国の間で勃発した「第四次中東戦争」は、日本経済にも非常に大きな影響を与えた戦争となりました。

戦争中に行われた、アラブ石油輸出国機構の親イスラエル国に対する石油禁輸措置と、それに伴う石油輸出国機構(OPEC)の石油価格引き上げによってオイルショックが発生。

日本ではインフレが加速し、「トイレットペーパー騒動」や「洗剤騒動」などが全国で巻き起こる事態となりました。

1973年の

日経平均株価の月足チャート

1973年の「オイルショック」と聞くと、経済に大きな悪影響を及ぼしたイメージがありますが、株価にはそれほど大きな影響を及ぼさなかったことが分かります。

※なお、この期間の日経平均株価のチャートは、証券会社のチャートソフトでは見られないため、「Trading View」のチャートを参照しています。

1990年 湾岸戦争

1990年8月2日に、イラクがクウェートに侵攻したことを発端となって発生した「湾岸戦争」は、翌年3月3日まで続きました。

1990年の日経平均株価の月足チャート

日経平均株価は、湾岸戦争が勃発した1990年8月に大きく下落し、バブル崩壊後の一段安の要因ともなりました。

また、この時期のWTI原油先物価格は次の通りです。

1990年のWTI原油先物価格の月足チャート

湾岸戦争の開戦前には、20ドルだった原油価格は急騰して一時2倍となり、その後は終戦に掛けて急落して元通りとなりました。

2001年911同時多発テロ~2003年イラク戦争

2001年9月11日の同時多発テロからアメリカのアフガニスタン侵攻、2003年3月のイラク戦争までの日経平均株価は次の通りです。

2001年の日経平均株価の月足チャート

2001年の911同時多発テロは、2000年のITバブル崩壊の時期に発生したこともあり、株は大きく売られました。

その後のアメリカによるアフガニスタン侵攻、そして2003年3月のイラク戦争でも大きく売られました。

ただ、イラク戦争が勃発した2003年3月には安値となっており、サブプライム問題前の2007年までは上昇が続いていたことが分かります。

2022年 ロシアのウクライナ侵攻

長らく大きな戦争は起こっていませんでしたが、2022年2月24日、ロシアがウクライナに軍事侵攻し、2023年11月現在も継続しています。

2022年2月の日経平均株価の月足チャート

ロシアによるウクライナ侵攻は、日経平均株価には直接的には大きな影響はなかったと言えます。

2022年の株価はやや軟調となりましたが、これはウクライナ情勢よりも、米国FRBの利上げの方が株価に与えた影響は大きかったと言えます。

ただ、ロシアによるウクライナ侵攻は、日本の国家安全保障戦略に大きな影響を与え、防衛費倍増議論により防衛関連銘柄の株価が倍増し、エネルギー安全保障では原発再稼働が進んで原発株が買われるなど、個別テーマ株には大きな影響を与えたことは間違いありません。

イスラエル・パレスチナ戦争の注意点

イスラエル・パレスチナ戦争が株価に影響しそうな注意点について押さえておきましょう。

世界株安要因となる可能性がある

イスラエル・パレスチナ戦争の展開は、予断を許さない状況となっており、場合によっては世界株安要因となることも考えられます。

世界的には、イスラエルに対して停戦を呼び掛ける声が大きいものの、イスラエルは停戦の意思を全く示していない状況です。

さらに、日本にとって気になるのは台湾情勢です。

ロシアによるウクライナ侵攻に加えて、イスラエル・パレスチナ戦争が勃発したことで、東アジアにおける米軍の影響力が小さくなり、中国・台湾情勢にも動きがあるのではないかと懸念されます。

仮に、中国が台湾に武力行使するといった有事となれば、地政学リスクの高まりから日本株には注意が必要な展開となってしまいます。

原油価格にも注意が必要

1973年の第四次中東戦争ではオイルショックとなり、1990年の湾岸戦争でも原油価格が急騰するなど、中東情勢と原油価格は切っても切り離せない関係にあります。

ただでさえ、脱炭素やロシア・ウクライナ情勢を受けて原油価格は高騰しており、国内ではガソリン補助金やガソリン減税が政治課題にもなっている状況です。

下記のチャートは、WTI原油価格に連動する原油先物ETF【1673】WTI原油価格連動型上場投信の月足チャートです。

【1673】WTI原油価格連動型上場投信の月足チャート

2023年10月に原油価格は下がっており、イスラエル・パレスチナ情勢の影響はまだ出ていませんが、今後の中東情勢次第では急騰する可能性も十分に考えられます。

原油高となった際には、原油先物ETFに加えて、石油元売り大手3社(【5020】ENEOSホールディングス、【5019】出光興産、【5021】コスモエネルギーホールディングス)や資源開発大手の【1605】INPEXなどが、原油高メリット関連銘柄として注目される可能性があります。

