紫垣英昭
昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介
日本企業はアベノミクス以降、「内部留保(ないぶりゅうほ)」を増やしてきたことがたびたび指摘されています。
内部留保が多いということは、従業員還元や株主還元をせずに貯め込むことを意味するため、悪いニュアンスとして語られることが一般的です。
しかし、新型コロナウィルスのパンデミックによる世界経済減速下においては、内部留保が多い企業は強いと見られ、内部留保が見直される傾向があります。
今回は、内部留保の概要について説明した上で、株式投資や新型コロナ下における内部留保のメリット・デメリットや、なについて解説していきます。
- 内部留保とは何かがわかる
- 内部留保のメリットとデメリット、コロナ渦においてどんな影響があったかがわかる
- 内部留保が多い企業の調べ方がわかる
内部留保とは?
「内部留保」は経済ニュースなどではたびたび耳にする言葉ですが、漠然と理解してはいないでしょうか?
株式投資を行う上でも、内部留保について正しく理解しておきましょう。
内部留保とは「利益剰余金」のこと
実は、内部留保は会計用語や経済用語として使われることはなく、決算書を見ても「内部留保」という言葉はどこにも書いてありません。
一般的に、内部留保とは、企業が1年間に出した「純利益」から配当などを差し引いて残った「利益剰余金」を指す言葉として使われることが多くなっています。
例えば、1年間で売上が100億円、原価や人件費などが70億円、税金が10億円の場合、純利益は100億円-70億円-10億円=20億円となります。
企業が出した純利益が積み上がっていったものが「利益剰余金」となり、一般的に内部留保と呼ばれるものです。
利益剰余金は毎年利益を出していけば積み上がって増えていくものであるため、健全な経営をしている企業であればあるほど利益剰余金(内部留保)は大きなものとなっていきます。
「内部留保を貯め込んでいる企業への対策として法人税を上げるべきだ!」という主張もありますが、内部留保(利益剰余金)は税引き後の純利益を積み立てているものであることを理解すれば、このような主張がいかにナンセンスであるかが分かります。
内部留保(利益剰余金)は現金とは限らない
企業が内部留保(利益剰余金)を増やしているということは、家庭が貯金を積み立てているように、企業が現金を内部に積み立てているイメージを持たれることが多くなっています。
「利益剰余金」という言葉からしても、どうしても現金として積み立てているイメージが連想されてしまいます。
利益剰余金は、企業会計においては、貸借対照表(バランスシート)の純資産の部に記載される株主資本の一部です。
企業会計においては、企業が純利益を現金で保有していたとしても、株式や債券で保有していたとしても、不動産や工場などの設備などで保有していても、「利益剰余金」に分類されてしまうのです。
例えば、企業が100億円の純利益を出したとき、現金で100億円を持っていたとしても内部留保となりますが、その100億円で不動産を取得して工場を建てた場合にも、資産の種類が現金から固定資産に変わっただけで内部留保であることは変わりません。
このように、内部留保(利益剰余金)は現金であるとは限らず、不動産や工場といった固定資産、また株式や債券である場合もあります。
このことから、「内部留保を貯め込んでいる企業は積極的に設備投資をするべきだ!」といった主張がいかにナンセンスであるかが分かります。
また、「内部留保を積み立てていないで、従業員や株主に還元すべきだ!」という意見もやはりナンセンスなものです。
内部留保の大半を工場や不動産といった固定資産で持っている場合には、内部留保を還元しようがありません。
内部留保が多い企業は新型コロナウィルス下の企業経営に強い?
