新型コロナ相場で日経平均株価やマザーズ、ジャスダック市場が値上がりする理由

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紫垣英昭

昭和62年証券会社に入社し事業法人、金融法人、ディーラー経験
現在、延べ2万人近くの個人投資家に日本株の売買指導を行っている。
3年前より「全方位型トレード・システム」を提唱し、多くのプロトレーダーを育成。
著書3冊を出版、新聞、雑誌の執筆や講演も多数あり。
著書紹介

新型コロナ禍にも関わらず日経平均株価はバブル期以来30年ぶりの高値となり、マザーズやジャスダックといった新興市場も好調に推移しています。

コロナ禍で株価が好調な理由としては、世界中で財政出動されたマネーが株式市場に向かっていることや、デジタルトランスフォーメーション関連銘柄など新型コロナがむしろプラス材料になる銘柄が株式市場をけん引していることなどが挙げられます。

ただ、「コロナ禍でも株は上げている」とは言っても、市場ごとに値上がりにはバラつきがあり、ありとあらゆる銘柄が上げているわけではありません。

今回は、コロナ禍における東証1部・マザーズ・ジャスダック・東証2部の各市場の値動き動向について解説した上で、各市場で特に大きく上げている銘柄についても紹介していきます。

この記事を読んで得られること
  • コロナ禍における東証1部・マザーズ・ジャスダック・東証2部の各市場の値動き傾向がわかる
  • 各市場で特に大きく上げている銘柄がチャート付きでわかる
  • コロナ禍で日経平均が上がっている中、注意すべき視点がわかる

新型コロナ禍において株価が上がっている理由とは?

2020年は2月から3月に掛けてはコロナショックによる世界株安となったものの、その後株価は大きく反発し、”新型コロナ相場”と呼ばれる相場展開となりました。

新型コロナで実体経済が大きなダメージを受けているにも関わらず、株価が上昇している原因について考えてみましょう。

世界中で財政出動したマネーが株式市場に流れている

コロナ禍における株高として最も有力な説となっていることが、新型コロナ対策として世界中で財政出動したマネーが株式市場に流れ込んでいるというものです。

日本では、日銀が2020年3月からETFの買い入れ額を年額6兆円から12兆円に拡大。

日銀のETF保有額は2020年11月時点で45兆円にまで拡大しています。

アメリカでも、バイデン新政権が新たに2兆ドル規模の新規経済政策を行うことを発表しており、財政出動に歯止めが利かない状態が続いています。

また、アメリカではドルのゼロ金利政策を2023年末まで行う方針としており、ドルを保有しても金利が付かないため、配当金が出る株にマネーが流れるのは必然と言えるでしょう。

コロナ禍では、株だけでなく、金(ゴールド)などのコモディティや、不動産や仮想通貨の価格も上昇しており、財政出動されたマネーがさまざまな資産に流れて価格を押し上げていることは間違いありません。

新型コロナがプラス材料になる銘柄が株式市場をけん引している

新型コロナ相場において最も強い銘柄は、IT企業を中心とするデジタルトランスフォーメーション(DX)関連銘柄です。

特に、アメリカのGAFAM(Google、Amazon、Facebook、Apple、Microsoft)の株高は顕著であり、2020年にはGAFAM5社の時価総額合計が日本株全体の時価総額を超えることになりました。

※2020年12月末時点の東証全体の時価総額は約693兆円、2021年1月26日時点のGAFAMの時価総額は、Apple約240兆円、Microsoft約175兆円、Amazon約166兆円、Google約120兆円、Facebook約67兆円より合計約768兆円。

つまり、GAFAMを中心とする世界の株式市場をけん引している銘柄は、新型コロナがプラス材料となるため、株高も妥当ではないかという説が考えられます。

日本市場を見てみても、新型コロナ相場で強いのは、クラウドやテレワーク、オンライン教育などのDX関連銘柄、ネット通販やゲームなどの巣ごもり関連銘柄、パソコンや5Gスマホ特需で好調な半導体や電子部品など、新型コロナで成長が加速した銘柄が中心です。

その一方、新型コロナで壊滅的状況となってしまった観光や航空、オリンピック関連銘柄といったセクターは低迷したままとなっています。

新型コロナによる打撃は一部の業種に集中する一方で、特需が発生し、成長が加速されるセクターが株式市場全体をけん引していると考えれば、コロナ禍での株高も正当化されると考えられます。