戦争・紛争で注目される可能性がある防衛関連銘柄

戦争・紛争が起こると、防衛関連銘柄(防衛株)が物色される傾向があります。

イスラエル・パレスチナ情勢でも注目されそうな防衛関連銘柄について主要銘柄を押さえておきましょう。

【7011】三菱重工業

防衛株としては、三大重工業株の【7011】三菱重工業、【7012】川崎重工業、【7013】IHIが注目されており、2022年以降の防衛費倍増議論を受けて株価も倍増しています。

重工業最大手の【7011】三菱重工業は、東証を代表する防衛株です。

防衛装備庁が発表した「中央調達における令和4年度調達実績及び令和5年度調達見込」では、同社のシェアは21.2%となっており、長らく1位であり続けています。

※出典:防衛装備庁

【7011】三菱重工業の月足チャート

三菱重工業の株価は、2022年のロシアのウクライナ侵攻以降は上昇が続いており、株価は一時3倍となっています。

【7012】川崎重工業

三大重工業株の一角である【7012】川崎重工業も、代表的な防衛株となっており、防衛費倍増議論を受けて大きく買われました。

同社は、防衛装備庁のシェアは9.8%と、三菱重工に次ぐシェアとなっており、潜水艦などを提供しています。

【7012】川崎重工業の月足チャート

川崎重工業も、ロシアによるウクライナ侵攻以降に買われており、最大2倍以上の上昇率となっています。

【7013】IHI

重工業大手の【7013】IHIも、三大重工株の防衛関連銘柄として大きく買われています。

防衛装備庁のシェアは1.7%で7位に留まっているものの、防衛費倍増議論では注目される銘柄です。

【7013】IHIの月足チャート

IHIの株価は、三菱重工・川崎重工とほぼ同じ動きとなっており、ロシアによるウクライナ侵攻以降の防衛費倍増議論を受けて、株価は倍増となっています。

【6208】石川製作所

ここからは有事で買われやすい中小株の防衛関連銘柄を見ていきましょう。

段ボール製函印刷機などを手掛ける紙工機械メーカー【6208】石川製作所は、有事に物色されやすい防衛関連銘柄です。

同社は、海上自衛隊向けに機雷を製造しており、航空自衛隊向けにフライトデータレコーダーなどを製造している関東航空計器株式会社を傘下に持ちます。

【6208】石川製作所の月足チャート

石川製作所は、北朝鮮のミサイル発射が相次いだ2017年に大きく買われ、イラン・アメリカ情勢が緊迫化した2020年1月、ロシアのウクライナ侵攻を受けた2022年2月にも物色されたことが出来高からも明らかです。

イスラエル・パレスチナ戦争では、まだ物色されていませんが、今後注目されてもおかしくありません。

【4274】細谷火工

火工品に強みを持つ化学メーカー【4274】細谷火工も、石川製作所と並んで有事に物色されやすい防衛関連銘柄です。

同社は、自衛隊向けの照明弾・発煙筒を製造していることで知られています。

【4274】細谷火工の月足チャート

細谷火工は、2017年の北朝鮮情勢、2020年1月のイラン・アメリカ情勢、2022年2月ロシアのウクライナ侵攻など有事リスクが高まるたびに物色されていることが分かります。

【6203】豊和工業

産業用機械メーカーの【6203】豊和工業も、有事で物色されやすい防衛関連銘柄です。

同社は、日本唯一の小銃メーカーで、防衛省・自衛隊向けに小銃や迫撃砲、発煙弾などを製造しています。

【6203】豊和工業の月足チャート

豊和工業は、石川製作所・細谷火工に比べると動きは小さいものの、有事の度に物色される傾向があります。

この他の防衛関連銘柄としては、防衛用電子機器を手掛ける【6946】日本アビオニクス、船舶・航空計器大手の【7721】東京計器、防毒マスクを手掛ける【7980】重松製作所や【7963】興研などが挙げられます。

まとめ

2023年10月に勃発したイスラエル・パレスチナ戦争は、予断が許さない状況となっており、世界中の株式市場にも影響を与えています。

過去の戦争や紛争を振り返ってみると、1973年の第四次中東戦争と1990年の湾岸戦争は原油価格に大きな影響を与え、2003年3月のイラク戦争では日経平均株価は安値を付けました。

今回のイスラエル・パレスチナ戦争は、2023年11月2日時点では、株価や原油価格にそこまで大きな影響を与えてはいませんが、今後の展開には注意が必要です。

ロシアによるウクライナ侵攻もまだ終結しておらず、日本では防衛費倍増議論を受けて、代表的な防衛関連銘柄である三大重工業株(【7011】三菱重工業、【7012】川崎重工業、【7013】IHI)の株価が倍増となっています。

ロシア・ウクライナ情勢に加えてのイスラエル・パレスチナ戦争となっており、中国・台湾情勢も含めて、注視しておくようにしましょう。

紫垣 英昭