日本企業はアベノミクスから7年間で内部留保(利益剰余金)を拡大しており、財務省が2019年9月2日に発表した2018年度の法人企業統計では、過去最高の463兆1,308億円を記録しています。
内部留保は現金であるとは限らないものの、世界的に見ても日本企業が内部留保を貯め込む傾向にある点は指摘されています。
現に、2016年度の法人企業統計では、企業の現預金は211兆円となっており、多くの企業が内部留保の大半を現金として積み立てているという指摘が外れているとは言えません。
内部留保が多いことで倒産リスクが小さくなる点は良いことですが、日本企業はリスクを取らない傾向があることは間違いなく、成長性という観点から見ると必ずしも良いことだとは言えないでしょう。
しかし、2020年に突如として世界中を襲った新型コロナウィルス下の企業経営では、内部留保を現金で貯め込む傾向がある日本企業が強いことが指摘されています。
新型コロナウィルスによって世界経済がどのようになるかは未知数ではありますが、現金を内部留保で積み立てていた日本企業の経営破綻リスクが小さいことは間違いないでしょう。
内部留保が多い企業のメリット
株式投資において内部留保が多い企業のメリットについて抑えておきましょう。
倒産リスクが小さい
内部留保が多い企業は倒産リスクが小さく、世界経済リスクを耐え凌げるという強みがあります。
また、内部留保が多く倒産リスクが小さい企業は、金融機関からの信頼も得られるため、必要な場合には有利な条件で融資を受けることも可能です。
株式投資においても、内部留保を積み立てている企業は健全な経営を続けていることを意味するため、ポジティブ要素になることは間違いありません。
日本企業の内部留保はリーマンショック後から増加傾向にあり、多くの企業はリーマンショックを教訓に財務健全化を図るようにしてきています。
今回の新型コロナウィルスによる世界経済減速局面を日本企業が乗り越えることができれば、リーマンショックの教訓を生かせたことになると言えるでしょう。
自社株買いが期待できる
企業の内部留保が過去最高を記録するとともに、上場企業の自社株買いも過去最高となっています。
上場企業による株主還元の方法としては、自社株買いで株価を上げることか、利益を配当金として還元するかの2つがあります。
配当金として還元すると内部留保はマイナスとなりますが、自社株買いなら資産が現金から株式に変わるだけであるため内部留保は変わりません。
日本企業の内部留保は現金だけでなく株式も増えており、今後も自社株買いが継続的に行われるものと見られます。
自社株買いは、1株当たり利益(EPS)を高めることで、代表的な収益性指標であるROE(自己資本利益率)の向上にも繋がるため、株式投資においてポジティブ要素になることは言うまでもありません。
内部留保が多い企業のデメリット
株式投資において内部留保が多い企業のデメリットについて抑えておきましょう。
リスクを取っていないことの裏返しである
内部留保が多い日本企業は、新型コロナウィルスによる世界経済減速局面に強いことは間違いありません。
しかし、これは日本企業がリスクを取らずに内部留保を積み上げてきたことによる偶然の結果である面が強いことは否めません。
新型コロナウィルスを乗り越えたことで、リスクを取らずに内部留保を積み上げたことが評価されるようになってしまうと、新型コロナウィルス収束後にも、日本企業のリスク重視の姿勢がさらに加速してしまうことが懸念されます。
現在、世界経済をけん引しているのは、アメリカの巨大IT企業GAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)です。2020年5月には、GAFAとMicrosoftの5社の時価総額が、トヨタやソニーなども含む東証一部全企業(2,170社)の合計を上回りました。
GAFAやMicrosoftは配当金をほとんど出しておらず、利益の大部分を積極的な投資に回すことで世界を掌握してきたことで知られています。
日本企業が純利益を内部留保に回し続ける守りの姿勢を続けていては、アフターコロナの世界でもGAFAに太刀打ちすることは非常に厳しいものと見られます。
内部留保が多い企業の調べ方
内部留保が多い企業を調べる方法を抑えておきましょう。
残念ながら、内部留保(利益剰余金)という観点から銘柄スクリーニングを行えるサービスはありません。
ただ、「配当性向」によって、内部留保率が高い銘柄をスクリーニングすることが可能です。
「配当性向」は、「1株当たり配当金÷1株当たりの当期純利益×100」で算出される指標で、“企業が利益をどれだけ配当に回しているか?”を示す配当指標です。
一般的には、配当性向が高い銘柄は株主還元を積極的に行っている銘柄ということになりますが、これは逆を言えば、配当性向が低い銘柄は「株主還元を行わず、内部留保率が高い」ことを意味します。
配当性向が低く、内部留保率が高い銘柄を探すには、「みんなの株式」の株式ランキングを使うことがおすすめです。
まず、「みんなの株式」のページ上部にある「銘柄を探す」から「株式ランキング」をクリックします。
引用:「みんなの株式|」
次に、株式ランキングページの中部にある“企業ランキング一覧”の中から「配当性向(単体)」をクリックします。
引用:「みんなの株式」
配当性向が高い銘柄ランキングが表示されたら、「表示条件」をクリックして、「低い順」に表示するようにします。
引用:「みんなの株式」
これで配当性向が低い(=内部留保率が高い)順に銘柄が表示されました。
引用:「みんなの株式」
なお、同様のスクリーニングは楽天証券の「マーケットスピード」でも行うことが可能となっています。
まとめ
今回は、内部留保の概要について説明した上で、株式投資における内部留保のメリット・デメリットについて解説してきました。
内部留保とは、企業が1年間に出した「純利益」から配当などを差し引いて残った「利益剰余金」のことです。
利益剰余金は、貸借対照表(バランスシート)の純資産の部に記載される株主資本の一部で、現金であるとは限らず、不動産などの固定資産や株式・債券も含まれます。
日本企業はリーマンショック以降、内部留保を増やしており、これは健全経営という点では株式投資においても大きなメリットです。
特に、内部留保が多い企業は倒産リスクが小さくなるため、内部留保が多い日本企業は新型コロナウィルスによる世界経済減速局面にも強いものと見られます。
ただ、日本企業の内部留保は現金や株式が占める割合が多く、内部留保が増えていることは企業経営においてリスクを取っていないことの裏返しでもあります。
内部留保が多い企業は新型コロナ下には強いものの、新型コロナ収束後にはリスクを取って成長を目指せるかどうかが課題です。
内部留保について理解しておき、株式投資にも役立てていきましょう。
紫垣 英昭
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