コロナ禍でも市場・銘柄によって株価動向が異なっている

ニュースの見出しなどでは、「コロナ禍でも株高が続いている」「日経平均株価はバブル期以来30年ぶりの高値になった」などと報じられています。

表面上の数字を見ると、その通りではありますが、新型コロナ相場では市場・銘柄によって株価動向が大きく異なっていることには注意が必要です。

東証1部・マザーズ・ジャスダック・東証2部の各市場がコロナ禍において上昇していますが、特にマザーズ市場は非常に強くなっています。

さらに、セクターやテーマといった銘柄ごとの違いは、市場よりも大きなものになっています。

日経平均構成銘柄であっても、新型コロナで大きな打撃を受けたままのANAホールディングスやJR東日本などは大きく下げたままです。

【9202】ANAホールディングスの月足チャート

一方、コロナ禍でも好調の半導体製造装置大手の東京エレクトロンや、遠隔医療で注目されるエムスリーなどは、2020年の1年間で2倍以上の値上がりとなっています。

【8035】東京エレクトロンの月足チャート

これらの点を踏まえた上で、コロナ禍における各市場の全体相場の動向や、特に大きく上げている銘柄について見ていきましょう。

東証1部

コロナ禍における東証1部の全体相場の動向や特に大きく上がっている銘柄について押さえておきましょう。

日経平均株価・TOPIXの動向

東証1部の代表的な225銘柄の単純平均で算出される「日経平均株価」は次のようになっています。

日経平均株価の月足チャート

日経平均株価は、2020年3月19日に16,552.83円まで一時下げましたが、その後は回復し、2021年1月14日には一時28,979.53円を付けました。

コロナショックからの上昇率に換算すると最大+75%となっています。

日経平均株価はバブル期以来30年ぶりの高値水準となっており、遂に3万円目前まで来ました。

ただ、日経平均はファーストリテイリングやファナックといった一部の値嵩株の影響を受けやすいため、TOPIXの状況も見ておきましょう。

東証株価指数「TOPIX」は、東証1部全銘柄を対象に時価総額加重平均して算出される株価指数となっています。

TOPIXの月足チャート

TOPIXは、2020年3月16日に一時1,236.34ポイントまで下げ、その後は回復しており、2021年1月14日には一時1,885.93円まで上昇しました。上昇率に換算するとコロナショックから+52%となっています。

基本的な値動きは日経平均と変わりませんが、TOPIXは2018年1月に付けた高値はまだ抜けておらず、この点で日経平均とは異なる値動きとなっていることが分かります。

225銘柄から算出される日経平均の方がTOPIXより強いことからも、やはりコロナ禍においては、一部の銘柄に上昇が集中している傾向があると見てよいでしょう。

コロナ禍で大きく上がっている銘柄

コロナ禍において大きく上昇している東証1部銘柄としては、デジタルトランスフォーメーション関連銘柄が上げられます。

特に、ITクラウド事業を手掛ける【3683】サイバーリンクス、IT大手GMOグループ系でクラウド事業やテレワークに欠かせない電子認証を手掛ける【3788】GMOグローバルサイン・ホールディングス、クラウドによる業務効率化支援を手掛ける【3962】チェンジの3銘柄は、2020年に10倍以上の値上がりとなるテンバガーを達成しました。

【3788】GMOグローバルサイン・ホールディングスの月足チャート

  

デジタルトランスフォーメーション関連銘柄と一口に言われますが、東証1部銘柄で特に強いのはクラウド(SaaS)事業を手掛けている銘柄となっています。

また、日経平均株価はバブル期以来30年ぶりの高値となっていますが、日経平均株価への寄与度トップ銘柄である、「ユニクロ」を展開する【9983】ファーストリテイリングの株価も好調です。

【9983】ファーストリテイリングの月足チャート

ファーストリテイリングの株価は、9万円台に突入しています。

コロナ前の水準から見ても約1.5倍(+50%)ほどの上昇率となっており、日経平均がTOPIXと比べて大きく上がっていることも納得がいきます。

マザーズ市場

コロナ禍におけるマザーズ市場の動向や特に大きく上がっている銘柄について押さえておきましょう。

東証マザーズ指数の動向

マザーズ市場の全銘柄を対象に、TOPIXと同様に時価総額加重平均で算出される株価指数「東証マザーズ指数」の動向を見てみましょう。

東証マザーズ指数の月足チャート

東証マザーズ指数は、2020年3月19日に557.86ポイントまで下げましたが、その後は大きく反発。

10月14日には一時1,365.49ポイントを付けました。

上昇率にすると最大+144%であり、TOPIXの3倍弱の上昇になっていたことが分かります。

つまり、コロナ禍においては、平均的なマザーズ銘柄は約2.4倍(+140%)の上昇になったということです。

東証マザーズ指数からも明らかであるように、2020年のマザーズ市場はバブル状態となりました。

また、IPOも空前の好況となっています。

コロナ禍で大きく上がっている銘柄

コロナ禍において特に強いマザーズ銘柄としては、巣ごもり消費に関連する銘柄が目立ちます。

Eコマースプラットフォーム「BASE」を提供する【4477】BASEは、2020年に一時20倍を超える大きな値上がりとなりました。

【4477】BASEの月足チャート

BASE以外にも、ネット専売家具「ロウヤ」を展開する【3542】ベガコーポレーション、オンライン学習教材「すらら」を提供する【3998】すららネット、ネット動画ライブ中継に強みを持つ【4308】Jストリームといった巣ごもり消費に強い銘柄がテンバガーを達成しています。

さらに、医療デジタルトランスフォーメーション事業を手掛ける【2150】ケアネット、2020年IPOの【7317】松屋アールアンドディもテンバガー達成となっており、2020年はマザーズ市場から合計6銘柄のテンバガーが誕生しました。

【7317】松屋アールアンドディの月足チャート

また、2020年のマザーズ市場はIPOにも沸きました。

2020年9月29日に新規上場となったAIベンチャーの【4011】ヘッドウォータースは、公募価格2,400円に対して、上場価格が11.9倍となる28,560円に。

これはIPOの歴史上最高の上昇率となっており、2020年IPOの好況ぶりを象徴しています。

ジャスダック市場

コロナ禍におけるジャスダック市場の動向や特に大きく上がっている銘柄について押さえておきましょう。

ジャスダックインデックスの動向

日本銀行を除くジャスダック全銘柄を対象に、TOPIXと同様に時価総額加重平均で算出される「ジャスダックインデックス」の動向は次のようになっています。

ジャスダックインデックスの月足チャート

 

ジャスダックインデックスは、2020年3月13日には一時122.63ポイントを付けましたが、その後は反発。

2021年1月25日には185.42ポイントまで回復しています。

この期間の上昇率は+51%となっており、東証1部のTOPIXとほとんど変わりません。

つまり、コロナ禍において、平均的なジャスダック銘柄の上昇率は東証1部銘柄と変わらなかったということになります。

同じ新興市場であっても、マザーズはジャスダックの約3倍程度の上昇率となっており、市場間で大きな違いが出ていることが分かります。

コロナ禍で大きく上がっている銘柄

全体相場で見てみると、ジャスダックは東証1部と変わらない値上がりとなっていますが、コロナ禍で非常に大きく上げている銘柄も出てきています。

特にジャスダック銘柄は、新型コロナウイルス関連銘柄が強いことが特徴です。

新型コロナ治療法開発で注目されたバイオベンチャーの【2191】テラは、ボロ株だったことも手伝い、2020年に最大23倍の上昇となりました。

【2191】テラの月足チャート

ただ、2020年11月にファイザーやモデルナがワクチン開発に成功したことを受けて、テラを含むバイオベンチャー株の株価は大きく下がっています。

ワクチン開発競争の勝負が決したということでしょう。

バイオベンチャーに代わって大きく上がっているのが、ワクチン接種で注目されている新型コロナウイルス関連銘柄です。

注射針を手掛ける【6400】不二精機、試験管を手掛ける【5212】不二硝子は、ファイザーのワクチン開発成功を受けて急騰し、2020年内にテンバガーを達成しました。

【5212】不二硝子の月足チャート

      

東証2部

コロナ禍における東証2部市場の動向や特に大きく上がっている銘柄について押さえておきましょう。

東証2部指数の動向

東証2部上場の全銘柄を対象に、TOPIXと同様に時価総額加重平均で算出される「東証2部指数」の動向は次のようになっています。

東証2部指数の月足チャート

東証2部指数は、2020年3月19日に4,817.24ポイントまで下落してからは反発しており、2021年1月12日には一時7,484.12ポイントまで回復しています。

上昇率で見ると+55%です。

株価指数で見てみると、コロナ禍の東証2部は東証1部・ジャスダックとほぼ同じ値上がり率となっています。

コロナ禍で大きく上がっている銘柄

コロナ禍で大きく上がっている東証2部銘柄としては、テーマ性のある低位株が強い傾向が見てとれます。

太陽光発電事業を手掛ける【3856】Abalanceは、世界的な環境政策重視で2020年秋に注目された再生可能エネルギー関連銘柄としてテンバガーを達成しています。

【3856】Abalanceの月足チャート

東証2部は、どうしても東証1部の下部マーケットという側面が強く、有望な銘柄は東証1部に上がっていってしまう一方で、業績不調で株価も低迷している銘柄が東証2部に残りやすいため、低位株に話題が集中しやすい傾向になりがちです。

新型コロナワクチン接種用の保冷庫を手掛ける【6897】ツインバード工業も、10倍には届かないものの大きな上昇となっています。

【6897】ツインバード工業の月足チャート

まとめ

今回は、コロナ禍における東証1部・マザーズ・ジャスダック・東証2部の各市場の値動き動向について解説した上で、各市場で特に大きく上げている銘柄についても紹介してきました。

上場全銘柄を対象に時価総額加重平均で算出される株価指数の2020年3月→2021年1月の値上がり率を見てみると、東証1部のTOPIXは+52%、東証マザーズ指数は+144%、ジャスダックインデックスは+51%、東証2部指数は+55%となっており、マザーズ市場の強さが目立ちます。

ただ、コロナ禍においては、市場間の値動きの差以上に、銘柄による差が大きくなっていることには注意が必要です。

クラウドやテレワークなどのデジタルトランスフォーメーション関連銘柄や、Eコマースやオンライン教育などの巣ごもり関連銘柄、ワクチンに関する新型コロナウイルス関連銘柄といった、新型コロナがプラス材料になる銘柄は、コロナ禍において特に大きな値上がりとなっています。

一方で、新型コロナで大きな打撃を受けている航空や鉄道会社などの観光株は、株価をほとんど戻していません。

「コロナ禍で日経平均はバブル以来の高値になっている!」と言っても、どのような銘柄でも上げているわけではないことに注意しておきましょう。

紫垣 英昭